問われるのは修正力。前を向いて進むしかない。~大友信彦観戦記 3/11 リーグワン2022-23 Div.1 R11 vs.クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
リーグワン第11節。静岡ブルーレヴズは今季初のエコパにクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下スピアーズ)を迎えた。
スピアーズは昨季はプレーオフに進出して3位。今季は開幕戦でサンゴリアスを破り、前節はワイルドナイツに敗れたものの全体の2位につけている強敵だ。
ブルーレヴズにとっては前節のイーグルス戦に続く上位チーム相手のチャレンジだ。
ジュビロ時代からサポーターとしてチームを支え続けてくれたファンと、ブルーレヴズに生まれ変わってからの新しいファン、そしてラグビーそのもののファン――さまざまなファン、レヴニスタの思いを背に受けて、レヴズはスピアーズ戦に臨む。
ブルーレヴズにはこの試合、頼もしい顔が帰ってきた。
第8節の神戸戦で負傷退場し、そこから2試合を欠場していたラインアウトの要にしてハードワーカー、LO大戸裕矢が3試合ぶりに復帰したのだ。
リザーブにはFL舟橋諒将に代えて杉原立樹、SH吉沢文洋に代えて田上稔が入った。そして、試合直前に、CTB13で先発予定だった小林広人が急遽コンディション不良で先発回避。急遽、鹿尾貫太が今季初めてスターティングメンバーに入った。
試合が行われたのは3月11日。12年前に東日本大震災が起きた日だ。
その年の6月、ヤマハ発動機ジュビロはチームで釜石を訪れ、震災で大きな被害を受けた東北沿岸部で被災後初めてのスポーツイベントとなるラグビー試合を釜石シーウェイブスと行った。そのとき、被災地で活動する釜石シーウェイブスを応援し、被災地を訪れたヤマハ発動機ジュビロを同じように応援してくれたのが、港町のシンボル・大漁旗だった。その同じ年、三村勇飛丸が入団したとき職場の上司が応援用大漁旗を作ったのをきっかけに、大漁旗はヤマハ発動機ジュビロ応援のシンボルになり、その伝統は静岡ブルーレヴズにも引き継がれた。この日は「大漁旗を感じる1日」と銘打たれ、エコパには30本を越える応援大漁旗が集結した。
林立する大漁旗が花道を作る中、ピッチに最初に走り込んできたのは、この試合がトップリーグから通算100試合出場となる日野剛志だった。続いて入場するスピアーズの先頭でピッチに走り込んできた立川理道もまた、この試合が100キャップを迎えたのだった。
東日本大震災の犠牲者への黙祷を捧げ、試合は始まった。3試合連続の先発、レヴズのSO家村健太がキックオフを蹴る。スピアーズの蹴り返しをWTB伊東力が捕り、最初のアタック。家村のキックが相手に当たり軌道が変わったところへFBファリアが蹴って前進。相手が蹴り出した最初のラインアウトをレヴズは日野-大戸のコンビで掴む。安定感抜群のキャッチング。最高の入りだ、と思った直後だった。そこからのパスを捕ろうとしたCTBタヒトゥアが落球してしまう。
次のスピアーズのアタック、相手のCTB、こちらもこの試合で100キャップを迎えた立川理道の突破からオーストラリア代表SOフォーリーがビッグゲイン。ここは追いすがったクワッガ・スミス主将が抱え込んで落球させ難を逃れるが、攻め込んだはずのエリアから簡単に自陣まで攻め込まれてしまう。堅守を誇るレヴズらしくないディフェンスだった。
5分。自陣22m線で組まれた次のスクラム、レヴズの看板の戦場だが、バインドが外れたとペナルティーを犯してしまう。このPKから自陣ゴール前に攻め込まれると、7分、ラインアウトモールであっさりと先制トライを献上。
13分、今度はマイボールのスクラムでペナルティーを犯してゴール前に攻め込まれ、またラインアウトから連続トライを許してしまう。
レヴズは次のキックオフからようやく反撃。相手ゴール前のラインアウトアタックでPKを得ると、SHブリン・ホールがPGを返す。点を取り、レヴズも落ち着きを取り戻したか、と思った矢先、FBファリアがノックオン。ここからすぐに攻め込まれ、南アフリカ代表の相手HOマルコム・マークスにトライを許す。ディフェンスにレヴズらしい粘りがなぜかうかがえない。
22分、レヴズは正面20mPKを得るとショットを選択。ブリン・ホールが冷静に蹴り込み、スコアは6-19。
ようやく流れがレヴズに来た。次のキックオフから左サイドをWTB伊東が思い切ったランで突破し、No8クワッガ・スミスにつないで相手陣に入ると、SO家村は思いきって逆サイドへキックパス。同じアーリーエントリーのルーキーWTB槇瑛人が相手FBと空中で競り合ってこのキックを掴み前進。
いったんPKで戻されるが、レヴズはラインアウトから再びアタック。しかし26分、相手ゴール前5mまで迫ったところでクワッガ・スミスが孤立してボールを奪われる。28分には相手ゴール前でのPKからラインアウトに持ち込み、モールを押すが、持ち出したLO大戸がトライ体勢に入りながら相手タックルでコーナーに弾き出され、トライを奪えない。
ようやくリズムを掴んだのは33分、ハーフウェー付近のスクラムを押してPKを獲得してからだ。家村のタッチキックで左22mライン付近まで進んでラインアウト。WTB伊東が走り込んで再びPKを獲得すると、相手ゴール前のラインアウトに持ち込み、クワッガ・スミスの捕球からモールを押し、CTB鹿尾がゴール前へ、さらに河田がゴールラインに突き刺さった。38分、ブリン・ホールのコンバージョンが決まり13-19と追い上げる。
ハーフタイムスコアは13-19。スコアだけを見ればそう悪くない数字。だが、前半の戦いは代償も大きかった。今季ここまで10試合、1秒もピッチを離れることなく鬼神のごとき働きでブルーレヴズを牽引してきた闘将クワッガ・スミスが負傷で退場。代わって庄司拓馬がピッチに入る。
カリスマキャプテンの退場はやはり響いた。42分、スクラムを猛プッシュしてPKを獲得し、左22m線まで陣地を進めるが、ラインアウトを大戸が捕ってアタックに出たところで入ったばかりの庄司が落球してしまう。そこからスピアーズは反転攻勢。46分に交代出場のオペティ・ヘル、日本代表のラブスカフニがビッグゲインを重ね、スピアーズSH谷口和洋にトライを許す。この時点で失トライは4。後半開始早々という時間に、早くも今季ワーストの失トライ数に並んでしまった。もうこれ以上失点はできない。それ以上に、もっと点をとらなければいけない。レヴズの堀川HCもここでアタックのスイッチを入れた。ハードワークで前半いくつものチャンスを作ったWTB伊東に代えてフレッシュレッグズのサム・グリーンを投入。ファリアがWTBに移動してグリーンはFBに入り、左右両サイドににらみを利かせる。
それが生きたのが50分だ。グリーンが入ってテンポアップしたアタックでスピアーズ陣22m線を越えて攻め込み、スクラムでコラプシングのPKを獲得。左ゴール前のラインアウトに持ち込むと、大戸のキャッチングからモールを押しておいて、一転ボールをワイドに展開。グリーンのゲインからラストパスが右隅で待つ槇へ通り、右隅へダイブ。槇はデビュー4戦目で嬉しい初トライ。さらに右隅の難しいゴールをグリーンが決める。20-26。ワンチャンスで逆転できる点差に詰めた。
ところが、そんな追い上げムードは一瞬にして冷え込んでしまう。直後のキックオフからスピアーズはノーホイッスルでボールを繋ぎ、15分、途中出場で入ったばかりのPR紙森がトライ。さらに18分にはCTB鹿尾が相手選手にタックルした際に相手の膝が頭に当たり負傷交替。BKのリザーブを2人しか入れていなかったブルーレヴズはベンチから田上が入り、ファリアがFBに、グリーンがCTBに、本来はSHの田上がWTBに入る。まさしくスクランブル状態。それでもレヴズはチャレンジングスピリットを失わなかった。60分には自陣ゴール前で相手ボールを奪うと、グリーンが攻撃スペースを探して左右に走り回り、一度はインゴールまで戻りながらもアタック。WTB槇がいったんは前進してPKを獲得する。しかし、自陣で攻撃を重ねるのはリスクを伴う。自陣ラインアウトからのキックでオフサイドを犯したレヴズは再びゴール前のラインアウトに持ち込まれ、ワイド展開でトライを許す。残り20分、6トライ目を献上し、20-40のダブルスコアまで点差は開いた。
もちろん、レヴズ戦士に諦めるという文字はない。槇瑛人の50/22キックで相手ゴール前に攻め込み、68分にラインアウトモールからHO日野がインゴールへトライ。しかしTMOがオブストラクションの可能性を指摘し、審議の末にトライはキャンセル。それでもレヴズはPKから愚直に攻め続けた。34分、PKでスクラムを選択。猛プッシュでまたPKを得ると、ポジションを入れ替えSHに入った田上がタップで速攻。自在の判断でCTBの位置に走り込んだブリン・ホールから飛ばしパスを受けたWTB槇がコーナーに飛び込み2本目のトライ。右隅の難しいコンバージョンをグリーンが蹴り込んだ。27-40。
点差は13点。ブルーレヴズは、トライとゴールでもう7点を返せば負けたとしてもBP1を得られる。レヴズはHO平川、PR泓、茂原、LOに杉原とフレッシュレッグズを投入して最後まで攻め続ける。しかし80分、相手陣22m線に攻め込んだところでグリーンが密集でジャッカルされノットリリースザボール。同時にタイムアップのホーンが鳴った。27-40のまま、レヴズは敗れた。
試合後の会見。堀川HCは言った。
「前半が終わったところではかなり手応えがあった。自分たちのテンポでゲームを運べればトライは取れる。でも40点取られるとゲームには勝てない。まだまだチームは良くなる部分がたくさんあるので、しっかりレビューをして、選手と会話をして、来週の試合に向けて良い準備をしたい」
「課題は自分たちがスコアしたあと、自陣からの脱出のところ。ここは同じ課題が続いている。ここでうまく地域を取っていけるよう改善の余地はある」
「田上を入れたときは最初は外のWTBにしたけれど、ブリンは運動量の多いSHでずっとプレーをしていたので、70分のところで田上をSHにしました。グリーンは本来FBと考えていたけど、最後の時間帯はボールを動かすために13番にスピードがほしくて、そこに入れました。とにかく、今いる人間で戦っていくことしか出来ない」
(2Tをあげた槇について)
「きょうはやると思っていた。外のスペースが見えていて、言いボールが回れば、トライだけでなくボールキャリー、ハイボール処理を含めて素晴らしいプレーをしてくれた。50/22キックも決めてくれた。あれはたまたまだったかもしれないけれど、結果的に彼のプレーは、今日は良かった」
途中退場したクワッガ主将にかわり、会見に出席した大戸裕矢は言った。
「僕たちは苦労してスコアしたのに、そのあと相手には簡単にスコアされてしまった。理由はいろいろあるけれど、次のリコーブラックラムズ東京はアタッキングチームなので、修正して臨みたい」
(クワッガの退場について)
「クワッガはもちろん特別な選手ですが、とはいえ、彼がいなくなって何かを代えるのではなく、庄司もいい選手なので、エリアの攻防でどれだけペナルティーを減らして、スピアーズが得意のモールを減らすかを意識したけれど、40失点するゲームになってしまった。防げるペナルティーもあったと思うので、そこは目を背けないで改善して前に進みたい」
11節を終えて2勝7敗2分、勝点17。順位は10位。いまだ入替戦圏内だ。
厳しい戦いが続くが、前を向くしかない。
リーグワンは11節で、全チームとの対戦が一巡した。残りは同組の5チームとホスト&ビジターを入れ替えてラストの5試合。一度対戦した相手との再戦になる。問われるのは学習能力であり修正力。そしてシーズンを戦って得た成長力だ。
次節の相手、ブラックラムズとは第4節、ホームのヤマハスタジアムで対戦。ほとんどの時間で主導権を握りながら、2度イエローカードを科され、数的不利な時間帯に25点を失い、勝点ゼロで敗れた相手だ。時計を巻き戻すことはできない。だが、進歩した姿を見せることはできる。無論、相手も学習し、進歩している。ブラックラムズはここまで3連勝とノリノリだ。何より、チームの仲の良さ、元気で明るいムードは、ブルーレヴズが最も負けたくないところだ。
18日の秩父宮で、ブルーレヴズの修正力を、そして何より、ラグビーを楽しむ姿をファンに見てもらい、勝利を掴もう。<了>
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。