どんなに泥だらけになっても、止まない雨は無い。~大友信彦観戦記 1/15 リーグワン2022-23 Div.1 R04 vs.リコーブラックラムズ東京戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
1月15日。静岡ブルーレヴズはヤマハスタジアムにブラックラムズ東京を迎えた。2023年最初のホームゲーム。そこには重要な使命があった。リーグワン2年目、チームが誕生して2年目のシーズン、静岡ブルーレヴズはいまだ勝利をあげられていなかった。
今節こそ勝利を。青いジャージーを来た誰もがその思いでピッチに立ったはずだ。
この試合にブルーレヴズは、前節までとは異なるメンバー構成で臨んだ。
前節、リザーブから今季初出場を果たしたCTBヴィリアミ・タヒトゥアが先発に入り、マロ・ツイタマとパワフルなCTBコンビを形成。ハーフ団は前節までのブリン・ホール/サム・グリーンのペアから田上稔/クリントン・スワートのペアに変更した。FLには今季初登場となる若き猛タックラー、ジョーンズリチャード剛、WTB14にはルーキーシーズンだった2017年以来の公式戦出場となる吉良友嘉。プレシーズンマッチでキレのいいランを見せていた28歳が、6年目で初の先発メンバー入りを果たした。
戦いぶりをみる限り、ブルーレヴズのチーム状態は悪くないはずだ。着実に成長は続けている。だが結果が出ないときには、何かの変化も必要だ――メンバーリストからは、堀川隆延HCのそんな思いも伝わってきた。そして、新たにチャンスを得た選手はここで結果を出せば、自身のステージをあげられる。
一方、レヴズの心臓にして太い幹であるセットプレー、つまりラインアウトとスクラムを担当するフロントファイブは、前節を欠場したPR伊藤平一郎が戻ってパワーアップ。必勝を期して、レヴズはブラックラムズ戦に臨んだ。
試合はレヴズのキックオフで始まった。開始早々、レヴズ2年目で初先発のSOスワートが分厚い胸板ごと相手SHへ猛タックル。結果、相手を持ち上げる形になってしまい、危険なタックルと判定されてしまったが、抜擢組の決意を象徴する場面だった。このタックルを号令に、青いジャージーは出足のいいタックルでブラックラムズに刺さり続けた。4分には自陣ゴール前のラインアウトを日野-大戸の職人ペアが鮮やかに確保。ファーストスクラムでは相手の突っかけに冷静に対処してコラプシングを獲得。チームの根幹、セットプレーはこの日も好調だ。スクラムを組むたびに、ヤマハスタジアムには応援サウンドとしてヤマハスピリットの象徴、GPマシンのエンジン音が鳴り響いた。ファンが声を出すのも難しい中で、エンジン音はレヴズの選手たちを奮い立たせた。
8分には相手CTB、ワイルドナイツから移籍したウェールズ代表ハドレー・パークスに、レヴズの若きタックル職人ジョーンズリチャード剛が突き刺さってノックオンを勝ち取る。9~12分には、自陣ゴール前でブラックラムズの波状攻撃を統率されたディフェンスで21フェイズまで止め続け、FL杉原立樹のジャッカルでPKを獲得。そこから攻め返したブルーレヴズは15分、PR伊藤のカウンターラックでボールを奪い、相手反則を誘い、相手ゴール前正面22mで得たPKでショットを選択。スワートが冷静にキックを決めて3点を先制する。良い流れだ。
その後、ブラックラムズも19分、FBマッガーンがPGを返す。マッガーンは2018年度までヤマハ発動機ジュビロでプレーしていた元磐田の住人。ラムズのサポーターだけでなく、ヤマハスタジアムに駆けつけたレヴニスタのみなさんからも暖かい拍手が贈られた。対するレヴズの背番号15、ファリアもまた、2季前までブラックラムズでプレーしていた。奇しくも両FBが古巣との対決だった。結果として、この2人の出来が勝負を分けることになる……。
試合は拮抗した展開で進んだ。ブラックラムズは身長202㎝のストーバーグ、199㎝のグッドヒューの高さを武器にブレイクダウンで激しくファイト。ボールを出すと日本代表の若きWTBメイン平らがスピードあふれるアタックでブルーレヴズに圧力をかけ続ける。それでもブルーレヴズは闘将クワッガ・スミスを先頭に粘り強いタックルとブレイクダウンワークで対抗し、PKを奪えば日野-大戸の日本代表ペアが率いるラインアウトユニットで空中戦を支配して攻め込む。
チャンスが来たのは23分だ。相手陣10m線付近のスクラムを押して得たPKから右22m線付近のラインアウトに持ち込む。得意のラインアウトからモールで攻めるには少し遠いか? ここでブルーレヴズは、獲得したボールをBKへ展開。しかしラインアウトが解消される前にCTBタヒトゥアが飛び出してしまいオフサイドの反則。流れを掴めそうで掴めない、じれったい展開だ。
逆に、ピンチを逃れたブラックラムズはレヴズ陣内に攻め込んでアタックを継続。ここで試合を左右する大きなプレーが出てしまう。自陣ゴール前10mというエリアで、ラムズの14メイン平が放ったパスにFBファリアが手を出してしまい、デリバレート(意図的な)ノックオンと判定され、イエローカードを出されてしまうのだ。
数的有利を得たラムズはここで一気に勢いづいた。27分、レヴズゴール前のラインアウトからFWが密集でねじこみTMOの末にこの試合最初のトライを決める。次のキックオフからもレヴズのレイトチャージから再びレヴズ陣に攻め込み、FBのいないレヴズ防御ラインの背後を狙ったメイン平の巧みなキックから連続トライ。さらに35分には自陣からマッガーンが50/22キックを成功させて攻め込むと、そのラインアウトからのサインプレーでFBマッガーンがトライ。レヴズが1人少なくなった10分間、FBのいなくなったスペースをことごとく突いたブラックラムズの巧みなアタックに、レヴズは3T2Cの19点を失ってしまった。3-3で静かに進んでいた試合は、10分間で3-22と様相を変えてしまった。
レヴズが15人に戻ったのは前半38分。直後、PKを得るとクワッガが迷わず速攻。すぐにツイタマ、リチャードが呼応してアタックをつなげ、相手陣深く攻め込んだレヴズは、ゴール前ラインアウトのチャンスを得る。大戸がラインアウトを確保し、レヴズはモールを組む……しかしこの場面、レヴズFWは相手の黒ジャージーを押し切ることはできなかった。ここでハーフタイムの笛。レヴズは3-22という想定外の劣勢で前半を終えた。
後半、反撃を狙うレヴズはスタートからメンバーを入れ替えた。SH田上に代えてブリン・ホール。SOスワートに代えて清原祥。
「今回の試合に向けて、今日の9番10番の二人いい準備をしてきたけれど、プレッシャーの中でハーフ団としての実行力が足りなかったので、思い切って後半の最初から代えました。それによってゲームのスピードアップができた」
試合後に堀川HCが振り返ったように、この投入はゲームの様相を変えた。後半開始早々、ハーフウェー付近でPKを得るとホールが速攻に出る。クワッガが反応して一気に敵陣侵入に成功。いったんは陣地を戻されるが、相手キックを捕ったFBファリアが汚名返上のカウンターアタック。ブレイクダウンでPKを得ると、清原のタッチキックは相手ゴール前6mへ。このラインアウトからのアタックで再びPKを得たレヴズはスクラムを選択。押してPKを得るともう一度スクラム。ここからレヴズはクワッガ、大戸、タヒトゥアと右サイドをえぐり、さらに桑野が突っ込む。このラックの背後のDFが薄くなった隙を見逃さなかったのが大戸だ。ラックからボールを拾い上げるや、両手でボールを抱えてゴールポスト右のインゴールへ飛び込んだ。清原のコンバージョンも決まり10-22。
さらに52分。清原の敵陣深くへのキックをWTB矢富洋則が猛然とチェイス。カウンターに出た相手WTBメイン平の足下にジョーンズリチャード剛が刺さり、矢富がジャッカルに入ってPKを獲得する。矢富はここで無念の負傷退場となるが、変わってムードメーカーの鹿尾貫太がピッチへ。そして56分、スクラムからフェイズを重ねたブルーレヴズはクワッガ・スミスがトライラインをこじあけた。清原のコンバージョンは外れたが15-22。ワンチャンスで追いつける7点差へと追い上げた。試合は残り20分。
こうなればイケイケだ。一気にまくってしまえ――スタジアムのレヴニスタはみなそう思ったに違いない。だがラムズはここで取って置きのカードを投入する。昨季9位に終わったチームから唯一、ベストフィフティーンに選ばれたオーストラリア生まれのSOアイザック・ルーカスがピッチに入るのだ。リーグワン屈指の攻撃的司令塔がボールを持つと、ゲームのテンポが変わる。後半のスタートからレヴズが握っていたゲームの主導権がラムズに移る。61分、HO日野のタックルで相手がこぼしたボールに反応して拾ったジョーンズリチャード剛がアンラッキーなペナルティーを科され、ラムズのマッガーンがPG成功。64分にも中盤の混戦で反則を犯してしまい、またマッガーンがPG。気がつくと15-28。残り15分でまた13点差がついてしまった。
これではいけない――そんな思いを体で表現したのはブリン・ホールだった。相手コンバージョンが決まるやハーフウェーへ素早く走り、キックオフをゴロで転がしてクイックリスタート。ここではボールを奪えなかったが、アグレッシブな姿勢は流れを呼び戻した。67分、ハーフウェーのスクラム。相手にプレッシャーをかけたところで足下からこぼれたボールをいったんは相手に奪われるが、相手が蹴ったボールがWTBに回っていたツイタマの足に当たり、すぐにボールを拾ったツイタマが50m超を走り切ってトライを決める! 清原のコンバージョンも決まり、22-28。残り10分で7点差、勝負はここからだ!
だが、そんな期待感は残念ながら裏切られた。直後のブラックラムズのアタックで、FBファリアの相手WTBへのタックルが首にかかり、この試合2枚目のイエローカードで退場処分となってしまうのだ。難しい流れの試合をギリギリで保ってきたブルーレヴズだが、ラスト10分で再び14人に。この逆境を跳ね返す力は残っていなかった。72分に4本目のPGをブラックラムズのマッガーンが決め、77分には5本目のPGを成功。22-34の12点差まで点差を広げた。何とか勝点1だけでも取りたいと必死に攻めるブルーレヴズだったが、14人で攻めきる力はなかった。ボールはラムズが支配し、タイムアップのホーンと同時にタッチへ蹴り出して試合を終わらせた。レヴズは前節のブレイブルーパス東京戦に続き、勝点ゼロで敗れた。
4節を終えて0勝4敗。12チーム中11位。受け入れがたい数字が並ぶ。4節を終えた時点でのチーム総得点78は(ブラックラムズと並び)最下位タイ。そして、昨季の第13節の東京サンゴリアス戦以来、実際に戦った試合の連敗は7へと伸びた。
堀川隆延HCは言った。
「非常に残念な結果になってしまった。いろんな要因はあるけれど、自分たちでイエローカード、レッドカードを出してしまい、80分のうち20分間を14人で戦うことになった。これは自分たちに責がある。そういう部分は修正しなければいけない。同じようなペナルティーが続いていますから」
「これで4週、敗戦が続いているけれど、大事なのは自分たちのスタイルを見失うことなく、次の相手に向かって準備していくこと。ここからもう一回立ち上がれるかどうか、今はそういう状況だと思う。次の相模原ダイナボアーズ戦に向けて準備するしかない」
試合を振り返れば、2度のイエローカード、14人で戦った20分間は重かった。スコアは14人で戦った20分間に限れば0-25。15人対15人で戦った60分間は22-9だったのだが……。
だが、そんな計算に意味はないのだ。前日、新昇格ながらブレイブルーパス東京を破ったダイナボアーズは、試合のラスト10分、やはりイエローカードで14人になり、一度は逆転されながら、14人の集中しきった攻守で2つのPGを奪い返し、23-19の逆転勝ち。かつて東芝としてトップリーグの絶対王者に君臨した名門からの初勝利をあげたのだ。
次節、ブルーレヴズが戦う相手はそのダイナボアーズ。崖っ縁から反撃の狼煙をあげるには絶好の相手になるはずだ。いつもエナジーを贈ってくれるレヴニスタのみなさんのためにも。青いジャージーで日本一を勝ち取るために努力を重ねてきた自分たちのためにも。まずは勝利を掴み取ろう。<了>
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。