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釜石絆の日 絆マッチ。毎年この地で対戦する意味とは?

Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ

<観戦記対象試合>
『釜石絆の日 絆マッチ』 2023年9月17日(日) 13:00 K.O.
釜石シーウェイブスRFC vs 静岡ブルーレヴズ
会場:釜石鵜住居復興スタジアム

9月17日、岩手県釜石市の釜石鵜住居復興スタジアムで、釜石シーウェイブスRFCと静岡ブルーレヴズの「絆マッチ」が行われた。

この試合は、東日本大震災が発生して間もない2011年6月、津波被害を受けた沿岸地域で初めてのスポーツイベントとして、静岡ブルーレヴズの前身、ヤマハ発動機ジュビロが釜石を訪れ、釜石シーウェイブスと試合を行ったことから始まる。被災地復興の力になれば、という思いから釜石の地に訪れたヤマハ発動機ジュビロだったが、そこには温かい人々のラグビーに対する熱く逞しいパワーがたくさん詰まっていた。釜石の人々にとってのラグビーは、生活・心の中心だった。彼らの熱をぐさぐさと感じたヤマハ発動機ジュビロのメンバーたちは、ラグビーは人の心を大きく動かし生きる力を与えられるものであり、それを感じて自分たち自身も更なる成長ができるのだと痛感したのだ。2017年には釜石シーウェイブスが静岡を訪れ、エコパスタジアムでヤマハ発動機ジュビロと対戦。2018年にはワールドカップ2019の会場として津波の被災地に立てられた釜石鵜住居復興スタジアムの開場記念試合の対戦相手としてヤマハ発動機ジュビロが釜石を訪れ、こけらおとしの試合を行うなど、これまで断続的に「ともだちマッチ」として続けられてきた。

今回の開催は、釜石市が東日本大震災からの復興の加速と、世界中からの支援に対する感謝の気持を伝えるため誘致開催した、ラグビーワールドカップ2019TM日本大会 釜石開催の大きなレガシー遺産として、これにかかる多くの支援者との絆を継承するため「釜石絆の日」事業を実施することで、多くの関係者との絆の輪を紡いでゆくことを目的とし、東日本大震災を忘れず、両クラブ切磋琢磨しラグビーを通じて地域を盛り上げるべく「釜石絆の日 絆マッチ」として今シーズン開催された。

静岡ブルーレヴズが誕生した2021年は、コロナ禍でトップチームの試合こそ実現しなかったが、時期をずらして静岡ブルーレヴズラグビースクールのアカデミー生たちが釜石を訪れ、ラグビー交流に加えて防災学習、震災講話を聞くなどの交流も実施。南海トラフの地震警戒区域である静岡県に暮らすレヴズファミリーにとっては、ラグビーだけでなく、たくさんの学びがあるイベントとして毎年行われている。加えて今回は、いつもブルーレヴズの試合をサポートしてくれるレヴズクルーも遠征に参加し、釜石のボランティアチームとボランティア同士の交流も行った。両者のボランティアチームは2019年ワールドカップを盛り上げた同志。ピッチの中だけではない、こういう交流もラグビー文化の大切な一部だ。

今季の釜石遠征は、ブルーレヴズにとって、豊田自動織機シャトルズ愛知 戦に続き2023年の2戦目、最初の長距離遠征試合となった。今季はワールドカップフランス大会が開催されているが、チームによって始動時期、対外試合開始時期にバラツキがあるが、ブルーレヴズはケガ人が出ているものの、ワールドカップに参加しているクワッガ・スミス(南アフリカ代表)チャールズ・ピウタウ(トンガ代表)、海外留学中の奥村翔(フランス・トゥールーズ)舟橋諒将(NZ・ベイオブプレンティー)、合流前の数選手を除くほとんどの選手が集まってチームは始動。約1ヵ月、静岡でのトレーニングを経てこの試合を迎えた。

この試合に、ブルーレヴズはSHブリン・ホールとSOサム・グリーンのHBペアで臨んだ。昨季、アーリーエントリーでSOに定着した新人の家村健太はCTB12。同じ1年目の槇瑛人はWTB14、LO八木澤龍翔はLO4で先発入りし、CTB伊藤峻祐もリザーブに。また、ルーキーで大活躍しながらシーズン途中の負傷で無念のリタイアとなったFB山口楓斗も背番号15でメンバー入り。また、昨季までHOだった山下憲太がPR1で先発するなど、新たなチャレンジも見られるフレッシュな布陣で臨んだ。

試合は釜石SWのキックオフで始まった。最初のアタックは釜石。しかしこのアタックをレヴズは落ち着いたディフェンスで止めてPKを奪い、SOグリーンがタッチキックで陣地をハーフウェーまで戻す。
ここからレヴズはフェイズを重ね、WTBツイタマが左サイドを突破。釜石陣深くへ侵入する。このアタックはFWのノックオンでいったん途切れるが、次の釜石のキックからFB山口楓斗が豪快にカウンターアタック。昨季はシーズン半ばに負傷し、活躍の機会が物足りなかったに違いない山口の積極的なボールキャリーに、今季はブレークの予感が漂う。その山口に触発されてか、ルーキーWTB槇のカウンターアタック、SHブリン・ホールの精度の高いキック、CTBマフーザのパワフル突進などで、レヴズは次々と釜石陣をおびやかす。しかし、シーズン序盤とあって連携不足と予想外の暑さ(今年9月の釜石は異常気象。その日の国内最高気温を記録した日もあったほど)で、ハンドリングエラーが頻発。なかなか得点はできずに時間が進んだ。

FB 15 で先発出場の山口楓斗
昨年はこの釜石戦が、ブリン・ホールのブルーレヴズデビュー戦だったなと思い出した

得点が動いたのはウォーターブレイクをはさんだ前半22分だ。釜石陣22m線付近のスクラムでレヴズFWがコラプシングの反則を奪い、右ゴール前ラインアウトに持ち込むと、モールを押しておいて右へオープン展開。ここまで再三アグレッシブなランをみせていたFB山口楓斗がそのままディフェンスをかわして右中間に飛び込んだ。先制トライ!グリーンのコンバージョンも決まりレヴズが7点を先制する。

キック精度をぐっと上げているサム・グリーン

ひとつトライをあげるとゲームは動き出す。27分には自陣10m線付近のスクラムから左へ展開。NO8マルジーン・イラウアが豪快に前進すると、CTB家村-FB山口がつなぎ、ラストパスを受けたWTB11ツイタマがタッチ際を走り抜けて左中間にトライ! 難しいコンバージョンもグリーンが決め、14-0とする。さらに31分には相手陣右22m線付近のラインアウトからモールを押しておいて、HO平川がサイドにアタック。さらに左へボールを動かし、またもFB山口楓斗-WTBツイタマのホットラインが炸裂!ツイタマはダイブしながら左手一本でコーナーギリギリにトライを決めると、左隅の難しいコンバージョンもグリーンがみごとに蹴り込むのだ!

BK陣の見事な連係プレーで相手を揺さぶる
マロ・ツイタマの突破力はもはや敵なし
スーパープレーを見せつけるTRYも!

プレー時間が重なるほど意思疎通が進み、連携が取れていく。21-0とリードしたレヴズはさらにたたみかける。34分、PKから相手陣22m線付近のラインアウトを得ると、ショートサイドをWTBツイタマがえぐっておいて、右オープンにグリーンがキックパス。これを捕球したWTB14槇がゴールポスト下にトライ。グリーンのコンバージョンも決まり28-0。ハーフタイム直前、釜石のカウンターアタックに1トライを返されるが、前半は28-5とリードして折り返した。

サイドをえぐるランニングは今シーズンも武器になる!

後半も先に点を取ったのはレヴズ。12分、スクラムからイラウアの突破を起点にFB山口-WTB槇とみごとなパスが渡って右隅にトライ。グリーンのコンバージョンは外れるがこれで33-5。しかしここから釜石も意地を見せた。15分、ラインアウトのレヴズボールをスチールするとショートサイドを攻めてトライ。少ないチャンスにトライを取りきった集中力は、この日はほとんどの時間を攻撃に費やしたレヴズにとっても学びになるプレーだった。

試合は最後の20分に入り、レヴズはベンチメンバーを一斉に投入。ここで注目はCTBからSOにあがった家村だ。「今季はコンバージョンキックに挑戦します。ぜひ注目して下さい」と春先から公言していた。ここまではグリーンが蹴り、コーナーからの難しいキックも決めていた。家村も、シーズン初戦でキックをアピールしないわけにはいかない。

チャンスはすぐに来た。21分、レヴズは左22m線のラインアウトからモールを猛プッシュ。ゴールライン手前でグラウンディングしてしまう一幕もあったが、そこは押し直してツイタマがトライ。そして左中間のコンバージョンを家村が狙う。右足から放たれた楕円のボールはみごとHポストに吸い込まれた。キック成功、スコアは40-10。

FWの陣の強さを見せるラインアウトモール
家村健太のコンバージョンキック。ものすごい速度で成長中!

しかし、そこからは地元の熱い声援を受けた釜石が猛反撃(この空気感、相手の応援の熱を体験するのも釜石遠征の醍醐味だ!)釜石がトライを取り、40-17というスコアで終盤へ。互いにメンバーを交代し、選手の疲労度も様々、そこで互いにプレッシャーをかけあう……ついついミスが多くなる展開になったが、試合の最後を締めたのはレヴズだった。後半タイムアップ後の42分、PKを得ると、勝利が決まっていてもレヴズは試合を終わらせずにタッチキックを選択。左ゴール前のラインアウトからモールをキッチリと押し切りトンガタマが左隅にトライ。そして家村がコーナーギリギリからのコンバージョンキックを狙う……これが見事成功!
静岡ブルーレヴズが47-17で釜石SWを破り、今季2戦目、初の遠征試合を飾った。

応援文化の大漁旗が釜石の空を大きくはためく
ラストワンプレーまで全力で戦い続けたメンバーたち
今シーズン2勝利目を上げた!試合終了直後に全員で試合をレビュー

堀川隆延アシスタントコーチ
「まず、素晴らしい環境でラグビーをできたことに感謝します。昨日釜石に着いて、改めて、我々静岡ブルーレヴズがここでプレーする意味を選手たちに話して、この12年間、我々が釜石へ来ていた歴史を再認識して試合に臨みました。我々にとってはプレシーズンゲームの2試合目ということで、ブラッシュアップできたと思う。前半最初の20-30分は点が入らなかったけれど、キックチェイスなど見えないプレッシャーをかけ続けたことがうのスコアにつながったと思う。まだ改善すべき点は多いけれど、今日は良い勉強になる試合だった。
今回は静岡ブルーレヴズだけでなくアカデミーの子どもたちも一緒に来て、防災などいろいろなことを学ぶ交流を持ち、記憶に残る時間を持てました。来年以降もこうした、ラグビーを通していろいろなことを学ぶ機会を子どもたちに提供すべく、この交流を継続させていただきたいと思っています」

庄司拓馬ゲームキャプテン
「今回は、2011年から継続してここで試合をしている意味を聞いて、全員で敬意を持ってこの試合に臨みました。試合事態は、自分たちのスタイルであるスクラム、ラインアウトのセットプレーで思い通りに行かない時間帯も多かったけれど、その中でも見えないプレッシャーをかけ続けた結果として、20分過ぎからスコアが動き始めたのだと思う。具体的には、キックオフのチェイスだったり、自分たちがボールを持っていないときにどれだけ相手にプレッシャーをかけるか、ディフェンスではワンラインでプレッシャーをかける、キックチェイスでもボールが空中に浮いているときに前に出てプレッシャーをかける、そういうことができたと思う。
(釜石での試合については)こういう舞台をセッティングしていただけるのはとてもありがたく、感謝していますし、これからも続けて行ければいいなと思う。ブルーレヴズもヤマハ発動機ジュビロ時代から大漁旗で応援してもらったり、チーム文化の面でも釜石さんから学べることが多く、選手としても頑張ろうという気持ちになる。こういう交流をもっと続けていきたいと思っています」

試合後に両チーム選手が集合。このノーサイドの写真は毎年心にぐっとくる。
2023年3月11日にブルーレヴズホストゲームで行われた大漁旗をデザインしよう!の企画で最優秀賞に選ばれた2つの大漁旗の実物(左、右)を、この釜石の地で初お披露目。
その3月11日に行われた「東日本大震災復興祈念義援金」の贈呈セレモニーも行われ、釜石SW代表桜庭様へ、山谷社長から目録をお渡し。より一層深く熱い絆が生まれた瞬間。
この地で戦うことの意味を強く胸に焼き付けて、次の試合へと臨んでいく。

<了>

大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。