大友信彦観戦記 9/11 vs.釜石シーウェイブスRFC ~歴史ある釜石遠征~【後編】
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
<観戦記対象試合>
「黄金の國、いわて。」Presentsともだちマッチ2022
2022年9月11日(日)釜石鵜住居復興スタジアム(岩手県釜石市)
10:00キックオフ
釜石シーウェイブスRFCアカデミー vs. 静岡ブルーレヴズラグビースクール
12:00キックオフ
釜石シーウェイブスRFC vs. 静岡ブルーレヴズ
前編はこちら>>> 大友信彦観戦記 9/11 vs.釜石シーウェイブスRFC ~歴史ある釜石遠征~【前編】
そして始まった試合。いきなり魅せたのは、ラグビー王国ニュージーランドでも最強を誇るクルセ-ダーズからブルーレヴズへやってきた、この日が日本デビューとなったSHブリン・ホール(以下ホール)だった。キックオフ直後の蹴り合いから、左WTBマロ・ツイタマ(以下ツイタマ)が相手DFの裏にキックを落とし、自ら追いついて足にかける。前方に弾んだボールにいち早く追いついたのがそのホールだった。地面に落ちそうになるボールを、身体を投げ出しながら拾うとそのまま左を走るツイタマにダイビングパス。キックオフからわずか50秒。ブルーレヴズの新シーズン最初のトライを、ホールは鮮やかにアシストしてみせた。さらにコンバージョンもホールが成功。クルセ-ダーズでは名手リッチー・モウンガの陰に隠れキッカーのイメージはないが、実は正確なキッカーでもあったのだ。ブルーレヴズが7-0と先制する。
先制点をあげたレヴズはそのまま試合の主導権を掴んだ。9分にはハーフウェーのスクラムからフェイズを重ね、ホールのロングパスを受けたCTBジョニー・ファアウリ(以下ファアウリ)が外へ仕掛けながら、内側に走り込んだSO岡﨑航大に絶妙なリターンパスを通し、岡﨑がそのままインゴールへ。昨季は期待されながらリーグワン公式戦出場ゼロに終わった万能BKが、司令塔候補に名乗りを上げた。
しかし、この日の主役はやはり、ホールだった。ツイタマの2トライ目で21-0とリードを広げたあと30分には相手ラインアウトのすっぽ抜けを拾ったアタックで、味方キックに反応して拾ったツイタマをサポートしてパスを受けてインゴールへ。最初のトライを裏返した形で日本初トライ。38分には相手ボールのスクラムで釜石SHに執拗にプレッシャーをかけ、相手パスを乱れさせることに成功。釜石の苦し紛れのキックがCTB鹿尾貫太にすっぽり入り、そのままトライ。ホールのコンバージョンも決まり、ブルーレヴズが38-0までリードを広げた。
「本当に経験値の高い選手。ご覧いただいた通り、グラウンドに監督が一人いるみたいな感じです。本当に頼もしい。ゲームメークも安定しているし、ハーフタイムのコメントも素晴らしかった」
堀川HCは試合後、ホールのパフォーマンスについて聞かれ、そう絶賛して続けた。
「ハーフタイムのGPS(衛星測位システム)の数値がスゴかったんです。その時点で3,700mくらい走っている。パスしたあとのサポートも速い。経験値が高いだけでなく、すべてのプレーを全速力でやっているんですね」
昨季、ブルーレヴズはリーグワンのディビジョン1で12チーム中8位に終わった。成績は5勝11敗。コロナ禍による不戦敗が4つもあったのが痛かったのは事実だが、実際に戦って敗れた試合はその倍近い7つもあった。そのうち4試合では7点差以内のBP1を獲得していたが、それは裏返せば、十分に勝てる可能性のあった接戦を落としたことでもあった。埼玉パナソニックワイルドナイツやクボタスピアーズ船橋・東京ベイ、東芝ブレイブルーパス東京というプレーオフに進み優勝を争ったチームとも接戦に持ち込む戦う力はあるのに、淡泊に勝つ権利を手放すように見える戦いも散見された。言い換えれば、ゲームをマネジメントするポジションに人を得れば、飛躍できるポテンシャルは十分にあったはず。ホールは、まさしくそのポジションに当てはまるジグソーパズルのピースのような存在に思えた。付け加えれば、昨季のブルーレヴズで最も躍進した選手であるSH田上稔の成長をさらに加速させる格好の手本になるはずだ-。
試合は後半に入る。ホームの意地を魅せたい釜石も反撃に出る。ハーフタイムをはさんで3連続トライ。ビジターチームにも常に温かい拍手と声援をくれる釜石のファンだが、地元チームのトライにはやはり比較できないような大音量の、熱い拍手と声と熱気が沸き上がる。地域に根ざしたチームの底力を感じる瞬間だ。
だが感心してはいられない。ブルーレヴズはゲームの流れを引き寄せねばならない――そのミッションを遂行したのは後半21分に交代でピッチに入ったニューリーダー奥村翔(かける)だ。この試合のわずか3日前、加入2年目ながら新シーズンの共同キャプテン就任が発表された。現役南アフリカ代表、トップリーグ時代から3季連続ベストフィフティーンを受賞しているクワッガ・スミス(以下スミス)とのツートップ。とはいえ、南半球のテストマッチシリーズを戦うスミスがチームに合流するのはまだ先。それまでは単独キャプテンだ。その奥村が、ピッチに入ると、いきなり魅せた。
敵陣でのディフェンスで相手にプレッシャーをかけ、キックを蹴らせるとカウンターアタックを仕掛け、ハーフウェーから相手DFのギャップを突いて出た新人FB山口楓斗をサポートして電光石火のトライ。自らゴールも決めると、その3分後には逆に、奥村がハーフウェーから豪快に持ち出し、山口につないで連続トライをクリエイト。
さらに33分にはファアウリの猛タックルで相手落球を誘い、ボールを拾ったFL杉原立樹がそのままトライ。59-19として試合を終えた。
試合の流れを最後に引き戻したのは奥村だった。さすがは新キャプテン……だが奥村はそんな見方に首を振った。
「キャプテンという気負いは特にないです。これまでやってきた大戸裕矢キャプテンを引き継いだだけで、周りにはいいリーダーがたくさんいて、サポートしてくれますから。今日はベンチスタートでしたが、ゲームキャプテンの庄司拓馬は言葉でもプレーでもリードしてくれるし、何も心配するところはありませんでした」
むしろ奥村が感じていたのは、11年前の先輩たちと同じ「釜石で試合をする意味」だった。
「釜石に着いたら、町のそこらじゅうに『ラグビーを応援しよう』という看板やポスターがあって、本当にラグビーが根付いている町なんだなと思った。そして、それ以上に多かったのが『津波がここまで来た』という表示です。津波がどれほどの規模だったのかという現実を突きつけられたようで、言葉を失ったけれど、そこからここまで町がラグビーと一緒に復興してきたことも分かって、自分自身も勇気をもらえました」
おそらくそれは、ブルーレヴズの選手だけが感じることではないだろう。釜石の地を訪れ、ここの物語を、当時のことを聞けば、ほとんどの人は身が引き締まる。釜石の人に良いプレーを見て欲しい、釜石の人の前でだらしないプレーはできない、ここで苦しんだ人に、自分の全力プレーをみせたい――誰だってそう思うだろう。そしてブルーレヴズの選手たちは、幸せなことに、毎年のようにここ釜石を訪れるチャンスをもらえている。
遠征に同行した五郎丸歩CROは言った。
「震災からもう11年、毎年のように招待していただいていますが、1年1年、ここへ来るたびに、建物が新しくできていたり、家が増えていたり、コミュニティができているのを感じます。ここにくることでブルーレヴズも成長できている」
それは、長い間「ラグビー不毛の地」と言われてきた静岡から日本一、そして世界を目指すチームにとって、大きなアドバンテージになっているのだと思う。
釜石へ、毎年試合に来させてもらえる。震災から復興へ立ち上がる人たちのエネルギーに触れる。謙虚になれる。自分ももっとやれるはずだと思える。誰かの力になりたいと、誰に言われるでもなく思える。それが、ブルーレヴズを成長させる大きな力になる。
シーズンの最初に、それを経験できたことは、きっと今シーズンのブルーレヴズを支える宝になる。おそらくは、そして願わくば、この先も……。
<了>
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。