見出し画像

青旬の轍|航大&颯馬

若手選手にフォーカスし、その過去・現在・未来を深堀りする"青旬の轍"。vol.3は、兄と同じピッチに立つという一つの目標を叶えた岡﨑 颯馬とその兄の航大にその裏側、その瞬間、そしてこれからについて聞く、初の兄弟編。


NTTリーグワンのD1はちょうど折り返しの9節を終了。
静岡ブルーレヴズは6勝3敗の4位で前半戦を終えた。

過去3季連続の8位から大きく前進する手応えを掴みながら戦った前半戦。チームにはいくつもの明るいトピックがあった。その中でもレヴニスタを楽しい気分にさせてくれたニュースが岡﨑兄弟同時出場だ。SHの兄・航大と、CTBの弟・颯馬が、夢だった兄弟同時出場を果たしたのは第5節の東芝ブレイブルーパス東京戦だった。

さらに2度目の兄弟競演となったのは第8節のトヨタヴェルブリッツ戦。同時出場を果たした2試合ともチームが会心の勝利を挙げているというラッキーボーイならぬラッキーブラザーズに、ブルーレヴズオフィシャルライター大友信彦が兄弟同時インタビューを敢行した。


――まずは兄弟同時出場おめでとうございます。同時出場を果たしたのは第5節のブレイブルーパス戦でしたが、そこまでは兄の航大さんだけが出場していましたね。どんな感覚ですごしていたのですか?
 
航大「僕は開幕から試合に出してもらっていたけれど、颯馬のやっているCTBは外国人選手も多いし、そう簡単に入れるポジションじゃない。でも、開幕からバックアップメンバーとして遠征メンバーにも入っていたし、寮なんかでも『どこかで必ずチャンスがあるぞ』『ケガさえしなければきっとチャンスが来るぞ』と声をかけていましたね」
 
颯馬「バックアップメンバーは、フロントロー3人、LO、バックロー、SH、BK2人の8人で、リザーブのリザーブみたいな位置づけです。そこには開幕から入れてもらっていました。
シーズンに入る前からずっとコンディションが良かったし、兄にもそういう言葉をかけてもらっていたし、この調子ならどこかでチャンスがもらえるかなと前向きに考えていました。ただ、出ている選手は経験豊富で体も強い選手ばかりですし、『とにかく自分にできることを』と考えて毎回の練習に良い準備をして臨むことを考えていました」

――チャンスを掴むために、特に練習で意識していたことなどは?

颯馬「意識していたのはボールを持っていないときの動きです。特にディフェンスで、広いスペースを埋めていくこと、ひたむきにプレーして、ミスを少なくすること。ムラを作らず、高いスタンダードでプレーすることです」

――航大さんは、颯馬さんのポジション争いの様子はどうご覧になっていましたか?

航大「僕もSHに来る前はSOやCTBをやってたので、このポジションの厳しさは分かります。フィジカルレベルは高いし、ディフェンスで体を張って、アタックではプレッシャーに負けずにラインを上げて、パスの精度も高いものが求められる。ただ、プレシーズンから颯馬は良くやっていましたね。僕は1年目でここまで行けてなかったなあ、と思って見ていました(笑)」
 
――そして第5節、颯馬さんがついにメンバー入り。名前を呼ばれたときの気持ちは?

颯馬「まず嬉しかったですね。正直、驚きもありましたが、やっぱり嬉しさが一番でした。それまでバックアップが続いて、悔しい気持ちもあったので。試合のジャージーを着て、しかもヤマハスタジムでの試合に出られるというのは嬉しかった」

航大「前の週にマフーザがちょっとケガをしたので『颯馬が来るかな?』と予想してた部分もあって。僕はそれほど驚かないで『おお、来たかー』という感覚でした。兄弟揃って試合に出たいというのは今季のひとつの目標だったので、思ったよりも早めに来たな、という」
 
――兄弟同時メンバー入りについてはご両親にはすぐ知らせたのですか?

航大「試合のメンバーに入ったときはいつも電話で知らせるようにしているので『入ったよ、颯馬も一緒だよ』と知らせました。二人でメンバーに入ったので、両親は観に来るかどうするかという話し合いが始まっていましたね」

颯馬「僕も電話をして、『ファーストキャップだね、おめでとう』と『楽しんでプレーしておいで』ということを言われました。あと『思ったよりも早かったね』と(笑)。僕としても、兄と同じチームに入団した以上、兄と同時に出場することは最初の目標だったし、それは早い段階でクリアしたいと思ってたけど、同じポジションには強力な外国人選手が揃っているし、正直『今シーズン中に叶えられたらいいな』くらいに考えていました」

――そもそも、颯馬さんは航大さんに誘われて静岡へ来たんですか?

颯馬「いえ、誘って下さったのは採用担当の西内さんです。そのあと、兄に聞いたら『いいチームだから、一緒にプレーできたらいいよな』と伝えられて、最後は自分で決めました。いいなと思ったのは、家族みたいなチームだというところです。チームがみんな同じ方向を向いて、ラグビー以外の時間も一緒に過ごすことが多いと聞いて、いいなあと思いました」

――デビュー戦に話を進めます。ピッチに入ったのは24-13とリードした53分、FB山口 楓斗選手が足首を痛めて交替。ピウタウ選手がFBに下がって、颯馬選手がCTBに入りました。

颯馬「想定していたよりも早い時間だったのですが、試合に出られることがとにかく嬉しかったですね。ちょうどベンチの上にモーターズ(ノンメンバー)の席があって、すごく大きな声援をもらって、ワクワクしていました」

航大「僕からは『頑張ってこいよ!』と声をかけたけど、内心は『早く出られていいなあ』と(苦笑)。僕ももうじき出ることになるし、ちゃんと準備しておこうと思っていました」

――ピッチに入ったあと、トライを取って取られたあとの66分、キックオフリターンで攻められて、自陣ゴール前で相手のモウンガ選手をピウタウ選手とのダブルタックルでタッチに押し出すビッグプレーを決めました。

颯馬「無我夢中でした。ビッグゲインされたあとだったし、とにかくトライさせちゃいけないと思ってタックルしただけ。相手がモウンガ選手だったことも全然分からなくて、あとで映像を見て知りました。試合は緊迫した時間が続いていて、本来の自分を見失ってしまう時間帯もあった。終わったときは『負けなくて良かった、次は同じミスをしないようにしなきゃ』という気持ちでしたね」
 
――69分に航大さんがSH北村選手との交代で入ってきました。そのときの気持ちは?

颯馬「そこはもう、一緒にプレーできる喜びよりも、目の前の試合に勝つこと。このリードを保ってどうゲームを締めるかということしか考えられませんでしたね」

航大「僕も同じですね。颯馬がいるかどうかは関係なく、ブレイブルーパスに勝つという目の前の試合、あの時間にピッチに入ることの責任感、勝ちに繋げなければいけないということで頭はいっぱいでした」

――航大さんは今季はベンチスタートが多いですが、どんな気持ちで準備していたのですか。

「リードしているときはどう締めくくるか、負けているときはどう流れを変えるインパクトを与えるか。どちらにしても、何か爪跡を残したいという気持ちで準備しています。あの試合に関しては、攻めることをやめないことだけ考えていた。颯馬が入ったことも特には…。
近くにいる強いランナー、ヴェティ(トゥポウ)やショーン(ヴェーテー)にボールを預けることしか考えてなかった。颯馬には一度もパスしなかったけど、颯馬だけでなく、そもそも(味方の)BKまで見ていなかった(笑)。やれたことはあれ以上もあれ以下もなかったと思います」

 
――そしてフルタイム。34-28の6点差で逃げ切りました。ブレイブルーパスからはリーグワンになって初めての勝利でした。

颯馬「嬉しかったですね、デビュー戦で、去年のチャンピオンに勝った。相手もモウンガ選手はじめベストメンバーが揃っていたし、その相手に勝利できた」

航大「僕としても、チームとしても、大きい勝利でしたね。そこまで勝利はあげていたけど、どこかで昨年の上位チームに勝たないと上には行けない。チームのみんながそれを分かっていて、気力も充実していたし、嬉しく思いました」

――コメントが落ち着いていますね。

航大「出始めたのは去年からですが、もう26才なんで(笑)。デビューまで時間がかかりましたからね。その点、颯馬は1年目から試合に出られて羨ましい」
 
――そのあと颯馬選手は2試合メンバーを外れて、次のチャンスは第8節のヴェルブリッツ戦でした。

颯馬「ケガをしていた選手が戻ってきたこともあるし、僕自身まだ本当にポジションを掴み切れてないのかな、でもきっとまたチャンスは来るはず、それに備えて準備しておこう、ブレイブルーパス戦で出た課題を克服して成長しようという思いで、ひとつひとつの練習にそれまで以上に集中していました。タマニバル選手にトライされたところは僕のディフェンスミス。視野を広く持って、確実に判断して精度高く実行することをテーマにして、基礎的なタックルの練習も繰り返しました」

航大「自分の課題と向き合っているのは僕から見ていても分かりました。アフター練習にも自分から取り組んでいましたね」

 
――この試合では、33-16とリードした72分に兄弟揃ってピッチに入りました。

航大「あのときはリザーブの他の6人が先に出て、残っていたのは僕ら2人だけになっていたんです。『(出場時間は)短いけど、しっかりやりきろう』とベンチで声をかけたことは覚えています。実際に入るときは何か言葉を交わしたわけじゃないけど、2人で何か爪跡を残したいという思いでピッチに入りました」
 
――この試合では航大選手が突進してくるラウタイミ選手に突き刺さって止めたり、颯馬選手が自陣ゴール前で相手のウィルソン選手にタックルで落球させてトライを防いだり、2人ともタックルで大活躍しましたね。

航大「あの時間、それしか仕事はなかったですから(笑)」
 
――良い仕事ができたなと思うタックルもありましたでしょう。

颯馬「そうですね、ゴール前で止めたタックルは、自分では良いプレーができたなと思えました。あそこでトライを取られていたらこちらのボーナスポイントが消えるところでしたし、勝ち点プラス1に貢献できて良かった」

航大「僕はあの場面、反対サイドにいたので誰がタックルしたのかまでは分からなかった。チームとして、頑張ってディフェンスしてるな、と思ってたくらいで、颯馬がタックルしていたことはあとで映像を見て知りました」
 
――航大さんもいいタックルを決めていましたね。

颯馬「相手のNo8がサイドに持ち出したところにタックルした場面はインパクトありましたね」
 
――やはり、CTBからだと前にいるSHのプレーはよく見えるんですね。SHからCTBはなかなか…

航大「はい、視界に入ることがない(笑)」

――改めて、2人で一緒のピッチでプレーした感想を伺えますか。

航大「僕らは大学も入れ違いだったし、同じチームでプレーしたことはなかった。今回も、兄弟で一緒にピッチに立ったというよりは、本当に1人のチームメート、戦う仲間として見ている感じです。
ただ、一緒にプレーしているところを両親に見せられたのは良かったですね。両親も長崎から駆けつけて、喜んでくれたし」

 
颯馬「僕はRSから高校までずっと兄と同じ道を歩んできて、兄が高校ジャパンに選ばれたりしている姿に憧れて、僕もああなりたいな…と思って兄の背中を追いかけてきました。一緒にプレーすることはひとつの目標だったので、デビュー戦で一緒にプレーできたのは嬉しかった。でも、試合中は兄がどうこうというより、15人の仲間の一人という意識しかありません。みんなで勝ちに行くぞ、という気持ちです」
 
――さて、シーズンはいよいよ折り返しました。前半戦を終えて、後半戦に向けての抱負を聞かせてください。

航大「チームとして、今までよりも上の順位で来ていて、ここからはプレーオフ進出がかかってくるし、勝ちにこだわっていきたい。チームのために働ける選手として頑張りたい。個人としては、クローザーという役割をいただいているので、試合を締める、インパクト役をやりきるプレーを見せていきたいです」

颯馬「兄も言ったように、チームとして勝利を重ねていけるよう貢献したいということが一番です。個人としては、1日1日、毎試合、毎回の練習すべてが勝負と思うし、日々成長していきたい、1試合でも多くジャージーを着て、今出ている選手を脅かして、自分が試合で活躍する姿を想像して、試合に向けた準備の面でもスキルの面も成長していきたいです」
 
――ありがとうございました。後半戦も、また兄弟での活躍を楽しみにしています!


大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。