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聖地ナイターゲームでの死闘。~大友信彦観戦記 3/3 リーグワン2022-23 Div.1 R10 vs 横浜キヤノンイーグルス戦

Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)

<観戦記対象試合>
NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 Div.1第10節 戦横浜キヤノンイーグルス戦
2023年3月3日(金) 秩父宮ラグビー場 19:00キックオフ

リーグワン第10節。静岡ブルーレヴズは秩父宮ラグビー場のナイトゲームとなるビジターゲーム、横浜キヤノンイーグルス戦を迎えた。

ナイターゲームはいつも以上にどこかテンションの上がる非日常空間を感じられる。

 イーグルスは前節まで4位。プレーオフ進出を目指すブルーレヴズにとっては、ターゲットにしなければならない相手だ。4位のイーグルスとの勝点差は16。ミッションは相手に勝点を与えず、勝利を奪い取ること。ここで勝てば、BPを取れなくても勝点差を12に詰められる。残り6節、逆転は十分に可能な差だ。

レヴズは先発15人のうち、前節からの変更は1人。LOの先発をマリー・ダグラス/桑野詠真のペアからアニセ サムエラ/ダグラスのペアに変更した。昨季までイーグルスでプレーしていたアニセを古巣相手に先発させる粋な采配。そして桑野がリザーブに回った。
前節のサンゴリアス戦は、勝点こそ奪えなかったものの、開幕戦で敗れたあとは連勝している強敵に対し、最後まで勝負を意識できる点差で戦い続けた。神戸戦で負傷した大戸裕矢、奥村翔、マロ・ツイタマ、山口楓斗を欠く中、アーリーエントリーのSO家村健太、WTB槇瑛人を先発に起用した若い布陣のパフォーマンスは、新しいレヴズの可能性を感じさせた。ほぼ同じメンバーを横浜イーグルス戦にぶつけたことに、このメンバーで戦うのだという首脳陣の強い意思が感じられた。

その一方で、リザーブには変更が加えられた。23に前節のWTB吉良ではなくFLの庄司拓馬を入れ、リザーブ8人をFW6/BK2の編成に。「この試合はFW勝負になる。消耗戦に備えてFWの枚数を増やしました」と堀川隆延HCは説明した。2週連続で中5日のショートウィーク。この試合に先立つ2日には、第8節の神戸戦で右前腕を骨折したFB山口楓斗が3-4ヵ月の、さらに第2節の埼玉戦で左肩を負傷し、2月に手術したジョニー・ファアウリは約6ヵ月の戦列離脱が発表された。今季のリーグ戦にはもう戻ってこられない。総力戦で戦うのみだ。彼らにいいニュースを届けるためにも、タフな状況で、戦い抜くのだ。

3月3日、金曜の夜。前日までの暖気はどこかへ消え去り、冬の寒気が戻った秩父宮ラグビー場で、試合は始まった。
 
試合はレヴズがキックオフを蹴った。最初の密集で、イーグルスのFWが持ったボールにLOダグラスとNo8クワッガ・スミスが食らいついた。ボールコントロールを失った相手FWがペナルティーを犯す。いきなりPKのチャンス。レヴズはショットを選択し、SHブリン・ホールが狙う。しかしキックは右に逸れる。
だが次のドロップアウトをPR伊藤平一郎が捕球すると、青いジャージーは再び前進。アニセが昨季までのチームメイトを相手にグイグイ突き進み、再びPKを獲得。ブリンが正面25mのPGを難なく蹴り込んだ。クルセ-ダーズ時代は名手リッチー・モウンガがいたため蹴る機会がなかったが、レヴズでは前節から代役キッカーを務めているブリンは4本目のキックで初の成功。ブルーレヴズが3点を先制した。

ブリン・ホールがキッカーを務めるのは今シーズン3試合目。プレシーズンマッチ1発目の釜石シーウェイブスRFC戦でも務めていた。

さらにレヴズの攻勢は続く。自陣からのアタックでFLジョーンズリチャード剛が前進し、密集でPKを獲得。そこから敵陣に入って攻撃を継続する。ここはフェイズを重ねたところで反則を犯すが、ラインアウトの相手ボールを奪ってアタック。再びPKを獲得すると、今度はラインアウトを選択。9分、右ゴール前10m。リーグ戦序盤の戦いを支えてきたレヴズの看板、ラインアウト部隊でこの試合最初のトライを取りに行ったのだが……ここは相手の201㎝LOマックス・ダグラスのプレッシャーでコンビネーションが乱されロスト。最初のトライチャンスは活かせなかった。
だがレヴズは直後の10分、自陣でのディフェンスで相手NO8ハラシリにSO家村がタックル、さらにクワッガが食らいついてボールを奪い取りカウンターアタックに出る。CTBタヒトゥアから小林広人、WTB伊東力へとパスが渡る……だがスローフォワード。追加点のチャンスをレヴズはなかなか活かせない。

この日もハードワークを見せるジョーンズリチャード剛
ラインアウトで競り合うマリー・ダグラス
ヴィリアミ・タヒトゥアもパスをつないでいく

そして迎えたスクラムで、ブルーレヴズがコラプシングの反則。このPKからイーグルスはレヴズゴール前のラインアウトに持ち込み、その後のスクラムからトライを献上してしまう。レヴズは絶好のスタートを切りながら武器のラインアウト、スクラムでリズムを掴めず、逆転を許してしまった。

試合は互いに我慢の時間に入る。地域的にはイーグルスがレヴズ陣内で多くの時間を過ごすが、レヴズはクワッガを先頭にプレッシャーをかけ、あと1本のパスを通させない。27分、イーグルスがレヴズゴール前2mまで攻め込むが、レヴズは守り切りオフサイドを奪う。しかしここでTMO。直前にレヴズのFLイラウアに危険なタックルがあったとしてイーグルスにPKが与えられ、日本代表SO田村がこのPGを成功。イーグルスが10-3とリードを広げる。

WTB先発出場の槇瑛人
今節もスタメンを任されたSO家村健太

そして試合はイーグルスの時間に入った。自陣から南アフリカ代表SHファフ・デクラークがボックスキックを蹴り、レヴズのキャッチミスを誘うと、そのこぼれ球を足で処理。華麗なヒールパスで味方につないでチャンスを広げ、観客を沸かせる。35分にはレヴズゴール前に攻め込んだ連続攻撃で絶妙なパスさばきでSO田村優のトライをアシスト。イーグルスが15-3までリードを広げた。

イーグルスの南アフリカ代表SHが活躍すれば、レヴズの南アフリカ代表No8も黙っていない。37分、イラウアが左サイドを前進したのを起点に、レヴズはダグラス、クワッガ、槇、ダグラスと連続でラックを支配。そしてFBファリアが持ち込んだ右中間15mのラックからボールを持ちだしたのがクワッガだった。イーグルスのタックルを1人、2人とハンドオフで外し、3人目のデクラークにジャージーを掴まれても足をかけられても、強靱な下半身のトルクで強引に前進。さらに追ってきたタックラー2人を含め5人のタックルをひとりで外し、右中間インゴールにボールをたたきつけるのだ! 足が6本も8本もあるような、それぞれの足にエンジンがついているような驚愕の推進力。理不尽なまでに豪快なトライ。それでいて、レヴニスタは(おそらく)そこに違和感も覚えない。見る者を不思議な感覚に誘う。これが超人クワッガだ!


トライのきっかけとなるアタックを見せたマルジーン・イラウアとマリー・ダグラス
槇もしっかりとボールをキープ!
一人二人と跳ね除けて
南アフリカ代表のファフ・デクラーク選手を引きずり、
どんどん突進!!
後ろから小林広人がクワッガ・スミスをサポートし、大歓声のあがるBIG TRY!!

そして、8-15と追い上げて迎えた後半もクワッガ劇場は続いた。
後半に入り、イーグルスは波状攻撃でレヴズのゴール前に迫った。45分、レヴズゴール前のラインアウトからイーグルスはモールを押し、サイドをデクラークが持ち出すが、クワッガと家村のダブルタックルがこの突進を止める。次のスクラムからFKを得たイーグルスはデクラークが速攻、No8ハラシリがゴールラインに迫るがあと1mまで迫ったところで家村、ジョーンズとクワッガがトリプルタックルでこれを阻止。そして48分、相手SO田村をゴールライン前5mでタヒトゥアが止めると、ダグラスのカウンターラックでわずかに見えたボールを素早く奪ってターンオーバー。5分間近くに及んだ自陣ゴール前のピンチを脱出させる。
クワッガの超人的な働きはチームメイトを覚醒させた。50分には再び自陣ゴール前ラインアウトのピンチを迎えたが、後半からアニセに代わって入ったLO桑野詠真が鮮やかにスチールしてピンチを脱出する。

ジョーンズリチャード剛・家村健太も激しいタックルで止める!
マリー・ダグラスのターンオーバー
素早くピックアップしたクワッガ・スミスがまたも相手をはねのけていく
後半スタートから出場の桑野詠真

我慢を重ねたレヴズが攻勢に転ずる。55分、SHブリン・ホールにかえて吉沢文洋を、WTB伊東力に代えてサム・グリーンを投入。グリーンがFBの位置に入り、ファリアがWTBへ。攻撃的な布陣をとり、迎えた60分だ。家村の相手防御裏へのキックがインゴールに入ったところでピタリと止まり、イーグルスのインゴールドロップアウトで再開されたプレーでレヴズがアタックを継続。ここでもクワッガがディフェンダーをこれでもかと集めて突進するなどレヴズが9フェイズまで攻撃を継続。最後はグリーンからフラットなパスを受けたファリアがトライラインを攻略した! グリーンがコンバージョンも決め、15-15の同点に追いつく。


途中出場でFBに入ったサム・グリーン
マルジーン・イラウアのアタックが光る
速いテンポでパスをつなぎフェーズを重ねる
一瞬の隙を逃さずキーガン・ファリアの今シーズン初トライ!

そして71分だ。家村の絶妙のキックでイーグルスゴール前に攻め込んだレヴズは、相手ラインアウトからのディフェンスで猛然とプレッシャーをかけ、クワッガがジャッカルでPKを獲得。するとクワッガは、相手DFが整わないうちに自らタップキックでクイックスタート。慌ててゴールラインまで戻る相手ディフェンスを押しのけ、突き破ってインゴールにボールをねじ込むのだ。コンバージョンもグリーンが成功。22-15。残り8分、ブルーレヴズがリードを奪った!

クワッガ・スミスのジャッカルでPKを獲得
カメラも追いつかぬあっという間にトライ!!

だが、リードした喜びは長く続かなかった。
相手キックオフを蹴り返したグリーンのキックがタッチに出ない。途中出場でFBの位置に入っていたイーグルスのエスピー・マレーがカウンターアタック。80分近く走り続けてきたレヴズディフェンスの足は、残念ながら大外のスペースのカバーまでは届かなかった。マレーからパスを受けたイーグルスのWTB竹澤がインゴールへ走り込み、ノーホイッスルトライ。左中間の難しいゴールを、FBからSOに上がっていた小倉順平が決める。22-22、再び同点。
 
こうなると追いついた側が強い。78分だ。ハイパントを追ってきたイーグルス選手の進路を妨害したとして吉沢がペナルティーを科される。位置はほんの5分前、小倉が同点ゴールを決めたところとほぼ同じだった。万事休すか――。だが、この勝ち越しPGは外れる。
そしてスタジアムにはタイムアップのホーンが響いた。だが互いに勝利を目指す両チームはドローを受け入れず、ゲームを続ける。81分、レヴズがディフェンスでPKを獲得。家村のキックで陣地を進めようとするが、キックはタッチに出ない。そこからイーグルスが再びカウンターアタック。レヴズは必死に止め続ける。そして83分、再びPKを獲得。今度はグリーンがタッチキックを蹴る。だがそのラインアウトからのアタックで家村が痛恨の落球をしてしまった――時計はすでに84分。自陣深くに攻め込まれていたイーグルスはボールを拾うこともなく、滑川レフリーはノーサイドの笛を吹いた。試合は22-22の同点で終わった。
またも、勝利は目前で、逃げた。

苦しい時間でも相手PGに全力でプレッシャーをかける
久々の出場となったインパクトの庄司拓馬も食らいつく
ノーサイドの笛が響き渡る

 「80分、両チームとも素晴らしい試合をしてくれた。見ているお客さんにラグビーの面白さを感じ取ってもらえるゲームだったと思う」
試合後の会見を堀川HCはそう切り出し、続けた。
「ラスト10分、リードしたところで勝ちきれないゲームが続いている中で、今日もチャンスがあったけれど、勝ちきれなかった。ゲームの内容をもう一度見て、選手と会話をして、ラスト10分をどうすればいいか、改善したい。ただ、選手たちは本当に、試合ごとに成長しています」

悔しさがこみ上げる桑野詠真

前節のサンゴリアス戦に続いてSOで先発フル出場した家村についても、堀川HCは高い評価を与えた。
「前節のサンゴリアス、今節のイーグルスと、トップ4に入るチームを相手に、プレッシャーのかかる中で素晴らしいリードをしてくれた。もっと大胆に勝負していってもいいくらい。本人にもそう伝えようと思います」
勝負所でいくつかミスはあった。観戦者にはその印象が強いかもしれない。ミスが目立ってしまうのは10番の宿命だ。だがむしろ、頑健なタックルを繰り返し、消耗しながらもタフにゲームリードし続けたことが、次の飛躍への伸びしろになるはずだ――堀川HCはそこを評価していた。

家村健太の成長に今後も大きな期待がかかる

そして、プレーヤーオブザマッチを受賞したのは、誰も異論を挟まないだろう、レヴズの心臓にして頭脳、エンジンでありどんな悪路も走り切るキャタピラーをも装備した全輪駆動スーパーマシン、クワッガ・スミスだ。
「とてもタフな試合だった。最後の最後に勝利するチャンスを失ってしまった。正直、この結果を受け止めて、消化するのは困難な作業です。ただ、イーグルスという素晴らしいチームを相手にこれだけの戦いができたことは、きっとファンの皆さんにも喜んでもらえると思う」

誰よりもPOMキャップが似合う。

クワッガの超人ぶりは、レヴニスタなら誰もがおなじみだ。しかし、この日はいつにもましてすさまじかった--そう感じた人も多かったのではないか。とりわけ、デクラークをひきずりながら決めた前半のトライ。
「あの場面で誰が来ていたかは正直分からなかった。私自身は、誰が相手かどうかは関係なく、自分のベストのプレーをやり続けることが、チームのためにも、自分自身のためにもなると信じてやっています。まあ、いつも仲間でやっている選手が対戦相手にいるのは少し不思議な感覚だったけどね(笑)」
クワッガはそう言って笑った。どんなときも全力を出し続け、戦い終えたら相手をねぎらう。相手へのリスペクトに溢れたクワッガの態度は、チームメイトにとってもレヴニスタにとっても、素晴らしいロールモデルだ。

ピッチ上での熱い抱擁はなかったが、心で通じ合っているようなそぶりを見せた

ブルーレヴズは引き分けの勝点「2」を加え、総勝点を「17」に伸ばした。だが今節は、前節までレヴズよりも下位にいたブラックラムズが勝点「5」を加え「19」に、ヴェルブリッツが勝点「4」を加え「18」にしてレヴズを抜いた。レヴズは勝点を伸ばしながら、前節終了時の8位から10位に後退した。
 
じれったい――多くのレヴニスタが抱いている感情だと思う。堀川HCが言うように、レヴズが成長を続けていることは間違いない。戦いの中身も決して悪くない。10節終了時点での総得失点差は-1。全12チーム中、プラスになっているのは半数の6チーム。レヴズは得失点差なら7位なのだ。さらに光るのはディフェンス力。総失点229はワイルドナイツ、イーグルスに次いで4位の少なさ。1試合で最も多く失点したのはブラックラムズ戦の34点。これはワイルドナイツの19点に次ぎ、サンゴリアスと並ぶ2位タイの少なさだ。レヴズはどの試合でも、波なく堅いディフェンスで奮闘している。ラグビーで勝利のために最も必要なカードは、すでに手に入れているのだ。
あとは、勝利という結果を手に入れるだけ。

悔しさを胸に刻み、次節へと向かう

次節は3月11日、エコパにクボタスピアーズ船橋東京ベイを迎える。
この試合では、レヴズはヤマハ発動機ジュビロ時代から応援団の名物となっている大漁旗への感謝をキーワードに据えて試合に臨む。
東日本大震災からちょうど12年という節目の日に、東海地震の警戒区域である静岡の地で試合をすることには、きっと意味がある。
勝利とともに、勝利だけではない価値を創造してほしい。<了>

大漁旗を感じる1日。必ず熱い試合にする。感謝を勝利で伝える。

大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。

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