チームに足りないもの、競ったゲームの中でチャレンジできるかできないか。~大友信彦観戦記 2/19 リーグワン2022-23 Div.1 R08 vs コベルコ神戸スティーラーズ戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
リーグワンはBYE明けの第8節。16試合を戦うD1ではちょうど折り返しになる試合だ。前節まで2勝1分4敗、勝点14で8位のブルーレヴズだが、今節の相手は勝点15と1差で6位のコベルコ神戸スティーラーズ。勝点1差に6~8位の3チームがひしめく中、この試合に勝てば6位に上がれる。プレーオフに進める4位以内というターゲットがくっきりと見えてくる。大切な一戦だ。
神戸は言わずと知れた、日本ラグビーの歴史を築いてきた名門チーム。レヴズにとってはヤマハ発動機ジュビロ時代から、常に目標にしてきたチームだ。
初対戦したのは関西Bリーグから全国社会人大会に2度目の出場を果たした1996年12月、花園で7-104のスコアで敗れた。全国社会人大会ではこの試合を含め2敗。関西社会人リーグでは1998年に初対戦し、4連敗ののち、初優勝した2002年に花園ラグビー場で初勝利をあげた。トップリーグ発足後はリーグ戦、プレーオフ、日本選手権で20度対戦し、7勝12敗1分という成績が残っている。そしてリーグワンが誕生した昨季は、ブルーレヴズにコロナ陽性者が出たことで試合は中止された。つまり、リーグワンでは初対戦だ。
ブルーレヴズはこの試合に、前節から先発1人を変更して臨んだ。FLの杉原立樹に代えてマルジーン・イラウアを起用。リザーブには前節から代えてHO平川隼也、PR茂原隆由、FL舟橋諒将、SOグリーン、そしてアーリーエントリーからの初登録となるWTB槇瑛人が新たに加わった。今季のブルーレヴズは開幕から4連敗のあと、1分けのち2連勝。ここ3試合は負けていないが、上位チーム相手なら致命傷になるようなミスも散見した。同じところにいては勝っていけない。良い流れを引き継ぎつつ、負傷から戻ってきた選手、新たに加わった選手たちの力を加えていこう--そんな思いがうかがえるメンバー構成だった。
2月19日、神戸ユニバー記念競技場。午前から降っていた雨は試合開始に合わせるようにやんだ。ブルーレヴズは、この試合でトップリーグから通算100試合出場の節目を達成する大戸裕矢が先頭で入場。ユニバー競技場の場内アナウンスが大戸の偉業を紹介すると、どちらのサポーターからも大きな拍手が沸き上がった。ひとときも手を抜かない献身的な攻守。レヴズの心臓とも呼ぶべきハードワーカーは、敵味方の垣根を越えてリスペクトを得ている。英雄の節目の日を勝利で飾ろう。神戸からの勝利で祝おう――フィフティーンとレヴニスタの気持ちはひとつになった。
14時30分、SO清原祥がキックオフを蹴り、試合は始まった。
先手を取ったのはブルーレヴズだった。キックオフ後の蹴り合いで、キックを捕球した神戸の日本代表FB山中亮平にCTB小林広人とFLジョーンズリチャード剛が猛タックル。相手ノックオンを誘うと、最初のスクラムからレヴズは連続攻撃。HO日野剛志のブレイクからパスがFB山口楓斗-CTBヴィリアミ・タヒトゥアと渡り、タヒトゥアが左隅に飛び込んだ。奥村のコンバージョンは外れるが、レヴズが5点を先制する。
神戸も試合巧者だ。7分、キックがレヴズLO大戸裕矢にチャージされて軌道が変わったところから22歳の日本代表SO李承信が持ち出し、レヴズDFの手に当たって転がったボールを拾った元日本代表SH、35歳の日和佐篤が、濡れた芝を滑りながら左隅に飛び込んだ。神戸がすかさず5-5の同点に追いつく。
ベテランが魅せれば、若手も動する。10分、レヴズSHブリン・ホールのあげたボックスキックを、敵陣22m線付近で跳び上がって相手と競り合いながら、23歳のルーキーFLジョーンズリチャード剛が捕球!そのままトライラインに迫るが、惜しくも落球。ボールを持ったジョーンズの腕を後ろから神戸の21歳、デビュー2戦目のCTB濱野がはたいていた。リーグワン公式戦で21歳と23歳が演じたギリギリの攻防。どちらのファンも拍手を贈りたくなる場面だった。
試合はそこから膠着した。15分に神戸は李承信がPGを決めて8-5と勝ち越し。レヴズは18分、奥村がPGを狙うも外れるが、21分に正面35mのPGチャンスを得ると奥村がキッチリ決めて8-8の同点。25分に神戸は4試合ぶりに先発復帰したCTBマイケル・リトルが勝ち越しトライをあげるが、31分にそのリトルがイエローカードを出される。静岡No8クワッガ・スミス主将がハーフウェーから鮮やかにギャップを抜け、神戸ゴール前に迫ったところで、リトルが自陣側に戻りきらないまま密集にジャッカル。このプレーがプロフェッショナルファウル(トライを逃れるための故意の反則)と判定されたのだ。
前半ラスト10分のイエローカード。今季レヴズが苦しめられたシチュエーションが、今日は相手に与えられた。数的優位を得たブルーレヴズはそのPKからゴール前のラインアウトに持ち込むと、落ち着いてフェイズを重ね、5次攻撃でCTB小林広人が右中間にフィニッシュ。奥村がコンバージョンを決めて15―15の同点に追いつくと、36分には自陣10m線付近で相手がファンブルしたボールを奥村が相手陣へキック。そのままドリブルした奥村は、戻った神戸の日本代表FB山中亮平と競り合いながらゴール前で拾い、右中間インゴールへダイブ。自らコンバージョンを決め22-15と逆転に成功する。
勝ち越しに成功したブルーレヴズはハーフタイム直前、自陣ゴール前に攻め込まれるピンチ。ここで神戸リトルのシンビンが明け、ピッチへ復帰。トライとゴールを決められれば同点に追いつかれてしまう――だがこのピンチのラインアウトに神戸はノットストレート。リーグワン随一のクオリティを誇るレヴズラインアウト部隊のプレッシャーが、神戸のミスを誘ったのだ。
22-15。7点をリードしてのハーフタイム。とはいえ14点は、相手がシンビンで14人になった10分間にあげたものだ。運に恵まれて手にしたリードを、どうすれば確実な勝利に結びつけられるか。相手は試合巧者のスティーラーズだ。レヴズが真に強いチームへと脱皮し、進化できるか。真価が問われる40分。
そして迎えたセカンドハーフ。レヴズは強さを見せた。ブレイクダウンでは神戸の赤いジャージーに突き刺さり、めくりあげ、何度も押し戻した。だが、不用意なミスの連鎖が傾きかけた流れを相手側へと押し戻していく。
後半が始まって早々だった。相手キックオフを捕った自陣22m線のラックで相手FWがノットロールアウェーの反則。後半の自陣キックオフレシーブを、敵陣でのマイボールラインアウトに変えられる大チャンス。だがSO清原祥の蹴ったキックはタッチに出ない。そこから神戸はカウンターアタック。このディフェンスで、タックルした際にLO大戸裕矢が左肩を痛めて退場してしまう。昨季は11試合880分、今季もここまで7試合560分、1秒も離れることなくピッチで身体を張り続け、圧巻のラインアウトワークで空中戦を支配し続けたレヴズの精神的支柱がピッチから下がった。
その動揺か、レヴズはさらなるミスを犯してしまう。6分には連続PKを獲得して相手陣10m線まで攻め込みながら、清原のタッチキックはコーナーフラッグを越えてタッチインゴールへ。追加点の絶好機を逃す。レヴズはそこからも気持ちを落とすことなく攻め続け、8分には先発に抜擢されたイラウアのタックルとクワッガ・スミス主将のジャッカルでPKを獲得し、奥村主将が正面約30mのPGを狙う。だが試合中に足を痛めたのか、奥村のキックは伸びを欠いた。ゲームは神戸のドロップキックで再開。ここで相手リスタートのキックを捕った清原が蹴り返したキックはダイレクトでタッチに出てしまう。さらに清原が目を離した隙に、タッチの外でボールを捕った神戸は素早くボールを戻してクイックでゲームをリスタートさせるのだ。クワッガが必死に戻ってタックルし、相手ノックオンを誘って何とかピンチの芽を摘むが、肝を冷やす場面が続いた。
それでもブルーレヴズは、ミスを犯しながらもディフェンスで耐え、ゲームを建て直した。後半11分には3日前に38歳を迎えたSH矢富勇毅と、左ハムストリングスの負傷から復帰したSOサム・グリーンをリザーブから投入。するとその最初のプレーだった。神戸陣22m線に攻め込んでの右ラインアウト。いったん相手にタップされたボールにPR伊藤平一郎が鋭く反応して再ターンオーバー。タヒトゥアが縦を突いたラックからパスを受けたのが、交代で入ったばかりのグリーンだった。小さなパスダミーからの急加速で相手タックラー2人の隙間を突き抜けると、ゴールラインめがけて豪快なジャンプ。自ら復帰を祝う、ファーストタッチでの鮮やかなトライ。奥村のコンバージョンも決まり、29-15。レヴズがこの日最大の14点差をつける。
試合はあと25分。ようやく安全圏に近づいたレヴズだったが、悪い流れを断ち切ることはできなかった。16分、自陣に攻め込まれたラインアウトで、大戸に代わって入ったLOアニセがオフサイド。そのラインアウトからのアタックでフェイズを重ねた神戸は、レヴズの粘りに手を焼きながらも、アドバンテージを得ても焦らずに攻め続ける。そしてボールがこぼれ、PKが宣告されるやリトルがクイックスタートしてトライを決めるのだ。SO李が難しい位置からコンバージョンを成功。点差を再び7に戻す。さらに、この一連の攻防で、レヴズを最後尾から強気に支えてきたルーキーFB山口楓斗が、タックルに行った際に右肩を痛めてしまう。山口はすぐ交代せずゲームを続けたが、次の相手キックを蹴り返した時点でゲーム続行は不可能になり、61分、アーリーエントリーで登録された槇瑛人と交代する。直後、スクラムで相手反則を奪ったレヴズはショットを選択。正面45mのロングPGをグリーンが狙うが、楕円のボールは力を欠き、Hポストの手前で落ちた。点差は変わらず、ワンチャンスで同点になる7点差のまま。
そして、そこからゲームは激しく動いた。
神戸FB山中亮平の左足のロングキックがハーフウェーまで陣地を戻す。レヴズボールのラインアウトを神戸の南アフリカ代表No8クッツェーが奪う。勢いづいた神戸はスクラムでもレヴズの反則を奪い、レヴズのゴール前まで攻め込む。しかしゴール前のラインアウトで痛恨のノットストレート。
息を吹き返したレヴズはジョーンズリチャード剛のタックルでボールを奪って攻め返し、グリーン-イラウアのカウンターアタック、さらにジョーンズのタックルでPKを奪い神戸陣深くへ攻め込む。連続してPKを奪ったレヴズは右ラインアウトからモールを押す。神戸がこらえきれずにモールを崩してしまい、滑川レフリーがアドバンテージをコール。SOグリーンは左へキックパス。WTBツイタマが跳び上がって捕球するが、競り合った神戸FB山中がツイタマの上体に絡みついてグラウンディングを阻止する。
アドバンテージルールが適用され、ポイントはラインアウトモールでのコラプシングに戻る…そこでレヴズのBKから声が響いた。
「アドバンはボールキープでいいよ!」
CTB小林広人の声だった。時計は残り10分を切っている。リードは7点。ここでなすべきことは、時間を使いながら、確実に点を取って帰ること。点を取り急ぐな……だがその戒めは、15人に共有されなかったようだ。
PKからのラインアウト。モールを押すが、あと1mのところでモールが崩れる。アドバンテージは出ない。矢富が出したボールをグリーンは内側のタヒトゥアに託すがタックルを浴びる。ボールをクワッガが持ち出すが、神戸のSH中嶋がタックル。倒れざまに、クワッガは横にいるグリーンへオフロードパスを送る――そこにわずかな隙が生まれた。神戸のWTB山下楽平。トップリーグ時代に二度トライ王に輝いている天性のハンターは、クワッガが浮かせたボールをかっさらうとそのまま約90mを独走。必死に戻ったグリーンと小林が追いすがって山下を倒すが、神戸はそのままボールを継続。レヴズゴール前でラックを連取し、No8クッツェーがボールをねじ込んだ。トライ。李のゴールキックも決まり、残り5分でスコアは29-29の同点。
悪条件は重なった。前のプレーでキックパスを追ったWTBツイタマは着地の際に足をひねり負傷退場してしまう。14点あったリードを失い、攻守のキーマンを次々に失ったレヴズに、大きな流れを押し戻す力は残っていなかった。再びラインアウトでボールを失い、ゴール前に攻め込まれ、ペナルティーを犯し、李に勝ち越しPGを決められた。ホーンが鳴ったあとのキックオフ。レヴズはグリーンが短く蹴ったキックからこぼれ球をPR茂原が確保したものの、次のボールキャリーで舟橋がタックルを受けたところでペナルティー。神戸がボールを蹴り出し試合は終わった。32―29。神戸の勝利。
試合後のピッチで、大戸の100試合出場セレモニーが行われる。悔しい敗戦の直後だったが大戸は勝者を称え、笑みをうかべて謝辞を口にした。スタジアムのファンからは、敵味方を問わぬ拍手が贈られた。
試合後の会見。堀川隆延ヘッドコーチは声を絞り出した。
「最後に逆転されましたけど、前半は自分たちのスタイルを発揮して得点できた。課題だった、22m線に入ってからのアタックも、FWとBKが一体になって良いトライをスコアできた。ただ、勝負の世界、最後は3点差で勝てなかったけど、そこまでに自分たちの作り出したチャンスを生かし切れなかった」
――単純なミスが目立ったが。
「個人のミスは、相手のプレッシャーがどうこうというよりも、プレッシャーのない場面での選手本人のスキルの問題。そこは選手本人とも話していきたい」
――終盤の逆転負け。昨季から同じような負け方が続いている。
「このチームに足りない部分は、競ったゲームの中でチャレンジできるかできないか。タフさが必要。そういうことは今、リーダーたちにも話してきました」
同じ質問はクワッガ・スミス主将にも向けられた。この日も身体を張り続けた闘将は答えた。
「自分たちはチャンスを作れている。あとはそこでトライを取りきること。足りない部分は個人的なスキルであり遂行力。ただ、我々は昨年と同じチームではない。成長しているし、チームのディフェンス力はあがっていて失点は減っている。足りない部分をあげていくだけです。今日も良い部分はあったけれど、勝つのは簡単なことではない。今日の戦いをレビューして、課題を洗い出して修正していきたい」
レヴズが成長を続けていることは、戦いを注視し続けているレヴニスタは皆、知っている。思い通りのメンバーを組めない事情もある程度は察しているだろう。それでも、1戦1戦の試練を学びとして、次の戦いに向かってくれると信じるから、またスタジアムに足を向ける。遠くビジター試合にも駆けつける。この日、試合開始直前まで雨に打たれていた神戸ユニバー競技場にも熱いレヴニスタの姿はあった。
次節はサンゴリアスを地元ヤマハスタジアムに迎えるホストゲーム。昨季2位、今季ここまで7勝1敗の強敵に対し、レヴズは中5日のショートウィークで戦う。大戸をはじめ神戸戦で負傷した中軸選手たちがどこまで回復できるか、復帰できるかは分からない。だが、厳しいチーム状況だからこそ、チームの真価を見せることができると信じたい。
すべての試合に望み通りの結果を残せる保証はない。それでも、駆けつけてくれるファンのために学び続け、最善の準備を続け、真摯に戦う姿を見せるのは、プロフェッショナルクラブとして歩み始めたレヴズの使命だ。
同じような負け方を、もう見せるわけにはいかない。<了>
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。