チャールズ・ピウタウ~周りの選手をアシストするという自分のマインドセットを確立できた~【PLAY BACK Interview⑥】
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
2023-24シーズンで藤井雄一郎監督がチームのMVPに指名したのが、チャーリーことチャールズ・ピウタウである。
ニュージーランド代表オールブラックスで17キャップを持ち、アイルランドやイングランドのクラブで活躍してきたユーティリティーバックス(UTB)は、昨秋のワールドカップフランス大会にトンガ代表で出場し、1次リーグ4試合のみの出場ながら大会最多のオフロードパス成功(10回=フランス代表SHデュポンと同数)など強いインパクトを残して大会後に来日。静岡ブルーレヴズに加わると、開幕戦にFBで先発フル出場。第2節からは背番号13のアウトサイドCTBに働き場所を移し、第15節のコベルコ神戸スティーラーズ戦まで連続先発出場。第6節の花園近鉄ライナーズ戦と第13節のスピアーズ戦では2度にわたってPOM(プレイヤーオブザマッチ)も受賞した。世界を魅了した変幻自在のオフロードパスはもちろん、力強いボールキャリー、チームのピンチを救うタックル……記録にも記憶にも残るプレーを見せ続けた。
「全部の試合でアップダウンなく常に高いレベルのパフォーマンスを出し続けた。貢献度はチームでNo.1。最後の1試合だけ出られなかったけど、一番安定したプレーを見せてくれた選手です」(藤井監督)
そのチャーリーに、ブルーレヴズで最初の1年を振り返ってもらった。
――1シーズンの活躍、お疲れ様でした。ブルーレヴズ1年目のシーズンを振り返っていただけますか。
「アメージング(素晴らしい)シーズンだったよ。リーグワンのレベルは予想していた通り高かった。試合をしながら、ラグビーの速さ、それにフィジカリティーもとても高いことを実感した。ブルーレヴズのみんなは自分のことも家族のことも温かく迎えてくれて、子どもたちもすごく楽しそうだった。ハッピーに過ごすことができたよ」
――日本の速いラグビーには慣れるのに苦労したという選手の話をよく聞きます。チャーリーさんはどのくらいで適応できましたか?
「慣れるまで何試合かはかかったよ。速いだけでなくタックルが低く刺さってくる。適応するのは簡単じゃなかったけれど、2~3試合プレーして慣れたよ。あとは練習も慣れるのに時間がかかった。自分にとってもチャレンジングな1年だった」
――NZや英国のいろいろなチームでプレーしてきたチャーリーさんにとって、ブルーレヴズはどんなチームでしたか。
「まず、チームカルチャーとしてハードワーカーがたくさん揃っている。チームのみんなが練習から100%を出し切っているから、試合でも良いパフォーマンスを出せる。練習のボリュームは他国のチームよりも多いね。試合を進めるペースはスーパーラグビーに近いと思う。でもボリュームはこっちが多い(笑)」
――そんな中で「ハードワーカーが多い」という印象を受けた。
「ロッカールームでもみんなといろいろな話をしたけれど、みんなファイティングスピリッツが高い。コーチングスタッフも、選手たちが各セッションで何をしなければいけないか、ハードに要求してくる。選手はみんなタフでなければいけないと感じている」
――チームの半数以上はヤマハ発動機で働く社員選手でもあります。
「これは他国で経験しなかった大きな違いでした。レヴズだけでなくリーグワンはどこもそうだけど、他国にはないとてもユニークなスタイルだと思う。自分がフルタイムでプレーできることは当たり前のことじゃない、会社で仕事をしてから練習にやってくる選手の姿を見ると本当にリスペクトの気持ちを持って接しなければと思う。彼ら社員選手が練習で出し切っている姿を見ると本当に気持ちが引き締まるよ」
――シーズンを通じて、印象に残る試合やプレーがあれば教えて下さい。
「クボタスピアーズとの2試合は印象に残っている。最初の試合は家村(健太)のトライで逆転サヨナラ勝ちしたし、2試合目は前半0-31までリードされたワンサイドゲームを後半カムバックして同点に追いついた。80分のフルタイムまで諦めずにファイトし続けて、もうちょっとで勝てるところまで追い上げた。最後は勝てなかったけど、来シーズンに向けてポジティブな試合だった。
家村は楽しみな選手だね。今年最も成長した選手の一人だと思う。5月には日本代表のトレーニングスコッドにも入ったし(注:コンディションの都合で合宿には不参加)、彼の未来は間違いなく明るい。良いところは自信を持って、かつ冷静にリードしてくれるところ。これは10番としてとても大事なところだと思う。シーズンの途中でケガでリタイアしてしまったのは残念だけど、来シーズンまた一緒にプレーするのが楽しみだ」
――他に、一緒にプレーして印象に残る選手の名前をあげていただけますか?
「1人あげるならフート(山口楓斗)だね。スピードが抜群で、アジリティ(敏捷性)が素晴らしい。身体のサイズは小さいけれどビッグハートの持ち主で、コンタクトプレーでも恐れずに向かって行く。本当にスペシャルなプレーヤーだと思う。あのサイズであそこまでハードにプレーできる選手は初めて見た。素晴らしいよ」
――チャーリーさん自身のプレーについてはいかがですか。印象に残っている試合はありますか。
「第6節の花園ライナーズ戦かな、自分自身が成長できて、ボールタッチが増えた。自分のポジショニングを理解して、ボールをもらえる位置に立てるようになったのがあの試合だった。そこからはボールをキャリーして周りの選手をアシストするという自分のマインドセットも確立できた。来シーズンも、まず自分がキャリーして周りを活かすマインドセットで臨みたいね」
――チャーリーさんの得意技はオフロードパスですが、新しいチームで初めて組む仲間にオフロードパスを通すにはどんな秘訣があるのですか?
「新しいチームへ行ったときは、そのチームのカルチャー・ゲームプランを理解することが大切です。ゲームプランを理解し、周りの選手を理解し、どんなプレーを好むのかを理解すること。身体が大きな選手もいれば、サポートが得意な選手もいる。大事なのは、普段の練習からよく話をして、どんなときにどうして欲しかったか、自分はどんなタイミングでボールを渡したいと思っているかを伝えることです」
――それがうまくいった試合をあげていただくと?
「第12節の三重ヒート戦ですね。トライをたくさん(7トライ)取れたし、チームとしてケミストリー(化学反応)が進んでいるのが分かった。あの試合はカケル(奥村翔)が初めて10番に入ったけど、カケルは多くのポジションをカバーする能力があって、誰かがケガをしたときのカバーもできる。ゲームタイムもたくさん重ねたことでスキルも能力もさらに成長した。
カケルの良いところはラグビー理解度。ラグビーIQの高さには驚きました。ランニングスピードも高いし、方向転換、スピードの変化をつけるのも得意だからディフェンスを抜いていくことができる。素晴らしい才能です」
――WTBマロ・ツイタマはリーグワンのトライ王を獲得しました。
「マロとはシーズンの最初に、お互いのプレースタイルについて話し合って、互いに助け合ってプレーすることができた。素晴らしいトライをたくさん取ってくれた。日本代表のトレーニングスコッドにも選ばれたし、インターナショナルのステージでも活躍して経験値を重ねて欲しいな」
――マロのトライの多くはチャーリーさんのオフロードパスから生まれましたね。
「常に、相手DFと2対2の形を作ることを意識していました。私のところへDFが2人来ればマロにパスするし、マロにDFが貼り付いていれば私がキャリーに出て、マロがオフロードを捕れるショートのポジションに入ってくる。そこで私はマロに、キャリーするのかオフロードするのかを伝える。練習のときからそのコミュニケーションを取っています」
――今季は第5節でキャプテンのクワッガ・スミスが負傷してリタイア。シーズンの大半をクワッガ抜きで戦うことになりました。
「彼がいなくなったことは痛かったけど、チームにとっては成長するチャンスだった。私自身はチームに向けて話をする機会が増えた。私が心がけたのは、チームを勇気づける、信念を持ち続けられるような言葉を発すること、そして行動を伴うようにすることでした。そして練習のたびに、何か新しいことができた部分があればそれを指摘して、成長したことをチームみんなでシェアするようにしました」
――2023-24シーズン、チームとして成長した部分と、もっと成長しなければいけない部分をどう感じていますか。
「もっと一貫性を持ってプレーすることが必要だと思う。前半は良かったけど後半はダメだったとか、逆に後半よくなったけど届かなかったとか、そういう波をなくしていきたい。キックオフからフルタイムの80分まで、一貫性を持ってプレーすること。TOP4に入っているのはそれができるチームです。
あとは、選手個人が成長することです。特にゲームマネジメント、ゲームコントロールの面で、試合中に修正するチカラを、どんなときに何をしなきゃいけないかを判断するチカラを個々がつけていく必要がある。ただ、今シーズンはケガ人が多く出てしまったけれど、そこで若い選手が多くの試合を経験できて、選手層が厚くなった面もある。ケガは望ましいことではないけれど、それがチームのスタンダードを高めた面もある」
――その意味で、次シーズンブレイクするぞ、と期待している選手がいれば聞かせて下さい。
「私が期待するのはヴェティ・トゥポウですね。今季は大学からシーズンの途中に入ってきて、すぐに試合に出て、持っている能力を発揮してくれた。バックローのポジション争いは激しいけれど、来シーズンはもっと多くのプレータイムをもらえて、もっと彼のプレーが見られると思う。楽しみにしてます」
――ヴェティ・トゥポウ選手やショーン・ヴェーテー選手が加わったシーズン終盤のブルーレヴズのアタックにはワクワクさせられました。チャーリーさんにとって、ブルーレヴズのアタックスタイルはどんな印象でしたか?
「NZ、アイルランド、イングランド、日本と渡り歩いてきたけれど、私がプレーしたチームは常にアタックマインドが強かった。どこからでもアタックするラグビーは楽しいです。もちろんゲームにはいろいろなファクターがある。天候や風、ピッチのコンディションにもよるし、相手のDFがフロントラインに並んでいるときはキックを使うチャンスだし、キックに備えて相手の3人が後ろに下がっていればフロントラインに攻めるスペースがある。どちらにしても、相手の網の張り方を見ながら判断して攻めていく。スリリングだよ」
――藤井監督のコーチングにはどんな印象を受けましたか。
「アタックマインドが強いよね。そこが大好きなところです。チームとして、速いスピードで、ボールをキープして、どこからでもアタックしようとしている。相手のディフェンスを破るプランを提示してくれて、チームをプッシュしてくれるし、良いプレーをすると褒めてくれる。選手としてはモチベーションが高まります」
――今季のターニングポイントとして2月の宮崎合宿をあげる選手が多いです。
「自分のキャリアの上でも、最もタフな1週間でした。メンタル的にもフィジカル的にも限界まで追い込まれたし、実際にそこでケガをしてしまった選手もいたけれど、その痛みを乗り越えたからネクストステージへ行けたと思う。あの合宿で培ったファイティングスピリッツがあったから、4月のスピアーズ戦で猛カムバックが可能になったんだと思う。間違いなく、あの合宿でチームには『絶対に諦めない』というカルチャーが作られたと思う」
――チャーリーさんのブルーレヴズでのファーストシーズンは矢富勇毅さんのラストシーズンでした。
「チームの歴史を作ってきたレジェンドの最後のシーズンに一緒にプレーできたことは光栄です。私の兄シアレも彼と一緒にプレーしたし、2007年からこのクラブでプレーしてきた。17シーズンなんて、なかなかプレーできるものじゃない。本当に素晴らしいことだと思うし、チームメートもみんな彼とプレーできることを誇りに感じていた。私も誇りに思っています」
――2024-25シーズンに向けて、オフはどのように過ごしますか?
「まずはケガを治すことに集中する。そのあとはNZにも帰るけれど、日本での時間も楽しみたい。シーズン中はなかなかできなかった旅行にも行ってみたい。東京や京都、福岡や北海道とか、行ってみたいところ、食べてみたい美味しいものもいっぱいあると、この半年間に聞いたからね。子どもたちも日本の学校に通っているから、基本的にはオフの間も日本を、静岡をベースに過ごすつもりです。オススメのスポットがあったら教えて下さい!」
――ありがとうございました。次シーズンに備えて素敵なオフをお過ごし下さい!
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。