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静岡ブルーレヴズ 山谷拓志社長 2年目への抱負<後編>

Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photograph by 静岡ブルーレヴズ
インタビュー:2022年9月1日

>>> 静岡ブルーレヴズ 山谷拓志社長 2年目への抱負<前編>はこちら

――SNSでは、ブルーレヴズがフロントスタッフを募集する求人情報を出したことが話題になりました。

静岡ブルーレヴズ株式会社事業部・管理部・強化部スタッフ。ヤマハ発動機ジュビロからのスタッフ、会社設立からのスタッフ、初のシーズンを作り上げてきたスタッフに、2022年1月以降新たに6名のスタッフを追加している。現在は広報・プロモーションマネージャーの求人が出ている。

「フロントスタッフは現在約30人体制です。プロチームを運営しようとすればセールス(スポンサー営業)部門、マーケティング部門、ベニューオペレーション(競技運営)部門、育成普及部門など、いろいろなところに人を置く必要がありますが、なかでもマネタイズ、お金を稼ぐ部門に人を手厚く置く必要が出てきます。チケット販売は人手がかかるし、安定した売り上げを得るためには時間もかかる。スポンサーセールスは商談自体は年に1回だけれど、それ以外の期間の関係作り、おつきあいが大切。選手も含めたレヴズの人間が節目節目に挨拶に伺って『応援して良かったな』と思っていただくことが大切です。どちらも、支払った金額以上の価値を得たと思っていただくことが肝要です」

――スポンサー満足度を上げるには、露出度を高める必要がありますね。

スポンサーといえばユニフォームやスタジアム看板での露出が代表的だが、年間16試合(ホストゲームは8試合)では確かにJリーグ(年間約40試合)やプロ野球(年間約140試合)と比べても非常に露出が少ない。

「試合数を増やしたいですね。いま、リーグワンの代表者会議などでも議論をしているのですが、たとえばサラリーキャップの問題がある。有名外国人選手を雇用すれば手っ取り早く強くなる、そうなると親会社の資金力で結果が左右される、それはよくない……という話なのですが、その話を聞きながら私が思ったのは『チームがもっと稼げればいいんじゃないの?』ということでした。主催試合が増えて収入が増えれば、より多くの有能な選手と契約することができますから。いまのリーグワンはレギュラーシーズンが16試合で、自分たちで稼げるホームゲームは年間で8しかない。フランスリーグが40試合やっているといいますが、そこまでいくのは難しいとしても、20-30試合は目指すべきだと思う。フランスのように代表活動中に試合を組むことも検討していいと思うし、今のリーグワンは1月から5月までがシーズンだけど、もっとお客さんにとって観戦しやすい時期に試合をするべきだと思う。私は3~5月と9~11月の2シーズン制をやってプレーオフ、というやり方も考えて良いと思っています。リーグの会議でも試合数を増やすという発想はポジティブな意見が多いと感じています」

――2年目が始まろうとしています。公式戦のスケジュールはまだ発表されていませんが(9月1日現在)、ブルーレヴズはもちろん各チームが強化合宿を始めています。ブルーレヴズは9月11日の釜石シーウェイブス戦から試合を始めます。2年目の抱負を聞かせて下さい。

釜石シーウェイブスRFC戦で日本・静岡ブルーレヴズでのデビュー戦となった、ワールドラグビー2022の優勝チーム・クルセイダーズから加入したSHブリン・ホール(写真左)と、1試合で4トライと大活躍したのWTBマロ・ツイタマ(4トライ、写真中央)
ブリン・ホール選手、マロ・ツイタマ選手の素晴らしいコンビネーションが随所に見られた。

「まず、勝ちたいですね。そこはスポーツチームである以上、ひとつでも多く勝ちたいし、勝ち試合をファンのみなさんにお見せしたい。特に去年はホームゲームで悔しい負け方が多かったですし、今年はひとつでも多く勝って、まずはプレーオフに出ることを目標にしています。そこに行かないと優勝を目指せないですから。
 
優勝はそう簡単ではないですが、十分に可能な目標だと思っています。たとえばバスケットボールは、ちょっと極端な言い方になりますが、選手の能力が勝敗に大きく影響するスポーツなんです。言い換えると、GMがどんな選手を獲得できるかで成績が決まる。個人依存度が高いんです。その点、ラグビーは違う。1チーム15人もいるし、1人や2人スーパースターを連れてきても勝てるわけじゃない。私自身、アメフトの選手時代は同じようなことを考えていました。選手の能力の足し算で勝てなくても、戦術戦略を磨いていけば、資金力の少ないチームでも戦える。ラグビーもそれに似たところがあると思います。去年は12月に宮崎で埼玉ワイルドナイツと練習試合をして、0-54で負けて青ざめたけど、シーズン公式戦では負けたけれど25-26というギリギリの試合が出来た。点差以上に実力差があるとは思いますが、ヤマハ以来のスクラムやセットプレーという強みを出す戦い方をすれば、ああいう試合に持ち込むことも出来るのがラグビーの面白さだと実感しました」

――事業面の目標は?

各地域で行われるイベントでは2022-2023シーズンが12月に開幕!と入ったうちわを配布。地域の皆様の日常にし宇岡ブルーレヴズを、リーグ戦開幕をしっかりアピール。

「1年目はコロナ下という事情もある中で観客数は平均3,600人でした。これをどこまで上乗せできるかですが、まず達成したいのはホストゲーム開幕戦で10,000人の大台を達成したい。そのための仕掛けをいっぱいしていきたい。まずはブルーレヴズの認知度、チケットを買ってくれるかもしれない人を増やすことに力を入れていく。ブルーレヴズに関心がある人の母数を増やすと言うことです。母数が増えて、チケットを買ってくれる人の比率を上げることができれば必然的に売り上げは増える。そのための施策のひとつとして、この夏にうちわを3万本作って、地域のお祭りを回って配りました。まずは認知度を上げる、そこからいろいろ仕掛けていく」
 

――1年目はオートバイのエンジン音やトライアルの実演などヤマハつながりの演出が印象的でした。

ホスト開幕戦となった1月30日のNTTドコモレッドハリケーンズ大阪戦は、
選手入場時にYAMAHA YZR-M1(2021 Moto GPチャンピオンマシーン)およびYZF-R1と
特殊効果を織り交ぜた大迫力の選手入場を実施。

「チーム自体がヤマハ発動機の『感動創造企業』というDNAを受け継いでいるし、チームにとって最大のスポンサーですから、それらの取り組みは今年も継続していきたい。それと、観客のアンケートを見ると、ヤマハスタジアムの満足度が高いんですね。やはり陸上トラックなしで、ラグビーならではの迫力を間近で堪能できますから。それと、1試合ですが日本平の試合も満足度が高いという返答をいただきました。静岡市長からも『もっと日本平で試合をして下さい』と要望されています(笑)。昨季に続き、桜の咲く季節に日本平で試合を組めるように調整していますので、日程発表を楽しみにしていて下さい。(※9月14日に日程発表が行われたが、キックオフ時刻や会場はまだ未定)」

――改めて、静岡という地でプロラグビーチームを運営することの意味、価値を。

試合会場でお馴染みとなった山谷社長とレヴニスタ(ファンの皆様)との交流の様子。自らファンと直接接点を持ち交流することで、よりクラブを身近な存在に感じていただけたのでは?

「静岡という土地のポテンシャルをすごく感じています。もともと東海道で東京-名古屋という大都市間の物流動線の真ん中に位置している。上場企業、優良企業も多い。経済的な環境は地方都市の中ではすごく優位性を持っています。ラグビー的には2019年ワールドカップというレガシーが大きいし、Jリーグを通じてスポーツを応援する文化が根付いている。
もうひとつ大きいのは地元メディアが充実していることです。テレビ、ラジオ、新聞、それぞれ地元の媒体が充実している。これは、私がバスケットでやっていた栃木、茨城にはなかった強みです。茨城なんて、47都道府県で唯一テレビ局のない県でしたから、テレビでは東京発の情報しか流れてこない。でもここ静岡では、テレビをつければ全国のニュースと同じように県内のローカルニュースが流れる。ブルーレヴズの情報も、プロ野球チームと同じように流れます。新聞も、ローカル紙の購読率が非常に高い。私は、ラグビーに限らず『プロのスポーツチームを作るなら全国のどこに作ればいいでしょう?』と聞かれたら迷わず静岡県と答えますね」

――将来的な構想もあれば聞かせていただけますか。妄想レベルでも。

「いまのリーグワンは、ひとつのチームが大勢の選手を抱えなきゃいけない状態になっています。成績が上がらなければ入れ替え戦がある、降格がある。そうなるとどうしても保守的な経営になってしまう。ただ、リーグワンは最初の時点でアカデミー設置などの社会性、スタジアム整備などの事業性などを審査してディビジョン分けをして始めたのですから、勝ち負けだけで入れ替わるのはおかしいですよね。入れ替え戦ではなく、審査をクリアできなかったチームが体制を整えて、求められるスペックを満たしたなら、リーグがチーム数をエクスパンションして迎える形がいいと思うんです。Jリーグも設立当初はそうでしたしね。
 
もうひとつ、サテライトリーグ的なものが作られてもいいと思う。
私たちは優勝を目標にしていますが、プロスポーツでは、すべてのクラブが最上位カテゴリーの優勝を目指さなければならないわけじゃない。アメリカの野球でいえばマイナーリーグも興行的に成立しているし、経済規模の小さい地域の大切なエンターテインメント役を果たしながら、広く見れば選手を育成する部門としても機能している。
 
ラグビーでもそういう構造が作れないかと思うんです。そして、シーズン中でも負傷者が出た際など、サテライトチームからレンタル移籍やコールアップ(昇格)ができれば、ラグビー界全体で、試合に出られない選手を減らすことができる。やっぱり試合に出ないと選手は成長できない。1チームが多くの選手を抱えることで、試合に出る機会の少ない選手が増えるのはよくないと思うんです。また、トップチームが抱えなければいけない選手数も抑えられて、経営的にもハードルが下がる。経済規模の小さい地域でもサテライトチームなら作れるようになるわけです。
もしもそういう体制になったら、静岡に限らず中部地方のどこかの町に、ブルーレヴズ傘下というか、提携関係を持つサテライトチームを作って、たとえば『選手15人分の人件費はブルーレヴズが持ちます、それ以外の20人分は自前で稼いで契約して下さい』というやり方もできる。選手はそこで試合経験を積んで、実力が認められればブルーレヴズにコールアップされる――そういう人財の循環が出来ると思うんです。これは選手に限らず、コーチやレフリーの育成にも貢献できると思いますね。
ラグビー界が、親会社の予算で活動するコストセンターではなく、自分たちで稼いで活動するプロフィットセンターになれば、価値観は180度変わる。親会社を離れての経営はリスクがあると言われますが、単独の親会社に100%頼るよりも、クラブ自体の価値が上がり、多くのスポンサーに支えられればむしろリスクを分散できる。プロスポーツとしてのラグビーの裾野を広げていけると思います」

――壮大な構想ですね。サテライトチームを作る地域はどこか、候補はあるのですか。

「静岡県の中部や東部、もしくは静岡県の近隣のラグビーが盛んな街とかもあるかもしれませんね。完全に妄想ですけど」

――ありがとうございます。妄想とは言え実現することを楽しみにしております。

静岡ブルーレヴズ 山谷拓志社長 2年目への抱負<了>

大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。


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