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“初”が刻む成長の証 |NTTリーグワン2024-25 第1~5節レビュー by 大友信彦

1月18日、NTTリーグワン2024-25カンファレンスAの総当たり戦1巡目を締めくくる第5節、静岡ブルーレヴズは最高の形で序盤戦を終えた。

地元ヤマハスタジアムに昨季のチャンピオン・東芝ブレイブルーパス東京を迎えて34-28の快勝。それもただの勝利ではない。アグレッシブなアタックで2トライをあげプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた新人SH北村 瞬太郎をはじめ、開幕直前の入団ながら開幕から活躍、この日は初めて先発入りして2トライをあげたヴァレンス・テファレ、スクラムを押しまくったやはり公式戦初先発のPR郭 玟慶ら「新鮮力」が暴れ回り、グラウンドいっぱいを使ったスリリングなアタックを重ね、前年チャンピオンのブレイブルーパスから6トライを奪う会心の勝利。新年最初のホストゲームに駆けつけた6,571人のファンに、昨季の最終戦で20-59と圧倒された前年王者を破るという、最高にハッピーな勝利を届けることができたのだ。

ホストゲームで前年王者を撃破

この結果、第5節を終えた時点でブルーレヴズは4勝1敗の勝ち点17。全勝の埼玉ワイルドナイツの23、同じ4勝1敗の東芝ブレイブルーパス東京の18に続き、全12チーム中3位という好位置につけた。目指すチャンピオン獲得に向け、まずプレーオフに進出できる6位以内確保が至上命題のレヴズにとって、手応え十分の前半戦だった。

ここで、今季の滑り出しを改めておさらいしておこう。

開幕戦はヤマハスタジアムにコベルコ神戸スティーラーズを迎え、15-13で勝利した。これはレヴズにとって初めての開幕戦勝利だった。
リーグワン発足から過去3年の開幕節の結果はこうだ。

2022年1月9日 vsトヨタヴェルブリッツ:不戦敗(豊田スタジアム)
2022年12月17日 vsトヨタヴェルブリッツ:●26-31(豊田スタジアム)
2023年12月9日 vs東芝ブレイブルーパス東京:●30-43(味の素スタジアム)

そもそも、ホームで開幕を迎えること自体がブルーレヴズにとっては初めてであり、シーズンの開幕戦で勝利を飾るのも、そしてスティーラーズからの勝利も、リーグワンになって4年目、ブルーレヴズになって4年目で初めてのことだった。

そして、過去にないスタートを切ったブルーレヴズは、過去にない戦いぶりで勝利を重ねていく。

第2節はD1初昇格の浦安D-Rocksと熊本で対戦し、トライ王マロ・ツイタマの3トライなど大量9トライをあげ62-19で勝利(これは第5節終了現在、今季のD1全チームの1試合最多得点だ)。この試合では、開幕戦ではリザーブからラスト10分の途中出場でリーグワンデビューを果たしたSH北村が初先発、初トライもあげた。

第3節は年の明けた1月4日、秩父宮ラグビー場で、過去1勝1敗1分という因縁の相手・相模原ダイナボアーズと対戦。後半、二度にわたって10点差をつけられる苦しい展開だったが、後半12分からの3連続トライで試合を引っ繰り返し、40-34の逆転勝ち。マロ・ツイタマの2試合連続ハットトリック、そして、どれだけ厳しいタックルを浴びてもひるむことなくキャリーを続けたCTBヴィリアミ・タヒトゥアを先頭にした全員のハードワークが生んだ快勝であり、開幕3連勝だった。

第4節は1月11日、ニッパツ三ツ沢球技場で横浜キヤノンイーグルスと対戦。南アフリカ代表デクラークと元日本代表・田村 優というイーグルスの誇る経験豊富なハーフ団の老獪なゲームマネジメントに翻弄され、35-46で今季初黒星を喫する。だが試合後の会見で、藤井雄一郎監督は悔しさを見せずに言った。

「ウチはまだ、全部勝てるチームじゃない。毎週毎週成長して、次の試合に向けて準備していく」

今季初黒星でも藤井雄一郎監督の眼差しは力強い

負け惜しみには聞こえなかった。
それは、今季の選手の起用法にも現れている。

開幕からの3試合で、すべてに先発した選手はフロントローの3人(山下 憲太、日野 剛志、伊藤 平一郎)とLOマリー・ダグラス、キャプテンのクワッガ・スミス、SO家村 健太、CTBのタヒトゥアとシルビアン・マフーザ、WTBツイタマの9人。

ラグビー界では他のスポーツ以上にメンバーを変えない風潮が強い。特に、勝っている間はメンバーを変える指導者は滅多にいない。シーズンの骨格作りを模索する序盤戦ではなおさらだ。今季、同様に開幕3連勝を飾ったブレイブルーパスでは12人、ワイルドナイツでは11人と、レヴズより多い人数が3戦連続で先発した。言い換えれば、レヴズは勝ちながらなお、積極的にメンバーを変えている。

横浜戦の後にそのことを訊ねると、藤井監督は答えた。

「シーズンは長いですから。メンバーを変えているのはケガというよりも、少しずつ変えて、これから先どういう状況になってもいいようにしているんです。相手を見ながらね」

たとえばSHは、昨季SOから転向していきなりブレイクした岡﨑 航大とルーキー北村 瞬太郎を試合ごとに入れ替え、この横浜戦では長いリハビリから戻ってきた田上 稔をリザーブに入れた。トライ王ツイタマと逆サイドの右WTBには、新加入の21歳ダミアン・マーカス、24歳のヴァレンス・テファレ、加入2年目の24歳・槇 瑛人を入れ替えながら起用。FWでも23歳のFLシモン・ミラー、24歳のショーン・ヴェーテー、25歳のジョーンズリチャード剛やジャック・ライトなど、若手を入れ替えながら起用している。そこには、プレータイムを多くの選手に与え、効率的に選手を成長させようという、シーズン全体を睨んだ明確なビジョンが窺える。

メンバーを入れ替えながらチーム全体で戦う

そんな長期的な戦略を持って選手を起用しながら、目の前の戦いでも結果を出しているのが今季のブルーレヴズだ。

それを象徴しているのが得失点のスタッツだ。

序盤戦5節を終えて、得点186と得トライ28はともにDivision1最多だ。昨年のリーグ戦では得点501はリーグ7位、得失点差は-12でリーグ8位。それらの数字はそのまま、最終順位8位という年間成績に反映された。

リーグ最多のトライをあげている一方で、もうひとつ目立つのはPGの少なさ。神戸と並びDivision1最少の「2」なのだ。PGで得点を刻んでいくよりも思い切ってトライを狙おうというチャレンジングスピリットが数字にも表れている。

数字だけではない。
それは会心の勝利をあげた第5節のブレイブルーパス戦で見せたスリリングなパフォーマンスが象徴的だ。

自陣ゴール前のディフェンスで、ギリギリのピンチをしのいだところからでも青いジャージーの15人は果敢にアタック。グラウンド全面を走り回り、パスをつなぎ、相手のタックルに挑み、トライを求めた。今季のブルーレヴズの看板はスクラムだけではなく、ツイタマのダイビングトライだけでもない。スタジアムのどこで見てもスリリングなアタッキングラグビーを楽しめる、魅力的なラグビーを実現しているのだ。

なにしろ藤井監督自身、ブレイブルーパスを破った試合後の会見で「開幕からの3連勝は満足のいく試合じゃなかったけれど、今日は非常に試合が面白かった。選手たちが最初からアタックしてくれた」と称賛したのだ。
監督が「面白い」と褒めるチームはなかなかない。

自陣からでも果敢に攻める

そして、今や代名詞となった「大物食い」。リーグワンになって4年。前年度のチャンピオンチームを破る金星はレヴズの恒例行事だ。
2022-2023は前年チャンピオンのワイルドナイツを雨の熊谷で44-25と破った。2023-2024はヨドコウ桜でスピアーズを相手に終了直前、若きSO家村 健太のトライで23-19の劇的逆転勝ち。そして今回はホームスタジアムでブレイブルーパスをきりきり舞いさせての快勝だ。

もはや、どんな勝利をあげても誰も驚かないだろう。いみじくも藤井監督が言ったように「全部勝てる力はまだない」かもしれないが、どの試合にも勝算を持って戦える。リーグワン4年目のブルーレヴズは、そんなチームに進化している。

再開初戦となる第6節は、トップリーグ時代に最多タイの優勝5度を数えたサンゴリアスをヤマハスタジアムに迎える。リーグワンになってからの対戦成績は3敗1分だ。つまり、勝てば「リーグワンで初勝利」。

よっしゃ!まだネタが残っていた。

レヴズのみなさん、レヴニスタのみなさん、2月1日(土)。ヤマハスタジアムで、今季何度目かの「リーグワンで初めて」の歓喜に浸ろう!

Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)


大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。