「1ラウンドKO」トヨタVに、エコパで、大きな勝利!!~大友信彦観戦記 3/23 リーグワン2023-24 D1 R11 トヨタヴェルブリッツ戦 ~
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
ブルーレヴズが今季2度目の2連勝で5勝目をあげた。それも、リーグワンになって初めてのエコパでの勝利。そして、リーグワンになって初めての、同じ東海地区のライバル、世界のトップスターをズラリと並べたヴェルブリッツからの勝利だ。
さらに、前節終了時点の順位はレヴズの8位に対してヴェルブリッツは7位。順位を上げるためにも、ライバルに負け続けてきた歴史を変えるためにも、勝たなければならない試合に、レヴズは勝利した。
この試合に向け、レヴズは思い切った布陣で臨んだ。
連敗を脱出した前節のブラックラムズ戦からの先発変更は7人。前節のラムズ戦に途中出場でデビューしたばかりのアーリーエントリー組、巨漢PRヴェーテーが3番で、日野から移籍した25歳のシオネ・ブナがNO8で、ともに初先発したのをはじめ、ハーフ団も前節のブリン・ホール&家村健太から岡崎航大&サム・グリーンのペアにチェンジ。CTB12には8試合ぶりメンバー入りのジョニー・ファアウリを、WTB14には前節8試合ぶりに復帰したばかりのキーガン・ファリアを起用。FL7には過去2節、猛タックルでチームを鼓舞したジョーンズリチャード剛に代わり、HIAの確認期間をクリアした庄司拓馬が戻りゲームキャプテンとして戻ってきた。前節の勝利に貢献しながら先発を譲る形になったPR伊藤平一郎、FLジョーンズリチャード剛、NO8マルジーン・イラウア、SHブリン・ホール、CTBヴィリアミ・タヒトゥアはリザーブから出番に備えた。負傷者も出ているだろう。それでも、この大事な一戦に初先発の選手を抜擢し、計算できる実力者を後半勝負に備えてベンチに置くという大胆な采配は、シーズンを通じてチーム力を高めてきたことへの自信の表れに違いない。
「1ラウンドKO」
この試合に向け、藤井監督が選手たちに授けたテーマだ。ボクシングになぞらえ、最初からラッシュをかけろ、決めてしまえという指示。フィジカルの強い猛者が並ぶヴェルブリッツに対し、80分のペース配分など考えていたら攻め込まれてしまう。ペースを持って行かれたら取り戻すのは難しい。そうさせないために、試合の最初からエンジン全開でぶつかれ。そんな思い切った指令の裏側には、後半投入に備えた経験豊富な選手たちをベンチに並べるという配置もあった。80分続くラグビーで「1ラウンドKO」はありえない。それでもあえて発した刺激的な指示には周到な仕掛けがあった。
天も味方した。試合が行われる3月23日、エコパには朝から冷たい雨が降っていたが、これも吉兆だった。昨季は秩父宮でのブラックラムズ戦勝利、アイスタでのダイナボアーズ戦勝利、そして多くのレヴニスタの記憶に刻まれている熊谷でのワイルドナイツ撃破――昨季の5勝のうち3勝は雨の中で勝ち取ったもの。雨の日のレヴズは強い――その実績はレヴズには自信を、ヴェルブリッツには重圧を与えたはずだ。3月23日、午後2時、試合はヴェルブリッツのキックオフで始まった。
先制したのはヴェルブリッツ。3分、最初のスクラムでレヴズがアングルの反則を科され、ヴェルブリッツのオールブラックスSOボーデン・バレットがPGを蹴り込んだ。
レヴズもすぐに反撃した。5分、キックオフ後の蹴り合いから自陣でボールを持つと、レヴズは果敢にアタックを選択した。「雨の日はまずキックで敵陣へ」というセオリーに挑むような、ハンドリングミスのリスクを恐れない地上戦。それは藤井監督が授けた「1ラウンドKO」というミッションの遂行だった。フィジカルの強いヴェルブリッツに対し、受けるのではなく自ら挑んでゆく。ぶち当たって局面を切り開いていく。フィジカルな能力で上回っていたのはヴェルブリッツだったかもしれないが、最初から「試合を決めに行く」という決意はプラスアルファの力をレヴズに与え、ひとつひとつのコンタクト、ブレイクダウンで目に見えない推進力を青いジャージーにもたらした。13フェイズを重ねた末に右オープンでボールを持ったWTBファリアがヴェルブリッツのゴールに迫ると、相手SOバレットがタッチへ押し出そうと襲いかかるが、このタックルが高かった。TMOの結果、この反則タックルがなければトライだったとしてペナルティートライが宣告され、レヴズが7-3と逆転。
さらにバレットにイエローカードが出され、10分間数的優位のチャンスを得たレヴズは、再び攻め込むと11分にグリーンが正面PGを決め10-3。数的優位の10分間にあげた得点は結局これだけだったが、相手SOバレットがピッチに戻った直後の17分、相手ボールのスクラムで圧力をかけて相手反則を誘い、グリーンがPGを蹴り込んだ。シンビンの10分間には思うように得点できなかったものの、相手がホッとした一瞬の隙を見逃さないしたたかさ、それを得点チャンスに結びつけるスクラムの頼もしさ。開始17分、レヴズが13-3とリードを広げた。
試合はそこから膠着した。レヴズが生命線たるスクラムで圧力をかければ、日本代表のキャプテン姫野選手が率いるヴェルブリッツFWも対抗。ヴェルブリッツが誇るオールブラックス125キャップのSHアーロン・スミスがボールを持って果敢にスペースを切り裂き、123キャップのSOボーデン・バレットがコントロールされたキックをデンジャラスゾーンに蹴り込む。しかし若いレヴズ戦士たちは勇気を持って身体を当ててタックルし続け、キックに反応して身体を投げ出した。23分にはアーロン・スミスの狙い澄ましたショートキックに反応したキーガン・ファリアがダイビングフェアキャッチでピンチを防ぐ。25分にはアーロン・スミスのハイパントをツイタマがファンブルしてしまうがゲームキャプテンの庄司拓馬がカバーした。
ピンチをしのげばチャンスが来る。相手ボールのスクラムに圧力をかけてペナルティーを奪うと、相手陣のラインアウトを起点に14フェイズにわたって攻撃を継続。この場面ではヴェーテーが持ち込んだボールをインゴールで押さえきれずにゴールラインドロップアウトに終わったが、レヴズのアタックマインドは緩まなかった。次の相手キックからFB山口がカウンターアタックで再び相手ゴール前に攻め込み、NO8ブナらFWが力強く前進を続け、12フェイズを重ねた末にCTBピウタウがトライ! しかしここはTMOチェックが入り、前のプレーでノックオンがあったとしてトライは取り消されてしまう。
それでも「1ラウンドKO」を掲げるレヴズ戦士は落胆しなかった。得点が入ろうが入るまいが大事なのはパンチを打ち続けること。その覚悟が、アタックでもディフェンスでもタフに身体をぶつけ続けることを可能にした。そして33分、正面左22mの位置でPKを得るとグリーンが難なくHポストの真ん中にキックを蹴り込み、レヴズは16-3のリードで前半を終えた。
「1ラウンドKO」のミッションを果たすべく身体を張り続けたスターターたちを労うように、ハーフタイムからベンチは動いた。前半途中からピッチに入ったNO8イラウアに続き、後半のリスタートからPR伊藤平一郎とSHブリン・ホールを投入。5分にはWTB槇瑛人もピッチに送り込んだ。運動量が落ちかけてからでは遅い。落ちる前に切れるカードを次々に切っていく。ヴェルブリッツの爆発力を認め、リスペクトしているからこその決断。切れるカードは早く切る。相手の様子を窺うのではなく先手を取って動く。
そして迎えた47分、グリーンの狙った正面左36mのPGは外れ、いったん自陣に戻されるが、ここでスーパープレーが飛び出した。反則で自陣22m線まで戻された地点での相手ボールラインアウトのスローが乱れ、ボールは最後尾にいたレヴズHO日野の手にすっぽり。ノープレッシャーでプレゼントボールを手にした日野は、DFの陣形を読んで相手陣深くへキックすると自らチェイス。ボールは相手陣22m線を越えてタッチへ転がり出た。「50:22キック」が適用され、自陣のピンチは一転して敵陣でのチャンスに変貌した(昨季の雨の熊谷でのワイルドナイツ戦で飛び出した大戸裕矢選手のスーパーキックを思い出したレヴニスタも多いと思う。私は即座に思い出した!)
レヴズはこのチャンスを逃さなかった。ラインアウトをダグラスが捕り、モールで圧力をかけると右に展開。庄司、イラウア、大戸、再び庄司、イラウア、さらにダグラスが強く縦突進を重ねて相手DFを集めておいて右へ。ブリン・ホールから2人飛ばしの高速パスを受けたFB山口が相手タックルを引きつけながら右のファリアにラストパス。前半は相手ハイタックルを受けてペナルティートライとなり記録上はトライにならなかったファリアが、今度こそ正真正銘の今季初トライを右隅に決めた。グリーンのコンバージョンは外れたが、レヴズが21-3とリードを広げた。
さらに57分、自陣22m線付近まで攻め込まれながらゲームキャプテン庄司がジャッカルを決めてPKを獲得するとすぐに速攻。SOグリーンが左サイドを突破。相手陣に入ってCTBピウタウに繋ぎ、相手ゴールへ。いったんはトライがコールされるが……TMOの結果、ピウタウはグラウンディング直前に落球していたとしてトライは取り消し。ここは猛然とバッキングアップに戻ったヴェルブリッツの元日本代表SH茂野が素晴らしかった。
59分にはレヴズが相手陣で攻撃を18フェイズまで継続したが落球し、その茂野がカウンターアタック。レヴズ陣までビッグゲインを許したが、ここはレヴズのWTBツイタマが負けじと激戻りをみせてタックルするとすぐに起き上がってジャッカル。PKを獲得してピンチを防ぐ。得点した直後にピンチを招く、素晴らしいトライを取った直後にあっさりソフトトライを献上する――シーズン中盤に散見したそんな悪循環を、この日のレヴズは断ち切って見せた。そして66分にはハーフウェー付近のスクラムを押してPKを獲得。相手陣に進んだラインアウトからのアタックで相手にデリバレート(故意の)ノックオンがあり、正面30mのPGをグリーンが成功。残り14分で24-3の19点差までリードを広げた。
そして、課題だった最後の時間帯。レヴズのベンチからは頼もしい戦士たちがピッチに送り込まれた。62分にNO8イラウアに代えてリッチモンド・トンガタマが入り、69分にHO日野に代えてジョーンズリチャード剛が入るとトンガタマがHOに移動。さらにSOグリーンに代えてヴィリアミ・タヒトゥアが入る。パワーチャージを得たレヴズは68分、69分と、自陣ゴール前に攻め込まれたピンチでダグラス、桑野が相手ボールのラインアウトを連続スチールに成功。ジョーンズリチャード剛はもはや代名詞となった連続タックルでヴェルブリッツのアタックに突き刺さり続けた。結局、ヴェルブリッツの意地の反撃を74分の1トライのみに抑え、24-8のスコアでレヴズが勝利した。
藤井監督は試合後の会見で、この試合に向けてのテーマ「1ラウンドKO」について明かした。
「意図したのは、相手がどうこうというよりも自分たちの戦い方として、天気を味方につけること、攻撃しながらボールを前に運ぶこと」
「安全な戦い方をする手もあったけど、それでは向こうのやりたいようにやられる。(リスクの低い)キックゲームをやったら向こうのハーフ団はオールブラックスだし、ある程度リスクを背負って戦わないと」
「本当はもっとボールを持って攻めたかったけれど、裏へキックも蹴るという選択肢も持っていたのがうまくいったと思う」
メンバー編成については、過去数試合のレビューを生かしたと説明した。
「後半になってセットプレーが乱れたり、経験のなさが出てしまったことがあった。今日は前半、パンチのある、体重のある選手を並べて、彼らの弱いところが見えないうちに替えました。うまくいきました(笑)。今日初めて出た選手に対しても、いろいろな選手がコミュニケーションをとってサポートしてくれた。そういうところにも成長を感じました」
派手に喜ぶのではない。言葉には確かな手応えが感じられた。
それは庄司ゲームキャプテンも同じだった。
「相手にはオールブラックスのハーフ団がいたり、日本代表のキャップをたくさん持っている選手がいるけど、自分たちがひけを取っているとは感じてなかった。レヴズとして強みをしっかり出して戦っていけばどのチームにも勝てると思っているので、今日は自分たちのスタイルを貫き通すことができたから勝てたと思う」
リーグワンD1は今節で交流戦を終了。これで12チーム総当たりを終え、1週のBYEをはさみ、第12節からはカンファレンスAの2巡目の戦いに入る。
ブルーレヴズは勝点を24とし、同点で並んだヴェルブリッツを得失点差で上回り7位に浮上した。プレーオフ進出圏の4位にいる神戸スティーラーズとの勝点差は「10」。残り5試合。小さな差ではないが、諦める差ではない。ヴェルブリッツ戦で多くの若手・新鋭が活躍したように、シーズンを通じてチームが成長し、層が厚くなってきているのは間違いない。
ひとつひとつの試合をしっかりと戦い、勝っていくだけだ。
まずはBYE週、レヴズ戦士には疲れをしっかりととり、勝負のラスト5節に向けて英気を養ってほしい。それはレヴニスタのみなさんも同じだ。ラスト5節の全力サポートに向け、コンディションを整えていこう!
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。