Revs Style爆発で2連勝!この先も毎試合、成長していく~大友信彦観戦記 1/7 リーグワン2023-24 D1 R4 三重ホンダヒート戦 ~
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
前節、昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイを劇的な逆転勝ちで破り、今季初勝利をあげたブルーレヴズは、2024年の初戦となるこのヒート戦に、前節から先発2人を変更した布陣で臨んだ。ロックに桑野詠真が3試合ぶりに先発復帰。前節はLOだった大戸裕矢がFLに回り、庄司拓馬がリザーブへ。そしてSHには開幕から3試合連続で先発した矢富勇毅に代わり、これがリーグワンデビューとなる3年目の岡﨑航大が入った。
岡﨑は筑波大時代はCTBで、静岡ブルーレヴズ入り後にSOにコンバート。そして今季はプレシーズンの10月からSHにも挑戦。複数のポジションをこなせるユーティリティープレイヤーは現代ラグビーではどのチームにも不可欠だ。岡﨑は12月1日の相模原ダイナボアーズ、29日のシャトルズ愛知とのトレーニングマッチにSHで出場し、その実力を証明しての先発。ブルーレヴズにとって、今後のチーム作りにおいてカギを握る存在になりうる。楽しみな起用だ。
相手の三重ヒートは今季、入替戦でNECグリーンロケッツ東葛を破ってD1に昇格してきた。ここまで3連敗だが、試合を重ねるごとにD1の強度に慣れ、前節は東京サンゴリアスと16-34というスコア以上の熱戦を演じた。侮れない相手だ。
試合開始のキックオフに向け、ボールデリバリーを務めたのはF1ドライバーの角田裕毅さんだった。ホストの三重ヒートのホンダと静岡ブルーレヴズのヤマハ発動機というそれぞれの母体企業は、ともに日本のモータースポーツを牽引してきたライバル。特にオートバイの分野では世界GPや日本GP、さらには主婦層やビジネス層をターゲットとした実用車やスクーターの販売でも鎬を削った因縁の仲だ。現在のリーグワンは企業スポーツから地域のクラブに生まれ変わったとはいえ、チームの歴史を思えば特別な対戦。今季、三重ヒートがD1に昇格してきたことで実現したリーグワン公式戦での初対決にふさわしい演出だった。
試合はブルーレヴズのキックオフで始まった。
先手を取ったのはブルーレヴズだ。6分、WTBツイタマの突進がヒートのハイタックルを誘い、PKから得たゴール前ラインアウトからモールを押してLOダグラスがインゴールに押さえた。リーグワンのラインアウト獲得数ランキングで今季トップを走るスコットランドの巨人が今季初トライを決め、レヴズが先制する。
さらにレヴズはたたみかける。10分、相手陣に入った10m線付近左ラインアウトからCTBタヒトゥア、SH岡﨑が前に出てラックを連取すると、SO家村が好判断で右裏へキック。FB山口楓斗とWTB矢富洋則が猛然とチェイスすると、ボールはゴールラインを超えた絶妙な位置でバウンド。これを矢富が右隅に押さえて連続トライ。レヴズが10-0とリードを広げる。
絶好のスタートを切ったゲーム最初の10分間、出色のパフォーマンスを見せたのがSHで先発した岡﨑だった。ポイントへは素早く到着し、ボールを拾い上げたときの視野の広さ、パスさばきは経験豊富なSHのような落ち着いた空気感を醸し出すだけでなく、パスを出すときの微妙な「タメ」が、パスを受けたボールキャリアーに余裕を与える。それがLOダグラスやNO8マルジーン・イラウア、FLクワッガ・スミスらのパワフルランナー、FB山口楓斗、WTBマロ・ツイタマらのスピードランナーの快走を呼んだ。
しかし、ホストのヒートも地元のファンに初勝利を届けようと意地を見せる。10分過ぎから好タックルでレヴズの攻撃を寸断し、16分、20分と連続PGを決めて6-10まで追い上げる。だが、レヴズを覆いかけた嫌な雰囲気を振り払ったのがFB山口だ。キックオフの蹴り返しを捕球すると思い切ったカウンターアタックで一気に敵陣侵入に成功。ショートステップで相手DFを切り裂く若武者のランはチームを勢いづける。矢富のキックが相手に直接捕球され、ピンチになるかと思った瞬間にはクワッガが猛タックルで一人ターンオーバーに成功。29分には左ラインアウトからリズミカルにフェイズを重ねてダグラスがこの試合2度目のインゴールへ。これはTMOでノックオンが見つかりトライにならなかったが、この日のレヴズはひるまない。33分、スクラムからの連続攻撃で10次攻撃までフェイズを重ね、LO桑野詠真がゴール前で2人のタックルを突き抜けてトライ。38分には右ゴール前のラインアウトからモールを押し切ってHO日野剛志がトライ。さらにホーンが鳴ったあとのロスタイムにもトライを狙って攻め続け、45分、相手ゴール前のPKでスクラムを選択し、主将クワッガ・スミスがトライ。強風の影響もあってか、最初の2本を外した家村のコンバージョンも3連続で成功し、31-6までリードを広げて前半終了。
前半だけで31得点。ハーフタイムで早くも今季最多得点を塗り替えた。際立っていたのはトライを取りきる執着心であり、取り切れるという自信だ。ハーフタイム直前のトライは、相手BKにイエローカードが出た直後、PKでスクラムを選択し、数的優位を生かしたことで生まれた。チャンスを作るところから先に苦しんでいたチームが、そのチャンスを広げ、トライを取り切る強さを4節目にして身につけた。これも前節の劇的勝利の効果か。
そして折り返した後半11分、絶品のトライが生まれる。
ハーフウェー付近で、トップリーグ時代にトライ王経験もある相手WTBテビタ・リーにFB山口が猛タックルを見舞ってターンオーバーすると、タヒトゥアが素早く繋ぎ、ツイタマが相手ゴール前までビッグゲイン。ここからFWが次々とサイドをえぐってフェイズを重ね、最後はクワッガが相手2人のタックルを受けながら巧みなスピンで振り払い、ゴールポスト右にボールをねじ込むのだ! これはこの日のベストトライに違いない!
小さな成功で掴んだ自信が仲間への信頼をより強固なものにし、次のチャレンジも成功を引き寄せ、自信は雪だるま式に膨らんでいく。日野&大戸の2枚看板が引っ張るスクラムとラインアウトという自慢のセットプレーも、闘将クワッガが見せる超絶ジャッカルも、副将マロ・ツイタマや弾丸・山口が挑むチャレンジングなランニングも、すべてが好循環で回り始める。後半18分、ラインアウトモールを一気に押し切って日野剛志がトライ。
すべてが順調に回り始めた。藤井雄一郎監督は13分にピッチに送り込んだCTBサム・グリーン、PR西村颯平、17分に投入した庄司拓馬に続き、19分にはPR岡本慎太郎、HOリッチモンド・トンガタマ、LO舟橋諒将とリザーブを一斉に投入。同じポジションを争うチームメイトかつライバルが良い流れを作った以上、負けずに結果を残したい――そんなモチベーションが、フレッシュレッグズ勢に短時間で出し切るパフォーマンスを促す。20分、リフレッシュしたFW陣のタックルで奪ったボールを素早くブリン・ホール、サム・グリーンが展開し、走り込んだFB山口楓斗が猛加速で相手DFを切り裂いた! スリリングなトライ。うむ、今日のベストトライはこっちか?
こうなれば押せ押せだ。23分、ヒートにトライを許すが、今のレヴズはひとつの失点でリズムを失ったりはしない。25分にはフランス留学帰りのFB奥村翔が山口との交代で今季初のピッチへ。試合時間15分を残してリザーブを使い切る藤井監督の強気の采配に、リザーブ陣が応える。28分、相手ゴール前のラインアウトを、ダグラスから替わった舟橋がみごとにキャッチし、モールを押すと、日野から替わったトンガタマが持ち出して右隅にトライ。35分には再び相手ゴール前ラインアウトのチャンスからトンガタマが持ち出し、ホールのクイックパスを受けたグリーンがトライ。大きな背番号が次々と躍動し、スコアボードの得点は「62」まで伸びた。これはブルーレヴズのリーグワン3年目で最多得点だ。
最終スコアは62―13。トライ数で相手に3差をつけるBP(ボーナスポイント)も含めた勝点5を加えて勝点は10となり、4節を終えて前節の9位から6位に浮上した。リーグワン3年目で、途中ながら最高の順位。2勝2敗、勝率を5割のイーブンに戻したのも3年目で初のこと。これも小さな、しかし確かな前進だ。
次節は12月17日以来のホストゲーム。中5日のショートウィークで、ヤマハスタジアムに現在3位の東京サンゴリアスを迎える。サンゴリアスにはヤマハ発動機ジュビロとして初めての日本選手権優勝を達成した2014年度の日本選手権決勝、15-3で勝利したのを最後に6連敗中だ。
負けの歴史にはどこかでピリオドを打たなければならない。そしてこの日の戦いは、その機が熟したことを示していたと思う。
13日のサンゴリアス戦が、がぜん楽しみになった。
藤井雄一郎監督
「前節に勝利したあとはまず1週間休んで、そこからはこの試合で最初から試合をしっかりドミネート(制圧)できるよう準備してきた。相手の勢いに受けずにしっかり前に出ることができて、多少ミスはあったけれどプラン通りの戦いができたし選手も全員使うことができて良かった」
――序盤の2連敗から2連勝です。
「最初の2試合もしっかり相手と戦うことはできていた。点数では負けたけれど、自分たちはそこで成長することができた。ここからまたしっかりリカバリーして、成長して、上位争いに絡んでいきたい」
――修正できた部分は。
「ゲームの中で、自分たちが直さなければいけないところ、相手の弱いところを自分たちで発見していけるようになった。あと、ディフェンスで崩れなくなったのはいいところです。あとは攻撃をもう少し継続していけるといい」
――FB山口がいいパフォーマンスを見せています。
「身体は小さいけれど、外国人相手にも当たり負けしない強さがある。性格も攻撃的だし、日本人特有のショートステップは大きな武器。ウチには欠かせない選手になっています」
――SHでリーグワン初キャップとなった岡﨑について。
「SOからSHにコンバートして、今日は十分に合格点をつけられるデキだった。フィジカルも強いし、自分たちの戦力に厚みを作ることになる。期待に応えてくれたと思う」
クワッガ・スミス主将
「2024年最初の試合に良い試合ができて、勝てたことを嬉しく思う。BYEのあとの最初の試合だったけど、ヒートがフィジカルに立ち向かってくることは分かっていた。その中でチャンスをたくさん作れたことは良かったと思う。この試合をしっかりレビューして、次の試合に繋げたい」
――序盤の2連敗から2連勝したことについて。
「最初の2試合は難しい試合になったけれど、そこから自分たちは試合ごとに成長できている。毎週相手は替わるけれど、自分たちにフォーカスしていくことが大事。この先も毎試合、成長していきたい」
NEXT MATHCH is・・・
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。