もっともっとタフにならなければならない。~大友信彦観戦記 2/25 リーグワン2022-23 Div.1 R09 vs 東京サントリーサンゴリアス戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
リーグワン第9節、2月唯一となるホストゲーム。ヤマハスタジアムに東京サンゴリアスを迎えた。
サンゴリアスは前節まで7勝1敗。リーグ3位につけている。旧トップリーグ時代はブレイブルーパス、ワイルドナイツと並ぶ最多5度の優勝を数える強豪。国内のトップ選手が集まるスター軍団であり、トップリーグ最後の年からリーグワン最初の昨季まで、2年連続の準優勝を果たしている強豪。ブルーレヴズにとっては大久保直弥、有賀剛両コーチの、ヤマハ時代の清宮克幸監督・長谷川愼コーチの古巣でもある。
ブルーレヴズは決して万全ではなかった。
前節の神戸戦でLO大戸裕矢、WTBマロ・ツイタマ、FB山口楓斗と3人が負傷で交代。最後までプレーを続けた共同主将のWTB奥村翔も試合中に足を痛めていた。中5日のショートウィークで迎える今節、試合出場を望める状態ではない。
ブルーレヴズはこの試合に、思い切って若手を登用した。先発SOに家村健太、WTB14に槇瑛人、2人の大学4年生をアーリーエントリーで抜擢したのだ。槇は神戸戦にリザーブから出場していたが、家村は初の公式戦ジャージー。とはいえ、浦安D-Rocks、シャトルズ愛知とのトレーニングマッチで高い評価を受け、大久保グラウンドでの練習でチームの信頼を勝ち得ての先発抜擢だった。
若手の抜擢だけではない。ケガ人続出のバックスリーには、ベテラン伊東力、ブラックラムズ戦で2枚のイエローカードを出してしまったキーガン・ファリアが復帰。大戸に代わるロックにはスコットランド出身のビッグマン、マリー・ダグラスが今季初先発。FLには神戸戦で先発に抜擢され接点で奮闘したマルジーン・イラウアが6番、実はルーキーだったことを忘れてしまうほど激しいタックルでチームを支えているジョーンズリチャード剛が7番のジャージーを託された。
2月25日、強い北風が吹き付けるヤマハスタジアム。家村がキックオフを蹴り、試合は始まった。キックオフをサンゴリアスが蹴り返す、そのボールをブルーレヴズはSHブリン・ホールがボックスキック。その落下地点に猛然と走り込んだのがWTB11伊東だった。サンゴリアスの6下川甲嗣に突き刺さってPKを獲得。家村がタッチに蹴り出す。ブルーレヴズはいきなり相手ゴール前ラインアウトのチャンスを得る。
このチャンスは5フェイズを重ねたところでPR1河田和大に「危険なプレー」があったと判定され、いったんは地域を戻されるが、自陣に攻め込まれた場面でタヒトゥアがサンゴリアスの日本代表CTB中村亮土へのジャッカルでPKを奪いピンチを脱出する。
8分には相手陣10m線付近右サイドのスクラムから、右WTB槇が逆サイドへ移動攻撃。前節ではまったくボールを持てなかった若きランナーがボールを持って躍動する。サンゴリアスのディフェンスがオフフィートの反則。再びゴール前のラインアウトに持ち込んだブルーレヴズは、ダグラスがボールを確保してモールをプッシュ。ゴール前でモールが崩れたところで、SHブリン・ホールが左ショートサイドへ山なりのパス。意表を突いたパスの軌道にサンゴリアスは反応できない。これを掴んだクワッガ・スミスが左隅にボールを押さえた。先制トライだ。左隅からのコンバージョンを狙うのはブリン・ホール。プレシーズンマッチでは精度の高さを見せていたブリンのプレースキックだったが、ここでは左隅かつ強い横風を受け手のキック。惜しくも外れた。レヴズの先制点は5点。
次のキックオフからもレヴズは魅せた。FWのイラウア、クワッガが身体をあて、アドバンテージをもらったところからボールを持ったFBキーガン・ファリアがサンゴリアスDFをハンドオフで突破し、豪快にリターン。そのままハーフウェーを越えて相手陣まで攻め込む。ヤマハスタジアムの観衆から歓声が沸く!だがファリアは果敢に走る余り孤立してしまった。10mラインを越え、タックルを受けたところでノットリリースザボール。風上の立ち上がりに連続スコアをたたみかけたかったレヴズだったが、サンゴリアスもさすがのディフェンスだった。
ここからサンゴリアスはアタックを続けてレヴズ陣に攻め込み、18分に右ゴール前のラインアウトモールを一気に押し込みトライ。次のキックオフがダイレクトタッチになり、スクラムでレヴズがコラプシングのペナルティー。サンゴリアスはアタックを継続して23分、ルーキーWTB河瀬諒介がトライ。サンゴリアスは29分にもPGを決め、15-5とリードを広げる。
風上の前半にリードを奪いたいレヴズだったが、この日の風は北から西からと気まぐれに向きを変えながら強く吹き続けた。風上が有利と言い切れない展開。
そして迎えた前半のラスト10分。家村のキックオフが風に乗り、サンゴリアス選手の目測を狂わせて相手ゴール前10mで弾んでタッチに出る。そのラインアウトからのキックをレヴズPR伊藤平一郎がチャージではたき落とす!レヴズがサンゴリアス陣深くでゲームを継続する。声出し応援が解禁されたヤマハスタジアムから歓声が沸き上がる。
そして39分、左ゴール前ラインアウトから始めたレヴズのアタックは11フェイズまでボールを継続したが、ゴールラインには届かず、最後はPR河田が相手タックルを受けたところでノットリリースザボール。レヴズは追加点を奪えないまま、5-15でハーフタイムを迎えた。
そして迎えた後半。先に点を取りたいレヴズだったが、試合巧者のサンゴリアスはそれを許さない。45分、SO田村煕のジャッカルからレヴズ陣ゴール前のラインアウトに持ち込んでアタックを継続。LOホッキングスがゴールラインをこじ開けた。5-20。点差は15点まで開く。
だがレヴズはここから勢いを取り戻した。キックオフがダイレクトタッチになってもスクラムで反則を取り返す。ボールを奪われ蹴り返されてもCTBタヒトゥアのカウンターアタックからサンゴリアス陣深くに攻め込む。そして55分、右ゴール前のラインアウトをダグラスが取り、モールを一気に押し込んでHO日野がインゴール右隅に押さえてトライ! ラインアウトマスターかつエースジャンパーの大戸裕矢を欠く中でも、レヴズのラインアウト部隊は身上の強みを出した。ブリンのコンバージョンは外れたが、レヴズは10-20の10点差に追い上げた。
そして両チームはメンバーを入れ替える。レヴズはSHブリン・ホールに代えて今季初ジャージーの吉沢文洋を、WTB伊東に代えてサム・グリーンを投入。FBからキーガンがWTBに回り、グリーンがFBに入った。対するサンゴリアスもSH流大、FB松島幸太朗というビッグネームがピッチに入る。ゲームは勝負のラスト20分に入っていく――その矢先だった。レヴズ陣深くのスクラムからのサンゴリアスのアタック。日本代表CTB中村亮土のアタックに、レヴズSO家村健太がチョークタックルで食らいつき、ボールコントロールを失わせ、ターンオーバースクラムを勝ち取るビッグプレーでボールを奪うのだ!
レヴズはさらに動く。62分にはPR郭玟慶、LOアニセサムエラを投入。63分にはサンゴリアスのLOホッキングスがインゴールにボールを押さえたかに見えたが、TMOの末、直前の密集でサンゴリアスにわずかなノックオンがあったとしてノートライ。サンゴリアスにとっては厳しい判定だったが、レヴズは自陣深くに攻め込まれながらもダメ押し点を許さない。次のスクラムを押し込んでPKを獲得するなど辛抱強く守り、粘る。71分には自陣ゴール前に攻め込まれたラインアウトでLO4ダグラスが鮮やかにスチール!SO家村が逆風を突く低い弾道のタッチキックで大きく陣地を戻す。今季初登場の吉沢はテンポ良い球さばきでSO家村に良いボールを送り、グリーンは思い切ったランで相手DFラインを切り裂いた――。
しかし、サンゴリアスは勝負強かった。76分、左のラインアウトから途中出場でFBに入った松島が鮮やかなランニング(これには現地レヴニスタも敵ながらしばし見とれていたようだった。無理もない)で抜け、フリーでラストパスを受けたのはリーグワンのトライ王独走中の尾崎晟也だった。ノーマークで右隅にトライ。25-10とサンゴリアスがリードを広げる。
15点差に開いてのラスト5分。現実的に考えれば逆転は難しい状況になった。それでもレヴズの闘志は衰えなかった。家村のキックオフから敵陣ステイに成功すると粘り強く攻撃を継続。そして79分、ラインアウトから槇-グリーン-クワッガがゴール前に持ち込み、イラウアがトライ。しかしTMOの末、イラウアのトライは取り消しとなり、サンゴリアスのCTB中野将伍にイエローカード。レヴズから見れば、トライが認められていれば、あるいはペナルティートライであれば、17-25と追い上げてもう一度キックオフレシーブ。逆転には届かなくとも、7点差以内のボーナスポイントへチャレンジできる可能性が残ったのだが…TMOの判定は「サンゴリアス13番に故意の反則があり、その後にトライしようとした場面でノックオン」つまり、トライを反則で阻止したわけではない――というものだった。
レヴズから見れば、ここからトライ&ゴールの7点を加えても、勝点には届かない。だがPGショットで3点を取れば、12点差でキックオフレシーブ。トライを取ればBPに届く可能性があるが……だが、レヴズはそれよりも目の前のバトルを選んだ。現在のレヴズに、無駄にして良いプレーはない。あらゆるプレーが次へのステップだ。ならば身体をぶつけよう。
そして試合は再開。レヴズはスクラムからアタックでボールを動かすが、サンゴリアスのディフェンスも崩れない。スクラムのアドバンテージに戻り、レヴズは再びスクラムを選択。青いジャージーが一丸となってスクラムを押す。サンゴリアスがスクラムを崩す。瞬間、イラウアが再びボールを拾い上げてインゴールへ――しかしここで再びTMO。スロー再生で見直すと、イラウアがボールを拾い上げる際にわずかにファンブルしていた。しかしサンゴリアスがスクラムを崩したとして、久保レフェリーと川原TMOはペナルティートライを宣告。コンバージョンキックは不要。レヴズは7点を得て、そのまま試合終了。
25-17、BPに「1」届かない8点差で試合は終わった。
ファンとしてはモヤモヤの残る幕切れだ。レヴズが取り損ねたからということではなく、TMOであそこまでゲームを細切れにする必要があるのだろうか?レフリーが肉眼でいったんトライと見た判定を覆すほど明らかな「落球」なのか? TMOの映像を見直しても微妙なプレーに見えた。
ただ、冷静に振り返れば、レヴズは勢い任せのチョイスをしていた。15点差で迎えたラスト30秒。すぐにPGを蹴り3点を決めていれば12点差でBP(ボーナスポイント、7点差以内の負けで勝ち点1)獲得にチャレンジできたのだ。
オールドファンからは「ラグビーでそこまで考えてる余裕はないよ」という声が聞こえてきそうだ。直前の判定に対する感情の揺らぎがあってもおかしくない。それでも、そんな中でも、勝点を積み重ねていくことがリーグワンのタフさのゆえん。勝点1差に3-4チームがひしめくリーグワンで、ひとつの順位差がプレーオフ進出を左右し、入替戦回りを左右する。プロフェッショナルクラブとしてリーグワンを戦うのなら、クラブはもっともっとタフにならなければならない。
光明もあった。アーリーエントリーの家村も槇も80分フル出場し、素晴らしいパフォーマンスをした。ミスもあったが、それが未来への投資となるなら惜しくない。事実、前半よりも後半、後半の中でも前半から後半へ、時間が進むごとに彼ら2人のプレーは冴えていき、アグレッシブなチャレンジが見られた。タフな経験をすぐに自分の糧にしていたことは彼らが成長するポテンシャルを改めて示したといえるだろう。
9節を終えて勝点15の8位。プレーオフ進出圏となる4位の横浜イーグルスとは16点差。残り7試合で逆転するのは正直、厳しい。だが全勝すれば28点を加えて43点。すべてでBPをあげれば50点まで到達できる。もちろん、最初からそこを見ていてもリアリティがない。まずは目の前の戦いに集中しよう。
次節、第10節はその横浜イーグルスが相手だ。3月3日(金)、秩父宮で行われる今季初のナイトゲーム。まずは勝利して、4位争いへの参入権を獲得する。レヴズにできることはもう、一戦必勝で戦い抜くことしかない。
3月3日の秩父宮で、逆転プレーオフ進出への狼煙を上げよう。
堀川隆延HC
「選手はいいパフォーマンスをしてくれた。成長したところを魅せてくれた。特に若い力が躍動してくれた。ラスト20分、自陣でペナルティをしてしまったところなど、踏ん張りきれないところは今のチームの弱さが出てしまったけれど、悲観することはない。足りないところを見つめ直して、次の横浜イーグルスに向かっていこうと思います。
アーリーエントリーで起用した10番の家村も14番の槇も素晴らしいプレーをしてくれた。個の2人は学生の時からずっと見ていたけれど、家村は学生の間からブルーレヴズの試合を映像で見ていて、自分が10番に入ったらこうしたいと考えていてくれた。槇はコミュニケーションレベルがもうちょっと上がればもっとボールを持つ機会が増えると思うけれど、躍動感は出していた。2人ともいいプレーをしてくれて、思い切って起用して本当に良かった。大事に育成していきたい」
クワッガ・スミス共同主将
「すごく良いゲームをした。一緒にプレーした選手たちを誇りに思う。サンゴリアスは本当に良いチームで、こちらに少しでも隙があるとどんどん点を重ねてきたけれど、私たちはネバーギブアップで諦めずに戦った。ひとりひとりの諦めない気持ちを感じる80分だった。
アーリーエントリーの2人だけでなく、ルーキーのFLジョーンズリチャード剛も含め、若い選手はいいパフォーマンスを見せてくれた。彼らのプレーには彼らの素晴らしい人格が現れている。良い相手にどんなプレーが出来るかは彼らにとっての指針になるし、この経験でさらに成長していく。頼もしく思っています」
槇瑛人
「最後の時間帯、右サイドで松島さんをハンドオフしながら前に出てボールをつなげたことはこれからの自信につながると思う.最初のハイボールキャッチも落ち着いていいキャッチができたし、いい流れを作って行けたと思う。チャンスを作れたけれど、トライを取りきれなかったのが課題。でも今日、自分の強みである外での勝負をできたことはこれからにつながると思う」
家村健太
「ファーストキャップという感覚はありませんでした。風もあったし、いろいろなプレッシャーも感じて、細かいところでもっと精度の高いプレーを出せないといけないと思ったし、敵陣に入って得点できずに戻った場面があった。そこをもう少し明確にして、引き出しを増やしていきたい」
<了>
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。