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悔やみ始めたらキリがないが、この1敗で何かが終わったわけではない。~大友信彦観戦記 2/24 リーグワン2023-24 D1 R7 三菱重工相模原ダイナボアーズ戦 ~

Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)

2月24日(土)、リーグワンが再開した。
地元ヤマスタで花園ライナーズに大勝して5位に上昇してから4週間。昨季の上位4チームがクロスボーダーラグビーを戦う間、別府で強化合宿を行うなどリフレッシュとブラッシュアップに務めてきたブルーレヴズが、目標に掲げる4強入りに挑む後半戦最初の試合の相手は三菱重工相模原ダイナボアーズだった。前半戦終了時点では2勝4敗で9位。とはいえ、前節はサンゴリアスから終了直前までリードを奪うなど、上位チームを相手にしても接戦に持ち込む地力を持つ。ブルーレヴズとも似たチームカラーを持つチームだ。昨季はギオンスでのビジター戦では27-27で引き分け、アイスタでのホスト戦では30-20の10点差で勝利。今季はギオンスでのこの1試合のみの対戦。貴重な機会だ。

1ヵ月ぶりの公式戦となるこの1戦にブルーレヴズは、FL庄司拓馬主将以下、前戦のライナーズ戦と同じ先発15人を並べた。日本代表トレーニングメンバー福岡合宿に招集されながらコンディション不良で参加を辞退したSO家村健太もスターターに名を連ねた。良い形で前半戦を終えた前節の感覚を失わずにいきたい――そんな狙いが伝わってきた一方で、リザーブには摂南大から加入したアーリーエントリーのLOヴェティ・トゥポウ、1年前にアーリーエントリーで活躍していたWTB槇瑛人が、ともに今季初のメンバー入り。さらなる前進に向け、チームには新しい要素が加わり続ける。

試合は14時、相模原市のギオンスタジアムで、古瀬健樹レフリーのホイッスルのもと、ブルーレヴズのキックオフで始まった。
1分。相手が蹴り返してきた左ハーフウェー付近のラインアウトをLOダグラスが掴む、良いリズムでパスが渡る。だが最初のコンタクトでFL庄司拓馬がノックオン。
さらに3分、WTBマロ・ツイタマが相手キックを捕ってカウンターアタック、そこからWTB14山口楓斗が前に出るが、相手タックルを受けた際にコントロールを失い落球。相手FBにドリブルで前進を許し自陣ゴール前に攻め込まれる。リズムに乗れない。

ハンドリングエラーが続いたレヴズだったが、5分にスクラムで重圧をかけてコラプシングのPKを獲得。右22m線付近のラインアウトに持ち込むと、NO8イラウアが右に持ち出し、相手タックルを受けながらオフロードパス。ボールを受けたSH岡﨑航大が無人の右サイドを走り抜けて先制トライ。サム・グリーンがコンバージョンも決め、7分、レヴズが7点を先制した。
だが直後のキックオフでレヴズは落球。そのスクラムからのアタックで右隅を攻略されトライを許し、9分に7-7の同点に追いつかれる。

ブラインドサイドに瞬時に隙を見つけたマルジーン・イラウア
マルジーンからオフロードを受け取り自身リーグワン2TRY目を取った岡﨑航大
今節キッカーを務めるサム・グリーンの素晴らしいフォーム

それでもレヴズは落胆しなかった。次のキックオフ後に再びPKを得ると右ゴール前のラインアウトに持ち込み、12分、得意のモールからHO日野剛志がトライ。さらに15分にハーフウェー付近のスクラムで再びPKを奪うと家村の好キックでゴール前の右ラインアウトに持ち込み、モールの一気押しで日野が連続トライ。最初の18分でレヴズは21-7とリードを広げた。

ラインアウトモールで一気に押し込む!
最後は日野剛志がしっかりTRY!
抜群のタイミングでスローインする日野剛志
立て続けに2TRY目!

だがこの日は波に乗れなかった。直後の攻防でNO8イラウアが相手FWにタックルした際に逆ヘッドとなり、倒れている間に連続攻撃を浴び、相手CTBロナにミスマッチを突かれてトライを献上。さらに23分には相手SOグレイソンの巧みなランニングにタックルが手追いになり独走トライを許してしまう。コンバージョンは外れ、21-19と2点リードは残ったが、簡単なトライを取って取られての落ち着かない展開だ。

それでも流れはレヴズにあった。27分、ハーフウェー付近の混戦からCTBタヒトゥアが突破し、左へ家村-山口がパスを展開。これを捕球しようとしたレヴズFBグリーンに対し、相手CTBが捕球前に腕を引っ張るオブストラクションを犯し、TMOの結果、シンビン処分。乗り切れなかった時間帯を我慢したレヴズに数的優位のチャンスが来た。

このチャンスにレヴズはタッチキックを選択。左ゴール前のラインアウトからモールを押すが、ボールがこぼれてしまう。SO家村はがら空きの右サイドへキックパスを送るがキックがやや長く、WTB山口は捕球したもののタッチを踏んでしまう。この場面はアドバンテージでもう一度PKに戻るが、このラインアウトでもモールを組めず、ボールを動かしたが、オフロードパスが繋がらずに相手ゴール前でノックオン。32分には左22m線まで戻されたところで得意のラインアウトを初めて失敗してしまう。

ようやくトライラインをこじあけたのは34分。これも難産だった。ラインアウトでいったんボールを失い、取り返したところからWTBツイタマが左サイドを前進。相手DFに捕まりながら懸命に足を動かし、庄司のバインドを受けながら、ゴールラインを超えたところでボールを押さえた。しかし、ゴール前で始まった数的優位の10分間はすでに半分以上が経過していた。そしてグリーンのコンバージョンキックはポストに嫌われ失敗。

攻撃の起点となる前進・オフロードを見せるチャールズ・ピウタウ
マリー・ダグラスの突き刺さるアタック
最後はタックルを受けながら背面からTRYを決めたマロ・ツイタマ

噛み合わない展開はさらに続いた。直後のキックオフからレヴズは14人の相手に攻め込まれ、29フェイズにわたって連続攻撃を許し、トライとコンバージョンを奪われ26-26の同点に追いつかれる。数的有利の10分間は結局5-7のマイナスで終了。それだけではなかった。この攻防でCTBタヒトゥアの相手LOへのタックルが高かったとしてイエローカードが出され、風下に回る後半は数的不利で戦いが始まることになってしまったのだ。

殴り合いを思わせるトライの取り合いは後半も続いた。違ったのは、風下の前半が、レヴズにとって「取って取られて」つまりリードしては追いつかれる展開だったのが、後半は「取られて取って」、つまりリードされては追いかける展開に変わったことだ。

相手キックオフで始まった後半2分、自陣からのノータッチキックでカウンターアタックを浴び、相手アタックにフェイズを重ねられ、DFが我慢できなくなってトライを奪われる。

レヴズは8分、CTBピウタウが前進してラックにするとNO8イラウアが素早くピックゴー。さらにタックルされたところでオフロードパスを繋いでツイタマがトライ。グリーンのコンバージョンが決まり33-33。数的不利を耐えて同点に追いつく。

マルジーン・イラウアの目線の先にはTRYへの道が見えたのかもしれない
タックルを受けながらもオフロードパスで望みをつなぐ
マロ・ツイタマがハンドオフで相手をかわし今節2TRY目

だが得点直後に失点する悪癖は修正されなかった。相手キックオフ直後のラインアウトから4フェイズでトライを許し、コンバージョンも決められ、33―40。数的不利の10分間は結局、7-14のマイナスで終わった。

それでも15人対15人に戻った。まずは追いつこう。16分、レヴズは自陣のターンオーバーからグリーン、日野、イラウアがじわじわと前進。岡﨑、ダグラス、ツイタマ、伊藤が相手タックルの中を突き進んで相手ゴール前に迫るが……攻撃が途切れたところでTMOが入る。ターンオーバーからの猛攻が始まる前に、NO8イラウアが相手HO安江に見舞ったタックルが高かったとして再びイエローカードが出された。追い上げなければいけない、それも勝負所のラスト20分という大事な時間帯に再び数的不利を強いられてしまう。ダイナボアーズはすぐにPG。33-43の10点差に開く。

流れを変えたいブルーレヴズはCTBシルビアン・マフーザ、SH矢富勇毅、PR西村颯平をピッチに送り込む。フレッシュレッグスの投入、とりわけ独特の間合いを持つ矢富勇のランニングは確かに流れを変えた。24分、レヴズは右サイドをHO日野が前進したところから左へ大きく展開。ピウタウのロングパスを受けたWTBツイタマが相手タックルを受けながらも左隅へダイビングトライを決める。数的不利の中でもトライを取りきって見せた。しかしグリーンが狙ったコンバージョンは外れ、38-43の5点差が残る。


素早い状況判断とパスで流れを変える矢富勇毅
素晴らしい体幹でダイビングトライを決めるマロ・ツイタマ

しかも、数的不利の中での20分間は選手たちに予想以上に疲労を蓄積させていたようだ。レヴズのタックルが徐々に精度を欠き始める。28分にはゴール前に迫った相手WTBにLOダグラスが追いすがり、トライ寸前にギリギリで落球させたが、それもつかの間だった。30分、パックが甘くなったタックルを突破され、相手WTBポルトリッジにトライを奪われてしまった。38-50。

残るは10分。前半圧倒していたスクラムを逆に押し込まれ、ペナルティーを奪われてしまう。37分にPGを加えられ38-53。そして迎えたラストミニッツ、レヴズは今季初登場のWTB槇瑛人、そしてアーリーエントリーのヴェティ・トゥポウを投入して遮二無二アタック。だが15点を追うゴールラインは遠い。トゥポウがリーグワンデビューを飾るトライを決めたのは39分50秒。グリーンがコンバージョンを決め8点差まで追い上げたが、それまでだった。ファイナルスコアは45―53。ボーナスポイントの勝ち点「1」へも1点届かずに試合は終わった。今季のアーリーエントリー勢一番乗りとなるトゥポウのトライも残念ながら徒花に終わってしまった。

少ない出場時間ながら大きな前進を見せた槇瑛人
凄まじいボディバランスでタックルを受けながらも前進を続けたヴェティ・トゥポウ
1st CAPで執念のTRYを見せる!

つくづく、ダイナボアーズは厄介な、つまり素晴らしい相手だと思う。突出したスター選手はいないけれど、チーム全員がゲームプランを理解し、休むことなくハードワークし続け、試合中のトラブルを修正し続け、決して多くないチームの強みをスコアボードの数字に結実させる(グレン・ディレーニーHCの指導力はトップリーグ時代のサニックス、藤井雄一郎監督を思い出させる)。こちらの準備や遂行、規律に少しでも過不足があれば見逃さず、必ずそこにつけ込んでくる。昨季もギオンスでは苦いレッスンを強いられた。その学びを今回活かせなかったのは痛恨だが、従来のセットピース依存型からトータルラグビーへの進化を模索するブルーレヴズに、ダイナボアーズは今回も必要なレッスンを突きつけてくれたのだと思う。

試合後のメンバーは全員「悔しい」という表情を見せていた

試合後の会見。「最初に簡単にトライを取って取られてしまった。今日はそういう試合になるかなと思ったけど、シンビンも来たし、ディフェンスもタックルミスをした。コンタクトというよりもシステムエラー。スクラムも前半は良かったけど後半良くなかった。シンビンが2回、トータル20分は痛かった。想定できないところが出たゲームだった」そう振り返った藤井監督は「まあ、始まったばかりなので」と付け加え「予想外の取られ方をした部分もあったが、シンビンは自分たちの問題」と戒めた。

冷静に試合を振り返り、すでに次の試合を見据えた藤井監督と庄司キャプテン

4強への道のりを考えれば痛い敗戦だ。悔やみ始めたらキリがない。だが、この1敗で何かが終わったわけではない――藤井監督はそう言いたいのだろう。リーグ戦はまだ半分も終わっていない。この学びを活かし、成長を続けていけば、目指す場所には十分に到達できるはずだ。

貴重な学びを与えてくれたダイナボアーズの選手とスタッフに感謝を捧げるとともに、この黒星を、残る戦いに活かすことをブルーレヴズは誓おう。

成長のカギをくれたダイナボアーズへ悔しさという感謝の挨拶。必ず成長して見せると誓った

大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。