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1戦ごとに最大限の勝点を積み上げ続けるのみ。~大友信彦観戦記 4/6 リーグワン2023-24 D1 R12 三重ホンダヒート戦 ~

Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)

トヨタヴェルブリッツ戦の勝利から1週のBYEを挟んで迎えたリーグワン第12節。静岡ブルーレヴズは本拠地ヤマハスタジアムに三重ホンダヒートを迎えた。

リーグワンは前節で逆カンファレンスとの交流戦を終え、ここからは同一カンファレンスとの2巡目の対戦になる。前回の戦いから何を学び、チームがどう成長したかを示す5連戦だ。

前節からの先発メンバー変更は3人。NO8には前節デビューを飾ったシオネ・ブナに代わってマルジーン・イラウアが、SHには岡﨑航大に代わってブリン・ホールが前節のリザーブから先発に復帰。そしてSOにはヴェルブリッツ戦で見事なゲームメークをみせたサム・グリーンに代わり奥村翔が入った。その前のブラックラムズ戦では家村健太が務めていた。
背番号10のスタンドオフはラグビーでは司令塔と呼ばれ、チームのプランを遂行する役割。強いチームにはほとんどの場合不動の司令塔がいて、あまり替えないのがセオリー。しかしブルーレヴズは3試合で3人が背番号10を着た。
奥村の本来のポジションはFBやWTBなどバックスリー。帝京大学の1~2年生時にSOの経験はあるが、以後は主に走り屋として、そしてチームを後方から俯瞰し統率する立場でプレーしてきた。本職の司令塔ではない。
それでも、レヴズが特定の選手の能力に頼るのではなく、チーム全員のゲーム理解力、コミュニケーション力で戦っていくことを目指すならば、むしろ意味のあるチャレンジかもしれない。前節のヴェルブリッツ戦も、67分にグリーンからタヒトゥアに交替した後は(短い時間とは言え)タヒトゥア、ツイタマ、ピウタウがめまぐるしく入れ替わるように10番の位置に入り、それぞれの強みを出してゲームを進めていた。これはもしかしたら近未来のラグビー像なのかもしれない。

そしてレヴズには、新たな実験、チャレンジを可能にする強力な基盤がある。それはレヴズの看板スクラムだ。FWはNO8以外の先発7人は前節と同じ。しかも、アーリーエントリーの巨漢PRヴェーテーの体重132kgという新たな武器を得てさらに進化を続けている。

そして迎えたラスト5連戦の初戦、相手は三重ヒート。モータースポーツの世界でも戦ってきたライバルとの対決に、ヤマハスタジアムにはヤマハ&ホンダの名マシンが集結。レヴニスタ広場ではトライアルライダーの実演、エンジン始動体験などさまざまなアトラクションが組まれた。試合前にはモーターサイクルレースの世界最高峰「Moto GP」を戦うヤマハとホンダのファクトリーマシンがピッチ上に登場。世界の頂点のスーパーマシンのエンジン音とともに両チームの選手が入場。両チームの歴史と母体企業というチームカルチャーを濃厚に漂わせながら、4月6日、晴天、珍しくほぼ無風のヤマハスタジアムで試合は始まった。

YAMAHA x HONDAのコラボレーション。目の前で繰り出される圧巻のパフォーマンスに会場は興奮に包まれた
三重ホンダヒートとの対戦だからこそ成しえた史上初のコラボ

この試合をどう戦うか。その覚悟をレヴズは試合最初のプレーから存分に披露した。SO奥村の蹴ったキックオフへの蹴り返しを捕ったWTBツイタマがカウンターアタックを始めると8フェイズまで攻撃を継続。パスミスが出てヒートのカウンターアタックを浴びてもFB山口楓斗の激戻りを先頭に全員が必死に戻り、粘り強くディフェンスする。狙うは徹底してボールを動かすアタッキングラグビーだ。

スコアが動いたのは前半9分だった。自陣10m線付近のラインアウトからWTBファリアの好走をFL庄司、LO桑野がサポートして相手ゴール前まで侵入。ここでスクラムを得ると、安定した球出しから攻撃を継続。SHブリン・ホールがリズミカルかつ微妙に緩急をつけ、自身も一歩踏み出すことで相手DFを幻惑しながら10フェイズまで連続アタック。ヒートのDFも粘るが最後はNO8イラウアがゴールラインを突き抜けた。SO奥村がコンバージョンを決めレヴズが7点を先行する。

相手をうまくかわし大きくゲインする庄司拓馬
10フェーズを重ね、最後はマルジーン・イラウアがTRY

レヴズはディフェンスでの戻りも勤勉だった。11-12分にはハーフウェー付近での相手アタックを8フェイズまで止め続け、業を煮やした相手がキックに切り替えると、戻ったFB山口がクイックスローでプレーを継続。ここに素早くサポートに戻ったWTBファリアからHO日野にボールは渡り、一気に敵陣22m線までビッグゲインを勝ち取るのだ。FW最前列からBK最後尾までが、ゲームで発生していることへの情報と対策を共有できているからこその鮮やかな連携。この場面は一旦ボールを奪われたが、15分にはハーフウェー付近の混戦からSHブリン・ホールがキックを蹴り、戻った相手のキック処理にWTBツイタマがプレッシャーをかけ、相手FBのオフロードパスをブリンがインターセプトしてそのままトライを決めるのだ。これはほんの数分前のヒートのアタックと同じシチュエーション。レヴズはディフェンスでは相手のチャンスの芽を摘み、アタックでは相手の反応にプレッシャーをかけてトライを奪って見せた。

マロ・ツイタマのタックルが相手へのプレッシャーになる
オフロードパスの間に走り込んだブリン・ホールがそのままTRY

さらに次のキックオフから、レヴズは大活劇をみせる。相手キックを自陣22m線付近で捕ったWTBファリアはプレスしてきたヒートDFに対し、タックラーの並ぶ隙間を猛加速で突き抜け突破。相手陣22m線付近で相手タックルを受け倒れるがすぐに起き上がって前進し、もう一度相手タックルを受けたところでオフロードパス。サポートに走り込んだLOダグラスがノーホイッスルでインゴールに飛び込んだ。奥村のコンバージョンが決まり19-0。

キックオフボールをキャッチしそのまま超ビックゲイン!
パスダミーやステップで相手をかわし、一度倒れるもすぐさまボールをピックアップ、さらに前進
後ろから全力で追いかけサポートに入ったマリー・ダグラスがTRY!
SO奥村のコンバージョンも決まり、リードを広げる

最高のスタート。そして成長の証を見せたのはここからだった。それは「最高のスタート」に安住しないこと。点を取れるときは容赦なく取り続けろ――それは苦い連敗を喫していた間に身にしみて学んだことだ。レヴズは次のキックオフからもツイタマがリターンで相手陣まで侵入。いったんはボールを奪われるが、相手のハイパントをFB山口が鮮やかなジャンピングキャッチ。これが相手の空中タックルを誘い、PKで相手ゴール前まで入ると、ラインアウトモールを押し込んでおいてブリン・ホールからマロ・ツイタマへホットライン・パスが通る! ツイタマのトライで24-0とリードを広げると、続く32分にはスクラムで得たPKからラインアウトに持ち込み、7フェイズまで攻撃を継続。相手DFの意識を密集サイドへ集中させたところでブリン・ホールからロングパスが右WTBファリアへ! ノーマークでボールを受けたファリアは無人のゴールラインを軽やかに走り抜けてこの日チーム5本目のトライ。奥村のコンバージョンも決まり、レヴズは前半だけで31-0と大きくリードした。

うまくタイミングをずらしたラインアウト
モールで前進し、うまくSHブリン・ホールがブラインドに
手裏剣のように出されたボールの先にはマロ・ツイタマ!
10人以上の頭の上を越えてパスがつながりキーガン・ファリアがTRY!

前半は予想以上の一方的な展開。だがヒートもただでは終われない。後半に入ると早々にレヴズ陣に攻め込み、FL小林主将がみごとなランニングでトライ。46分には南アフリカ代表LOモスタートもインゴールへ。後半に入って僅か6分、レヴズは連続トライを許し31-14と追い上げられてしまう。

しかしレヴズは成長のあとをみせた。それはシーズン半ばまで散見した「トライを取ってもすぐに取り返される」の裏返しだ。つまり「取られたらすぐに取り返す」
次のキックオフを奥村が高く深く蹴り、チェイサーが一斉にプレッシャーをかける。相手のタッチキックは伸びない。次のラインアウトは相手陣10m線付近という攻めやすい位置になる。奥村は試合を通じて伸びるキックと前に出るスピードでゲームをよくリード、司令塔の重責をよく果たした。
見事だったのはここからのアタックだ。ラインアウトを日野→桑野のホットラインで確保すると、ボールはホールー奥村―ファアウリとわたって庄司がクラッシュ。オフサイドの相手に絡まれながら素早くリサイクルしたボールをラックに走り寄ったファアウリが後方に転がし、桑野が拾い上げると、SOの位置でパスを受けたのがHO日野だ! 日野はまっすぐ走って相手DFをひきつけると、ショートサイドから走り込んだWTBツイタマにみごとなパス。そのまま相手DFを置き去りにしたツイタマがこの日2本目、リーグトップを走る今季14号トライを決める。司令塔役をシェアするのはBKの選手だけではなかった。これがレヴズの強さだ!

ラインアウトから素早く戻りアタックに加わる桑野詠真
ここに日野剛志!?というプレーを見せる
ラストパスを受けたマロ・ツイタマは一気に加速しTRY!
奥村もコンバージョンをしっかり決める

そして試合は膠着した。ブルーレヴズFWは後半開始直後に投入されたPR伊藤平一郎を軸に一貫してスクラムを押し続け、圧力をかけ、あるいはペナルティーを奪う。BKはピウタウ、ファアウリの両CTBを軸に縦への突破とアグレッシブなオフロードパスを駆使して相手ゴールへ突き進む。だが相手陣深くまで攻め込んでもヒートの粘り強いディフェンスの前にあと一本のパスがなかなか通らず、もう1トライがなかなか奪えない。

ダメ押しのトライを奪ったのは75分。相手ゴール前に攻め込んで得たスクラムからフェイズを重ね、この試合でトップリーグ時代から通算150キャップという節目を迎えたSH矢富勇毅からの絶妙なパスがピウタウへ、そしてCTBファアウリに送られゴールポスト下へトライ。トライに至るまでのフェイズアタックのリードもさることながら、相手DFを幻惑した「溜め」から出されたピウタウへのパスは絶妙な名人芸だった。
ファアウリが自らコンバージョンを成功。ブルーレヴズは43-14まで点差を広げて試合を終えた。

150試合目のピッチに入る矢富勇毅と、交代するブリン・ホール
ゴールラインを駆け抜け自身約2年ぶりのTRYをあげたジョニー・ファアウリ

レヴズにとって、リーグワンになって初めての3連勝。だがスコアラインを見れば、物足りなさも感じてしまう。20分過ぎまでに24点をあげる好スタートを切り、31-0で折り返しながら後半早々に2トライを献上。その後、50分までに36点までスコアを伸ばしながら、そこから25分間は試合を支配しながら得点を加えることはできなかった。

それでも、試合後の藤井監督の表情に不満はうかがえなかった。
「チームとしてケガ人も出ている中で、今日やることは(勝点)5ポイントを取ること。次に繋がる試合をすること。途中で(トライを)取られたりもしたけれど、しっかり建て直して勝利できた。次に繋がる試合ができた」

得点をあげられなかった25分間も、時間を空費しただけではなかった。
62分にはWTBファリアとの交替で、CTB伊藤峻祐がピッチへ。2年目ながらCTBとWTBを高い次元でカバーする、ここからのシーズン終盤に頼もしいピースが戻ってきた。
64分には左PR山下憲太、HOリッチモンド・トンガタマ、NO8杉原立樹とともに、公式戦デビューとなるチーム最長身202㎝の24歳、ジャック・ライトがピッチに投入された。昨季まではリーグ随一の制空権を誇ったレヴズのラインアウトも今季は獲得率がやや下がっている。今やリーグワン各チームのロック陣は2m超の選手を複数並べることがスタンダードになりつつある。徹底した工夫と反復トレーニングで高さに頼らないラインアウトを構築してきたレヴズも新基準への対応を迫られている。職人芸だったスクラムに新世代の大型PRである茂原、ヴェーテーを育成するのと同様、ライトに経験を積ませるのはレヴズにとって急務なのだ。

1節ぶりの出場、慣れないポジションながら存在感を見せた伊藤峻祐
1st CAPとなったジャック・ライト
長身を生かしたプレーに今後も期待が高まる!

一方で、ヤマハ発動機ジュビロ時代からチームを支えてきた現役レジェンドである矢富勇毅の通算150キャップ(トップリーグ、リーグワン以外の日本選手権等も含んだ数字)を祝うというミッションもあった。試合後には記念のセレモニーも準備されている。藤井監督は「今日は(矢富を)絶対に出さないといけないプレッシャーがあった」と笑いながら「ホントはもうちょっと出してあげたかったけど、ブリンの出来があまりにも良くて。でも、実際に出たらペースを上げて、試合の最後をよく締めてくれた」とベテランを称えた。

年齢を感じさせないボールキャリーとステップを見せるシーンも
「残り試合全勝してプレーオフへ!」と最高に熱いコメントでヤマハスタジアムを沸かせる
兄の背中をずっと追いかけてきた弟・矢富洋則との記念写真

ケガ人が続出する中、多くのミッションを抱えながら、確実に勝点5を勝ち取ったことはレヴズにとって大きな、意味のある勝利だった。
現実を見れば、逆転でプレーオフに進出できる可能性はいまだ細い糸だ。ヒート戦でボーナスポイント込みの勝点5を加え、勝点を29に伸ばしたレヴズは6位に浮上したものの、前節までのスティーラーズに代わって4位に上がったイーグルスとはいまだ9点差。逆カンファレンスのイーグルスとはもう対戦機会がない。レヴズにできることは順位表をシミュレーションすることではなく、1戦ごとに最大限の勝点を積み上げ続け、天命を待つことだけだ。

次節は昨季王者・スピアーズをアイスタ・IAIスタジアム日本平に迎え撃つ。
リーグワンで使用するスタジアムでは間違いなく一番、世界でもおそらく5本の指に入るだろう最高の芝の上で、進化し続けるレヴズの最高到達点をレヴニスタたちに見せてほしい。今のレヴズならきっと見せてくれるはずだ。

静岡県を背負って、次節は静岡市・IAIスタジアム日本平へ!

大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。

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