すべての学びを活かし、みんなで強くなろう。~大友信彦観戦記 12/17 リーグワン2023-24 D1 R2 コベルコ神戸スティーラーズ戦 ~
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
12月17日、強い風の吹き付けるヤマハスタジアムには”非日常”の空気があふれていた。
キッズパークに設置された「恐竜パーク」には高さ10mの巨大T-REXをはじめ10体もの恐竜が出現。子どもたちの歓声がこだました。
レヴニスタ広場では、ヤマハ発動機のバイクのエンジン始動体験ブースからのエンジン音が響き渡る中、ブルーレヴズだけでなく対戦相手のコベルコ神戸スティーラーズのバス到着時にも大勢のレヴニスタが花道を作って歓迎した。
寒風の吹き付ける中を駆けつけたレヴニスタそして神戸サポーターには防寒用のレヴマフが配られ、陸上自衛隊板妻駐屯地、航空自衛隊浜松基地の皆様による特製豚汁と空上げ(からあげ)の無料炊き出しが振る舞われた。
ヤマハスタジアムの急角度のスタンドはほぼ埋まった。リーグワン3年目でブルーレヴズのホストゲーム最多となる1万2841人。
キックオフ前のスタジアムでは自衛隊のラッパ演奏と上空には航空自衛隊浜松基地の航空隊が記念飛行で、シーズン開幕の非日常性は最高潮に盛り上がった。
前節はBL東京とのビジター試合に30-43で敗れ、開幕戦勝利はならなかったブルーレヴズ。ホスト開幕戦で迎えるのはコベルコ神戸スティーラーズ。今季は、先のワールドカップで準優勝したニュージーランド代表オールブラックスから、ワールドラグビーの世界最優秀選手に輝いたアーディー・サベア、2014年に同賞を受賞したブロディ・レタリックという超大物が加入。開幕戦では三重ホンダヒートから12トライを奪って大勝し、開幕節首位に立っていた。昨季の9位という順位は関係ない。強敵だ。
レヴズはこの試合に先発2人を変更して臨んだ。キャプテンのクワッガ・スミスが先発FL7番に入り、庄司拓馬がFL7からFL6へ、大戸裕矢がFL6からLO4へ回り、桑野詠真がLO4からリザーブへ。初戦はFBだったチャールズ・ピウタウがCTB13に、山口楓斗がWTB14からFBに回り、WTB14にはキーガン・ファリア。リザーブにはジョーンズリチャード剛、ジョニー・ファアウリ、サム・グリーンが今季初のメンバー入りを果たした。ホスト開幕戦に合わせ、レヴズの戦闘態勢がいよいよ整ってきた。
午後2時、試合は神戸のキックオフで始まった。
先制したのは神戸だった。レヴズは風下でのキックオフ・レシーブから自陣ゴールを背負う戦いを強いられ、3分に先制PGを決められてしまう。次のキックオフからの攻防ではCTBタヒトゥアのブレイクから相手陣22m線まで攻め込むが、ハンドリングエラーでボールを失うと、次のディフェンスで自陣ゴール前まで攻め込まれる。ここはクワッガ・スミスが相手ボールを奪い取り、次のディフェンスではタヒトゥアが相手ボールを奪い取ってピンチを逃れるが、ボールをキープできず11分にラインアウトモールからドライビングモールでトライを許す。
8点をリードされたブルーレヴズは次のキックオフから攻め込み、相手ボールのスクラムを押してボールを奪い、相手ゴール前に殺到。PKを得ると16分、SO家村健太がPGを決めて3-8とするが、次の相手キックオフを相手に拾われそのままトライとゴールを奪われてしまう。3-15。点を取った直後に、簡単に失点してしまう嫌な展開。その悪いパターンはその後も繰り返された。
反撃は31分だ。タッチライン際でキックを蹴ろうとした相手BKにタヒトゥアが後方からタックルし、ボールがこぼれたところに最高のランナーがいた。ボールを拾いあげたのは背番号11のWTBマロ・ツイタマだ。レヴズの誇る快足ランナーは左タッチライン沿いを60m快走してトライ。8-15と追い上げた。だがその3分後にクワッガが故意の反則(ちょっと不運な判定だったが…)を科され、PGを決められ8-18とされてしまう。前半は風に悩まされ、自陣に攻め込まれてもクワッガ、ダグラスの獅子奮迅の働きでピンチをしのぎ、ボール支配でも地域獲得でも約6割を支配したが、攻め込んだ場面で効果的に得点に繋げることができない。消化不良の40分間になってしまった。
しかし後半、風上に回ったレヴズはリズムを取り戻す。
キックオフから相手にビッグゲインを許すが、自陣に攻め込まれたところでツイタマのタックルと家村のジャッカルでPKを獲得。さらに相手ボールのスクラムを押し返して再びPK。レヴズの魂とも呼ぶべきスクラムでPKを獲得したことで、レヴズは勢いに乗った。そのタイミングでクワッガのシンビンが解け、レヴズは15人に戻る。耐える時間は終わった。ここから攻勢だ!
5分、ピウタウとファリアの突破で相手陣に攻め込み、PKを得ると左ゴール前ラインアウトに(家村のタッチキックが冴えた!)。このラインアウトは失敗するが、相手にプレッシャーをかけてインゴールで落球を誘い、CTBタヒトゥアがグラウンディング。このプレーはTMOにかけられ、直前にノックオンがあったとしてトライは認められなかったが、次の相手ボールのスクラムを再び猛プッシュ。PKを奪うと再びスクラムを選択し、8人が塊となってグイと押し込むと、NO8の位置からサイドに持ち出したクワッガが相手タックルをかわし、飛び越えて右中間にトライ。家村がコンバージョンを決め、15-18。これで3点差。神戸を完全に射程圏に捉えた。
さらに相手キックオフからの自陣でのディフェンスでも粘り強く相手を止め、ボールを奪うとCTBピウタウの狙い澄ましたキック&チェイスで敵陣侵入に成功。そして60分。相手陣でのラインアウトでダグラスがボールを奪うと、WTBツイタマが出たラックからフェイズを重ね、7次までアタックを継続。ここでみごとな動きを見せたのが新加入の元オールブラックスにしてトンガ代表、この試合は背番号13のCTBで出場したピウタウだ。相手ゴールライン目前に迫った右中間のラックから抜け出すと、相手インゴール側からオンサイドの位置に戻ってポジショニング。相手DFからすれば、アタッカーがいないところに突然現れたように見えたはず。ノーマークの状態で右隅でパスを受けたピウタウは、慌てて追って来た相手BKのタックルをすり抜けて右隅にトライを決めるのだ!20-18。レヴズがこの試合初めてのリードを奪う。
ここでレヴズは頼もしい2人を投入する。CTBピウタウに替えてジョニー・ファアウリ、SH矢富に替えてブリン・ホール、ともに今季初登場のフレッシュレッグズをピッチに送り、ゲームのスピードをさらに上げて勝利へ加速を図るのだ。直後、クワッガの爆弾タックルで相手ノックオンを誘うと、スクラムでPKを奪い、家村が正面右30mのPGを蹴り込む。23-18。勝利がグッと近づいてきた、ように見えたのだが……ここから、前半に顔を覗かせた悪癖、点を取った直後のエアポケットが、レヴズの前に大きな口を開けていたのだ。
66分、相手キックオフを捕球したところにタックルを受けてPKを奪われ、ゴールライン前に攻め込まれたラインアウトからの連続攻撃で同点トライを浴びる。
72分、家村がPGを決め、26-23と再び勝ち越すが、次の相手キックオフを蹴り返した密集からサイド突破を許し、そのままゴール中央にトライを許してしまう。コンバージョンも決められ、74分、26-30と4点のビハインド。
すでに74分、選手たちは休む間もなく走り続け、身体をぶつけてきた。消耗は激しい。だがこのまま負けるわけにはいかない。ピッチにいるレヴズの15人の気持ちがひとつになる。自陣ゴール前で相手ボール・ラインアウトのピンチに相手反則でPKを得ると、次のラインアウトからFB山口楓斗が鋭くラインブレイク。ボールを素早くリサイクルすると、ファアウリが、ダグラスが前進。さらにイラウアとの交替でFW第3列に入っていたリッチモンド・トンガタマが相手タックルを浴びながら突き進み、あいたスペースをグリーンが突く。神戸が反則。PGでは届かない4点差。レヴズは逆転を目指し、タッチを選択。右ゴール前のラインアウトから勝負をかけた。
しかし神戸は、身長204㎝、オールブラックス109キャップのレタリックがラインアウトでプレッシャーをかける。スローワーとジャンパーの呼吸が僅かに乱れるが、レヴズは何とかボールを確保してゴールラインを目指す。ヤマハスタジアムに「GO! GO! レヴズ!」の声が沸き上がる。ピッチ上のレヴズ戦士たちとスタジアムのレヴニスタがひとつになって敵陣を突き進む……だがフェイズを重ねたところで、日野が持ち込んだブレイクダウンをサポートしたPR西村颯平が倒れ込んでしまった。極限の攻防での痛恨のペナルティー。ブルーレヴズのホスト開幕戦逆転勝利は、あと5mで幻と消えた。
最終スコアは26-30。勝利には届かなかった。悔しい敗戦。それでも試合の最後の時間帯、満員のスタンドから自然に沸き起こった「GO! GO! レヴズ」の手拍子と叫び声は、ブルーレヴズとレヴニスタが力を合わせて戦う新たな領域に足を踏み入れたことを感じさせた。ブルーレヴズの戦士たちは勝った神戸の選手たちを称え、この試合でトップリーグ時代から通算100試合出場を達成した山中亮平選手の偉業を祝福した。スタンドを埋めたレヴニスタたちも温かい拍手を贈った。
ブルーレヴズにはこの日、7点差以内の敗者に与えられるボーナス勝点「1」が入った。この「1」が、シーズン最後の順位争いで生きてくることを祈ろう。
神戸とはリーグ戦最終節を控えた第15節の4月27日、ビジターとして再び戦う。リーグワンは6ヵ月に及ぶ長い戦いだ。
この日の学びを5ヵ月でどう活かすか。この4点差をどう変えることができるか。
リーグワンに無駄な試合はひとつもない。
すべての学びを活かし、みんなで強くなろう。
藤井雄一郎監督
「今日は何とか勝ちたいということで、先週はディフェンスが悪すぎたので、1週間しっかりディフェンスをやりこんでこの試合に臨んで、その点は機能したと思うけれど、何度かソフトモーメントがあって、キックオフから簡単なトライを取られたりしたので、そこは来週に向けて修正したい」
(後半はよくなった)
「前半はアグレッシブさに欠けていたので、後半は最初の1秒からエナジーを出していこうと話した。インパクトで入った選手たちが力を出してくれたと思う」
(チャンスを作っても取り切れない場面が多かった)
「中盤ではうまく攻めることができたけれど、ゴール前までいったところでいなきゃいけないポジショニングを取れていない場面が多かった。相手にプレッシャーをかけなきゃいけない場面で自分たちにプレッシャーをかけてしまっていた。ラインアウトのミスもそういうところがあったと思う」
クワッガ・スミス主将
「神戸は先週とても良い試合をしてきたので、難しい試合になることは予想していた。藤井監督が言われたように、ソフトモーメントを作ってしまい、簡単なトライを与えてしまったのが残念。来週に向けて、そのソフトモーメントを修正することで良くなると思う」
(前半多かったペナルティーが後半は減った)
「前半は自分たちの規律の問題で自陣の22に何度も入られてしまったので、後半は規律をよくしなければとみんなに話して、そこは修正できた。あとはソフトモーメントを修正することだと思う」
(ホーム開幕戦にたくさんのファンが集まってくれた)
「本当にたくさんのファンが来てくれたことを嬉しく思います。2019年ワールドカップのあともそうだったと思うけれど、ほとんど満員のスタジアムでプレーできたことに感謝します。みなさんからはすごくたくさんのエナジーをもらっているし、私たちもファンの皆さんに勝利を届けたいとハードワークしています。今日は勝利できませんでしたが、引き続きサポートをいただきたいと思っています」
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。