アイスタで初勝利!最高の芝生で掴んだ最高の勝利!~大友信彦観戦記 3/26 リーグワン2022-23 Div.1 R13 vs.三菱重工相模原ダイナボアーズ戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
3月26日、三菱重工相模原ダイナボアーズ戦は、ブルーレヴズにとって前節のリコーブラックラムズ東京戦に続き2週連続の雨中の戦いになった。
ボールは滑る。スパイクもパンツもストッキングもジャージーも濡れ、身体を冷やし、視界を邪魔し、手元を狂わせ、ハンドリングエラーは増える。それでもブルーレヴズは、自分たちのラグビーを完遂して勝利を掴むことができた。それは、「セットプレーで相手にプレッシャーをかける」というレヴズスタイルを完遂するための、素晴らしく強い味方が存在したからだ。
それは、この日の試合が行われたアイスタことIAIスタジアム日本平の素晴らしい芝生だった。
Jリーグ清水エスパルスの本拠地として、Jリーグのベストピッチ賞を最多の9度受賞しているという極上の芝生は、降り続く雨にも素晴らしい水はけの良さで選手たちの足下を守り、深く根を張った芝はスクラムでスパイクが深く噛んでもびくともしない。
「芝生に関しては本当に世界レベル。去年もそうでしたが、スクラムを組んでもまったくめくれないで、スパイクがしっかり噛めるからレベルの高いスクラムが組める。レヴズのスタイルにとってはとても良い芝生、良いスタジアムです。またここで試合をしたい」
試合後の会見で、ゲームキャプテンの大戸裕矢は笑顔でそう言った。クワッガ・スミスと奥村翔という共同キャプテン2人は前節に続き不在。だがそんな悪条件を吹き飛ばすほどに、最高の芝生はレヴズにとって百人力の味方だった。
前節、現代ラグビーでは異例の途中交代一切なし、15人で戦い抜いたブルーレヴズは、ブラックラムズ戦からの先発変更は1人。WTB14の槇瑛人に代わり、2節前のスピアーズ戦まで11で出場していた伊東力が入っただけのほぼ同じ布陣だ。そしてダイナボアーズは、第5節で対戦して引き分けた相手。レヴズにとってはラストプレーで同点トライを奪われ勝利を逃した相手であり、ダイナボアーズから見れば最後に逆転のコンバージョンが外れて勝利を逃した相手だ。どちらにとっても決着をつけなければいけない相手。そして、大きな意味はもうひとつ。勝点21で9位のレヴズと同20で10位のダイナボアーズにとっては、入替戦回避のために重要な一戦でもあった。運命の一戦は14時、ダイナボアーズのキックオフで始まった。
試合はいきなり動いた。
相手キックオフを捕ったレヴスは、CTBタヒトゥアがヒットしたラックでノットリリースザボールの反則。開始2分、前回の対戦で最後のキックを外したダイナボアーズSOシルコックが雪辱のキックを成功する。
さらに4分、レヴズは自陣でフッカー日野剛志が相手WTBを背後から止めようとしたタックルがハイタックルとなりイエローカード。レヴズは先制された上に1人少ない10分間の戦いが強いられた。
しかしレヴズはここを耐える。自陣を背負ったラインアウトからダイナボアーズはモールを押すが、レヴズは1人少ないFWでこの押しを耐え、ゴールラインを越されても身体をねじ込んでグラウンディングを許さない。アドバンテージで戻されたPKからのアタックも14人がハードワークでディフェンスを続け、我慢比べで相手反則を勝ち取る。
ピンチを脱出したレヴズは、ひとり少ない14人で反撃に転じる。9分、相手反則で得た右ハーフウェイ手前のラインアウト。日野のシンビンにより一時交替で入った平川隼也(WTB伊東が一時的にピッチを出た)の正確なスローイングからLOマリー・ダグラスが捕球。1人少ないFWがモールを押し、相手FWが集まったところでSHブリン・ホールが右へサイドアタックし、相手DFを引きつけて右へパス。大外でパスを受けたFBサム・グリーンから内返しのリターンパスを受けたSHブリン・ホールが右中間ゴールラインに滑り込んだ。グリーンがコンバージョンも蹴り込み、7-3と逆転に成功。レヴズは1人少ない14人の10分間を7-0と差し引きプラスで終えた。
流れはさらにレヴズへ傾く。15人に戻ったところでレヴズは反則を犯し、ダイナボアーズがPGを狙うが失敗。さらに29分、ダイナボアーズはFWの中心、オールブラックスで5キャップを持つNo8ヘモポが危険なプレーでレッドカード。レヴズは残る50分間、数的優位を得て戦えることになった。31分、レヴズはまずPGを選択。10-3とリードを広げた上で、腰を据えてアタックを狙う。焦らなければ大丈夫だ――。
だがその落ち着きは、逆に自分たちのリズムを崩してしまう。
32分、自陣ゴール前ラックでボールを確保しながら時間をかけすぎ、オーバータイムでボール支配権を自ら失う。33分、そこからのディフェンスでノットロールアウェイの反則を犯し、ダイナボアーズSOシルコックにPGを決められる。さらに前半ロスタイムには14人のダイナボアーズに自陣ゴール前まで攻め込まれ、相手キックをインゴールで競り合ったSHブリン・ホールが、相手トライを防ぐため競技区域外(デッドボールラインの外)へ手でボールを出したとしてTMOの末シンビン+ペナルティートライの判定。前半のラストプレーで、レヴズは10-13と逆転されて前半を終えてしまった。
「自分も、相手にレッドカードが出た経験はあまりない。ゲームの中で、ちょっとコンサバティブ(保守的)になってしまった」と堀川隆延HCは選手をかばった。
大戸ゲームキャプテンも同じことを痛感していた。
「相手が14人になったことを意識しすぎて、簡単にトライを取れるだろうというマインドになってしまって、前半はもつれてしまった。だからハーフタイムに僕から『相手が14人ということは頭から捨てよう』とみんなに言って、相手が14人ということは頭から消して試合に入りました」
実際、後半最初の10分間はブリン・ホールのシンビンにより、戦いは14人対14人という互角の陣容。それも抜けたのはSHのブリン・ホールであり、さらに前半のトライをアシストしたFBサム・グリーンも負傷交替。攻守の要を欠いた状態でレヴズは後半の戦いを始めることになったのだ。
だがそんな逆境は、レヴズの結束力を引き出す。WTB伊東力が相手の足首に突き刺さる猛タックルを見舞う。CTB小林広人がSH役として密集から密集へ駆け回ってパスを出す。相手SOシルコックが蹴り上げた滞空時間の長いハイパントを、グリーンとの交替でピッチに入った吉良友嘉が相手CTBロナと競りながらフェアキャッチ。身長171㎝の吉良が194㎝のオーストラリア代表経験者と競り合ってボールを確保するのだ!
献身的な好プレーの連鎖はレヴズに流れを呼び込んだ。50分、ハーフウェー付近のラインアウトで相手が反則。相手陣深くに攻め込んだところでSHブリン・ホールのシンビン時間が満了。15人に戻り、再び数的優位を得たレヴズはラインアウトからタヒトゥア、河田がラックを作り、相手DFを集めておいて、逆目に走り込んだCTBタヒトゥア、小林がパスをつなぎ、WTB伊東力が右隅にしぶきをあげて滑り込んだ! トップリーグ時代の2021年順位決定戦1回戦、クボタ戦以来ほぼ2年ぶりとなるエース復活のトライ。ホールのコンバージョンは外れるが、レヴズが15-13と逆転する。
だが、14人のダイナボアーズは驚異的な復元力でレヴズに立ち向かってきた。敵陣でラインアウトを得たレヴズが遅延行為でボールを失ったところからダイナボアーズは攻め込み、61分に再逆転のトライ&ゴール。レヴズは15-20と再びリードされてしまう。
だが試合の最後の20分間、試合の主導権を握ったのはホームで戦うレヴズだった。主役は、雨中戦のカギを握るキックの蹴り合いだった。SO家村健太はイングランド代表候補経験を持つダイナボアーズSOシルコックを相手に一歩も退かずにコントロールされたキックを蹴り込み、自らタックルを仕掛けてプレッシャーをかける。家村が前に出ればWTBファリアがキックを蹴り、交替出場の吉良がチェイスしてプレッシャーをかける。そして71分、正面30mのPKから家村がゴール前に蹴り出し、ラインアウトを獲得。ラインアウト部隊のエース大戸がボールを確保してモールを押すと、アドバンテージを得たままフェイズを重ねて伊東が右中間へこの試合2本目のトライ。交替で入ったばかりのクリントン・スワートのコンバージョンは外れるが、レヴズは20-20の同点に追いついた。
前回、27-27で引き分けた相手と、残り10分で20-20の同点。つくづく力の差はない。そして、14人でここまでの戦いを演じるダイナボアーズの素晴らしさ。しかし、14人で戦い続けたダイナボアーズの選手たちには疲労が蓄積していたのだろう。ラスト10分、運動量はレヴズに傾いた。74分、キーガン・ファリアがキック合戦から一転、カウンターアタックからのチップキックで相手陣に攻め込む。ここは相手の好タックルに阻まれるが、直後にファリアが再びチップキックでチャンスメーク。このトライチャンスは大戸のラストパスがスローフォワードになりトライを逃すが(ボールが予想以上に滑ったようだ。大戸も『ボールはめっちゃ滑りました』と呆れたように言ったほどだ)相手オフサイドのアドバンテージが適用され、スワートが正面左35mのPGを成功。残り2分、レヴズが23-20と勝ち越す。
だが油断はできない。試合の最後の時間帯、レヴズは何度となく苦汁をなめてきたのだ……その集中力が、最後の時間に発揮された。3点を追うダイナボアーズとの蹴り合い。FBの位置に回ったファリアがボールを持つ。再三みせたチップキックを警戒して相手SOシルコックがプレッシャーをかけにくる。そこでファリアは一転、がら空きになった相手防御の裏へキックを落とすのだ。キックは2バウンドしてタッチへ出て50:22のビッグプレー!
50/22キック成功で得た相手ゴール前のラインアウトからモールを一気に押すと、ダイナボアーズはたまらずモールを崩してしまい、レヴズがペナルティートライを獲得。30-20と突き放し、勝負を決めた。残りゼロ分、必死のアタックを続けたダイナボアーズはPGチャンスを得るが失敗。その瞬間、レヴズの勝利が決まった。前回引き分けた相手との決着戦に勝利。今季2度目の2連勝。それも相手にBPを与えない勝利であり、アイスタでの公式戦初の勝利だ。
大戸ゲームキャプテンはこんな言葉で試合を振り返った。
「前回はラストプレーで同点にされた、その経験を活かすことができた。80分が過ぎても気持ちは切れなかったし、サム・グリーンがケガで交替したり、ブリン・ホールがイエローカードでいなくなったり、いろいろな状況があったけど、バックスリーがよく動いてくれて、ファリア選手をはじめ素晴らしいプレーをしてくれた。80分切れることなく動けたことが勝因です」
13節を戦い終え、4勝7敗2分、勝点25。レヴズは前節の9位から7位へ順位を上げた。その一方で、残酷な報せもあった。残り3試合、最大の勝点15を加えたとしても40。4位の横浜イーグルスが勝点を43に伸ばしたことで、レヴズのプレーオフ進出は消滅してしまった。
しかし「世界を魅了するプロフェッショナルクラブを目指す」を掲げるブルーレヴズに、モチベーションが揺らぐことはありえない。
「まだまだ、もっとこうすべきというところはあるし、修正しなければいけないところはあるけれど、それは伸びしろ。1週BYEを挟むので、しっかりと次の東芝ブレイブルーパス東京に勝つ準備をしたい」と堀川HCは言った。
「ブレイブルーパスには前回負けているので、リベンジの気持ちを持って準備をしたい」と大戸ゲームキャプテンも声を揃えた。
残り3節。1週のBYEをはさむとはいえ、クワッガ・スミスと奥村の両キャプテン、トライゲッターのマロ・ツイタマら、戦列を離れている負傷者が戻れるかどうかは分からない。残る相手は昨季4位のブレイブルーパス、昨季優勝のワイルドナイツ、そして最終戦はヴェルブリッツとの東海ダービー第2ラウンド、ヤマハスタジアムで宿敵を迎え撃つ。恐ろしくタフな3連戦。だが、そこでどんな戦いを見せるかが、すなわち今季のレヴズの価値を証明することになるはずだ。<了>
NEXT MATCH IS・・・
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。