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確実に見せた”成長”と出し切れなかったもの。リーグワンは始まったばかり!~大友信彦観戦記 12/9 リーグワン2023-24 D1 R1 東芝ブレイブルーパス東京戦 ~

Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)

3年目のリーグワンがいよいよ開幕した。
2023-24の開幕カードは東芝ブレイブルーパス東京戦、場所は味の素スタジアム。静岡ブルーレヴズとして初めて乗り込むスタジアムだ。

リーグワン1st CAPを味の素スタジアムで飾ることとなった新加入のチャールズ・ピウタウ

この開幕戦に、藤井雄一郎新監督を迎えたブルーレヴズは新加入のチャールズ・ピウタウをFBに据える布陣で臨んだ。NO8には昨季再ブレイクしたマルジーン・イラウア。チームキャプテンの南アフリカ代表クワッガ・スミスはチームに合流から1週間とあってベンチスタート。SHにはチーム最年長38歳の矢富勇毅が先発し、昨季加入したブリン・ホールがベンチに控える。
 
相手のブレイブルーパスには今季、オールブラックスでワールドカップを戦ってきたばかりのビッグネームが加入。藤井監督が「世界選抜みたいなチーム」と評する強敵だ。

この日の気温は19度。開幕を祝うような季節外れの陽気のもと、試合はブレイブルーパスのキックオフで始まった。
 
キックオフから主導権を握ったのはブレイブルーパスだった。ブルーレヴズの蹴り返しからフェイズアタック。キックを含め9フェイズ攻め続けてノーホイッスルの先制トライをあげる。0-5。
 
先手を取られたレヴズだったが動揺はなかった。キックオフから相手陣に攻め込み、一度はノックオンでボールを失うが、相手の蹴り返しを捕ったWTB山口楓斗がカウンターアタックで攻め込み、相手がオフサイド。このPKから左ゴール前ラインアウトに持ち込むと、日野―大戸の33歳ペアのコンビネーションでボールを確保してモール。パワー自慢のブレイブルーパスFWを固まりになって押し込み、FL庄司拓馬、LOマリー・ダグラスが圧力をかけてDFを集めたところで左に開いたNO8マルジーン・イラウアへSH矢富がパス。相手DFの隙間を突いたイラウアが左中間インゴールにボールを押しつけた。
さらに難しいコンバージョンを、今季からキッカーを務めるSO家村健太が鮮やかに成功。ブルーレヴズが7-5と逆転する。

トライまであと少しに迫る庄司の前進
最後はマルジーンが飛び込み今シーズン1stトライ!
家村も難しい角度のコンバージョンを見事決めて逆転

レヴズはこれで勢いに乗った。直後の11分にはFL庄司が相手FBにタックルしてそのままボールを奪い、WTB山口-CTBマフーザからパスを受けたゲームキャプテンのWTBマロ・ツイタマが左サイドでキック&チェイスで相手ゴール前へ走り込んでダイブ。トライか? と思われたが判定は惜しくもタッチ。しかし相手ゴール前のラインアウトでプレッシャーをかけてミスを誘うと、相手ゴール前スクラムを猛プッシュ。PKを奪うと再びスクラムを選択し、16分、スクラムサイドに持ち出したNO8イラウアがインゴールを陥れた。連続トライ。再び家村がコンバージョンを決め、14-5とする。

マロのサイドラインを駆けあがる姿に会場は大きくどよめいた
マルジーンの連続トライで波に乗る!

しかしブレイブルーパスは藤井監督が「世界選抜級」と評する才能集団だ。直後のキックオフからNZ代表SOモウンガと日本代表WTBナイカブラの絶妙なコンビネーションで、ノーホイッスルでレヴズのインゴールを攻略する。これはTMOの結果、オフサイドがあったとしてトライは認められず、命拾い。

素晴らしかったのはここからのリアクションだ。自陣10m線付近のPK。セオリーならキックでエリアを敵陣へ進めるところだが、最年長SH矢富勇毅はタップキックでクイックスタートし、SO家村が相手ゴール前にロングキックを蹴り込む。ここはブレイブルーパスのモウンガがゴール前まで戻りカウンターアタックを試みるが、レヴズのチェイスが勝った。モウンガからパスを受けた相手FBへ、FL大戸裕矢が狙い澄ましたタックルでPKを獲得。相手ゴール正面20mのPGを家村が蹴り込み、20分、17-5までリードを広げた。

試合が始まって20分、光っていたのはレヴズのアグレッシブなアタックマインドだ。意欲的な速攻。相手タックルを受けそうな場面でギリギリのパス、あるいは受けた場面でのオフロードパス、いったんパスを放した選手が再びボールを持つループプレーを多用して、積極的にオーバーラップを作ろうとする。昨季までのレヴズは自信を持つセットプレーを武器にする一方で、ボールを持ってのアタックはシンプルだった。しかしこの2023-24開幕戦では、ワールドカップ最多オフロードを決めたトンガ代表ピウタウがFBに入ったことも影響してか、果敢なオフロード、流れを止めないアタックにチャレンジする姿勢が目を引いた。

RWC2023最多オフロードパスに輝いたチャールズ・ピウタウ
ブルーレヴズ1st CAPとなったシルビアン・マフーザ
ヴィリアミ・タヒトゥアの推進力は今シーズンも凄まじかった

とはいえ、リーグワンの戦いは一筋縄ではいかない。23分、ブレイブルーパスはレヴズゴール前でラインアウトのチャンスを作る。ここはレヴズが必死のディフェンスで耐えるが、スクラムから蹴り返したボールをカウンターアタックで繋がれトライを献上。さらに30分、38分にもトライを許し、17-22と再逆転されてしまう。
 
しかしレヴズはしぶとかった。ホーンが鳴った後の42分、ブレイブルーパスに新加入したオールブラックスFWフリゼルをCTBマフーザが倒すとHO日野剛志、FL大戸裕矢が2人がかりでジャッカルに入りPKを獲得。家村が左中間43mのPGを決め、20―22と追い上げてハーフタイムを迎える。 

そして後半、レヴズはチームキャプテンのクワッガ・スミスを投入。
「クワッガは合流してからまだ時間が短いし、彼が来る前からブレイブルーパス戦の準備をしていたので(ベンチスタートから後半投入は)予定通り」と藤井監督は説明したが、世界を制した闘将はピッチに入るとすぐに見せ場を作った。家村の蹴った後半キックオフのボールをブレイブルーパスFWが持つと、いきなりジャッカルでPKを獲得。試合再開から僅か20秒の早業に、1万1553人を飲み込んだスタジアムがどよめく。

正面40mのPGを家村が落ち着いて蹴り込む。今季から「人生初」のプレースキックに取り組んでいる家村が5度のキックすべてを成功させ、ブルーレヴズが23-22と逆転に成功する。直後の42分には、クワッガと同時に投入されたルーキーCTB伊藤峻祐の果敢なタックルからFL庄司拓馬がターンオーバーをみせる。後半勝負のシナリオがくっきりと像を結び始めた――そう思った矢先だった。投入したばかりの伊藤の次のタックルが逆ヘッドになったところへ相手選手の膝が入り、HIA(頭部負傷アセスメント)で一時退場、のちに正式交替。BKもうひとりのリザーブ矢富洋則がピッチに入る。これが交替戦略に影響を与えてしまった。後半のゲームマネジメントを担うはずのブリン・ホールを投入するには、カテゴリーBかCの外国出身選手を誰か下げなければいけないが、BKの選手は使い切ってしまい、CTBタヒトゥア、FBピウタウは下げられない。残るLOダグラスは198㎝の最長身。身長2m超のツインタワーを擁するブレイブルーパスを相手にはそうそう下げられない。残る約35分、レヴズは難しいマネジメントを強いられることになった。

そこへ、ブレイブルーパスが猛攻を仕掛ける。55分、クワッガのタックルのあとの密集でFWが反則を科されて攻め込まれ、逆転トライを献上。続く58分には、クワッガが相手キックをチャージしながらそのボールが相手FWにすっぽり入り、そこからボールを繋がれて連続トライを奪われてしまい、23-36まで点差を広げられる。
 
だがレヴズは、今季就任した藤井監督が再三口にしていた「しぶとさ」を見せる。相手DFのプレッシャーを受けながらもショートパスを繋ぐアタックにチャレンジ。我慢してフェイズを重ね、60分すぎに相手ゴール前へ侵入。このラインアウトは相手DFの頑張りでモールを押し切れずにアンプレアブル。さらに相手ボールのスクラムで反則を取られて陣地を戻されるが、そのラインアウトでダグラスが相手2mジャンパーと競り合って相手ボールをスチール。ここから途中出場のリッチモンド・トンガタマ、WTB山口楓斗が前進を重ね、ツイタマが作ったラックのサイドを再びボールを持ったトンガタマがブレイク。相手タックラー2人を引きつけたところへ疾風と化して走り込んだのはクワッガだった。トンガタマからのパスを受けると、相手タックルをはじき飛ばして(ここへ来たのも相手オールブラックスのモウンガだった!)ゴールポスト下にトライ。家村がコンバージョンを蹴り込み、30-36。ワンチャンスで逆転できる6点差だ。

山口楓斗の素晴らしいラインブレイク、タックルを吹き飛ばすシーンも
FL出場となったリッチモンド・トンガタマはフィジカルの強さを見せつけた
ボールを受ける瞬間から一気に加速しトライまで突っ込んでいったクワッガ・スミス

だが、これが限界だった。前半から攻守に全開で飛ばしてきたレヴズ戦士たちの足に疲労が溜まる。29分、相手アタックのボールをクワッガがカットしたが、そこからのアタックで痛恨の再ターンオーバー。連続する攻守の切り替わりに足がついていけず、またトライを許してしまう。さらに、タックルにブレイクダウンに奮闘してきたLO桑野詠真が足を痛め、八木澤龍翔と交替。これでブリン・ホールを入れるオプションが事実上消えてしまった。それでも最後の10分間、レヴズ戦士たちは諦めずに相手ゴールを目指し続けた。72分にはWTB矢富洋則のハイボールキャッチからピウタウ、ツイタマが相手ゴールラインに迫るが、惜しくもノックオン。さらにスクラムで微妙な反則を科され、自陣に戻されたところでフルタイムを告げるホーンが鳴った。ブレイブルーパスがタッチにボールを蹴り出し、試合は終わった。

初戦は悔しいスタートを切ることとなった

「最後は何とか食らいついていこうとしたけど、相手には経験豊富な選手が多くて、試合をひっくり返すところまではいけなかった」
試合後の会見で、藤井監督はそう唇を噛みながら「やりたいことは7割くらいできた。この試合に向けて厳しい練習をしてきて、選手は頑張ってくれた。試合には勝てなかったけれど、1試合1試合強くなっていけばいい。決して悲観してはいません」と言った。
 
その思いは闘将クワッガも同じだった。
「ワールドカップの決勝から1ヵ月ラグビーをしていなかったから難しいところはあったけれど、40分プレーできたこと、パフォーマンス自体には満足している。藤井監督は、選手同士がお互いのために身体を張れる空気感を作ってくれる素晴らしいコーチだ。これからのシーズン、チームが変わっていくことが楽しみだ」

キャプテンとして過ごす今シーズン、初戦で感じた手ごたえを語る

開幕戦に勝てなかったのは悔しいが、レヴズが変身しつつあることははっきりと見て取れた。真摯な取り組みを続けていけば、きっと成果が出る――そう期待させるものがこの日の青ジャージーからは伝わってきた。
 
2023-24。ブルーレヴズはきっと、ここから強くなる。その先には、昨季とは違う景色が待っているはずだ。


大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。