勝点1。負けという現実にも、大きな成長を見せた一戦 ~大友信彦観戦記 1/13 リーグワン2023-24 D1 R5 東京サントリーサンゴリアス戦 ~
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
1月13日。ブルーレヴズは本拠地ヤマハスタジアムに東京サントリーサンゴリアスを迎えた。2024年最初のホストゲーム。前節まで2連勝で2勝2敗。順位も過去最高の6位に上がってきた。この試合に勝てばリーグワン3年目で初めての3連勝、勝ち越し。藤井雄一郎新監督を迎えて飛躍を期すブルーレヴズが、新たなステージに足を踏み入れていくことになる。
この一戦に、ブルーレヴズはこれまでとほぼ同じメンバーを並べた。変更はWTB14番、前節リザーブから今季初出場を果たしたフランス留学帰りの前主将が矢富洋則から代わり今季初先発のジャージーを掴んだ。
一方、これで5試合連続先発となるのは河田、日野、伊藤の第1列トリオ、ラインアウトを支えるダグラスと大戸、進境著しいNO8イラウア、若き司令塔SO家村、頼もしきハードワーカーでラインブレイカーのWTBツイタマとCTBタヒトゥア、そして最後尾から躍動するFB山口楓斗と10人。ここまでの4試合で学び、成長した、計算できる選手たちで、まずは目の前の強敵に立ち向かうという藤井監督の強い意思を感じる布陣だ。
試合は磐田名物と言ってもいい強い西風が吹き付ける中で始まった。メインスタンドからバックへ向かい、グラウンドを横切って強い風が吹き続ける。
試合は開始5分、サンゴリアスに新加入のニュージーランド代表サム・ケイン主将の先制トライで幕を明けた。対するレヴズもすぐに相手陣に攻め込み、ラインアウトモールを押し、スクラムを押してFKを奪い、さらにPKを獲得。10分にSO家村が正面のPGを蹴り込んで3点を返す。
ここからレヴズのアタックはリズムを掴み、サンゴリアスのゴール前に迫る。17分、相手ゴール前に攻め込んだラインアウトで大戸がスロワー返し。これは惜しくもスローフォワード。20分には闘将クワッガ・スミスが右サイドを豪快に突破して12次攻撃までアタックを継続。LOダグラスがゴール前で相手ディフェンスの壁を突き抜けるが惜しくもノックオン。サンゴリアスもさるもの、なかなか最後の一線は超えさせない。しかしレヴズには伝家の宝刀セットプレーがある。相手ボールであってもそれをチャンスに作り替えるのだ。
22分、相手ボールのスクラムにグイと圧力をかけ、ノータッチキックを蹴らせるとクワッガ・スミスが捕ってカウンターアタック。サンゴリアスは磐田初登場となるWTBチェスリン・コルビが猛タックルでタッチへ押し出す。南アフリカ代表でワールドカップ2連覇を飾った英雄の激突。ここはいったんサンゴリアスボールになるが、直後のラインアウトでレヴズがターンオーバー。さらにスクラムを押し込んでPKを奪い、さらにスクラム。これ以上反則できないところまでサンゴリアスを追い込んでおいて28分、スクラムからツイタマ、イラウア、再びツイタマが連続ラックを作るとボールを持ったのは背番号9の岡﨑だった。岡﨑はSHの練習を始めてから僅か3ヵ月。対するサンゴリアスのSHはワールドカップ2大会代表の流大。だが岡﨑の経験不足はむしろ武器だった。百戦錬磨の流の土俵に乗らず、SHの常識に縛られず自分のリズムでボールを動かす。その岡﨑がディフェンスの隙間を見つけると、CTB仕込みのフィジカルの強さを生かし、低い姿勢のままインゴールへ突き刺さった。リーグワンデビュー2戦目の初トライは逆転トライ! 家村がコンバージョンを蹴り込みレヴズが10-5とリードを奪う。
31分、クワッガ・スミス主将がサンゴリアス松島へのタックルでヘッドコンタクトがあったとしてイエローカードを出される。レヴズの守護神が抜け、数的不利のピンチ。しかし青いジャージーは、ワールドクラスのスター選手が並ぶサンゴリアスのアタックを14人で止め続ける。
直後だった。サンゴリアスはゴール前のラインアウトからモールを押し、FLケインがサイドを突く。だがレヴズはSH岡﨑が食らいつき、WTB奥村が地面に身体をねじ込み、トライを阻止。オールブラックス主将のトライをレヴズの若いBK陣が身体を張って阻んだ!
逆にレヴズはスクラムを押してPKを奪い、家村のロングキックで相手陣にエリアを進め、ラインアウトからHO日野が突破。「スクラム+キック+ラインアウト」という得意技3点セットでサンゴリアス陣に攻め込むと、今度はサンゴリアスの守護神ケインにイエローカードが出る。これで数的不利は解消した。そして38分、14人と14人になって最初のプレーで、レヴズはスクラムをじわりとプッシュ。相手ディフェンスの意識を真ん中へ集めておいて右へ展開。岡﨑―タヒトゥアの手を経てパスを受けたのは今季初先発、先ほどトライを阻むタックルを決めたばかりの奥村だった。内に寄っていた相手ディフェンスを大外に抜き去り右隅にトライ。ブルーレヴズが15-5とリードを広げて前半を終えた。
良い形で前半を終えたブルーレヴズだったが、後半開始早々、アクシデントが襲う。42分、サンゴリアスが13フェイズまで攻撃を継続し、南ア代表のコルビがレヴズのゴールに迫る。ここはシンビンから戻ったクワッガとピウタウが猛然とカバーディフェンスに戻ってトライを阻止するが、このプレーでクワッガがまさかの負傷退場。レヴズは強敵サンゴリアスを相手に、残りのほぼ40分を守護神クワッガ抜きで戦うことになってしまった。ここで藤井監督はFLに庄司拓馬を、WTBにサム・グリーンを投入する。しかし、サンゴリアスの攻撃力は想定していてもたやすくは止められない。43分、55分と連続トライを奪われ、15-17と再び逆転されてしまう。
だが、苦しい時間帯でもレヴズに光るプレーはあった。中でもレヴニスタを熱くさせたのは48分、家村のタックルだ。レヴズ陣10m線でPKを得たサンゴリアスはSH流がクイックスタート。そこでパスを受けたのがオールブラックスの英雄ケイン。そこに真正面からタックルに突き刺さったのがレヴズの背番号10家村だ。189cm103kgのケインに、176cm93kgの家村がグイと踏み込んだタックルで前進を阻止するのだ! 前節のスピアーズ戦ではウェールズ代表95キャップのリアム・ウィリアムズを自陣ゴール前で止めきった家村が、今度はオールブラックス95キャップのケインに猛タックルを炸裂させた。レジェンドキラーと呼びたくなるタックルぶりだ。
さらにレヴズの側もレジェンドを投入する。45分にピッチに送り込まれたのはチーム最年長の矢富勇毅。経験豊富なベテランながら若者のように躍動する38歳は相手の予測していないところで突然走り出し、試合に破調を生む。それは悪い流れを食い止める力、言い換えれば相手の良い流れをせき止める力だ。
そんなプレーが流れを引き寄せる。逆転された直後の60分だった。相手陣22m線付近まで攻め込んで得た左中間のスクラムから右にツイタマ、イラウア、桑野が連続で順目にラックを作ると、矢富が一転、逆目にパスアウト。さらに家村がクイックでフラットな飛ばしパスを左に走り込んだグリーンに送った。グリーンが左中間に豪快にダイビングトライ。20-17とレヴズが再び逆転する!
さらに63分。相手陣10m線でサンゴリアスのパスが乱れたところへ山口、タヒトゥア、イラウアが殺到してPKを奪う。ここでまたクイックスタートを仕掛けたのが矢富勇毅だ。猛加速で前進すると、相手DFの陣形を見て真横にステップを切り、大きく左に流れて相手DFを幻惑。左隅でパスを受けたツイタマからタッチに出ずにボールを残すと、そこに駆けつけ今度は右へパス。家村-タヒトゥア-グリーンと渡ったパスを左隅で受けたのはFB山口だ。ポケットロケットと異名を取る相手コルビの172cm80kgよりもさらに小柄な167cm76kgの和製ポケットロケットは、ゴール前でサンゴリアス尾崎晟也のタックルを受け体勢を崩しながらも右隅インゴールへダイブ。25-17とリードを広げる。ヤマスタに集結した6465人がどよめき、歓声をあげる。
最後の10分、レヴズは逃げ切りを図りHO平川隼也、PR茂原隆由のフレッシュレッグズを投入する。だがしぶとさを見せたのはサンゴリアスだった。スクラムで圧力をかけ、70分、コルビが特大ステップでレヴズDFを抜いてトライを返し25-22の3点差に迫る。さらに75分、サンゴリアスが再びレヴズゴール前へ。このラインアウトはLO桑野詠真が値千金のスチールを決めてピンチを逃れるが、次のラインアウトからサンゴリアスは再びアタックをかけ、19フェイズまで攻撃を継続。レヴズも粘り強く反則せずに守り続ける。ギリギリの攻防が続くが、ボールを奪うことはできない。最後は78分、サンゴリアスのNO8箸本龍雅が右隅に飛び込んだ。SO髙本幹也がコンバージョンを決め、25-29。レヴズはサンゴリアス戦9年ぶりの勝利まで、あと2分と迫りながら、勝利は手からこぼれ落ちた。
望んだ結果は得られなかった。レヴズ初のリーグワン3連勝、白星先行は次のチャンスに持ち越しとなった。だがそれでも、スター軍団サンゴリアスを極限まで追いつめた80分間の戦いぶりは、レヴズの進歩を証明していた。
最後の場面では、ここでクワッガがいれば……と思ったレヴニスタもいただろう。だがクワッガ抜きでも反則せずに19フェイズまで守り続けたディフェンスは見応えがあった。サンゴリアスの左右への展開を忠実に追い続け、タッチに押し出す寸前までプレスし続けた。負けという現実に違いはないが、得るものの多い負け。7点差以内の勝点1を超える価値のある1敗だった。
「勝利はそこまで来ていたけれど、なかなか……」
試合後の会見。そう切り出した藤井監督は、続けて言った。
「選手は精一杯やってくれた。スター軍団を相手に、これ以上のモノは求められないかなというような試合をしてくれた。しっかり前を向いていきたい」
それは、1月13日現在の実感だった。
リーグワンはこれで第5節を終了。カンファレンスAの1巡目を終え、次節からはカンファレンスBとの交流戦だ。第6節はまず、花園近鉄ライナーズをヤマスタに迎える。相手はここまで1勝5敗と不振だが、元日本代表監督の向井昭吾監督を迎え、昨季とは別人のしぶとい戦いを見せている。
侮れない。だからこそ、リスタートの相手には相応しい。
サンゴリアスとの再戦は4月19日。そこまで成長を続けたブルーレヴズはきっと、別のチームになっている。付け加えれば、この日、U29スタッフの企画で初めてレヴズの応援に訪れた新しいファンも、その頃には新しいレヴズファミリーに加わっているだろう。
1月13日は、2024年ブルーレヴズ進撃の原点として記憶されるはずだ。
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。