下を向いている時間はない。~大友信彦観戦記 4/27 リーグワン2023-24 D1 R15 コベルコ神戸スティーラーズ戦 ~
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
4月27日、静岡ブルーレヴズは東大阪市の花園ラグビー場でコベルコ神戸スティーラーズと対戦した。NTTリーグワン2023-24 D1の第15節。プレーオフ進出という目標は、ブルーレヴズはサンゴリアスとの引き分けで、スティーラーズはスピアーズ戦での敗北で、ともに前節で消えていた。しかし、目標が消滅したわけではない。プレーオフがどうなろうが、リーグ戦が続く以上はファンに勝利を届けなければならない。
シーズンはすでに15試合目。激戦の連続で疲労は蓄積している。サンゴリアス戦からの先発変更は3人。PR茂原とLO大戸がリザーブから先発に繰り上がり、前節は欠場したLOダグラスとWTBファリアが先発に戻った。リザーブには過去2戦、後半からの反撃の起爆剤になったPRショーン・ヴェーテー、NO8シオネ・ブナ、FLジョーンズリチャード剛、SHブリン・ホールが控える。負傷者が続出する中でも第10節から3連勝と2引き分け、5戦負けなしで来ているレヴズ。目指すは残り2戦に勝ち、ひとつでも順位を上げてフィニッシュすることだ。
しかし、試合は開始早々から神戸のペースで進んだ。
1分、相手キックに戻ったSO奥村が相手タックルを背後から受けて右足を痛める。奥村はなんとかプレーに復帰したが、神戸に先制トライを奪われたあとの6分にはWTBファリアがやはり相手キックに戻ろうとして体勢を崩し、右腿を負傷。いったんはプレーに戻ったが、10分にファアウリと交代。ファアウリがCTBに入りマフーザがWTB11へ、槇が右WTBの14に回った。この試合、レヴズはリザーブを通常のFW5:BK3ではなくFWを6人に増やして臨んでおりBKは2人。早い時間での予定外の交替は、この後の交替戦略に影を落とす。
その心配は現実になった。神戸は前節までの戦いぶりとは別人のようにスピーディーにボールを動かし、人も動くアグレッシブな攻撃ラグビーを展開。プレッシャーを受けたブルーレヴズはすべてに後手を踏んでしまう。18分には不利な体勢でのタックルを強いられた際に右腿を痛めたピウタウが退場。BKのリザーブはもうSHのブリン・ホールしか残っていない。藤井監督はホールをSHに入れ、岡﨑がSHから古巣のSOへ。SOの奥村はWTB11に回り、ピウタウの抜けたCTBにはマフーザがWTBから戻り、ファアウリとCTBペアを組んだ。試合はまだ4分の1も進んでいない時間帯での大幅なフォーメーション変更だ。レヴズはこれまでも多くの選手を複数のポジションで起用してきた。移動したとは言え誰もがもともとプレーしていた、あるいはプレーしたことのあるポジションだった。この組み合わせで試合や練習を多く重ねてきたわけではない。それでも試合は続けるしかない。
だが、組み替えたBKラインの連携はスムーズに機能しない。そこへ神戸がこれでもかと高速アタックを畳みかける。神戸は20分、25分、31分とわずか10分間余りで3トライを量産。ブルーレヴズはほとんど相手陣に入ることもできずに前半40分間の戦いを終えてしまった。ハーフタイムのスコアは屈辱とも言える0-28。
それでも戦いに臨むレヴズにあきらめの文字はない。後半のスタートに当たり、藤井監督はリザーブから大量5人を一斉投入するのだ。PR茂原に代えて山下憲太、伊藤平一郎に代えてショーン・ヴェーテー、LOダグラスに代えて桑野詠真、NO8イラウアに代えてシオネ・ブナ、そしてFL庄司に代えてジョーンズリチャード剛。40分を残し、ベンチにはもうトンガタマしか残っていない。
あくまでも攻める。それはレヴズの魂だ。事実、2週前のスピアーズ戦では0-26までリードされたところから反撃。ハーフタイムの7-33という26点差を後半に攻め返し、31-31のドローに持ち込んだ。26点差を追いつけたのだから28点差を追いつけないわけがない。ビジターの大阪まで駆けつけたレヴニスタの声援が花園ラグビー場のスタンドに響く。反撃へGOあるのみだ。
そして始まった後半早々、レヴズは前半とは別人のようなアタックを見せた。相手キックオフを捕ると自陣からFLトゥポウ、CTBマフーザがオフロードパスを繋ぎ、SHホールがキック。神戸DFが必死に戻ったところへ一斉にチェイスをかけ、神戸陣侵入に成功。44分にはハーフウェー付近まで戻されたところでスクラムを押してアドバンテージを獲得すると岡﨑がラインブレイク。さらにマフーザからブナと繋いで神戸陣22m線に侵入。フェイズを重ねてPKを獲得すると、SHホールが迷わず速攻に出てブナ、大戸、トゥポウ、ヴェーテーが執拗に縦に突進し、トゥポウがポスト下にボールをねじこむ。TMOの末にグラウンディングが認められ、ブルーレヴズはようやくこの日の初得点。奥村のコンバージョンも決まり7-28。レヴズが追撃態勢に入った!
しかし、良い流れは続かなかった。相手キックオフを捕ったレヴズは自陣からアタックを仕掛ける。大きくリードされ、時間は減ってゆく。キックでボールを相手に渡すのは避けたいし、今季のレヴズは自陣からでもアグレッシヴにボールを動かし続けるアタックを続けることで調子を上げてきたのだ――だがキックを使わないレヴズのアタックを見切った神戸は前線でプレッシャーをかけ続ける。レヴズは急遽アタックラインを組み替えた状態だ。神戸ディフェンスのプレッシャーは、急造ラインには重荷だった。ボールを継続しても、自陣でフェイズを重ねる中で綻びが出る。ボールを奪った神戸はオールブラックスの世界最優秀選手、ブロディ・レタリック、アーディー・サベアの2人を軸に高速アタックを仕掛ける。53分、55分、61分と分刻みの連続トライ。気がつくと、スコアは49-7まで開いていた。試合時間は20分近く残っているのに、初戦でブレイブルーパスに奪われた43点を上回る今季最多失点を喫してしまった。
このままでは終われない。その思いが実ったのは63分からのアタックだ。キックオフを短く蹴ってボールをキープ・敵陣ステイに成功すると、FWが愚直に前進。10フェイズを重ねたところでPKを得るとゴール前のラインアウトへ。いったんはボールを奪われても諦めずにトライラインを目指し、正面でPKを得ればブナ、山下、トンガタマ、ブナが遮二無二前進。最後はボールをピックした大戸に、マフーザのHIAで再出場していたダグラスがバインド。両LOの献身的なレッグドライブが堅かった神戸DFの壁をこじ開けた。奥村のコンバージョンも決まり、14-49。時計はもう70分を指そうとしていた。
すでに勝負は決していたかもしれない。それでもレヴズ戦士は戦い続けた。自陣に攻め込まれてもジョーンズリチャード剛が渾身のタックルを浴びせ続けた。ボールを奪えば、FWもBKもなく、はるか遠い相手トライラインへ向かって懸命に足を動かした。リザーブは57分にHO日野に代えてトンガタマを投入した時点で使い切った。マフーザがHIAで退場すれば一度ベンチに下がっていたダグラスがピッチへ入り、フランカーのトゥポウがBKに回った。総力戦だ。
「GO! GO! REVS!」
花園ラグビー場のスタンドに、遠く大阪まで駆けつけたレヴニスタたちの声援が響いた。このままでは終われない。
76分にトライを奪われたが、次のキックオフで敵陣に入ると79分、相手ゴール前でパスを受けたジョーンズリチャード剛が相手タックルを受けて体勢を崩しながら身体を捻ってインゴールへ。TMOの末にトライが認められた。どれほど点差をつけられようが戦い続ける。そんなレヴズ魂の発露、まさしく意地のトライだった。
そして試合は、神戸がロスタイムにもうひとつトライを加えて終わった。スコアボードには「63-19」という大きな数字が残った。
「今日は神戸さんにやりたいようにやられて、ウチはエンジンがかかるのが遅かったのと、ケガ人が出て噛み合わなかった。80分を通してそういう試合でした」
試合後の会見で、そう切り出した藤井雄一郎監督は「若い選手には経験になったし、建て直して最終戦に備えたい」と続けた。
庄司拓馬ゲームキャプテンは「自分たちがやるべきことを神戸にさせてもらえなかった。神戸はやりたいことをやった。でも下を向いている時間はない。最終戦のホストゲームに向けて準備をしたい」と前を見た。
15節を終えて6勝7敗2分け、勝点は33のまま。他会場では、前節まで勝点1差だったスピアーズとヴェルブリッツがともに勝利。レヴズが次戦で勝点5を加えて38とし、ヴェルブリッツと勝点で並んだとしても勝ち数で下回るため、順位で上へ行くことはできない。この結果により、ブルーレヴズの今季の順位は「8位」に確定した。リーグワン3年目、3年連続の8位。
最終節で勝っても負けても順位が変わらない。結果を求められる勝負の世界に生きるアスリートにとっては複雑な位置づけかもしれない。だが、順位などに影響しないからこそ、この試合はレヴズそのものの価値を発信できる、発信しなければならない試合になる。負傷者が続出しているのも事実だ。その現実を踏まえて、今できるベストの試合をレヴニスタに見せることがブルーレヴズの使命だ。
5月5日のヤマスタ。相手は12月9日の開幕戦で敗れた東芝ブレイブルーパス東京。
5ヵ月の間にブルーレヴズがどれだけ成長したかを示すための一戦だ。来季に繋がる戦いを、そしてレヴニスタたちが、来季を待ち遠しくなるような戦いを見せてほしい。
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。