苦しんだ分だけ学びがあり、また強くなれる。~大友信彦観戦記 3/9 リーグワン2023-24 D1 R9 横浜キヤノンイーグルス戦 ~
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
3月9日、ブルーレヴズはリーグワンになって初めて九州での公式戦を迎えた。大分・レゾナックドーム大分での横浜キヤノンイーグルス戦。
ヤマハ発動機ジュビロ時代は2018年11月にカップ戦のサニックス戦を福岡レベスタで戦って以来5年4ヵ月ぶり、公式戦に限ると2017年9月のキヤノン戦を大分ドームで戦って以来6年半ぶりに乗り込む九州の地。
久々の公式戦での九州上陸。とはいえ、PR伊藤平一郎は福岡県生まれで高校時代は地元・大分舞鶴で過ごした。HO日野剛志とLO桑野詠真、FB山口楓斗は(さらに五郎丸歩CROも)福岡県、SH岡﨑航大とリザーブPR山下憲太は長崎県出身で、九州との縁は深い。何より、ブルーレヴズはほんの1ヵ月前に同じ大分県の別府市で強化合宿を張り、シーズン再開に向け牙を研いでいた。1ヵ月のインターバルのあとともに勝点ゼロの2連敗と悔しい結果の続いたレヴズにとって、リスタートの地へ戻ってきて戦えることはむしろ幸運に思えた。
レヴズはこの試合に、ワイルドナイツに完敗した前戦から先発5人を変更して臨んだ。
注目は前節主将を務めた庄司拓馬に代わりFL7で今季初先発入りしたジョーンズリチャード剛だ。昨季は第4節のブラックラムズ戦でリーグワン初先発を果たすとシーズン最後まで背番号7を手放さず、献身的なタックルでチームに貢献してきたハードワーカー。今季はここまで4試合にリザーブ入りし、途中出場でタックルに走り続けてきた。ファンの間ではリーグワンで最高のタックラーとも囁かれるハードヒッターは、チームを覆っていた悪い流れを変えてくれるはずだ。
他にはPR1山下憲太に代えて茂原隆由、SH矢富勇毅に代えて岡﨑航大、SO家村健太に代えてサム・グリーン、そしてCTBヴィリアミ・タヒトゥアに代えて槇瑛人をWTBに入れ、前戦ではWTBだったシルビアン・マフーザをCTBに起用。先発を外れた5人のうち庄司以外はリザーブに入って出番に備えた。ゲームキャプテンを任されたのは今季、一貫してハードワークを続けるLOマリー・ダグラス。主将のクワッガ・スミスと副将の庄司拓馬がともに欠場する非常事態にあっても前節までの戦いを否定せず、かつ流れを変えよう、チームを活性化させようという指揮官のメッセージが伝わってくる布陣だった。
試合は9日12時、ブルーレヴズのキックオフで始まった。グリーンが蹴った、10m線を僅かに越える短いボールをゲームキャプテンのダグラスが競り、こぼれ球を掴んだのがここ大分で高校時代を過ごしたPR伊藤だった。そのまま相手陣深くまで攻め込み、SOグリーンがさらにキック。このボールはイーグルスが確保したが、相手ゴール前でのラックから相手SHのキックに襲いかかったのが再び伊藤だ。身長175㎝の身体をいっぱいに伸ばしてキックをはたきおとすのだ!
このチャージで得た相手ゴール前5mのファーストスクラム。ここでも伊藤を先頭にレヴズFWの8人は思い切り相手にプレッシャーをかける。相手DFの意識が内側に向いた瞬間だった。SH岡﨑からパスを受けたCTBマフーザは相手DFの動きを読み、左隅でフリーになっていたWTBマロ・ツイタマにロングパス。ノーマークになっていたツイタマは悠々とゴールライン左隅を駆け抜けた。グリーンのコンバージョンは外れたが、レヴズは開始2分で早くも5点を先制した。
最高の立ち上がりを見せたレヴズはその後もボールを支配して試合を進めるが、イーグルスも勤勉にディフェンスしてボールを奪う。11分、レヴズは自陣ゴール前に攻め込まれながらジョーンズが相手パスをインターセプトしてピンチを逃れる。そこからWTB槇がカウンターアタックを仕掛け、一度ハーフウェー手前まで陣地を戻すが、フェイズを重ねたところでラックでボールを失ってしまう。カウンターアタックに出た途中でのターンオーバーは致命傷だ。イーグルスの速攻に対応するDFはおらず、13分、簡単にトライを返されてしまった。5-5の同点。さらに直後の16分には自陣のラインアウトからの2次攻撃でSOグリーンのキックがチャージされ、連続トライを浴びてしまう。5-12。
試合はそこから拮抗した。互いにチャンスを作りかけてもディフェンスの圧力が上回り、アタックを継続できない。
主役は今季初先発のFLジョーンズリチャード剛だった。日本代表でも活躍し、フィジカルモンスターと恐れられた横浜NO8アマナキ・レレイ・マフィの突進にも臆せず低い姿勢で猛タックルしてはすぐに身体を反転させて起き上がり、次のフェイズでも先頭でタックルする脅威のワークレート。レヴズは得意のラインアウトで圧力を受け、味方ボールを何度も失い、地域獲得でもボール支配でも圧倒されながら、ジョーンズを先頭にした粘り強いディフェンスで食い下がった。40分、イーグルスに自陣ゴール前まで攻め込まれながら、レヴズは9フェイズまで攻撃を止め続けてノックオンを誘う。前半は5-12という僅差で終えた。
後半は流れを変えたいレヴズだったが、再開早々に不測の事態が襲う。青春を過ごした大分での試合に試合開始から活躍していたPR伊藤が腰を痛めて交替してしまう。代わって入ったPR西村もここまで全試合にリザーブから途中出場してスクラムを支えてきた実力者だが、イーグルスのプレッシャーに安定感を欠いていたレヴズのこの日のスクラムを修正するのは簡単ではなかった。
拮抗していた状況が傾いたのは46分だった。ディフェンスで相手の連続ノックオンを誘って相手陣に攻め込んだレヴズだったが、フェイズを重ね、相手陣22m線まで攻め込んだところでノットリリースザボールの反則。ここからイーグルスの反撃を浴び、49分に自陣ゴール前のスクラムからトライを献上。さらに53分にも相手の元日本代表SO田村優の見事な50:22キックで攻め込まれ、連続トライを奪われてしまう。
今季初めて司令塔役を担ったレヴズSOグリーンは積極的にボールをキャリーしてチャンスメークを狙うが、この日はやや空回り気味。キックを活用してクレバーなゲームメークをしたイーグルスの田村に対し、結果的に自陣で戦う時間が多くなり、レヴズは敵陣に入る前にエネルギーを消耗してしまったように見えた。54分、スコアは5-22と開く。
しかしレヴズは諦めなかった。次のキックオフ直後、相手の日本代表FB小倉のキックをレヴズHO日野が腕を伸ばしてチャージ。転がったボールを拾って蹴った相手SO田村のキックを今度はジョーンズリチャード剛がチャージ! インゴールに弾んだボールに自ら飛び込んで押さえてトライ! グリーンが蹴った深いキックオフを諦めずに追ってプレッシャーをかけた2人の執念がトライを生んだ。グリーンのコンバージョンも決まり、56分で12―22の10点差。次に点を取れば、ワンチャンスで逆転可能な射程圏に入る。レヴズはここでHB団を矢富勇毅―家村健太のペアにチェンジ。ギアを上げて追い上げを狙う。
だが勝負のラスト20分、レヴズのシナリオは残念ながら崩れた。
誤算はセットプレーだった。
62分、自陣ゴール前のラインアウトで相手ボールからモールを押し切られてしまう。65分には逆にレヴズがPKから相手ゴール前でラインアウトのチャンスを得るがイーグルスにスチールを許す。68分にはフェイズを重ねたアタックで途中出場のCTBタヒトゥアが相手ゴール前までボールを持ち込み、やはり途中出場のPR西村が相手タックルに耐えてトライ。
17-29と再び追い上げたが、反撃はそこまでだった。SH矢富のフラットなパスが味方に通らず、スクラムでは劣勢を取り返そうとするあまりか、気が逸ってアーリーエンゲージの反則を取られ、攻め込まれて75分、16フェイズにわたる連続攻撃を耐えながらトライを奪われた。その後も家村のキックオフがノット10mとなり、ラインアウトでボールを奪われ、スクラムで反則を取られ、反撃の糸口さえ掴めず、最後は17-34のダブルスコアで敗れた。3週連続で勝点ゼロの完敗。
試合後、藤井監督は厳しい口調で振り返った。
「お互いに大事な試合だった中で、イーグルスさんの勝ちへの執念が上回ったと思う。ディフェンスでかなりプレッシャーがかかってしまい、不必要なペナルティーもいくつかあった。こういう試合であれだけペナルティーをするとなかなか厳しい。スクラムもタイミングが合わなくて、セットプレーでバタバタしてしまったのが敗因」
公式記録のペナルティー数はイーグルスの6に対してレヴズは11。前節まではイーグルスとともに反則数がリーグ最少だったレヴズだが、この日は規律の面でも崩れてしまった。
「ペナルティーでリズムが崩れて、なかなか敵陣に入れなかったし、スクラムで優位に立ちたかったところで逆にペナルティーを取られた。対策も立ててはいたけれど、うまくいかなかった」
初めてゲームキャプテンを担ったダグラスの口調も重かった。
「トライを取ってもすぐにまたトライを与えてしまった。規律にも問題があって、アタックでも我慢できずにボールをキープできずにターンオーバーを許してしまった。自陣でプレーする時間が長くなってしまったのが敗因。スクラムは相手が我々を研究して、バインドのところから体重をかけて早目にヒットしてきた。我々には難しいスクラムになってしまった」
リーグ戦は折り返しを過ぎた。9節を終えて3勝6敗、勝点は16から上乗せできず、過去2シーズンの最終順位を下回る9位に落ちたまま。ターゲットとする4位のコベルコ神戸スティーラーズの勝点29までは13差と開いた。
だが、悔しい戦いの中にも光明はあった。それは初先発したジョーンズリチャード剛のみせた連続タックルであり、4試合連続トライを決めたマロ・ツイタマの決定力だ。相手が強かろうが何だろうが、2人がみせた常に高いテンションとクオリティーでひたむきにプレーを遂行する姿は本来のレヴズらしさの象徴だ。そして、相手ゴール前まで走り続けたHO日野剛志の猛チャージ、FB山口楓斗の攻撃的なハイボールキャッチ、密集の下敷きになってでもハードワークを遂行した大戸裕矢、短い出場時間でも果敢なタックルに身体を張ったSO家村健太、ブレイクダウンで頑健に働いた桑野詠真とマリー・ダグラスの両LO……個々の選手、個々のユニットが機能していなかったわけではない。それはきっとボタンの掛け違い、ギアの歯飛びのようなもの。かみ合いはじめれば、パフォーマンスは劇的に変わるはずだ。
この事態を予測していたわけではないだろうが、藤井監督は開幕前のインタビューでこう言っていた。
「必要なのは、ゲームを重ねながら成長していくこと。目標を『成長』に置けば、1回2回負けたとしても落ち込む必要はないし、試合には負けたとしても得られるものはある」
負けの数は当初のイメージよりも速いペースで増えているかもしれないが、負けからしか学べないこともあるなら、レヴズは想定していた以上に学び、成長しているはずだ。
今は迷宮を彷徨っているように見えるかもしれない。だが苦しんだ分だけ学びはあり、また強くなれる。目の前の勝ち負けや順位に一喜一憂するのは控えよう。
ブルーレヴズ2023-24の戦いは、まだ真ん中を過ぎたばかりなのだ。
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。