12,203人と見た、7ヶ月後への課題~大友信彦観戦記 4/23 リーグワン2022-23 Div.1 R16 vs.トヨタヴェルブリッツ戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
晴れ渡った空の下、ヤマハスタジアムには次々と人の波が押し寄せていた。静岡ブルーレヴズの2022-2023年シーズン最終戦。いつにも増して熱気を感じるのは、前節、ブルーレヴズが王者ワイルドナイツを破ったことも影響していたはずだ。我らがレヴズはこんなに素晴らしいチームなんだと、すべてのレヴニスタが誇らしく思った1週前の熊谷での大活劇。その素晴らしい戦いをみせた選手たちをみんなで迎えたい、ホームのヤマハスタジアムに帰って戦う姿を見届けたい、今季最後の戦いを見逃せない……たくさんのレヴニスタの思いが伝わってくる光景が、スタジアムのあらゆるところに見られた。
熱を持って臨んだのはファンだけではない。次々と来場するファンには、この日のために1万枚用意された「レヴシャツ」が配られ、1万2000人の観衆を飲み込んだヤマスタのスタンドはブルーに染まった。入り口のレヴニスタ広場にはレヴズとヴェルブリッツのグッズショップ、同じ静岡を拠点とする女子チーム・アザレアセブンのグッズショップ、多彩なスタジアムグルメのキッチンカーに加え、仮面ライダーギーツショー、階段を上がったキッズパークではふれあい動物園、ふわふわ迷路など子どもを楽しませる企画も盛りだくさんに組み込まれていた。これほど小さい子どもの多いラグビー場は初めての経験だった。しかも(僕の周りで聞こえてきた声を聞く限り)子どもたちも退屈していない、選手の名前が子どもたちにも認知されていた。レヴズの選手たちが長い間、学校を回ってのラグビー教室など普及活動に尽力してきた成果だろう。
最終戦の相手はヴェルブリッツ。関西社会人リーグ時代から目標にしていたチームであり東海地区のライバルだ。今季は開幕戦で対戦し、26-31で敗れていた。互いに、すでにプレーオフ進出の可能性は消え、入替戦に回る可能性も消えていた。だがリーグワンに消化試合など存在しない。すべての試合において、見に来てくれたサポーターに勝利を届け、一緒に勝利を喜ぶことを目指す。それこそがミッションであり、それはリーグワンのあらゆるチームが同じはずだ。
この試合に、レヴズは前節のワイルドナイツ戦のメンバーを基本に挑んだ。変更は、左PRに出場停止の解けた河田和大が戻り、右WTBには第8節の神戸戦を最後に欠場の続いていた共同主将のWTB奥村翔が戻った。同じく共同主将のクワッガ・スミスは戻れず、スタンドから戦いを見守ったが、苦しみながらも成長を続け、ステージを上げてきたシーズンを締めくくる試合に臨むには相応しいメンバー23人がジャージーを着て最終戦に臨んだ。
23日14時、試合はヴェルブリッツのキックオフで始まった。レヴズは風上に立ち、キックオフレシーブからのゲームスタートだ。
先制したのはトヨタだった。14分、ラインアウトモールを押し込み、サイドに持ち出したSH福田健太がレヴズ大戸裕矢のタックルに耐えてボールを生かし、フェイズを重ねたゴールライン寸前のラックからCTBロブ・トンプソンがインゴールに飛び込んだ。
さらにヴェルブリッツは21分、右ゴール前のラインアウトからFWが波状攻撃をかけ、イングランド代表32キャップのLOローンチブリーがトライ。得点ランキング2位のティアーン・ファルコンがコンバージョンを決める。試合の最初の4分の1で、レヴズはいきなり14点のビハインドを負ってしまった。
レヴズに流れが来たのは23分だった、相手陣の混戦でLOマリー・ダグラスがボールを奪い、攻撃を継続したところで、相手No8ラウタイミがレヴズのPR伊藤平一郎にノーボールタックルしてしまいイエローカード。直後、相手ゴール前でラインアウトのチャンスを得たレヴズは、スコットランド出身LOマリー・ダグラスのキャッチからモールを一気に押し切り(イングランド人に負けるわけにはいかないスコッチ魂!)26分、日野剛志が3試合連続の今季9号トライを決める!奥村主将の狙ったコンバージョンはポストに嫌われ外れるが、レヴズは5-14と反撃体勢に出た。
レヴズはここで一気にたたみかけたい。数的優位はまだ6分残っている。ここはパスを繋いで、人数勝負で突破を図るが――ヴェルブリッツもさるもの、ワークレートをあげ、数的不利を感じさせないタックルでレヴズの攻撃を寸断する。そこからSO家村は一転、キックで敵陣侵入を図る。家村がロングキックを蹴り込み、ヴェルブリッツのFBファルコンが蹴り返せば、次はレヴズのFBファリアが蹴り返す――その応酬が10本続いたところで、ファリアが相手キックをチャージした。チャンス! しかしこのボールは、チャージでオンサイドになった相手WTBヴィリアメ・ツイドラキの手に入り、さらにパスを受けたトンプソンが走り切って右隅にダイビングトライ。この難しい位置からのコンバージョンをファルコンが決める。数的不利を感じさせないヴェルブリッツの奮闘は、敵ながら見事だった。
……と感心している場合ではない。このままでは数的有利の10分間に逆に点差を広げられてしまう。直後のキックオフ。家村が深く蹴り込んだボールをLOダグラス、FL大戸が猛然とチェイスし、ボールを掴んだ相手CTBトンプソンに突き刺さる。ここまで2トライをあげているヴェルブリッツのキーマンからボールを奪い取ったレヴズはそのまま相手ゴール前に殺到してPKを獲得。ゴール正面5mのPK。レヴズは迷わずスクラムを選択。青の8人は7人で組んだヴェルブリッツのスクラムをまっすぐ押し込む。ヴェルブリッツの7人はずるずると下がる。このまま行けばスクラムトライだ――だがアドバンテージが出たところでSH矢富は右へボールを持ちだした。トライを確信しての展開。そして3フェイズで、FL大戸がラックの中でボールを押さえた。手束レフリーがトライを宣告する――しかしTMOからチェックが入った。前にいる味方選手の足が邪魔になっていたとしてアクシデンタルオフサイドと判定され、トライはキャンセルとなってしまう。
とはいえアドバンテージは生きていた。同じ位置のPKでレヴズはスクラムを選択。ヴェルブリッツも今度はBKを減らしスクラムを8人で組み対抗する。結局、3度スクラムを組み直した末にスクラムからパスを受けたSO家村が相手DFの隙間に猛然と走り込み、そのまま左中間インゴールにトライ。
「大学時代もほとんどトライは取っていない」というルーキーがトライを決めれば、奥村主将がコンバージョンを成功。レヴズは12-21で前半を終えた。0-14の入りを考えれば追い上げての折り返し。だが風上という条件を考えれば、9点のビハインドは重い。
後半は風下に回る。先に点を取らないとズルズル行ってしまう――そんな危機感を持ったレヴズには早々に得点チャンスが訪れた。キックオフからの最初のプレーでヴェルブリッツがオフサイド。正面のPGを奥村が蹴り込み15―21の6点差に迫る。さらにレヴズはファリアのカウンターアタック&キックで敵陣侵入に成功。スクラムを組めば、サイズで劣る青ジャージーの8人がヴェルブリッツの8人を押し込む。不利な風下に回ったことなど忘れさせるようなアタックが続く――だが再びエアポケットが訪れた。
47分、相手陣22m線付近ラインアウトからのアタックでジョーンズリチャード剛が孤立してしまい、ノットリリースザボールの反則。ここでレヴズの選手たちが一瞬、ボールから目を離した瞬間を相手は見逃さなかった。ヴェルブリッツのSH福田健太がクイックタップで出てキック。慌てて戻った家村がレヴズゴール前で弾んだボールを掴もうとしたところへ追いかけてきた福田がタックル。こぼれ球に走り込んだヴェルブリッツのWTB高橋汰地がインゴールに押さえた。一瞬のチャンスにトライを取りきった、再び、敵ながらあっぱれのトライ。ゴールも決まり15-28。
だがこのトライはゲームを動かした。レヴズの反撃のエンジンが回り始める。直後の51分、レヴズは自陣で相手キックを捕ったFBファリアのカウンターアタックからフェイズを重ね、CTBレイウアからパスを受けたツイタマがトライ。奥村のコンバージョンも決まり22-28。さらに56分、スクラムのコラプシングで得たPKで相手ゴール前に攻め込むと、スクラムで再びPKを獲得。途中出場で入ったばかりのSHブリン・ホールがクイックで仕掛け、CTBタヒトゥアが無人のインゴールへ走り込んだ。トライ!逆転を狙った奥村のコンバージョンは外れたが、27-28の1点差に迫り、試合はラスト20分に入る。
試合はギリギリの攻防に入った。ヴェルブリッツも次のキックオフからレヴズ陣に攻め込むが、ここはFBファリアが自陣ゴール前で相手選手からボールを強奪してピンチを脱出。65分には再びヴェルブリッツがレヴズ陣22m線まで攻め込むが、スクラムでレヴズは相手8人を完璧にめくりあげてPKを獲得。しかもここでヴェルブリッツのPRにこの日2枚目のイエローカードが出る。勝負のかかったラスト15分、レヴズはまた数的優位を得た。しかしこのPKを家村が痛恨のノータッチ。蹴り返したヴェルブリッツがPKを獲得してファルコンがPGを決め、31-27と4点差に広げる。
それでも、数的優位を得ているレヴズにとって、3点と引き替えに敵陣へ入れるのは悪くない取引だ。実際、次のキックオフでダグラスが相手と競り合ってノックオンを誘い敵陣ステイに成功。敵陣でスクラムを組めばそれ自体がチャンスであるレヴズだが、ここでは数的優位も得ている。そして71分、相手ゴール前5mスクラムでヴェルブリッツが反則。レフリーがヴェルブリッツの姫野主将を呼び「次に同じ反則ならまたカードが出るよ」と注意を与える。そのPKでレヴズは再びスクラムを選択。押し切ればスクラムトライ、相手が崩せばペナルティトライ、どちらにせよ逆転だ――。
だがそのシナリオは崩れた。スクラムで相手にプレッシャーをかけたレヴズは逆にコラプシングの反則を取られてしまうのだ。平川レフリーは「頭が下がってる」と指摘した。
シナリオが崩れ、自陣に戻されたレヴズに、焦りの色が覗き始める。76分、ハーフウェー付近でレヴズが反則を犯すと、ヴェルブリッツは自陣からショットを選択し、FBファルコンが直線約55mのロングPGを成功。34-27の7点差まで点差を広げたヴェルブリッツに対し、レヴズは反撃の手段を見つけられない。キックオフを蹴ってもすぐ自陣に戻され、78分にも反則を犯し、ヴェルブリッツのファルコンがPGを成功。ヴェルブリッツは37-27の10点差に広げ、レヴズのBPも消して試合を終わらせた。
この日も、芝の上で演じられた80分の戦いに、力の差は感じなかった。どちらに転んでもおかしくない互角の戦い。だからこそこの日の80分は、ヴェルブリッツの強さが際立った。
試合後のミックスゾーンでブリン・ホールは「いいところもあったけれど、チャンスを逃したところがあった。今季を象徴するような試合だった」と言った。
堀川HCは「後半、敵陣のスクラムで、完全にドミネートしているのに、ペナルティをしてしまった。あそこがすべて」と言った。
そしてゲームキャプテンの大戸は「相手も対策を立てている中で、いくら優位に立っていても、リスクはある。僕らもペナルティトライ、相手にカードが出ることを狙っていったけど、もっと賢くやっていかないと」と唇を結んだ。
試合にはストーリーが存在する。前半にスクラムにこだわりきれず、トライまで時間をかけてしまった反省が、後半の勝負所でスクラムにこだわるチョイスにつながった。言い換えると、前半に取り切るべきときに取れなかったことが、そのあとの悪循環に繋がった。
ヴェルブリッツは対照的だった。前半31分のレヴズのチャージから生まれたチャンス、後半に入った47分、レヴズのPKから一気に80mを切り返したチャンス、最初の20分を除けば、ほとんど2度しかなかったほぼ偶発的なチャンスに、緑のジャージーは2度ともミスなくトライを取りきった。相手がゴール前のスクラムを7人で組んだとき、あと1mまで押し込みながらトライを取りきれなかったレヴズとは対照的だった。
だがこれは、レヴズが進化するための必然的な負けなのかもしれない。
スクラムでプレッシャーをかけ、反則を勝ち取り、スーパーキッカー五郎丸の神業PGで得点を重ねるのがかつてのヤマハ発動機ジュビロの必勝の方程式だった。セットプレーでじわりとプレッシャーをかけてチャンスを広げ、セットから直接得点する――だが今では、その展開は望めない。
「各チームにスクラムにおける『ヤマハスタイル』のノウハウが伝わった今では、スクラムでそこまでの優位性は作れないし、それだけでは勝ち抜けない」
これは2年前、ブルーレヴズとして生まれ変わったときの堀川HCの言葉だ。セットプレーを最大の武器としつつ、そこだけに頼らないという認識からレヴズの強化はスタートした。しかし実際の戦いで、戦況が厳しくなるほど、チームは保守的になってしまった。これまでうまくいっていたところへ原点回帰したくなるのは無理からぬところだ。しかし、保守的な発想では、ワンチャンスに取り切ることはできない。その意味で「これしかない」チャンスにトライを取りきったヴェルブリッツのアタックは、レヴズに足りないもの、言い換えれば目指すべきものを明白に示してくれたのだと思う。
シーズンの最後の試合で、レヴズはまた、重いテーマを突きつけられた。だがそれは、レヴズが世界を魅了するラグビークラブに進化していくために必要なプロセスだ。
試合後、シーズンエンドのあいさつ。山谷社長は言った。
「我々は、バカにされるかもしれませんが、世界一のラグビークラブを目指しています。そして必ずや、リーグワンでタイトルを捕って、日本一になる。必ず来季は、その一歩を踏みしめるシーズンにする。12月にまたみなさんと笑顔でお目にかかれることを楽しみにしています」
シーズン最後の戦いの翌日、東京・丸ビルで開かれたリーグワンプレーオフの会見で、準決勝を控えたワイルドナイツの坂手主将と、イーグルスの梶村主将はともに、シーズンのターニングポイントとしてブルーレヴズとの戦いをあげた。ブルーレヴズが、トップチームと互角の戦いを演じる力を持っていることはすでに証明されている。嬉しいことに、レヴズは多くのチームからも、そのファンからもリスペクトを得ている。だが、そこに安住してはいられない。
選手、スタッフの皆さん、レヴニスタの皆さんには、ひとまずお疲れさまと言わせていただく。リフレッシュしていただきたい。だが7ヵ月後に始まる次のシーズンにどんな戦いを見せられるかは、ここからの7ヵ月にかかっている。レヴズの2年目のシーズンが終わったこの日は、レヴズ3年目のシーズンが始まった日でもあるのだ。<了>
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。