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タフに乗り越えなければ上へは行けない。次に到達すべき場所へ~大友信彦観戦記 5/5 リーグワン2023-24 D1 R16 東芝ブレイブルーパス東京戦 ~

Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)

5月5日、静岡の空は鮮やかに晴れ上がった。夏を思わせる日差しの元で、静岡ブルーレヴズはNTTリーグワン2023-24シーズンの最終戦に臨んだ。本当はもう2試合、シーズンが続いてほしかった。選手もスタッフもそのために努力を重ねたし、その場所は決して手の届かない場所ではなかったと思う。しかし、試合が始まる前に、今季の順位はもう「8位」に確定していた。
それでも戦い続けなければならない。
 
ヤマハスタジアムの入り口に設けられたレヴニスタ広場には試合が始まる2時間以上も前からたくさんの人が集まった。EXILE TETSUYAさんプロデュースの特設ステージでダンスワークショップショーが繰り広げられ、キッチンカーや各種ブースも大盛況。ゴールデンウィークに重なったシーズン最終戦に向け、事業スタッフが重ねてきたハードワークの成果だ。広場は、この日の来場者への特別プレゼントとして用意されたレヴシャツを着た人であふれた。よく見ると、ブレイブルーパス応援シャツの上にレヴシャツを重ね着している人もたくさんいた。

EXILE TETSUYA presents オリジナルダンスワークショップショー「EXILE TETSUYA with EXPG」
ダンスで圧倒的一体感と高揚感を作ってくれた
レヴシャツ2.0はホワイト!キッズサイズも作られ、子供たちもぴったりサイズで観戦できた
最高の天気に、レヴシャツ2.0の白と、グッズの青がとても映える

キックオフセレモニーでは陸上自衛隊第1空挺団によるヘリコプターからのロープ降下、EXILEのAKIRAさんと五郎丸歩CROによるボールデリバリーと始球式、AKIRAさんとEXPGによるダンスパフォーマンス……もりだくさんの企画がこれでもかと繰り出された。そこに集まった誰もがみな、非日常の時間と空間を楽しみ、チームの応援を楽しみ、ビジターチームの来訪を歓迎している。地域にスポーツチームがある意味が、その光景からはにじみ出ていた。

アシスタントコーチ田村義和氏が、陸上自衛隊にいた経歴から、五郎丸CROが企画した演出
EXILE AKIRAさんのパスを受けた五郎丸CROのキックと同時に空気砲が爆発!
地元磐田での最高のパフォーマンスをみせてくれたEXILE AKIRAさん

ホスト最終戦の相手はすでに2位でのプレーオフ進出を確定させていた強敵・ブレイブルーパス。レヴズは前節、コベルコ神戸スティーラーズに19-63で大敗していたが、神戸とルーパスはその2週前に40-40の引き分けを演じていた。単純に考えれば、ルーパスは神戸以上に強い相手だ。
レヴズはこの試合に当たり、先発メンバー7人を変更。PR茂原に替えて山下憲太、FL庄司に代わりジョーンズリチャード剛、FLトゥポウに代わって大戸がLOから移動し、LO4にはチーム最長身のライトが入った。前節で負傷したピウタウに代わる13番にはルーキーの伊藤峻祐が初先発。さらにSOグリーンとWTBツイタマが負傷から復帰。そしてSHは3日前に現役引退を発表した矢富勇毅が先発。リザーブには実弟のWTB矢富洋則が第5節のサンゴリアス戦以来となるベンチ入り。シーズン最後の試合であると同時に、英雄を送り出す体勢は整った。

試合は厳しかった。
キックオフで相手陣に入ったレヴズは試合開始直後から積極的にボールを動かした。6分、正面35mの位置でPKを獲得。先制PGを狙っても良さそうな位置だったが、レヴズはトライを狙ってタッチへ。ラインアウトからSH矢富が鋭くボールを持ち出す。しかし次のフェイズでブレイブルーパスのディフェンスの出足にプレッシャーを受けてペナルティー。このラインアウトからブレイブルーパスはオールブラックスの英雄、モウンガからフリゼルへのホットラインパスが通り、8分、先制トライをあげる。
12分にはハーフウェー付近左中間で組んだ最初のスクラムから矢富がショートサイドを得意のサイドアタックでビッグゲイン。大観衆が沸く。だがそのスピードは味方の予想をも超えていたのか、ゲインした先で孤立してしまい、ノットリリースザボールのペナルティー。そのラインアウトからブレイブルーパスは鮮やかなムーブで日本代表WTBナイカブラがトライ。さらに19分には再びPKを得たブレイブルーパスがラインアウトからのアタックでトライ。
 
開始から20分足らずでビジターが19-0と大きくリード。しかしレヴズのマインドは不変だった。自陣からでもボールを持てば果敢にアタック。21分、カウンターアタックに出たFB山口がルーパスの日本代表LOディアンズから爆弾タックルを浴びるが、レヴズはひるまない。CTBマフーザが相手DFの隙間を突いて仕掛けると、さらに矢富が猛加速で相手陣深くまでビッグゲイン。満員のヤマハスタジアムに「GO!GO!レヴズ!」の声が響く。
大観衆の声がレヴズ戦士の背中を押す。25分、相手ボールのスクラムを押してPKを得るとSH矢富がクイックスタートしてルーパスのゴールに迫る。ルーパス必死のディフェンスにもレヴズはボールを継続し、8次攻撃で左へ大きく展開。WTBツイタマがタッチ際で相手DFを引きつけてリターンパス。これを捕ったFB山口が左中間インゴールに躍った。左中間に第6節以来となる今季4号トライ。グリーンのコンバージョンも決まりレヴズが7-19とする。

スクラムから自ら飛び出しビックゲイン。39歳とは思えぬパフォーマンスを見せた矢富勇毅
マロ・ツイタマのオフロードパスを受け
山口楓斗が今シーズン自身4つ目のTRY!!

攻めるんだ。そのレヴズのアタックマインドがスタンドの熱量を高め、スタンドからの声援がレヴズ戦士のエナジーを高める。31分、相手ボールのスクラムでPKを奪うとあえて再度スクラムを選択。この組み直したスクラムはブレイブルーパスが意地を見せてPKを奪い返されるが、このキックがノータッチになると山口が迷わずカウンターアタック。ここでPKを得ると、今度は冷静にショットを選択。グリーンが正面40mのPGを成功。レヴズが10-19と追い上げて前半40分を終えた。

ケガから復帰しキッカーを務めたサム・グリーン

そして迎えた後半、先に点を取れば勝負はもつれる――そんなレヴニスタの期待に応えるようにレヴズは攻めた。相手キックオフをFB山口が前を向いてジャンプしながらキャッチすると、SOグリーンがステップを踏みながら一気に相手陣へ。そこでPKを得るとグリーンがPGを蹴り込んで13-19。ワンチャンスで逆転できる6点差に追い上げる。
 
だがここから強さを発揮したのはルーパスだった。50分にはハーフウェーのスクラムから日本代表WTBナイカブラが、58分にはターンオーバーからオールブラックスのSOモウンガがトライ。60分にはレヴズの途中出場PR茂原が相手ゴール前でみごとなキックチャージを決めてトライを返すが、流れは変わらない。60分からのラスト20分間は相手陣にもなかなか入れず、LO桑野詠真がイエローカードを出されたことも影響してか、4連続トライを献上。最終スコアは20-59。63点を失った前節の神戸戦に続くビッグスコアでの敗戦となった。

PGも見事に成功させ点差を詰めたが、、、
素晴らしい反応でチャージをした茂原隆由
そのまま自分でキャッチし、自身リーグワン初TRY!

試合後の会見で、藤井雄一郎監督は言った。
「前回の試合からケガ人がバタバタと出て、代わりに出た選手は頑張ったけど、選手層の厚いチームとの差が出てしまった。今シーズンは私も着任してから半年、手探りで強化してきて、選手もいろいろな苦労をしたと思う。仕事をしながらラグビーをしている選手もいればプロの選手もいる中で、練習量が多くなってしまってケガ人が多く出たのは私自身の反省点です」
 
藤井監督が自ら口にしたように、負傷者の続出は今季、特にシーズン終盤に大きくチームに影を落とした。第5節で主将のクワッガ・スミスが、第6節でPR河田が、第10節で家村健太が、第11節でサム・グリーンが戦列を離れた。第15節では前半早々にチャールズ・ピウタウとキーガン・ファリアが負傷で退き、試合中にBKラインの大幅な組み替えを強いられた。
だがケガは、理由なく増えたわけではない。藤井監督は会見でこう続けた。
 
「ただ、今シーズンを通じて、どうしたら選手を良いコンディションにできるかが分かった。シーズン中には上位チームに対して手応えを持てるゲームもできた。このチームにはスーパースターがたくさんいるわけじゃないけど、練習量で補って、来年は今年のスコアを引っ繰り返したい」

今シーズン、そして最終戦を振り返る藤井雄一郎監督とマロ・ツイタマ

つまり、ケガのリスクは想定した上での猛練習だったのだ。残念ながら、それは今季の「4強入り」という結果にはつながらなかった。矢富の引退で現役最年長になったひとり、日野剛志は試合後のミックスゾーンで言った。
 
「ケガ人を出すくらいのリスクを背負ってやらないとプレーオフには出られない。選手にとってはキツいけれど、それをタフに乗り越えなければ上へは行けない。結果、ケガ人も出たけれど、その分代わった選手が活躍できた。来シーズンは試合数も増えると聞いているし、そうなったら選手層の厚みがもっと必要になるけれど、明るい兆しは見えたと思う。僕自身、プレシーズンの合宿はかなりキツかったけど、そこから練習を積み重ねた結果、2シーズン連続で全試合に出場できましたから」

全試合スタメン出場し、チームを支えてきた日野剛志

リスクを覚悟で成長を目指す。その姿勢は戦い方にも現れていた。今季のレヴズは自陣からでも果敢にアタックを挑んだ。それはリーグが発表しているスタッツにも表れている。トライ王に輝いたマロ・ツイタマがゲインメーター部門でリーグ1位、ラインブレイク部門で3位、チャールズ・ピウタウがオフロードパス部門で1位タイ、ディフェンス突破で山口楓斗が2位、ボールキャリー数でマルジーン・イラウアが2位の数字を残した。ホストでもビジターでもレヴニスタを熱くさせた、そして相手チームのサポーターにも強いインパクトを残した、観る者をワクワクさせるレヴズの魅力は数字にも表れていたのだ。セーフティーな戦い方で勝利を目指すチームを否定はしないけれど、レヴズにそれは似合わない。ワールドクラスのスターがズラリと並んでいるわけではないけれど、相手が予想していないところからアタックを仕掛け、全員の走りと運動量、ワークレートの高さで勝利を目指すのがレヴズの目指すところなのだ。

素晴らしい成長とパフォーマンスを見せた山口楓斗
マルジーン・イラウアのキャリーは何度もスタジアムを沸かせた
最終節は惜しくもノートライだったが、シーズン15トライでトライ王となったマロ・ツイタマ

2023-24シーズン、ブルーレヴズは過去2年と同じ8位だったけれど、勝点は30から33に伸ばした。勝ち数は5勝から6勝に増え、総得点は404から501へおよそ25%も増えた。それでいて反則数は全チーム最少の134でしのいだ。
そしてホストゲームの観客数は前年度比143%の増加。ブレイブルーパスとの最終戦にはリーグワンになって最多の観衆となる1万3814人が集結した。それも、リスクを背負って猛練習を重ね、相手が想像しないところから果敢にアタックをしかけ続けたレヴズ戦士たちの姿が多くの人の心に響いたからだろう。

「13,814」という数字には、多くの人々の多大なる努力が込められている

2023-24シーズンの戦いは終わった。ブレイブルーパスとの試合後には矢富の引退セレモニーも行われた。英雄との別れは辛い。目標に届かないままでの終わりは寂しい。しかし、いつの時代も終わりは次への始まりだ。来季は今季負傷に泣いたクワッガも家村も帰ってくるはずだ。シーズン後半のヴェーテー、トゥポウ、ブナら若手の奮闘の伸びしろはどこまであるか想像もつかない。リスクを覚悟して重ねた猛練習で得た成果は、まだまだ回収できていない。今季、超人的なワークレートで連続タックルを見舞い続けたジョーンズリチャード剛も最終戦終了後「もっとチームにあらゆるところで貢献したい。アタックに今まで以上にコミットする意識でいかないと」と言った。どの選手もリチャードと同じように、次に到達すべき場所を見据えているはずだ。

クラブ通算151CAPSで現役引退となった矢富勇毅

飛躍を期すリーグワン4年目、そして藤井監督2年目となる来季、レヴズ戦士たちはレヴニスタにどんな景色を見せてくれるのか。次への戦いは、もう始まっているのだ。

来シーズンの飛躍を、レヴニスタに誓う
最高の仲間と共に