見出し画像

「大声援に大きな力をいただいた。その方々のために、支えてくれる家族やチームのために」~大友信彦観戦記 4/13 リーグワン2023-24 D1 R13 クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦 ~

Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)

4月13日(土)、日本平は穏やかな晴天に包まれていた。Jリーグ清水エスパルスのホームスタジアムとして知られるサッカーの聖地アイスタ(IAIスタジアム日本平)。Jリーグのベストピッチ賞を何度も受賞してきた極上の芝が、年に一度、楕円球の戦場になる。今年、ブルーレヴズがその地へ迎えたのは昨季のリーグワン王者・スピアーズだ。

今季、スピアーズとの初戦は第3節の花園ラグビー場、終了直前ラストプレーでSO家村健太が劇的な逆転トライを決め今季初勝利をあげた試合だった。今回はその家村も、闘将クワッガ・スミスもいない。だがそのかわりに、ブルーレヴズには、それから3ヵ月半の間に新しい力が育っている。
この試合、前戦からの先発の入れ替えは2人。右PRをショーン・ヴェーテーに替えて伊藤平一郎、CTB12にジョニー・ファアウリに替えてシルビアン・マフーザ。そしてリザーブは前節に続きFW6/BK2の編成。そこにはアーリーエントリーのPRショーン・ヴェーテー、NO8ヴェティ・トゥポウ、日野レッドドルフィンズから移籍加入のLOシオネ・ブナという新加入のパワフルアイランダートリオが名を連ねた。

前節を終えた時点での順位はブルーレヴズが6位でスピアーズが8位。どちらにとっても、あとひとつ負けたらプレーオフ進出への可能性が断たれてしまう。そんな崖っ縁で迎える一戦は午後2時、ブルーレヴズのキックオフで始まった。

スピアーズは、昨季の快進撃の立役者だった巨漢PRオペティ・ヘル、身長205㎝のルアン・ボタ&199㎝のデーヴィッド・ブルブリングという超大型FWが今季初めて揃って先発。フィジカルバトルでレヴズに圧力をかける。対するレヴズは看板のスクラムで圧力をかける。5分、レヴズは相手ボールのスクラムを押し込み、PKを獲得。相手ゴール前に攻め込んでラインアウトからアタックを継続するが、スピアーズのディフェンスも堅い。11フェイズを重ねた末にWTBツイタマがようやくブレイクした! と思ったのはつかの間、タックルを受けたツイタマにすぐさまスピアーズのHO、元オールブラックスのディン・コールズがジャッカルに襲いかかる。

ここから試合はスピアーズの時間に入る。12分に立川理道主将が先制トライをあげると、次のキックオフからノーホイッスルトライ、その次のキックオフからも再びノーホイッスルトライを連発。さらに21分にもスピアーズがトライを決め、レヴズは僅か10分ほどの間に4トライ26点ものビハインドを負ってしまう。レヴズも28分、相手ゴール前のラインアウトで得たFKでスクラムを選択し、CTBシルビアン・マフーザのグラバーキックをチャールズ・ピウタウがインゴールで押さえトライ。SHブリン・ホールがコンバージョンを決め7-26とするが、流れは変わらなかった。

キックパスを選択する好判断を見せたシルビアン・マフーザ
しっかり抑えてTRYしたチャールズ・ピウタウ

31分、ラインアウトで相手ボールのすっぽ抜けを掴んだHO日野剛志が前進、パスを受けたFL庄司拓馬からFLイラウアへオフロードパスを繋ごうとしたところで落球。そこからカウンターアタックを浴びてまたトライを献上。前半は7-33という大差がついてしまった。

だが、レヴズ戦士たちは落胆してはいなかった。
「前半はリードされても何とかついていって、後半インパクトの選手たちを入れて逆転するプランでした」と藤井雄一郎監督は試合後に明かした。「今週は、後半のメンバーで攻める練習しかしていなかったんです」

そして後半開始からNO8にシオネ・ブナ、SHに岡﨑航大を投入。前半の最後に頭部を強打したLOマリー・ダグラスもHIA(頭部負傷アセスメント)で退きLOにアーリーエントリーのヴェティ・トゥポウが入った(53分に正式交替)。
岡﨑は「相手は大きい選手が多いから、後半になれば足が止まると思った。僕はテンポをあげて、強い選手をどんどん相手に当てて、前へ出すプランでした」と明かした。

あらかじめ計画されていた後半の反撃。口火を切ったのはまさにその2人だった。49分、相手ゴール前ラインアウトを一度は失うがそのあと相手がノックオン。相手ゴール正面で得たスクラムのチャンス。大好物の降臨にレヴズFWが燃えないわけがない。8人でスクラムに圧力をかけ、再びPKを奪うともう一度スクラムを選択。そのスクラムからSH岡﨑がボールを持ちだし、絶妙なパスを受けたCTBマフーザが前進したところへ走り込んだのがピッチに入ったばかりのブナだった。オフロードパスを捕球すると相手タックルを受けながらそのままインゴールへダイブ。TMOでグラウンディングが確認され、後半最初の得点はレヴズに入った。WTBファリアがコンバージョンを決め14―31。

相手の隙に走り込み前進するシルビアン・マフーザ
シオネ・ブナが自身リーグワン初TRY!
後半からキッカーを務めたキーガン・ファリアのキックも決まる

藤井監督はさらに強気にカードを切る。53分、右PRに体重132㎏の巨漢PR、こちらもアーリーエントリーのショーン・ヴェーテーを、FLにはタックル命のジョーンズリチャード剛を投入。強気の采配はすぐ次のチャンスを引き寄せた。57分、相手陣22m線付近右のラインアウトから岡﨑、ブナ、ヴェーテーが連続してゲインし、さらにブナ、トゥポウが相手ゴールめがけて突き進む。ゴール前でスピアーズがペナルティを犯すと、CTBピウタウが迷わず速攻。タックラー2人の真ん中を突き破ってトライを決める! WTBファリアのコンバージョンは外れたが、19-31。

シオネ・ブナの強烈なアタックは相手の大きな脅威になっていた
ヴェティ・トゥポウも身体の強さを見せつける!
瞬時の判断でTRYを取り切ったチャールズ・ピウタウ

こうなればイケイケだ。64分、正面10mでPKを得ると、タッチキックを蹴ると見せかけたSO奥村が速攻。だが味方との呼吸が合わずに孤立してボールを失ってしまう。最低でも3点は取れたはずのチャンスだったが……だがそんな落胆はレヴズ戦士にはなかった。ハーフウェーまで陣地を戻されてもすぐにボールを奪い返し、ブナ、ヴェーテー、トゥポウが相次いで縦突進。再びゴール前でPKを得ると、71分、今度はスクラムからアタック。執拗に縦を突いてフェイズを重ねるレヴズのアタックに、スピアーズはノットロールアウェーでイエローカードを受ける。これが71分。さらに73分にはレヴズ奥村へのハイタックルでもう一枚のイエローカード。12点を追うレヴズはラスト7分に、15人対13人という大きな数的優位を得た。

ボールキープを続けるスピアーズに食らいつく
スクラムバトルはほとんど勝利!
リッチモンド・トンガタマも迫力のアタックを見せる

冷静に考えれば、スクラムにして相手DFを集めれば、理詰めのトライを取れたかもしれない。だがゲームは生き物だ。成長過程にあるレヴズは勢いを選んだ。ゴール前PKからタップキック。攻め続けたレヴズは74分、左隅でボールを受けたWTBツイタマが相手タックルを跳びこえて左コーナーへダイブ。リーグトライ王レース首位を走る今季15号トライを左隅に決めるのだ! さらに、家村もグリーンも不在の中で代役キッカーに指名されたファリアが左隅からの難しいコンバージョンを成功。残り5分で点差は5点。行けるぞ! 青く染まったアイスタのスタンドからは「GO! GO! REVS!」の大合唱が沸き起こった。奇跡の大逆転はもう目の前だ!

山口楓斗のラストパスは
マロ・ツイタマに渡り
ダイビングTRY!!!

残り5分。スピアーズは長いキックオフを蹴ってきた。100m先の同点トライラインを目指すレヴズのアタック。ブナが走る。トゥポウが走る。自陣10m線付近まで戻したところで相手が反則。レヴズはタッチキックで陣地を進めるが、次のラインアウトが乱れて相手にボールを献上。スピアーズの好キックが再び自陣ゴール前へ。タッチに出れば50:22で相手ボールになるピンチに、ファリアがタッチライン際まで戻って確保。自陣ゴールを背負ったところから、もう一度アタックだ。ファリアから山口楓斗へ、そしてツイタマへボールが渡り、フェイズを重ねたところでトゥポウが相手DFの真ん中を突破。そのまま相手ゴール前10mまで突き進んだ! だがこの密集からのパスが、捕ろうとしたヴェーテーの頭に当たってしまう。判定はアクシデンタルオフサイドで相手ボールのスクラム。絶好機の痛恨のミス。残りは2分。

超ビッグゲインを見せるヴェティ・トゥポウ
ハンドオフ、ステップで相手をかわし前進を続けた

ここでスピアーズは逃げ切りを図り、自陣ゴール前の危険なエリアを承知でボールキープを選んだ。スクラムからサイドを突くと、レフリーの「Use It」の声を待ってショートパス、FWがその場で密集を作ることを繰り返して時間を潰す。それを8フェイズまで繰り返したところだった。タイムアップのホーンが鳴ると同時に、青いジャージーが密集に一斉に突っ込んだ。カウンターラックだ。ターンオーバーか? だがボールが出てこない……平川主審がスピアーズにペナルティを宣告する。

「もうダメ元ででも行くしかない場面でしたから」と試合後、大戸は明かした。紙一重のプレーで掴んだ最後のチャンス。レヴズは迷わず速攻に出た。ヴェーテーが突っ込む。ジョーンズリチャード剛が突っ込む。そしてボールを持った背番号19のトゥポウが、相手タックルを飛び越えてゴールラインへボールをたたきつけた。時計は82分。26点のビハインドから始まった戦いを、レヴズはついに同点まで戻した。コンバージョンが決まれば逆転サヨナラ勝ちだ。

ジョーンズリチャード剛の鋭いアタック!
頭上を越えて
みんなの想いを乗せて
全身全霊の
同点TRY!!!
歓喜を爆発させる選手たち

だが、ここまで最前線から最後尾まで走り続け、キックも決めてきた代役キッカーのファリアの足に最後のキックを決める力は残っていなかった。直前にTMOによる確認が入り、時間を取られたことも水を差されたかもしれない。さして難しい位置ではなかったが、ファリアの右足は正確にボールを捉えることはできなかった。楕円のボールはHポストを逸れた。レヴズの選手たちがうなだれるファリアに笑顔で歩み寄り、ハグし、労う。責める者は誰もいない。31-31。同点で試合は終わった。

苦しい80分を戦い抜いた

「結果としては、前半に点を取られすぎた。最後はキッカーが不在だったので仕方ない。選手はあきらめないでよく戦ってくれた。次のサンゴリアス戦に向けて、しっかり戦えるように準備していきたい」
藤井監督はそう言った。最後の場面は、キッカー変更も考えかけたが「その前にもうキーガンが蹴る準備をしていた」と笑った。その表情からは、試合は選手のものだ、という割り切りもうかがえた。準備を尽くし、ピッチへ送り出したらあとは選手に任せる。選手が強くならなければ結局のところ勝てない。もしもここで勝ちを逃したとしても、それを次の勝利への糧にして強くなろう、という割り切りだ。

穏やかな顔を見せた藤井監督

ブルーレヴズにとってこの日の最大の収穫は、アイスタに駆けつけ、声を枯らして背中を押してくれたレヴニスタたちとの一体感だろう。庄司ゲームキャプテンは顔を上気させて言った。
「今日はスタジアムの一体感がすごくて、会場のみなさんから発せられるレヴズ・コールには鳥肌が立つ感覚でした。本当に、ファンのみなさんの声でつながった最後の同点トライだったと思います」

6.423人の大観衆はアイスタ開催で最多となった
今日だけ青、ネンイチ・アイスタは間違いなく青に染まっていた

悔しいドロー。だが他力本願ながら、4強入りへわずかな可能性は残っている。
「きょうの最後の時間帯、ファンのみなさんに応援していただいて力をいただいた。その方々のためにも、支えてくれる家族やチームのためにも、ひとつひとつ勝っていくのがウチのスタイルだと思う。多少なりともプレーオフに進める可能性が残っているなら最後までそこを目指して頑張りたい」と藤井監督は言った。
次戦は19日。プレーオフ進出へ王手をかけているサンゴリアスと秩父宮ナイターで戦う。中5日のショートウィーク。タフな戦いになるのは覚悟の上だ。ブルーレヴズには、こんなに熱いファンがついている。そのファンと一緒なら、26点差だって追いつけたのだ。次は追いつくだけではなく追い越そう。引き分けではなく勝利を、レヴニスタとともに喜び合おう。

このスタジアムでこの一体感を創り出せた。全ての方への感謝を胸に次節に臨む

大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。