40分x3本での逆転勝利で見えてきたもの。~大友信彦観戦記 11/26 vs.コベルコ神戸スティーラーズ戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
11月26日、リーグワン開幕まで3週間の土曜日、静岡スタジアムエコパで、静岡ブルーレヴズのプレシーズンマッチ7戦目となるコベルコ神戸スティーラーズ戦が行われた。
ここまでのプレシーズンマッチの戦績は4勝2敗だが、D1のチームにはトヨタヴェルブリッツ、横浜キヤノンイーグルス(以降横浜E)と2戦してともに敗れている。プレシーズンマッチは勝敗がよりもシーズンに向けた確認・調整が目的とは承知しているが、やはり試合をする以上は勝ちたい。まして、今回はプレシーズンマッチとしては本拠地ラストゲームであり、シーズン本番でも何試合かを戦うことになるエコパが舞台だ。レヴニスタのみなさんに、そしてこれからレヴニスタになるみなさんに、ブルーレヴズが勝利する姿を見ていただき、よろこんでほしい。
ブルーレヴズは前週の横浜E戦から先発5人を変更。PR伊藤平一郎、LO桑野詠真、No8舟橋、CTBクリントン・スワート、WTB伊東力が前週のリザーブから先発に繰り上がった。そして注目は、リザーブに入った矢富勇毅。ブルーレヴズ最年長37歳のプレイングコーチは、昨季のラストゲーム終了後に左手を手術。これが約7ヵ月ぶりの復帰戦だ。
40分ハーフ80分を戦ったあとに20分のエキストラタイムを設けた前週に続き、今回の神戸戦は40分を3本というさらに長い時間を設定した。伸び盛りの選手、負傷から復帰した選手……多くの選手に多くのプレータイムを与え、個々の成長をチェックし、戦術をチェックする。さらに運営サイドはホームゲームの進行をシミュレートする。ホストゲームでは地域のサポーター、スポンサーに今年のチームを紹介する……多くのミッションを抱えて、コベルコ神戸スティーラーズ戦は始まった。
試合は神戸のキックオフで始まった。ブルーレヴズはSH田上稔がボックスキックを蹴り返し、これが神戸の落球を誘い、相手陣でスクラムを獲得する。いきなりチャンス到来だ。このスクラムからブルーレヴズは左にアタック。WTB11マロ・ツイタマの力強いボールキャリーを皮切りにフェイズを重ね、SOサム・グリーンがチップキック。前戦に続いて背番号10を託された金髪の司令塔のチャレンジングなキックは、今回先発に繰り上がったCTB12クリントン・スワートの腕に入り、そのまま相手ゴールへ迫るが……ここは惜しくもノックオン。しかし、悪くないスタートだ。アグレッシブで、ゲームのテンポがいい。
だがそう思った矢先だった。5分、前週のNo8からFLに移ったマルジーン・イラウアがハイタックルのペナルティーを犯し、敵陣で進んでいたいいリズムの試合が途切れてしまう。このピンチはスワートのジャッカルでいったん脱出するが、流れを取り戻し駆けたところでイラウアが再びハイタックルを犯すのだ。レフリーがブルーレヴズの奥村キャプテンを呼ぶ。いかん!前週に続いてイエローカードか?
この場面は幸いコーション(警告)のみで切り抜けたが、多くのレヴニスタが肝を冷やしただろう。ディシプリン(規律)は前週の横浜E戦で、最重要課題とされたはずだ。やむをえないペナルティーもラグビーには存在するが、そうではないペナルティーが良いリズムを崩してしまうことは多い。無駄な反則はファンの熱を冷ましてしまう。頼むぞ。
ブルーレヴズはここからスティーラーズの猛攻にさらされながら何とかしのぐ。主役となったのは若きキャプテン(クワッガと共同)奥村翔とベテランWTB伊東力だ。相手キックには奥村がしっかり反応してフェアキャッチ。WTB伊東はキックを最前線まで忠実にチェイスして相手のカウンターアタックを止め、次のフェイズで相手がキックを蹴ったときには最後尾まで下がってキック処理に身体を張る。厳しい場面は望んだものではなくても、そんな不測の場面で身体を張るのは誰か、頼りになるのは誰かを確かめるのもプレシーズンマッチの重要なミッションだ。そして、自分の課題を自覚するためにも。
課題として突きつけられたのはセットプレーだった。この試合で際立ったのは神戸のラインアウトの強さ。神戸はマイボールを確実にキープし、ブルーレヴズのボールにプレッシャーをかけてはスローイングとキャッチングを狂わせ、ボールを奪った。ブルーレヴズが武器と自認するスクラムも例外ではなく、ブルーレヴズは何度かスクラムを優勢に組む場面もあったが、神戸にプレッシャーを受け主導権を握れない場面が目立った。
前半25分にはそのゴール前ラインアウトからフェイズを重ねられ、神戸の元日本代表PR中島イシレリ選手がトライ。30分にはスクラムでブルーレヴズがコラプシングの反則を取られ、神戸はそのPKで選択したスクラムからトライをあげる。最初の40分は神戸が2トライをあげ、14-0とリードした。
ブルーレヴズが反撃に出たのは40分x2本目(2nd HALF)だ。
3分、後半最初のスクラムで静岡はコラプシングの反則を奪う(やはりレヴズの生命線はスクラムなのだ!)。チャンスを得たブルーレヴズはラインアウトをFL庄司拓馬が捕球してリズム良くアタックし、WTBマロ・ツイタマがゴールポスト下にトライ。ようやく初得点をあげ、ブルーレヴズは息を吹き返す。攻勢に出たブルーレヴズを前に神戸は苦し紛れのディフェンスで故意の落球を犯しイエローカード。数的優位を得たブルーレヴズは14分、自陣のラインアウトからSOサム・グリーンが豪快に突破し、糸を引いたようなパスを左サイドのツイタマに送る。ツイタマはそのまま相手DFを振り切ってトライ。ゴールは外れたが。ブルーレヴズは12-14まで追い上げた。
そして試合は後半20分。この前後で両チームは積極的に選手を交代する。ピッチには先発からプレーを続けているメンバーと、後半早々から入ったメンバーと、新しくピッチに入ったメンバーとが混在する。チームの適応力、コミュニケーション力が問われる場面だったが、ブルーレヴズを再び不測の事態が襲った。25分、交代で入ったばかりのLOダグラスが危険なプレー(ノーバインドタックル)でイエローカードを受けてしまうのだ。ブルーレヴズはここからの数的不利を強いられた10分間で2トライを奪われ、12-28とリードを広げられて2nd HALFを終える。残念ながら劣勢のまま80分を終えてしまった。
しかし、この日の試合は40分×3本の120分マッチだ。12分のインターバルを挟んで始まった「3rd HALF」。神戸はメンバーを4人入れ替えると、6分、入ったばかりのFL粥塚選手がトライ。12―33と、点差はこの日最大の21点まで開いた。
だがブルーレヴズの見せ場はここからだった。
10分、ツイタマとの交代で入っていたWTB吉良友嘉が相手DFのギャップを突いて自陣から果敢にアタック、相手タックルを受けながらも前進すると、左に走り込んだFL杉原立樹につないでトライを返す。グリーンに代わってSOに入っていた清原祥がコンバージョンを決め19-33。反撃体勢に入ったブルーレヴズは、さらに20分、残っていたフレッシュレッグスを一斉に投入する。そこにはチーム最年長、コーチ兼任のSH矢富勇毅の姿もあった。そして最年長SHは劇的にゲームの流れを青ジャージーの側に引き寄せた。
ボールを持ち出すスピード。そこからのアタックあるいはパスの決断の早さ。すべてがスピードアップする。相手DFの反応が遅れる。そこに生じたわずかなタイムギャップに、今までなかった攻撃スペースが生まれるのだ。
27分、DFラインの裏にあいたスペースを見逃さずにCTB小林広人がキックをチェイスしてポスト右にトライ。このコンバージョンを清原が外してしまい、スコアは24-33。
残り10分、ワンチャンスで追いつく7点差にしたかっただけに痛いキックミスだったが、ピッチに立つブルーの戦士たちはまるで気にしていなかった。31分には再び小林の仕掛けからHOリッチモンド・トンガタマが猛然とゲインし、白井吾士矛(あとむ)がトライ。
清原のコンバージョンも決まって31―33の2点差とすると、39分には再び相手ゴール前に侵入。守り切りたい神戸も懸命にDFを固める。そこでボールを持ったSO清原は一転、左コーナーへキックパスを送るのだ。だがそこには神戸のDFが……万事休す! と思ったときだ。捕球体勢に入った神戸の選手にレヴズの11番、吉良友嘉が猛然とプレッシャーをかけ、ファンブルを誘う。相手の腕からこぼれたボールがすっぽり吉良の腕に入った!
吉良はそのままインゴールへ走り込み、歓喜の逆転トライ。清原が時間をかけてコンバージョンキックを蹴ると同時に、フルタイムのホイッスルが鳴った。38-33。ブルーレヴズが神戸を下したのだ。
プレシーズンマッチで初めての、D1相手の勝利。それも名門にして強敵の神戸からの勝利だ!
ただし、手放しで喜べる勝利でなかったことは、誰もが認識していた。
「最後の40分は、選手たちが誇りに思えるゲームをしてくれた」
堀川隆延ヘッドコーチはそう選手を称える一方で「最初の40分と次の40分は、日本一を目指すチームのパフォーマンスに相応しいレベルには届いていなかった」と厳しい顔で振り返った。奥村翔主将も「前半はペナルティーとミスが多くて、自陣に貼り付けになってしまった。ペナルティーの多さに関しては、選手の意識をまとめきれなかったリーダー陣の反省点です」と唇をかんだ。勝利したことは喜びたいが、あくまでもプレシーズンマッチ。相手も、リーグ戦前のチーム成熟度を確認する試合だったのかもしれない。
それでも、明るい材料は、3本目の逆転勝ちを導いた選手たちの頑張りだ。
試合後の会見で、堀川ヘッドコーチは言った。
「正直言って、きょうの40分×3本の編成は、現時点でレギュラーに近いのは最初の40分、次の40分に出た選手たち。3本目に出た選手は、練習では仮想神戸として、相手チームの動きをして1、2本目の練習台になっていた選手たちです。その選手たちが、最後の3本目に出てきてチームのために仕事をした。これは、今のレヴズが作り上げようとしている良いカルチャーだと思います」
そのリズムを作った殊勲者・矢富勇毅のパフォーマンスについての質問には、こう答えた。
「7ヵ月ぶりの試合で、さすがのゲームコントロールをみせてくれた。ここは攻める、ここは我慢する、という判断が素晴らしい。経験を積んだ選手ならではのよさを発揮してくれた」
リーグワン開幕まであと3週間。青いジャージーを着て開幕戦のピッチに立つのは果たして誰か。そこではどんなパフォーマンスが演じられるのか。その答えはこれからの時間にかかっている。それでも、名門にして強敵・神戸をエコパに迎えて戦い抜き、最後にスコア上の勝利も得た120分間は、貴重な収穫をブルーレヴズに与えてくれたはずだ。改めて、開幕が待ち遠しくなる――そんな120分間だった。<了>
NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 開幕まであと3週間!
DIVISION 1 第1節 VISITOR GAME
12月17日(土) 14:30キックオフ
トヨタヴェルブリッツ戦 @豊田スタジアム
DIVISION 1 第2節 HOST GAME
12月17日(日) 14:30キックオフ
埼玉パナソニックワイルドナイツ戦 @ヤマハスタジアム
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。