勝てなかったが負けもしなかった―きっとこれが、今のブルーレヴズ。~大友信彦観戦記 4/19 リーグワン2023-24 D1 R14 東京サントリーサンゴリアス戦 ~
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
4月19日、金曜日。ブルーレヴズは夕刻の東京・秩父宮ラグビー場に姿を現した。NTTリーグワン第14節、サンゴリアス戦はブルーレヴズにとって今季初の「金曜ナイター」。そしてこの試合にはもっと大きな意味があった。ブルーレヴズは前節、アイスタのスピアーズ戦で引き分け。プレーオフ進出へは、残り3試合すべてに勝ち、かつ上位にいる他チームが負けるというギリギリのところへ追い込まれていた。一方のサンゴリアスは、勝ちさえすればプレーオフ進出が決まる。高いモチベーションで向かってくるはずだ。レヴズにとっては難敵だが、それこそ望むところだ。厳しい戦いを重ねて強くなればこそ、多くの人に勇気を感じてもらえる。世界を魅了するラグビークラブになるというミッション達成に近づける。
前節からの先発変更は5人。PR1の茂原に替えて山下憲太。LOのマリー・ダグラスに替えてチーム最長身203㎝のジャック・ライト。FL大戸に替えて前節大暴れのヴェティ・トゥポウ。SHブリン・ホールに替えて岡﨑航大、WTBキーガン・ファリアに替えて槇瑛人という若い編成。先発から外れた5人のうち茂原と大戸、ホールはリザーブに下がり、前節の後半猛反撃の主役となったHOリッチモンド・トンガタマ、FLショーン・ヴェーテー、ジョーンズリチャード剛、NO8シオネ・ブナ、CTBジョニー・ファアウリとともにインパクト要員として出番に備えた。
この日もうひとり、頼もしい男が帰ってきた。第5節のサンゴリアス戦で長内転筋腱断裂の重傷を負ってチームを離れていた主将のクワッガ・スミスが南アフリカから再来日。プレー復帰はまだながらチームに合流し、この日はジャケット姿ながらピッチサイドに出て、一緒に戦うぞと言わんばかりにウォームアップするメンバーの姿を見守った。
試合は夜の7時にキックオフ。先制したのはレヴズだった。12分、あわや先制トライを献上したかと思われた場面がTMOの末、相手のスローフォワードと判定されピンチをしのぐと、自陣ゴール前のスクラムから敢然とアタック。左サイドをCTBピウタウ、WTBツイタマ、FLトゥポウが次々と前進、さらに右オープンに出したボールを持ったFB山口楓斗が大きなスワーブを切って相手DFをかわすとオフロードパスを受けた右WTB槇瑛人がビッグゲイン。次のフェイズでLO桑野詠真がハイタックルを受けPKを獲得すると、右のラインアウトからFL庄司―SO奥村―WTB槇でラック。次のボールを庄司―日野と絶妙なパスをつないでNO8イラウアが無人のゴールラインに突き刺さった。奥村のコンバージョンも決まり7-0。ゲームキャプテン庄司のワークレートの高さと正確なスキルは見事だった。
対するスター軍団サンゴリアスはすぐに攻め返し、レヴズ陣に攻め込む。しかしレヴズはゴール前ラインアウトの相手モールでFLトゥポウがボールを強奪し、すぐさま自陣ゴール前からショートサイドを日野剛志がチャレンジ。キックダミーを交えて狭いスペースを切り裂いて突き進む……このプレーは日野のノックオンで終わったが、そんなことでレヴズはへこたれない。直後の相手ボールスクラムをHO日野が先頭に立って組み勝ちPKを獲得するのだ!
ハーフタイム直前の38分には自陣ゴール前に攻め込まれたピンチでCTBピウタウが相手パスをインターセプトしてそのまま独走。これはハーフウェーを越したところで相手タックルを受けて落球してしまうが、チャンスがあればどこからでも思い切ってチャレンジする。ミスが出てもへこたれずにすぐ取り返す。レヴズ戦士は、観る者の胸が熱くなるようなチョイスを次々と繰り出してくれる……!
とはいえ、サンゴリアスはトップリーグのラストシーズンからプレーオフに連続して出続けているトップチームだ。ハイレベルな個人技とパワフルなモールで前半25分、35分、そして後半早々の41分と着実にトライを重ね、レヴズは7-21と14点のビハインドを負ってしまった。
それでも、前節26点差を追いついたレヴズに「不可能」の文字はない。そして、不可能を「可能」にする使者たちが後半早々の49分にピッチに送り込まれた。NO8にシオネ・ブナ、SHにブリン・ホール、CTBにジョニー・ファアウリ、PRに茂原隆由――4人がピッチに送り込まれて最初のプレーだった。相手ゴール前のラインアウトをトゥポウが確保してモールを押し、相手のモールDFが割れた瞬間、トゥポウがショートサイドにボールを持ちだし、特大ストライドでゴールラインを突破そしてトライを返す。左隅の難しいコンバージョンを奥村が決める。14-21。
東京のど真ん中、神宮外苑、港区北青山の夜空に「GO! GO! REVS!」の叫びがこだまする。その声量は、スタジアムDJに煽られたサンゴリアスファンの声よりも大きく感じられた。もはやどちらのホストゲームか分からない。それは、レヴズのスリリングでスペクタクルなアタックが中立のファンを、もしかしたら相手チームのファンまでをも魅了していたからではないか。ボールを持ったらどこからでもアタック。背番号に関係なく走り、キックを蹴り、スペースに向かって勝負する。そのすべてがチャレンジングであり、そのワクワク感が観る者を惹きつけて止まないのだ。
藤井監督はさらにカードを切る。51分ジョーンズリチャード剛、56分にはショーン・ヴェーテーと大戸裕矢をピッチへ投入。するとその直後だった。サンゴリアス陣22m線の左ラインアウトからモールを押しておいて、190cm92kgのトゥポウがパワーで、190cm132kgのヴェーテーがその体重で、186cm95kgのピウタウがスピードで次々と相手DFをえぐって作ったスペースに、レヴズ魂を象徴するベテラン大戸が走り込んだ。34歳のベテランが今季14戦目で初めてのトライを、最初のボールタッチで決める!
「トップリーグ時代からあわせて、これまで130何試合出させてもらっているんですが、ベンチスタートはヤマハでのファーストキャップ(2012年9月23日、対サニックスブルーズ@富山)以来2度目なんです。ウォームアップのあとの気持ちの持って行きかたが分からなくて」
大戸は苦笑すると、続けた。
「チームのプランが『後半勝負』だったので、相手が何をしようとしているのか、どこにチャンスがありそうかを、他のリザーブのメンバーと話しながら観ていました。勉強になりました」
あらかじめ計画された後半の猛反撃。21-21と追いついたレヴズは、63分に再び攻め込み、PKを得るとショットを選択。SO奥村が確実にキックを蹴り込み24-21と勝ち越す。サンゴリアスも66分にトライを取り消して再逆転するが、レヴズは73分、再び相手陣に攻め込んでPKを得るとSHブリン・ホールがタップキックから速攻。ファアウリ、トゥポウがゴール前をえぐったところでボールを持ったのは132kgのヴェーテーだ。相手タックルの圧力をスピンしてかわしながらインゴールに身体をねじこみ、トライを決める! 奥村のコンバージョンも決まり、31-28とレヴズがリードを奪った。
だがサンゴリアスもしぶとい。76分、レヴズ陣でPKを奪うと、強攻せずにショットを選択。31-31とみたび同点にする。
そして迎えた80分、タイムアップのホーンが響く中、自陣22m線付近で組まれたスクラムでレヴズFWは入魂のプッシュでPKを獲得する。キックで陣地を進め、左ハーフウェーのラインアウトからラストアタックでFWブナがブレイク。素早く出したボールをブリン・ホールがさばき、奥村からファアウリの手を経てパスがFB山口へ送られた、と思ったときだった。ボールはパスコースに入ったサンゴリアスFB松島の手に当たり、後方へ転がった。スタジアムが悲鳴に包まれる。
現代ラグビーではデリバレート(故意の)ノックオンと判定されそうなプレー。もしそうならレヴズにPK、場合によってはイエローカードやペナルティートライも考えられる……だがレフリーの判定は「通常のノックオン」だった。あくまでも捕球に行っての落球であり、ペナルティーはなしと説明すると、試合終了とする長い笛を吹いた。
31-31、2週連続の引き分け。それもまったくの同スコア。そしてこの瞬間、レヴズのリーグワン2023-2024シーズンのプレーオフ進出の可能性が消滅した。
「ホントに勝ちたかったけど……最後、2試合連続で同点で終わってしまった。あとは最後の2試合で、しっかり成長して締めくくりたい」
試合後の記者会見で、藤井監督はそう口を開いた。
「選手交代はもともとのプラン通り。2トライ差くらいは織り込んでいて、後半の試合の流れやケガ人の状態を見ながら、インパクトのある選手を入れていくプランでした。サンゴリアスとの差はひとつひとつの精度の問題。ペナルティーの中身もそう。今日の若い選手にはまだ荒削りなところもあった」
藤井監督も選手たちも、最後の微妙な判定については口にしなかった。それもラグビーの一部だと知っているからだろう。ラグビーはレフリーに判定を委ねなければ成立しないのだ。
それも含めて、勝ちたかったが勝ちきれなかった。勝てなかったが負けもしなかった――きっとこれが、今のブルーレヴズの実力なのだろう。高校や大学で活躍した有名選手は多くないが、国内外のスター選手をズラリ並べたチームとも互角の勝負に持ち込める。スリリングなアタックで、諦めないディフェンスで、ギリギリの勝負に持ち込める。その戦いを確実な勝利に持って行けるだけの確実性は、残念ながらまだ身についていないけれど、シーズンを通じての成長度はきっとリーグワンのチームの中でも1・2だと思う。クワッガが離脱し、河田、家村、グリーンが戦列を離れた、そんな中でもチームは試合ごとに水準を高めていった。プレーオフという舞台は今年は消えたけれど、成長を示すチャンスはまだ残されている。
今シーズンの試合はあと2つ。第15節は大阪・花園での神戸スティーラーズ戦、そして第16節は本拠地ヤマスタにブレイブルーパス東京を迎える。
14節を終えて6勝6敗2分。勝点33の8位。昨年の勝点30はもう超えている。だが、現在の順位は過去2年と同じ「8位」だ。
レヴニスタはきっと進歩を認めてくれるだろう。だけどそこに安住してはいけない。プレーオフという目標は消えたけれど、ひとつでも勝点を増やして、ひとつでも高い順位でシーズンを締めくくることこそ、プロクラブという道を選んだレヴズの責務だ。残り2戦の重みは何も変わらない。秩父宮にこだました「GO!GO!REVS!」の咆吼に報いるためにも。
ブルーレヴズよ、ラスト2戦、結果を残そう。
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。