身体同士がぶつかる鈍い音が鳴り続けた80分のナイターゲーム。~大友信彦観戦記 4/8 リーグワン2022-23 Div.1 R14 vs.東芝ブレイブルーパス東京戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
エコパスタジアムには強い西風が吹き付けていた。この日、静岡県西部の最大瞬間風速は20mを超えた。体感温度は氷点下だ。スタジアムの隙間に吹き込む風は笛のようにうなりをあげてスタジアムの屋根にこだました。雨中の試合が続いたあとは嵐のような強風。それもラグビーだ。どんなときでもタフに戦うブルーレヴズには、タフな舞台装置が似合う。
4月8日。リーグワン第14節。
静岡ブルーレヴズは東芝ブレイブルーパス東京とのホストゲームを迎えた。
会場は今季2度目の静岡スタジアムエコパ。スタジアム前の広いオープンスペースには、スタジアムグルメやグッズショップ、静岡県を本拠とする女子チーム・アザレアセブンのブースなど常連メンバーだけでなくいつも以上に多彩なブースができた。ミニ四駆のレース、アーティストのライブ、袋井太鼓、テントやアウトドアチェアなどキャンピンググッズの展示さらには結婚情報誌ゼクシィとのコラボ企画で行われたトークショー。地域に密着して活動していこうというブルーレヴズのクラブ哲学が、イベントスペースから発散され、強い風とともに広がっていた。強風の中でも、非日常の時間がそこには生まれていた。
前節終了時点でブルーレヴズは7位。プレーオフ進出の可能性は消えた一方、入替戦に回る可能性はまだ消えていない。迎えるブレイブルーパスは5位。プレーオフ進出のためには後がない。互いに絶対に負けられない戦い。それは前節までの足取りを見ても分かる。ブレイブルーパスは4連勝、ブルーレヴズは2連勝でこの戦いに乗り込んだ。どちらも、危機感をバネに勝利を重ねながらこの終盤戦を戦っていた。
この試合に向けて、堀川HCはFWの先発に過去2戦と同じ8人を並べた。負傷離脱中の共同主将クワッガ・スミスは引き続き欠場したが、No8にマルジーン・イラウアを据え、大戸裕矢がフランカーに下がってゲームキャプテンを務める布陣だ。一方BKは、前節で負傷もあって交替したサム・グリーンに代わるFBにキーガン・ファリアがWTB11から移動。その11には、3月に追加加入したばかりのアラパティ・レイウアが入った。サモア代表34キャップを持ち、NZのハリケーンズ、英国のワスプスとブリストル、南アフリカのストーマーズで豊富なキャリアを重ね、CTBとWTB、力強いランとタックルを併せ持つ新戦力だ。14番には前節の伊東に代わりルーキー槇が2試合ぶりに先発に戻り、伊東はベンチスタートへ。フッカーの控えには第7節の花園戦以来となるリッチモンド・トンガタマが戻った。すべてのメンバリングに通底するのはタフさ。FWもBKも問わず激しさで「接点無双」を掲げるフィジカル軍団ブレイブルーパスに真っ向勝負する覚悟が、メンバーリストから透けて見えた。
試合は午後6時、ブレイブルーパスのキックオフで始まった。
レヴズは自陣でレシーブからのゲームスタート。その最初のフェーズで、SHブリン・ホールが密集からキックを蹴るタイミングを見計らっていたとき、滑川レフリーの笛が鳴った。「Use it」(ボールを使え)の声のあと、速やかにボールを出さなかったことで遅延行為を取られたのだ。近頃話題となっているメジャーリーグの「ピッチクロック」を連想してしまう。レヴズはいきなり自陣深くで相手ボールスクラムのピンチを迎えるが、ここは切り替えるだけ。ディフェンスでゲームを始めるのだ。そして実際、レヴズは全員が厳しいタックルを反復してブレイブルーパスの看板たる接点で渡り合い、止め続け、ボールを奪ってピンチを脱出する。悪くないスタートだ。
その後も両チームは接点で互角の攻防を繰り広げた。日本代表の大黒柱リーチマイケルを筆頭に無骨にフィジカル勝負を仕掛けてくる相手に、レヴズの青いジャージーは弾丸と化して刺さり続けた。
スコアが動いたのは10分を過ぎてからだ。
13分、インゴールドロップアウトから攻め込んだブレイブルーパスはリーチマイケルがゴールラインへ。このプレーは直前にスローフォワードがありトライは認められなかったが、直前にペナルティーがあり、FB松永拓朗がPGを決めて3点を先制。直後の15分にはキックオフ後の蹴り合いからのカウンターアタックでFB松永、LOワーナー・ディアンズがつなぎ、LOジェイコブ・ピアスがノーホイッスルでトライ。わずか3分ほどの間に、レヴズは10点のビハインドを背負ってしまった。
レヴズの反撃機は19分に訪れた。相手反則で得たPKで相手陣22m線付近の右ラインアウトのチャンス。しかしラインアウトマスター大戸裕矢へのスローはブレイブルーパスの202㎝LOピアスにカットされてしまう。
「相手には2mの選手が2人いて、テンポを変えたり、マークを外すプランを使ったりしたけど、風もあって、うまくいかないことが多かった」(大戸)
最初のチャンスを逃したレヴズだったが、得点機はすぐに訪れた。21分、相手キックを自陣22m線中央で捕ったFBキーガン・ファリアがカウンターへ。これはあまりゲインできずに捕まるが、そのブレイクダウンをチャンスと見た相手DFが集まったのをレヴズは見逃さなかった。SHブリン・ホールが左サイドのWTBレイウアにロングパスを送り、密集サイドに並ぶ相手DFを無力化。さらにレイウアは外に待っていたジョーンズリチャード剛へパス。いつもは無骨なタックルに身体を張るリチャードがハーフウェーまでビッグゲインする。
「前が空いていたことをコールしたら、バティ(レイウア)が良いパスを放ってくれました」と言うリチャードは、ハーフウェーで相手タックルを受けながら内をサポートしたレイウアに絶妙なオフロードパスを通す(こんなアタックセンスを隠していたとは!)。そこにぴったりサポートについたのがSHブリン・ホールだ。立ちはだかった元オールブラックスの相手SOトム・テイラーをレイウア→ホールへのパスで突破すると、逆サイドから戻ってきた相手FB松永をホールが引きつけ、外側へ引っ張ったところへ、サポートしてきたレイウアがクロスして内側へ、ホールからレイウアへラストパスが通り、左中間に鮮やかなトライを決めるのだ! チームに加わって僅か1ヵ月という新加入ラパティ・レイウア、日本デビューから僅か22分でのデビュートライ。ホールがコンバージョンを蹴り込む。レヴズが勢いを取り戻した。7-10。
この流れを加速させたのがレヴズの心臓、スクラムだった。26分、自陣10m線付近のスクラムを押してPKを獲得。タッチキックで相手陣22m線に進んだラインアウトで再び反則を誘い、ホールがPGを蹴り込む。10-10の同点。
ゲームは激しく動き出す。直後の30分、今度はブレイブルーパスFWの8人がやり返す。レヴズ陣10m線付近のレヴズボールのスクラムを押し込んでボールを奪うと、レヴズDF裏のデンジャラスゾーンへキック。猛追した元セブンズ日本代表WTB豊島翔平がレヴズのWTB槇、戻ったジョーンズと競り合いながらボールを掴み、ニコラス・マクカランが左隅へ飛び込んだ。
やられたらやり返せ。次のキックオフ直後に組まれたブレイブルーパスボールのスクラムをブルーレヴズは8人が塊となって押し込みPKを獲得。ここから相手ゴール前に攻め込むと、36分、左ゴール前ラインアウトを大戸が捕ってモールを一気にドライブし、フッカー日野剛志が第9節サンゴリアス戦以来となるトライ。レヴズ得意の得点パターンを狙い通りに取り切った。
「ラインアウトは風もあって難しかったけど、モールを組めば取り切れる自信はありました」と大戸。左中間からの難しいコンバージョンをホールが蹴り込み、レヴズが17-15と逆転する。
ゲームはさらに激しさを増していく。ブレイブルーパスが攻め込む。リーチマイケルの足下をジョーンズリチャード剛が削る。激しい攻防が続く中で、レヴズがオフサイドを犯した。前半残り時間はゼロ分。ブレイブルーパスはここでショットを選択し、松永がPGを成功。ブレイブルーパスが18-17と逆転して折り返した。
そして勝負の後半。先にチャンスを得たのはブルーレヴズだった。家村の蹴ったキックオフでCTB小林広人が相手FBに猛プレッシャーをかけ、ノックオンを誘う。絶好のアタックチャンスだ! ここでレヴズはCTBタヒトゥア、No8イラウア、LOダグラスらが頑健に前に出てボールを継続する。このアタックはラックへのサイドエントリーでチャンスを逸するが、直後の自陣でのディフェンスで小林がタックルでPKを獲得。再びブレイブルーパス陣に攻め込む。
だがここで痛恨のミスが出てしまうのだ。相手ゴール前10mのラインアウトを大戸が捕る。レヴズ得意のモールに備えて集まった相手FWの裏をかき、ボールは素早くパスアウト。日野がサイドに持ち出し、オープン側へ走り込んだレイウアにパス……だがこのパスが合わなかった。こぼれ球を拾ったブレイブルーパスの佐々木剛に逆を突かれた形になり、90m独走トライを浴びてしまう。コンバージョンも決まり、17-25と点差は8点に広がってしまった。
悪い流れは続いた。54分、リチャードのタックルとレイウアのジャッカルで獲得したPKで相手陣22m線付近に攻め込みながらラインアウトを失敗。その焦りがあったのかもしれない。相手が確保していたブレイクダウンで、PR河田和大が相手の無防備な膝元へ横からブローに入ってしまった。無用かつ負傷を招きかねない危険なプレー。TMOの結果、河田にはレッドカードが提示された。残り25分間、ブルーレヴズは1人少ない14人で戦わなければならない。
このピンチを救ったのは背番号7、ルーキーながらタックル職人として君臨するリチャードだった。数的優位を得て波状攻撃を仕掛けてきたブレイブルーパスに対し、ゴール前に攻め込まれながら相手PR木村星南に猛タックルを浴びせ、PKを奪ってピンチを脱出。そのラインアウトから家村の好キックで再び相手陣でラインアウトを得ると、大戸が獲得。ここからのアタックが圧巻だった。CTBタヒトゥアが左サイドを出てオフロードパス。これを受けたWTBレイウアが相手タックルを受けながらタッチラインギリギリで耐え、内をサポートした日野へオフロードのリターンパス。日野がコーナーへ飛び込んだ。
橋元アシスタントレフリーはタッチと判定したが、スクリーンに映し出された映像を見た滑川レフリーがTMOを要求。映像を繰り返し確認した結果、レイウアの左足はギリギリでタッチを踏んでいなかった。滑川レフリーは自ら判定を覆してトライを認めた。エコパスタジアムに大歓声が響いた。
「足が中に入っていてくれてラッキーだったよ」(試合後のレイウア)。
サモア代表34キャップ、世界で活躍してきたレイウアのキャリアは、前半のトライに続きスーパーアシストという形で発揮された。頼もしい新戦力。ホールのコンバージョンは外れたが、レヴズは22-25の3点差に追い上げた。
だが、ブレイブルーパスもプレーオフ進出のためには負けられない意地がある。アクセルを踏み込み、レヴズのゴール前に殺到する。レヴズはリチャードがタックルでPKを獲得し、ホールが相手パスをカットし……再三に渡ってゴール前のピンチをしのぐが、人数で優位に立つブレイブルーパスはじわじわと圧力をかける。67分にリーチのオフロードパスから松永がトライを決め22-30の8点差。さらに76分には、ブレイブルーパス陣10m線のラインアウトで圧力を受けノットストレート。そのスクラムから途中出場の相手CTB森勇登に突破を許し、やはり途中出場のWTB濱田将暉にトライを決められてしまう。1人少ない14人が奮闘し、疲労が覗いてきたレヴズに対し、ブレイブルーパスはフレッシュレッグズの走力でトライを取りきった。この時点でトライ数は5対3。ブレイブルーパスはもう1トライを取ればボーナス点が取れる。
だがブルーレヴズも易々とそれを許すわけにはいかない。どんな状況でも戦い抜くことこそ、強風の中でエコパに足を運んでくれた4007人のファンのため、レヴニスタの皆さんとの約束を果たすこと――その執念が実ったのがロスタイムの84分だった。相手ゴール前に攻め込んでPKを得ると、迷わずスクラムを選択。河田のレッドカードでスクランブル出場となった植木悠治を筆頭にリッチモンド・トンガタマ、茂原隆由とのフロントロートリオ、LOアニセ・サムエラ、FL庄司拓馬の途中出場組も、ゲームスタートから身体を張り続けたマリー・ダグラス、大戸裕矢、ジョーンズリチャード剛も、塊となってスクラムをプッシュ。最後はやはり途中出場のSH田上稔がインゴールに飛び込んだ。
クリントン・スワートがコンバージョンを決め、最終スコアは29-37。ボーナスポイントが得られる7点差には1点届かなかった。だが、25分間を14人で戦う状況になりながら粘り、相手にもボーナスポイントは与えなかった。どちらも望んだものは得られなかったが、85分まで及んだ激しい戦いはまさしくラグビーそのものと呼びたくなる、積極果敢なアタック、身体を張ったタックルが連続する極上の戦いだった。
試合の終わったスタジアムでは、五郎丸CROの企画した「プロポーズ大作戦」が決行され、花火も打ち上げられた。強風極寒の中でも試合を多彩に盛り上げ、ファンとの繋がりを強くしていこうというのがレヴズのチームカルチャー。悔しい負け試合のあとでも、選手たちは笑顔で演出に参加し、スタンドのレヴニスタたちに笑顔を届けた。
残り2試合。プレーオフが消えようが、勝利を求めることは絶対にやめない。だが、求めるのは勝利だけでもない。魅力的なチームになるために。地域とともに、ファンとともに歩んでいくために――ブルーレヴズの戦いは続く。
堀川隆延HC
「ホームの試合に勝てなかったことは残念です。この試合に向けて、ブレイクダウンのバトルでプレッシャーをかけていこうと準備してきた。選手たちはそれを80分間やりきってくれた。ターニングポイントになったのは、ラインアウトで我々が準備してきたプレーがうまくいかなかったことと、そのあと危険なプレーでレッドカードを出してしまったこと。本当に申し訳ないプレーをしてしまった。反省して、二度とあのような危険なプレーはしないように徹底していきたい。残り2試合、まず埼玉ワイルドナイツとの試合に向けて、自分たちの強みを出していけるよう、1週間準備したい」
大戸裕矢ゲームキャプテン
「トライを取り切るべきところで取り切れなかった。トライを取れるなという感触はあったけれど、取ったときもそのあと簡単に取られてしまったり、難しいところがあった……すいません、悔しいですね。この試合をしっかりレビューして、次のワイルドナイツに向けて準備していきます。
個人的にはチャンスにラインアウトを取らなかった悔しさがあって悔しかったし、ホーム戦で勝ちきりたいという思いが強かったです」
<了>
NEXT MATCH IS・・・
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。