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2シーズン目を戦い終えた堀川隆延が語る【インタビュー】

Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)

静岡ブルーレヴズ2シーズン連続で指揮を執った 

堀川隆延ヘッドコーチ

に、シーズン終了直後の4月25日にインタビューを行った。

堀川隆延
1997年にヤマハ発動機に入社しラグビー部でプレー。2005年の引退後トップチームスタッフとして携わり、ヤマハ発動機ジュビロ~静岡ブルーレヴズを指導者として大きく支えてきた。

――まずはシーズン、お疲れ様でした。結果は8位で、プレーオフ進出は叶いませんでしたが、今季のチームのパフォーマンスに点数をつけるとしたら何点つけられるでしょうか。
「うーん、難しいですね…シーズンを通すと、60点くらいかな。いや、チームにというよりもコーチの自分を採点すると、もっと低いかな。
単純に結果でいえば、8位という結果には全然満足していません。ただ、去年の8位と今年の8位はプロセスも中身も違う。チームの成長に関しては確実に手応えを感じるシーズンだった。結果には満足できないけれど、チームの成長は評価したいと思います」

――成長した部分をあげていただけますか。
「やはりセットプレーです。新しいラグビーにチャレンジしながらなかなか結果が出なかったとき、自分たちの強みであるセットプレーに立ち返ろう、原点に帰ろうとセットプレーラグビーに戻ったことで、シーズン終盤のFWの頑張りに繋がり、スクラム、ラインアウトモールからの得点が増えたことは成長した部分だと思います。


もうひとつはディフェンス(DF)の部分、ここが大きく改善されたことはチームが大きく成長した部分です。
それと、たくさんのケガ人が出てしまったのは、やむをえないものも多かったとはいえマネジメントの責任なのですが、その中でチャンスを得た若い選手が大きく飛躍してくれた。これはチームにとって大きな財産になりました。その一方で、矢富勇毅を筆頭に大戸裕矢、日野剛志などのベテランも素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれました」

今シーズン大きな成長を遂げたジョーンズリチャード剛。Best Rookie of the season(新人賞)にも選出された
ベテランの底力・判断力でチームを支え続けた大黒柱、38歳矢富勇毅。

――セットプレーに関しては、ヤマハ発動機ジュビロ時代からチームの最大の武器でしたが、その一方で、昨季からはそこだけに頼らないレヴズスタイルの構築をテーマに掲げてきました。
「弱みは強みになりえないし、やはり強みを持とうとすれば、それは磨き続けなければいけない。その一方で、試合によって、相手によって、自分たちの強みもある程度変化はある。戦略的に、我々の強みを出すためにセットプレーを多くするゲームプランで臨んだ試合もあるし、中にはゲームを切らない展開を意図した試合もあったし、結果が出たときも出ないときもあった。やはり相手チームも、我々と対戦するときはセットプレーが増えないよう、キックも意図的にノータッチを蹴ってきたりして、その対処に苦しんだ部分もありました」

――シーズンの序盤から惜しい試合が続き、なかなか勝利には届かなかった。
「最初のヴェルブリッツ戦はキックからボールを再獲得するプランがうまく機能しなくて、相手にボールを持たれる時間が多くなってしまった。第2戦のワイルドナイツには、逆にこちらから攻めすぎず、テリトリーをとっていくゲームプランで臨んで、それがある程度機能して1点差の戦いができた。その戦い方をベースに第3節以降に臨んだのですが、そこからケガ人が多く出てしまったことで、遂行力が上がらず、ゲームプランがはまらず、苦しんだというのが前半戦の流れでした」

――終了直前、ロスタイムに入ってからの逆転負けが何度もありました。終盤の勝ち切れなさがフォーカスされがちですが、もっと前の時間に得点を取るべき場面で取り逃したことも多かったですね。
「得点を取れるはずのところで取り切れずに終盤にもつれて、残り5分、このラインアウトを取れば、という場面でミスが出たり、カードをもらったり。勝負のキモのところで自滅してしまったケースが多かった。自分たちでチャンスを手放してしまった場面が確かに多かったです」

1/22相模原DB戦、ラスト1プレーで同点トライを献上してしまった。直後のPGは外れるも、勝利が手からこぼれてしまった悔しい一戦。

――原因をあげていくと、メンタル、スキル、フィジカル…
「すべてだと思います。心技体、知も含めて。自分たちの強みを最大限研ぎ澄ませていかないといけないし、その上で、その強みで突き抜けなきゃいけない。そのためにはラグビー知識、ナレッジも含めすべての面でレベルアップが必要だし、その上でチームのカルチャーも作っていかなきゃいけない。ワイルドナイツの選手なんて、どんなときも落ち着いているし、局面局面で本当に適切なプレーを選択できていますよね」

――判断重視というのは、堀川さんが昨季からレヴズに求めているものでもありますよね。
「トップリーグ時代のヤマハスタイルというのは『この局面ではこうする』というチームルールをあらかじめ決めて臨むラグビーだったんです。これは合理的ですし、勝利への近道でもあるのですが、選手自身の判断をなくしてしまう面もある。それでは、スカウティングや分析の技術が進んだ現在はなかなか勝てない。やはり、目の前の状況に対応して判断していく能力を養わなければいけないんです。これはある意味、自分たちの過去を否定してでも、新しいものを生み出そうというチャレンジです。とても難しいことだけれど、避けては通れない。事前に立てたゲームプランを遂行しつつ、目の前の状況が変わればそこに反応して違う判断をしなければならない。その意味では、事前のプランと違う判断でトライを取れた場面もありました」

――具体例をあげていただけますか。
「たとえばエコパでのブレイブルーパス戦(第14節)、自陣からジョーンズリチャード剛が左ショートサイドをカウンターアタックして、アラパティ・レイウアとブリン・ホールがパスを繋いで取ったトライなんか、そうでしたね。相手がノックオンしたとき、事前のプランではキックをするはずのエリアだったけれど、前にスペースが空いていることを的確に判断して、正しく攻めた。

その前(第13節)、日本平でのダイナボアーズ戦でも、ラインアウトからショートサイドが空いているのを見てサム・グリーンとブリン・ホールの2人でそのスペースを攻めて一発でトライを取った。第15節のワイルドナイツ戦の前半、相手ゴール前のラックで矢富が逆目に持ち出してレイウアが取ったトライもそうです。事前のプランでは順目だったけど、相手DFの並びを見て判断しました。

ただ、こういう判断を下している場面に絡んでいるのはやはり海外の選手が多いですね。
でも国内の選手でも、山口楓斗は面白いカウンターアタックに行くな、と思う場面がたびたびありました。ケガで出場機会がすくなかったのは残念ですが、いい判断をしていたと思います」

――シーズンを通して見ると、キーガン・ファリア選手がFBとして終盤戦はすごく機能していました。28歳ですがすごく成長を感じました。
「チームのアワードでブレイクスループレーヤーに選ばれたのはマルジーン・イラウアでしたが、もちろんマルジーンもすごく成長しましたが、私は個人的にはキーガンを推したかったです。第4節のブラックラムズ戦ではイエロー2枚のレッドカードをもらったり、なかなかチームに貢献できなかったけど、そこから再び立ち上がって、第13節のダイナボアーズ戦ではキックとカウンターアタックの判断が冴えて、勝利の立役者になってくれた。チームに勢いを与える選手に成長してくれました」

――昨季から今季の前半までのキーガン選手は、ラン能力は光っても、クレバーな判断をする印象はありませんでした。
「彼とは去年からずっと話をしてきました。彼の課題は一貫性の部分だった。だから試合だけでなく練習中も含めて一貫性を持て、アチチュードを高く持てと求めて、GPSのデータも見せて、すべてのセッションですべてを出し切ることの大切さにようやく気づいて、一貫性のあるパフォーマンスを出せるようになってくれました」

3/26相模原DB戦、ラスト1分で見事な50 : 22を決めたキーガン・ファリア

――30歳に近い外国人選手が、成長したというかプレーヤーとしてのキャラクターまで変えてしまった。珍しいケースだと感じました。マルジーン選手もそうですよね。昨季までのような試合ごとの出来の波がなくなった。
「やはり『育成のレヴズ』というのは大事にしていきたい。それは日本人選手だけじゃなく、ここでプレーする選手は日本人外国人を問わず成長するんだ、という場所でありたい。
マルジーンには昨季のプレシーズンに『体重を10キロ落としてこい』と言ったのですが、オフ明けのスタートの時、しっかり約束を守って10キロ落としてきたんです。当たり前のことなんですが、決めたことに対してしっかりコミットした。モセ・トゥイアリイコーチがつきっきりでアフタートレーニングもつきあったりして取り組ませた成果でもあるのですが、本当によくやってくれた」

ジャージの重みを噛みしめ試合に臨んだマルジーン・イラウア

――よいストーリーもたくさんあったシーズンでした。しかし、気になったのはケガ人の多さです。
「中にはどうしようもないケガもあったと思います。ラグビーではつきものというか、やむをえないものがある。でも、肉離れのような筋肉系のケガは、防がなければいけないものだった。これはプレシーズンのトレーニング強度が足りなかったのかもしれないし、シーズンイン後のトレーニングでリカバリーが足りなかったとかインテンシティが過多だったとかあるかもしれません」

――プレーオフへ進めなかったのは残念ですが、納会では山谷社長が「早くシーズンを終えたチームは早く次へのスタートを切れる」と話していました。来季へ向けて計画していること、あるいはもう始めていることはありますか。
「まず、選手との1対1の面談はもう始めています。外国人選手はシーズンが終わると帰国する選手もいるので先行していますが、今季のレビューと来季への期待について、選手とはコミュニケーションを取ってこちらが期待する部分も伝えています」

――若手の育成についてはどうでしょう。レヴズには試合経験の必要な若手選手がたくさんいると思います。コロナ中はできなかった海外派遣を復活させる計画はありますか?

「海外派遣は考えています。受け入れチームとの調整もあり、まだ発表できる段階ではありませんが、若手・中堅の選手数名について、受け入れ先クラブと調整を進めているところです」

――発表が楽しみです。新年度のスケジュールはどの程度決まっていますか。
「チームのシーズンスタートは7月下旬に予定しています。それ以前、6月いっぱいはヤマハ発動機の社員選手には9時から17時までのフルタイム勤務をしてもらいます。これはヤマハ発動機がブルーレヴズを支援するにあたっての条件でもあるのですが、引退後のキャリアのためにもしっかり職場でのキャリアも積んでもらうのがチームの方針です。アスリートとしては厳しい部分もあるけれど、フルタイム勤務をしながら自分のコンディション、フィットネスやフィジカルトレーニングに取り組んでもらう。そして7月に入ったら、勤務時間を減らしてもらって、各自にフィットネストレーニングに取り組んでもらいます。中には海外出張する選手もいるし、新人選手は研修で工場実習も行ったりしますが、もの作りの会社にいる以上、現場に身を置くことも大事です。社会性を養うことはラグビーの試合にも必ず繋がるものだし、この時間は大切にしたいと考えています」

――新戦力の見通しはいかがでしょう。すでに来季加入するビッグネームを発表しているチームがいくつかありますが。
「ブルーレヴズもいい選手を獲得したいと思っています。ファンの皆さんにも期待していただける、レヴズのチームカラーに相応しい選手に加わってもらえるようスカウト担当が動いているところです。発表を楽しみにしていてください」

――楽しみです。ホスト最終戦のヴェルブリッツ戦は、ヤマハスタジアムに12203人の大観衆が集まりました。仮面ライダーギーツショー、ふれあい動物園、ふわふわ迷路など子どもも楽しめるアトラクションも多く用意されていたし、観戦客の子どもの多さが印象的でした。
「強化部門だけでなく、事業部、育成、広報、静岡ブルーレヴズのすべての方々がチームに対する強い思いを持ってハードワークされた結果だと思います。それを静岡県ラグビー協会、静岡県庁、スポンサーの各社様含めて、みなさんが暖かく迎えてくださって、静岡のラグビーカルチャーができてきたと思います」

ぎっしりと埋まったバックスタンドの声援は、確実にチームにあと一歩踏ん張れる力をくれた

――観客の声を聞いていると、子どもたちや女性の間でも選手の名前が認知されているなと感じました。
「レガシー事業で地域の小中高校までたくさん訪問させていただいたし、受け入れてくださった学校のみなさんなど、多くの方の努力のおかげで静岡ブルーレヴズの認知度も上がってきた。支えてくださったみなさんに感謝します。ですから、本当に、みなさんの力を結果としてお見せしたかったのですが……来季こそ、みなさんの努力の成果をグラウンドで表現できるシーズンにしたいです」<了>


試合後に行われたファンクラブ有料会員限定イベント。もっともっと大きな感動を共有していけるように、すでに次シーズンへの戦いは始まっている。

大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。

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