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どんなブサイクな試合でもいい、1点差でいいから勝ちたい。泥臭く戦いたい。【インタビュー 日野剛志】

Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photograph by 静岡ブルーレヴズ、谷本結利
インタビュー:2022年12月13日

いよいよリーグワン開幕が目前に迫った。15日には開幕戦となる17日のトヨタヴェルブリッツ戦の登録メンバーも発表された。

開幕を前に、チームには頼もしい選手たちが続々と帰ってきた。日本代表の欧州遠征から帰国したHO日野剛志、LO大戸裕矢、そして南アフリカ代表の欧州遠征から合流したのが共同キャプテンのクワッガ・スミス。

なかでも、合流早々、抜群の存在感を示したのがHO日野だ。開幕前最後のプレシーズンマッチとなった4日の花園近鉄ライナーズ戦では開始2分の先制トライを皮切りに4連続トライを含む5トライを決め、チームを完勝へ導いた。
トップリーグ時代からリーグワンまでを通じた通算トライ38は歴代27位で、フロントロー選手としては歴代最多だ。
間もなく開幕するリーグワン2年目のシーズンも、ブルーレヴズの先頭で身体を張り、ボールを前に運び続けるキーマンに、開幕への思いを聞いた。

チームを離れていた期間が長かったが、みじんも感じさせないプレーを見せた。

――まずは、お帰りなさい!9月に始まった別府合宿から欧州遠征まで、長期間にわたった日本代表活動、お疲れ様でした。

「ありがとうございます。帰ってまいりました!
僕にとっては久しぶり、5年ぶりの日本代表、秋のツアー参加でしたので、懐かしい感じもあり、新しいメンバーがたくさんいて自分にとって新鮮ないい学びの機会になりました。」

――今回の代表活動では出場機会はなかなか得られませんでしたが、日野選手自身はどんな思いで活動して、どんな収穫がありましたか。

「試合に出られるのが当たり前ではない中で、自分はどう振る舞うのか、その中でどう成長していくか、常に問われるような毎日でした。心身ともにいい成長の機会だったと思います。今は、今回学んで成長した部分をリーグワンの試合で出さないといけないと思っています」

――今回のツアーではノンメンバーとして過ごす時間が多かったと思います。難しい時間が多かったのでは。

「そうですね。ノンメンバー同士で過ごす時間も増えてくるし、そこでどれだけチームのために動けるか、自分の姿勢・アチチュード(意識の高さ、態度)が試されている。やっぱり、ふて腐れている人間がいたりしたらチームがうまく回らない。もちろんジャパンにはそんな選手はいませんが。自分のアピールもしつつ、チームのために相手の分析をしたり、練習で相手の戦術をやってみせたり、そういう役割を果たす。その中で自分の気持ちもコントロールしながら、仲間同士で声をかけあって、お互いにモチベーションを高めるようにして過ごしました。『日本に帰ったらまたリーグワンで切磋琢磨して、また日本代表にもどってこような』とか」

――「口には出さず」ではなく、あえて言葉に出していたのですね。

「言葉に出さないと、中には抱え込んでしまう選手も出てくるかもしれない。そうならないように、声をかけあって、助け合うことは大切です。若い選手には試合に出られない経験は初めてのような選手もいただろうし、お互いに労いあうことも大事ですから」

――日野選手はラグビーフットボール選手会の会長もされていますが『強がらなくて良い』『弱い自分も認めよう』という姿勢は選手会でも取り組んできたプロジェクトですね。

「メンタルヘルスの意味で、吐き出す場所も必要だと思うんです。練習ではもちろん頑張るけれど、それ以外のところではガス抜きというか、時には弱音を吐いたり、辛い想いを仲間と共有したりすることも大切ですから」
 
――日野選手のような経験豊富なベテランがいたことで、助かった若い選手もたくさんいたことと思います。今回のツアーは、日野選手にとってラグビーの面、スキルの面ではどんな収穫がありましたか。

「インターナショナルレベルのキャンプ、ツアーは久しぶりだったのですが、改めて、高いプレッシャー下でプレーすること、自分の役割を遂行することができるか、それがすべてだなと実感しました。日本代表ではスペシャルなプレーを求められるわけではない。自分の役割を、プレッシャーがかかった場面でも、しんどいとき流れが悪いときでもいつでも精度高く遂行できることが求められるんです。ブルーレヴズでも常にプレッシャーをかけて練習しているつもりですが、それ以上に気を張った時間が多かったです」

――5年ぶりの日本代表参加ということですが、ジェイミーHCにはどんな声をかけられましたか?

「最初のキャンプでは、ジェイミーに『驚いたよ』と言われました。思ったよりやれるんだなと、良い意味で驚いてもらえたみたいです(笑)」

――そもそも、今年の日本代表に選ばれるまでの経緯はどうだったのでしょう?

「最初は、5月に発表された日本代表候補にもNDS(ナショナル・デベロップメントスコッド)にも入っていなかったんです。ところが、5月にプレーオフに行かなかったチームの選手を集めて別府で先行合宿したとき、フッカーがいなかったんですね。ご存じの通り、日本代表候補のフッカーは埼玉ワイルドナイツ、東京サントリーサンゴリアス、東芝ブレイブルーパス東京と、プレーオフに進んだチームに集中していましたから(笑)。そこで、日本代表のコーチングスタッフに入っていた長谷川慎さんからレヴズの堀川ヘッドコーチ(当時監督)経由で『練習生として来ないか』と声をかけていただいて『行きます』と即答しました。その合宿で評価していただいて、NDSに追加メンバーで入ることができて、ウルグアイ戦で5年ぶりのテストマッチに出場できた。そして9月には、堀江さんがコンディション調整で辞退されたこともあって、合宿に呼ぶフッカー4人に入れてもらえた。ギリギリで呼んでもらって、ここまで来ました」


――今回はイングランドとフランスへの遠征でしたが、日野さんは2019年にフランスのトゥールーズでプレーしましたね。そのときは2023年のワールドカップへの思いはどうだったのですか?

「まったく考えてませんでした(笑)。2018年の日本代表から外れて、19年も外れた頃に、ヤマハがトゥールーズと提携して選手を送りあうことになって、堀川監督から『行かないか?』と声をかけていただいて『行きます!』と即答しました。そのときはいつの日本代表に戻りたいとかは全然考えていなかった。
実はその頃、僕は自分の競技生活の目標としてぼんやりと『フランスのTOP14でプレーしたい』と思っていたんです、ワールドカップより(笑)。だからチャンスは掴みたかった。そのときTOP14はホーム&アウェーで6試合あって、うち3試合に出場しました」

――来年のワールドカップではそのトゥールーズで日本代表は2試合を行います。今回の遠征でもトゥールーズに滞在して、ワールドカップへの思いは強くなったのでは?

「今回、トゥールーズに帰ることができたな、という気持ちになったし、来年のワールドカップにもう一度帰れたら最高のストーリーだな、ガンバロー、という気持ちにはなりました(笑)。そのためにもこれから始まるリーグワンで、ブルーレヴズで頑張らなきゃと思っています」

――ではブルーレヴズでの日野選手について伺います。日本代表から帰ってきて、チームにはどんな印象をうけましたか。

「まず、雰囲気がいいなあと思いましたね。7月から長いプレシーズンを送ってきたけれど、すごく良い雰囲気でチームがまとまっている。練習の様子や試合の映像はオンラインで共有したりしていてある程度把握していたのですが、どんな雰囲気かは聞けていなかったので、いいなと思いました」

――若いリーダーや新しい選手にはどんな印象を受けていますか?

「みんな、想像していた以上にすごく発言するなという印象を受けています。チームにコミットしてくれている。ブリン・ホールはもちろん、クルセ-ダーズのウイニングカルチャーを持ち込もうとしてくれているし、他の選手も積極的です。LOのアニセ・サムエラはセットプレーについてたくさん意見を言ってくれるし、CTBのジョニー・ファアウリも良いキャラでチームに影響を与えてくれています。キャプテンの奥村翔も、共同主将のクワッガ・スミスがいない間は大変だったと思うけれど、そこで頑張ったことでこれから良いキャプテンに育っていくと思います。若い選手は急激に成長していく可能性があるし、それはチームも劇的に成長させますから、楽しみです」

――日野選手自身はチームに合流してすぐの花園ライナーズ戦で5T。見事な活躍でした。

「いやあ、トライはたまたま、僕はボールを置いただけです(笑)。ただ、ラインアウトとスクラムというセットプレーはヤマハ発動機ジュビロの時代から僕たちが大事にしてきたチームカルチャーだし、ここがしっかりしていればどんなに強い相手に対しても勝つチャンスは出てくる。そこに新しいレヴズスタイル、若い選手の力を加えていけばチーム力はもっと伸びる。そのためにも僕と大戸は、セットプレーのリーダーとして責任があるし、そこは果たしていきたい」

ブルーレヴズのユニフォームを着て久々にみる日野のラインアウト。
モールからの5トライ。圧巻の活躍だった。
代表活動を終え日野とともにすぐにチームの中心でファイトする大戸裕矢

――開幕戦のメンバーも決まりました。PR1番の泓(ふち)選手は今春加入したルーキーで、初の公式戦が開幕戦の先発。FL6番の杉原選手は3年目でデビューです。リザーブ18番の茂原選手、20番トンガタマ選手もルーキーでメンバー入りしました。トンガタマ選手は帝京大で大学日本一を経験していますが、あとの選手は全国的にはあまり知られていない選手ですね。

「泓は帝京大では出場機会が少なかったけど、ルーキーで開幕戦でPRで初先発。素晴らしいですよね。おめでとうといいたい。きっと緊張するだろうけど、少しでもサポートしてあげられたらいいなと思っています。
実は泓は、大学2年の頃からヤマハへ何度か練習に来ていたんです。全国的には無名かもしれないけど、僕らの間ではスクラムの強さで有名でした(笑)。

4月加入、自身最初のシーズンで開幕スタメンを勝ち取った泓城蓮

リザーブに入った茂原は中大で、こちらは慎さんお墨付き(笑)。187cm116kgとサイズがあるのが魅力、ポテンシャルのある選手です。杉原は3年目ですが、これまでケガもあったりしてデビューは遅れましたが能力が高い。トライを取るセンスもある。あまり感情を表に出すタイプじゃないけど冷静に激しくプレーできるタイプ。全国区では知られていないけれど、ここからブレイクしていってほしい。ベテランとしては、彼らが自信を持ってプレーできるようにサポートしていきたいですね。若い選手がブレイクする瞬間を目撃するのが楽しみです」

ネイビーヘッドキャップで相手のタックルを止める茂原隆由
プレシーズン期に多くの試合に出場しトライも量産した杉原立樹。加入時と比べて顔立ちが明らかにたくましくなっている。

――日野選手は今季、ブルーレヴズのホストゲームで『ひのたけシート』を企画しました。この試みに込めた思いを聞かせてください。

「ありがとうございます。選手会の活動もあって、アスリートには何ができるか、どんな存在であるべきか、いろいろ考えてきた中で、まずチームが愛される存在にならなきゃいけないと思ったんです。選手はみんな、満員のお客さんの前でプレーしたいと思っていますが、そのためにはそもそも自分たちの存在を知ってもらうこと、地域に貢献していることが必要だと思う。
そう考えて、僕の中で沸いてきたのは『子どもたちに生でスポーツを観戦してほしい』という思いです。スポーツの迫力、スピード、激しさ、臨場感をスタジアムで感じて、スポーツを好きになってもらえたらいいなと思ったんです。そこからラグビー好きになってもらえたら嬉しいし、野球でもサッカーでも、スポーツ好きな子どもが増えたらいいと思うし、そのきっかけを作れたらいい。そのためにも、プレーを近くで見て、迫力を感じてもらえるように、バックスタンド最前列の席を用意しました。10席を年間シートで購入して、毎試合親子5組10名様を招待することにして、ブルーレヴズのHPで募集しています。おかげさまで、たくさんのご応募をいただいています」

――ヤマハスタジアムはスタンドとピッチが近いですから、お客さんも楽しいですよね。

「はい。僕にはラインアウトのスローイングという仕事もあるから、ひのたけシートの近くに行く機会もあると思うし、応援してもらえたら嬉しいですよね。当選された方には名前入りのタオルもプレゼントして、応援してもらおうと思っています(笑)。ひのたけシートはブルーレヴズのホストゲーム全試合、ヤマハスタジアムだけでなく、まだ正式には発表されていませんがエコパやIAIスタジアムで行われる試合でも設置します」

――素敵な試みですね。

「選手会でもいろいろな活動をしてきたし、いろいろなことを話し合ってきました。その中で、僕の場合は次世代にどうバトンをつなぐか、ラグビーを好きになってもらうかを考えました。ブルーレヴズはチームとしても、ファンの裾野を広げる活動に力を入れていますし、プロスポーツチームの一員として、選手自身も自主的に活動して行ければいいと思うんです。そういう選手が増えてくると、より地域と密接につながっていって、オンリーワンのチームになれると思う」

――最後に、開幕のトヨタ戦への抱負、レヴニスタのみなさんへのメッセージをお願いします。

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「やはり東海ダービーですから、どちらのファンの皆さんも負けられないと思っているでしょう。相手にはスター選手がたくさんいるけれど、こちらはひとつのチームにまとまってぶつかっていって、勝てれば僕たちも自信になるし、ファンの皆さんにも勇気を持ってもらえると思う。特に、昨季はエコパで対戦して、ほとんど勝っていたのにラスト5分で逆転負けという悔しい思いをしましたから、リベンジしたい。どんなブサイクな試合でもいい、1点差でいいから勝ちたい。泥臭く戦いたいです」

――特に対戦が楽しみな選手はいますか?
「トヨタのFWには日本代表で一緒だった選手がたくさんいますからね。姫野選手はもちろんですが、古川選手、木津選手、三浦選手、浅岡選手……9月から合宿、遠征をずっと一緒にやってきて、同じような(出場機会の少ない)立場で頑張ってきた選手も多い。彼らとスクラムを組むのは楽しみです。ツアーから帰国して解散するとき『お互いリーグワンで頑張って、また日本代表に呼んでもらって、一緒にやれたらいいな』と言いあって別れたし、彼らの活躍も祈っています。お互いに良いプレーをしてリーグワンを盛り上げられたら良いですね。ただし、この試合では勝たせてもらいます!」

――ありがとうございました。試合を楽しみにしています!<了>


大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。