ゼロに抑えた、大きく、熱い、今季初勝利!~大友信彦観戦記 1/29 リーグワン2022-23 Div.1 R06 vs.NECグリーンロケッツ東葛戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
1月29日、北風の吹き付けるヤマハスタジアムで、歓喜の輪ができた。
今季6戦目で、静岡ブルーレヴズは、リーグワン2年目の初勝利をあげた。
寒風の吹き付ける中、応援の拍手を贈り続けたレヴニスタの前で、ブルーレヴズは確かな一歩が刻まれた。
第6節から、リーグワンは反対側カンファレンスとの「交流戦」に入った。
第5節まで勝利を挙げられなかったブルーレヴズが、交流戦最初の相手としてヤマスタに迎えたのはグリーンロケッツ。勝利こそ初戦の近鉄ライナーズ戦からあげただけだが、東京サンゴリアスから19点、神戸スティーラーズから33点をあげるなど、攻撃力には高いポテンシャルがある。昨季は不戦勝以外の勝利を挙げられなかったが、ブルーレヴズ戦には27-34という激戦を繰り広げて勝点1をもぎとっていた。今季はオーストラリア代表72キャップを持つSHニック・フィップス、同2キャップのWTBタンゲレ・ナイヤラボロなど強烈な新戦力も補強するなどタレントは揃っている。決して侮れない相手だ。
その相手に対し、ブルーレヴズは前節から先発変更は1人だけ。第2節のワイルドナイツ戦以来4戦ぶりに復帰した共同主将の奥村翔を右WTBに起用した以外は、前節の相模原ダイナボアーズ戦と同じ14人を並べた。終了直前に追いつかれて初勝利こそ逃したものの、引き分けで連敗を「止めた」相模原での戦いをポジティブに受け止め、前進していこうという思いが覗く。そしてリザーブには、開幕節のトヨタ戦以来となるベテランSH矢富勇毅、今季初のメンバー入りとなるチーム最長身LOマリー・ダグラスも帰ってきた。1月29日14時、3721人のファンが集結したヤマハスタジアムで、試合は始まった。
試合は前半、風下に立つブルーレヴズのキックオフで始まった。グリーンロケッツはすぐに蹴り返す。風上を選び、定石通り地域を取って主導権を握ろうとする相手に対し、ブルーレヴズは地上戦を挑んだ。早いテンポでボールを動かし、密集を作ると選手が逆サイドへ大胆に移動して相手DFを攪乱する。
スコアが動いたのは9分だ。相手ゴール正面5mの位置でPKを得たブルーレヴズは満を持してスクラムを選択。ヤマハスタジアムの名物となったGPマシンのエグゾーストノートが響き渡る。青いジャージーの8人がひとつの生き物と化して固まり、相手の8人を押し込む。次の瞬間、レヴズの背番号8、闘将クワッガ・スミスがボールを持ちだした。相手タックルの出足がほんの一瞬遅れた間に、クワッガはゴールポストを回り込み、白線を超えてインゴールの芝に飛び込んでいた。鮮やかな先制トライ。SO清原祥がコンバージョンを蹴り込む。7-0。
しかしグリーンロケッツはひるまない。ハイパントを使い、強い北風を味方につけてレヴズ陣に攻め込む。だがこの日のレヴズのディフェンスはいつにも増して頼もしかった。その象徴が昨春磐田にやってきたルーキー2人の躍動だ。14分、グリーンロケッツの連続攻撃では、FLジョーンズリチャード剛が存在感を見せつけた。突っ込んできた相手CTBラウイにタックルしてすぐに起き上がり、次にボールを持ったLOジェイク・ボールにも突き刺さる圧巻の連続タックルを決めるのだ。
もうひとりはFB山口楓斗だ。21分には味方のPKがノータッチとなり、蹴り返されたキックを捕るとカウンターアタックでビッグゲイン。味方のミスを帳消しにしてみせると、31分には相手のハイパントを高く飛び上がって確保するや、そのままカウンターアタック。前節の相模原戦では初の先発FBに指名されながらシンビン処分を経験。試合後「チームに迷惑をかけて、そのあとも全然巻き返せなかった。僕の強みのランを見せられなかった」と唇をかんでいたルーキーが、悔しさを取り返すような猛烈にアグレッシブなパフォーマンス。
躍動したのは若手だけではない。17分には相手が狙ったPGがポストに当たり、ボールが大きく跳ね返るが、そのボールを思い切り追いかけたのが日野剛志だ。バウンドしたボールを目で追う相手を追い抜きざま、頭から地面へ飛び込む果敢なフロントセービングでボールを確保するのだ。青いジャージーは若手もベテランも区別なく、今季初勝利のために身体を張り続けた。結局、7-0でハーフタイム。
風下での戦いだったことを考えれば悪いスコアには見えない。しかし、圧倒的に攻めていたことを考えると、1トライのみに押さえられたことはやや物足りなかった。35分には相手FBが反則の繰り返しでシンビン処分を受けたのだが、そこから5分余り、レヴズは数的優位を活かせず追加点を奪えずにハーフタイムを迎えてしまった。前半のスタッツを見ると、ポゼッション(ボール支配率)は65%、テリトリー(地域獲得率)は73%。どちらも圧倒しながら、得点できたのは9分にクワッガがあげた1トライだけだったのだ。
だが、うまくいかないことがプラスに作用することもある。内容で圧倒しながら得点をたたみかけられなかったことが、レヴズをむしろ引き締めた。有利な風上にまわっても、チームに緩みが入り込む隙はなかった。それが後半開始早々の猛チャージに繋がった。1分、相手がパスを後逸したわずかな隙にHO日野が(またしてもこの人だ!)瞬時に反応。猛然と前に出て地面のボールを確保すると青の軍団はすぐにアタック。FB山口-WTBツイタマで左のタッチラインまでボールを運んでエッジをえぐり、右にLO大戸裕矢-PR河田和大でまっすぐ楔を打ち込み、相手DFの足を止めると一転、右へワイドに展開して日野からパスを受けたSO清原が大きくゲイン。内側をサポートしたCTBタヒトゥアにバックパスを通し、さらにパスを受けたFL杉原立樹がゴール前までボールを運ぶ。さらに右へブリン・ホール-清原と素早くボールを繋ぎ、最後は奥村からのパスを右隅で受けたジョーンズが身体をひねってコーナーポストをかわし、右隅へトライを決めるのだ。さらに清原が難しいコンバージョンも成功。レヴズは試合再開早々、14-0とリードを広げた。
だが、点差が広がったことがグリーンロケッツの闘志に油を注いだ。ロケッツの接点の圧力は時間を重ねるほどに高まる。風下の不利など無関係に、白いセカンドジャージーを着たグリーンロケッツがブルーレヴズ陣深くへ攻め立てる。
この日のハイライトが訪れたのは54分だった。ロケッツの猛攻は続いていた。白いジャージーがブルーレヴズのゴール前まで迫り、フェイズを重ねる。ロケッツの背番号4、山極大貴にクワッガ・スミスがくらいつく。身長180㎝の南アフリカ人が身長198㎝の日本人からボールを奪い取った。CTBタヒトゥアがつなぎ、SO清原がキックでクリア。しかしグリーンロケッツはレメキ主将がいち早く自陣に戻ってキックを捕ると、すぐさまカウンターアタックに来る。敵ながら見事な運動量と責任感そして執念。グリーンロケッツが再びフェイズを重ね、次々とレヴズのゴールラインに迫る。
そんな緊迫した攻防が、戦うレヴズにも力を与えてくれたに違いない。タックルまたタックル。ボールを持った相手SH藤井達哉をクワッガ・スミスがタッチライン際に追いつめる。味方へ渡そうと藤井が置いたボールに反応したのがレヴズFB山口だった。ボールを拾うや左タッチ際を猛然と駆け上がり、サポートに着いたツイタマにパス。ツイタマは追ってくる相手DFをかわし、振り切り、そのまま80mを走り切る。何度も攻守を入れ替え、自陣ゴール前まで追い込まれながら、ボールを奪うや抜群の切れ味で一気にトライ。ヤマハスタジアムの観衆が手を叩き、(思わず)声をあげる。そんなスリリングでドラマチックなトライ。さらに左隅の難しいコンバージョンも清原が鮮やかに決めるのだ。
21-0。トライ数は3-0。ロースコアの戦いながら、ボーナスポイント(BP)圏にたどり着いた。だが、トライをひとつ奪われればBPは消滅する。ここまで来れば、勝利はもちろんだがBPもほしい。何より、大勢のレヴニスタが見守る前でインゴールを明け渡す姿は見せたくない。
そんな思いを身体で表現したのが、この日、大活躍の山口だった。59分、自陣ゴール前右サイドで相手アタッカーと1対2、幅は15mという絶望的な状況に追い込まれながら冷静に間合いを詰め、最後にボールを持った相手23番児玉健太郎にゴール前2mでタックルを決め、倒し、ペナルティーも獲得するのだ!
山口の輝きはそれで終わらなかった。78分、相手陣に攻め込んだレヴズがボールを奪われ、ロケッツのカウンターを浴びるが、そこで山口が鋭く反応。タックルしてすぐに起き上がり、次にボールを持った相手にタックルを決めるのだ。リチャードが、山口が、そして日野が実演してみせたように、この日のレヴズは一瞬も隙を見せなかった。
80分が経過する。タイムアップのホーンが響く。グリーンロケッツがレヴズのゴール前に殺到する。クワッガが、山口が、途中出場のアニセサムエラが、吉良友嘉が、矢富勇毅がタックルしてはすぐ起き上がり、次のタックルへと身体を張った。穴を作らない青い壁にしびれを切らし、ロケッツの選手が危険なプレーの反則を犯す。TMOの結果、判定はグリーンロケッツのペナルティー。清原がタップしたボールを自陣ゴール裏に蹴り出し、試合は終わった。21-0。ブルーレヴズが今季6戦目で、初めての勝利を掴んだ。
堀川ヘッドコーチは、落ち着いた口調で勝利の喜びを言葉にした。
「今日の勝利を、まずはみんなでしっかり喜びたい。多くの方に応援して戴きながら、なかなか勝利という結果を出せなかったけれど、チームはもがいた分だけ強くなった。今日の勝利は、もがいてもがいて、今の我々を表していたゲーム展開だったと思う。今日一番良かったのは、数々のラインブレイクをされたけれど、常にディフェンスが人数で上回っていた。そういうプライドを選手たちは80分間見せてくれた。まだまだ自分たちの力を出し切ったとは思わないけれど、先のことを考えすぎず、次の一戦に向けて、また強くなれるように準備したい」
会見場に入ってきたクワッガは「走りすぎて足が攣りそうだ」と笑ってからマイクを持った。
「我々のチームの選手たちはみんな本当によくやってくれた。誇りに思います。相手がフェイズを重ねたときも、みんなで守って最後までトライを許さなかった。このディフェンスは自分にとっても素晴らしい時間だった。私たちもチャンスにトライを取りきれなかった場面もあったけれど、ボーナスポイントつきの勝利を得られたことは誇りに思う。これまでタフな時間を過ごしたけれど、厳しいトレーニングの時間を積み重ねて、このような素晴らしい勝利を掴むことができた。嬉しく思います」
難産の末につかんだ初勝利は21-0の完封勝ち。
実は、相手を零封しての勝利は、リーグワン2年目、ディビジョン1では初めてだった。
リーグワンディビジョン1のどこも成し遂げたことのないことを達成したブルーレヴズ。
それはきっと、ここから先も、誰も予想していないことを成し遂げることの序章なのだ。
ブルーレヴズの挑戦が、いよいよ本章に入る。<了>
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。