チャンスを得点に結びつける遂行力を磨くのみ。~大友信彦観戦記 1/7 リーグワン2022-23 Div.1 R03 vs.東芝ブレイブルーパス東京戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
2023年1月7日。静岡ブルーレヴズにとって新年最初の試合は、神奈川・等々力陸上競技場での東芝ブレイブルーパス東京戦とのビジターゲームだった。
Jリーグ・川崎フロンターレのホームスタジアムとして知られる等々力陸上競技場で、旧トップリーグ~現リーグワンの公式戦が行われるのは初めて。
だが実は、Jリーグ仕様に改修される前の等々力陸上競技場では、関東大学対抗戦やリーグ戦、東日本社会人リーグの公式戦が行われていた。記憶に鮮やかなのは1989年、関東大学リーグ戦の専大vs関東学院大の全勝対決だ。専大の主将は東芝府中~フランス・バイヨンヌを経てブルーレヴズの前身・ヤマハ発動機に加わり、トップリーグ最年長選手としても活躍したレジェンド村田亙さん。関東学院大の1年生FBで活躍していたのは、のちに東芝府中に加わりワールドカップ4大会出場、村田さんのトップリーグ最年長出場記録を塗り替えたこちらもレジェンド松田努さんだった。スタジアムの姿は変貌していたが、等々力で初めて行われるリーグワンの公式戦がブルーレヴズとブレイブルーパスの一戦であることは嬉しい符合だった。
ブレイブルーパスもまた、ブルーレヴズにとって特別なチームだ。昨季は駒沢でのビジター戦に26-59で大敗したが、この試合で多くを学んだレヴズはそこからじわじわと力をつけ、最終節、ヤマハスタジアムで行われたホスト戦では終了直前までリードを奪う戦いをみせた。遡れば、ヤマハ発動機ジュビロが初めて全国の舞台に躍り出た1994年度の全国社会人大会初戦で対戦したのもブレイブルーパスの前身・東芝府中。スコアは13-90の大敗だった。その20年後、日本選手権準決勝でヤマハ発動機は東芝を破り、決勝に勝ち進んでサントリーを破って初めての日本選手権優勝を飾った。レヴズにとってブレイブルーパスは、自分たちの進歩を証明するための、歴史的なライバルなのだ。
そして現在。ブレイブルーパスには日本代表の大黒柱であるリーチマイケルがいる。リーチは今回、No8で先発する。対するブルーレヴズの背番号8は、今季から共同主将の一人としてチームを率いるクワッガ・スミス。クワッガとリーチの対決は、リーグワン全体を見渡しても最高水準の対決だ。これを生で見るだけでもチケット代と交通費のモトは取れるだろう。
そして1月7日。迎えたブルーレヴズ戦。
ブルーレヴズはこの試合に、前節から先発3人を変更して臨んだ。右PR伊藤平一郎に代えて新人の茂原隆由、CTBジョニー・ファアウリに代えて白井吾士矛、共同主将のFB奥村翔に代わってキーガン・ファリアがWTBから移り、WTBには伊東力が入った。
「奥村は開幕戦でケガをしていました。今日は、試合を敵陣で進めるためにキックを使える選手をバックスリーに並べました」
(堀川隆延HC)
現代ラグビーでは、自陣にいれば偶発的なプレーでも微妙な判定で失点するリスクがある。同時に、ブルーレヴズの武器であるラインアウトからのモール、ヤマハ発動機ジュビロ時代から磨き続けてきたスクラムは、敵陣に攻め込むことで威力を発揮する。自陣での消耗を避けて敵陣で勝負。目指すはスマートさと荒々しさを両立させる戦いだ。
試合は快晴のもと、ブレイブルーパスのキックオフで始まった。
ブレイブルーパスの武器はロケットスタートだ。過去2戦はともに試合開始から3分以内に先制点をあげている。そしてこの日も5分、レヴズゴール前10m付近のスクラムから、ブラインド側WTBを投入するサインプレーでブレイブルーパスが先制トライを奪う。
レヴズもすぐに反撃する。次のキックオフからの蹴り合いで、FBで起用されたキーガン・ファリアが自分で蹴ったキックを追ってプレッシャーをかけ、SOサム・グリーンが冷静にPGを蹴り込み3-7。キーガンのFB起用の狙いは当たった。
流れはレヴズに来た。ブレイブルーパスのキックオフを捕ったレヴスは相手反則で得たPKで陣地をハーフウェーに戻すと、ラインアウトを大戸が捕球し、次にPKを得るとタッチキックから再びラインアウトをキープする。身長187㎝の大戸が、2m超のツインタワーを擁するブレイブルーパスを相手に見事なコンビネーションでボールを確保するのだ。昨季のリーグワンで、ラインアウト最多獲得の数字を残した実力を証明した。
しかし、試合は膠着した。レヴズは16分にグリーンがPGチャンスを得るが失敗。レヴズはここから自陣ゴール前まで攻め込まれるが、相手ボールのラインアウトにプレッシャーをかけてノックオンを誘い、スクラムで相手コラプシングを誘い、一気に陣地を戻す。20分にはブレイブルーパスのアタックにレヴズのクワッガ・スミス主将がしぶとく食いつきノックオンを誘う。だがこの時間帯にレヴズは追加点を取れなかった。24分、クワッガのスクラムサイド突破をブレイブルーパスはリーチのジャッカルで止め、逆にそこから攻め込んでトライ。リーチvsクワッガの勝負、悔しいがここはリーチが勝った。ルーパス14-3レヴズ。
だがレヴズはここから反撃に出た。
28分だ。自陣右サイドからハイパントをあげたファリアが自らキャッチしたスーパープレーから、レヴズは左へ大きく展開。弧を描いて走ったSOグリーンからCTB白井吾士矛を経てパスを受けたWTB矢富洋則が走り切り、最後はリーチのタックルを受けながらも左隅にこの試合初トライ。グリーンのコンバージョンは外れるが8-14と追い上げる。
37分にはPKから相手ゴール前のラインアウトに持ち込み、ここでも相手の2mペアを翻弄して、193㎝のLO桑野詠真が最後尾でクリーンキャッチ。そのままモールを押し切り、HO日野剛志が左隅に押さえた。
見事なラインアウトワークだ。この試合、レヴズのラインアウトは前後半あわせて16回あった。うち終了直前の1本だけは相手にカットされたが、それまでの15本はすべて獲得していたのだ。
「相手に大きい選手が2人いますから、その裏をかくプランがうまくいきました。あの2人には先に跳ばせて、そのうしろで取る。いくつかサインを用意して、その裏と表を使いました。詳しくは言えませんが。相手ボールのときは逆に、先に跳んでプレッシャーをかけるようにしました」(大戸)
ハーフタイムのスコアは13-14。数字を見ればほぼ互角だ。しかもブルーレヴズは身長差のあるラインアウトでも互角以上にボールを獲得している。流れは悪くない。
だが後半に入り、試合の主導権を掴んだのはブレイブルーパスだった。45分、54分、同じようなオープン展開で右隅を日本代表WTBナイカブラが走り切る。ブレイブルーパスが26-13とリードを広げる。そしてブルーレヴズは守護神クワッガが相手を持ち上げるタックルをしたとしてイエローカード、10分間の退出処分をうけてしまうのだ。
13点差で、1人少ない10分間。
「13点差」はラグビーでは重要な数字だ。ラグビーでは一度のチャンスでトライとコンバージョンの最大7点が入る。次のキックオフは得点された側のキック=得点した側のレシーブから始まる。自陣スタートとは言え攻撃権を得れば7点が入る可能性がある。13点差はセーフティーリードではない。
いいかえれば、次にどちらが点を取るかは大きな意味を持つ。
そしてブルーレヴズは、14人で戦う10分間を無失点で耐えるのだ。逆に62分には右ゴール前へ攻め込みラインアウトのチャンス。ブルーレヴズのラインアウト部隊はここでも見事なフォーメーションで大戸がボールを掴むが、そこからの2次攻撃で途中出場のLOアニセ・サムエラが孤立。ゴールラインまであと2mまで迫ったが、レヴズはチャンスを得点に結びつけられない。
直後、ブレイブルーパスがレヴズのゴール前まで攻め込むが、レヴズはFBファリアのみごとなタックルで、ゴール前1mでトライを阻止する。試合は互いの防御が相手の攻撃を上回る膠着した時間が続いた。
スコアが動いたのは69分だった。ブレイブルーパスのモール攻撃をブルーレヴズのFWが耐える。ブレイブルーパスがキックに切り替える。ここでブルーレヴズのBKラインがオフサイドと判定され、ブレイブルーパスが正面のPGを成功する。
ブルーレヴズは苦しい展開になった。73分、自陣のスクラムから途中出場のCTBタヒトゥアからショートパスを受けたCTBツイタマがビッグゲインして敵陣に攻め込むが、この場面でSOグリーンが脚を痛めてピッチを出る。交代枠は使い切っている。残り8分間、ブルーレヴズは再び14人での戦いを強いられる。それでも諦めないブルーレヴズは74分、敵陣に攻め込み正面22mのPKを得るとショットを選択。逆転圏は遠くても、13点差ならワンチャンスでボーナスポイント1を得られる7点差以内には届く。WTB伊東の負傷で入っていた清原祥が素早くPGを決め、29-16とする。
だが反撃もそこまでだった。76分にはブレイブルーパス陣22m線まで攻め込んだがブレイクダウンでリーチにジャッカルを許しノットリリースザボール。79分には自陣22m線のアタックで再びジャッカルされ、万事休す。最後は相手アタックを止め続けてノックオンさせ、とどめのトライこそ逃れたが、そこからトライを取り返す力は残っていなかった。
29-16でフルタイムの笛。ブルーレヴズは3戦目にして勝点ゼロで試合を終えた。せめてもの光明は相手にBPを与えなかったことか。
第3節を終え、0勝3敗、勝点2はリーグワン12チーム中11位。
望んだ結果からはほど遠い。
だが、結果がすべて紙一重だったことは、ブルーのジャージーを注視し続けたレヴニスタには分かっているはずだ。そして、試合ごとに成長していることも。
次節はヤマハスタジアムにブラックラムズ東京を迎えるホストゲーム。相手は開幕戦でレヴズが敗れたヴェルブリッツを破って勢いに乗っているが、負けるわけにはいかない。
次節こそ勝利を。そして反撃の狼煙を。
リーグワン2年目。戦いはまだ始まったばかりなのだ。
堀川隆延HC
「このゲームに臨むにあたって大切にしたのはまずセットプレーで上回ってプレッシャーをかけること。接点の攻防で自分たちが前に出るのか下がるのか。そこにフォーカスして2週間準備してきて、前半はその自分たちのスタイルを発揮できた。ただ、後半はFWのセットプレーでは優位性を持って戦えたけれど、そこで獲得したボールをチャンスに繋げられなかったことが課題。3連敗という厳しいスタートになりましたが、チームは成長し続けています。来週はホームのヤマハスタジアムに戻ります。必ずや勝利したいと思います」
クワッガ・スミス主将
「まず、試合に負けたことが残念です。チームとしてがっかりしています。チームとして、相手にしっかりプレッシャーをかけることができていたけれど、そのチャンスを自分たちのミスで潰してしまった。チャンスを得点に結びつける遂行力が足りなかった。ただ、ゲーム自体は良い戦いができていたし、これもチームにとっては貴重な経験。私たちは試合ごとに成長していくだけです」
<了>
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。