最高のクリスマスプレゼント!仲間を信じ続けた12月24日。~大友信彦観戦記 12/24 リーグワン2023-24 D1 R3 クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦 ~
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
待望の今季初白星は、昨季のチャンピオンからの勝利だった。それも、これ以上ないようなドラマチックな形で。
12月24日のクリスマスイブ。大阪・ヨドコウ桜スタジアムで、ブルーレヴズは今季3戦目となるクボタスピアーズ船橋・東京ベイとのビジター戦に臨んだ。
前節、コベルコ神戸スティーラーズに26-30で敗れたブルーレヴズだが、藤井雄一郎監督はほとんどメンバーを替えずにこのスピアーズ戦に臨んだ。先発の変更はWTB14をキーガン・ファリアから矢富洋則に替えたのみ。リザーブの8人にも同じ名前が並んだ。そのチームリストからは過去2戦、負けても「悲観していません」と繰り返してきた指揮官の、選手への期待と信頼が伝わってきた。
SHは3戦連続でチーム最年長38歳10ヵ月の矢富勇毅。10歳違いの実弟であるWTB洋則と兄弟揃っての先発は2022年4月23日のトヨタヴェルブリッツ戦以来だ。
対するスピアーズは、ワールドカップ後に合流したニュージーランド代表HOディン・コールズとウエールズ代表FBリアム・ウィリアムズが初めてメンバー入りで日本デビュー。注目の一戦は24日14時30分に始まった。
最初に見せ場を作ったのはレヴズだった。キックオフ直後の相手の猛攻を整備されたディフェンスでしのぐと、相手陣左中間で得たPKからゴール前ラインアウトに持ち込み、モールを押してからLO大戸裕矢、マリー・ダグラスが果敢に前進、そこからFB山口楓斗、WTBマロ・ツイタマへとボールが渡り左隅へ。みごとな先制トライ! と思ったが、梶原レフリーの判定はスローフォワード。うーん、惜しい。
最初のチャンスを逃したレヴズに対し、スピアーズはすぐさま反撃。レヴズゴール前まで攻め込んできた。だがそこで、嫌な予感を吹き飛ばすビッグプレーが飛び出した。9分、スピアーズがレヴズゴール前5mまで攻め込み、リーグワンデビューのウエールズの英雄リアム・ウィリアムズがボールを持つ。そこへガツンと突き刺さったのがレヴズの先発最年少SO家村健太だ。CTB13チャールズ・ピウタウとのダブルタックルでウエールズの英雄を止め、PKを獲得するのだ! 試合の最初の20分は互いにスコアレスの拮抗した攻防が続いた。
スコアが動いたのは20分、先制したのはスピアーズだった。ハーフウェーのスクラムから大きくボールを動かしてキック。レヴズはツイタマが何とか拾い上げるが、苦しい体制からFB山口へ繋ごうとしたパスがインゴールへ転がり、そこへ一直線で走り込んだオーストラリア代表76キャップのSOバーナード・フォーリーがトライ。スピアーズが7点を先行する。
点が入ると試合は動き出す。青いジャージーは失点したことで、逆に吹っ切れたように躍動を始めるのだ。キックオフの相手蹴り返しをCTBピウタウがカウンターアタック。WTBツイタマが相手陣に切り込んでPKを得ると、SO家村のタッチキックで相手ゴール前ラインアウトに持ち込み、24分、得意のラインアウトモールでHO日野剛志が左中間にトライ。
家村のコンバージョンは外れるが、直後の27分、家村が相手の背後に好キックを転がして再び相手ゴール前ラインアウトに持ち込むと、ラインアウトモールを押すと見せかけて素早くアタック。日野、大戸、クワッガが相手DFをえぐっておいて、SH矢富はワイドを選択。パスを受けたSO家村は絶妙の「間」を取って左へロングパス。パスを受けたFB山口からノーマークでパスを受けたツイタマが左中間インゴールに走り込んだ。家村のコンバージョンは外れたが、ブルーレヴズが10-7と逆転する。
さらにレヴズはリズムを掴む。そのカギはラインアウトと並ぶレヴズの代名詞、スクラムだ。33分。レヴズ陣に攻め込んだスピアーズの落球でピンチをしのぐと、自陣ゴール前20mのスクラムを猛プッシュしてPKを獲得。これで陣地を進めたところで再びPKを得ると、家村が正面25mのPGを難なく成功。さらに39分にも相手陣10m線のラインアウトからWTB矢富洋則が突進したブレイクダウンで得たPKから家村が正面右30mのPGを成功。ブルーレヴズが16-7とリードを広げて前半を終えた。
いいリズムで折り返したブルーレヴズだったが、後半はスピアーズが先に点を取った。42分、フォーリーの負傷退場でSOの位置に上がった立川理道主将の好キックからWTB木田晴斗がトライを決め、スコアは16-12。流れがスピアーズに傾く。PKからレヴズ陣に攻め込んでアタック。しかしここで存在感を見せたのがミスターレヴズ 大戸裕矢だ。自陣ゴール前10mで相手FLトゥパに巧みなタックルを見舞いノックオンさせる。スクラムになればそこからはレヴズの土俵だ。スクラムで圧力をかけ、反則を誘う。PKを奪えなくても相手DFの出足を止め、アタックのスペースを作り出す。50分からは、レヴズが相手ゴール前でほとんどの時間を使い、攻め立てた。家村のキックパスをCTBピウタウがスーパーキャッチして攻め込む。52分、クワッガが相手ゴール前で相手タックルを2人、3人と外して前進する。55分には5mスクラムをゴールラインを超えて押し込む。62分にはラインアウトモールを押し込み、HO日野がボールを押さえようとする……反則を犯しながらもゴールラインを守ろうとするスピアーズにイエローカードが出され、レヴズが数的優位を得る。しかし、スクラムを選択し、NO8イラウアがゴールラインを目指したが、グラウンディングしようとしたところにスピアーズは2人がかりで腕と身体をねじ込むファインセーブ。そして、10分以上にわたるゴール前のピンチを脱出したスピアーズは74分、1人少ないままで10フェイズまでアタックを継続してトライを奪ってしまうのだ。
残り5分になっての逆転――これまでの悔しい場面が頭をかすめたレヴニスタも多かっただろう。何しろ前週の神戸戦とほとんど同じ時間帯でのビハインドだ。さらに77分、自陣22mで相手キックを捕ろうとしたツイタマが痛恨のノックオンを犯してしまう。しかし、薄れかけた逆転勝利へのシナリオを書き直す武器がレヴズには残っていた。ノックオンなどハンドリングエラーの攻撃再開は、そうスクラムだ。自陣22mでの相手ボールスクラムを、青ジャージーの8人はひと固まりになって猛プッシュしてターンオーバー。家村のキックがハーフウェーを越し、相手の手に触れてタッチに出る。点差は3点。ワンチャンスがあれば逆転できる。
だがこのラインアウトを痛恨のミス。ボールは再びスピアーズに。時間は残り1分半。スピアーズはボールをキープして逃げ切りを図る。絶望的な状況――だがレヴズにはもうひとつ、最終兵器が残っていた。78分59秒、ボールをキープし続けようとしたスピアーズのブレイクダウンに青ジャージーの背番号7、闘将にして超人クワッガ・スミスが頭ごと腕を突っ込み、ボールに手をかける。レフリーの笛が鳴る。ノットリリースザボール。残り60秒。レヴズに最後のチャンスが来た。家村のキックがスピアーズゴールまで20mの地点まで飛ぶ。
ラストアタックだ。ラインアウトをLOダグラスが取り、青いジャージーがモールを押す。タイムアップのホーンが響く。途中出場のSHブリン・ホールから同じく途中出場のジョニー・ファアウリへパスが渡る。クワッガが、途中出場のサム・グリーンが遮二無二前進。相手タックルを受ければ桑野詠真が、ジョーンズリチャード剛がブレイクダウンに突き刺さってボールを活かす。闘将クワッガ・スミスは起き上がった直後には次のボールキャリーに備え、再び前進。クワッガが密集に巻き込まれれば交替でHOに入ったリッチモンド・トンガタマがタックルを浴びながら勇敢に突き進み、かつ冷静にボールを生かした…
相手ゴール前でフェイズを重ねること19回。交替出場のPR西村颯平が突っ込んだラックからボールが出る。SHブリン・ホールがボールを掴む。その後ろをクワッガが横切る。相手DFが通り過ぎるクワッガを見た瞬間、ブリンがパスを預けたのはクワッガの背後にいたSO家村だった。相手の意識の逆を突いてステップを踏んだ背番号10は、目の前の僅かなスペースに向けて身体を沈めながら猛加速。オレンジのジャージー4人のタックルをくぐり抜けてインゴールにボールをたたきつけたのだ! 逆転トライ! このとき時計は82分22秒。家村がコンバージョンも蹴り込み、試合は終わった。スコアは23-19。ブルーレヴズが最高に劇的な形で、今季3戦目にして初勝利を挙げた。
「昨季のチャンピオンに勝つことができて嬉しい。先週はかなり苦戦したけど、(チームとして)間違っていなかったことを示せました」
劇的トライを決め、プレーヤーオブザマッチに選ばれた家村は喜びの言葉を吐き出した。
――最後の場面の判断は?
「ボールをもらった瞬間、前が空いていると思ったから行きました。京産大では12番でプレーしていて、アタックでもディフェンスでも相手より低く入る練習をたくさんしてきたので、それが生きたかな」
そう言うと、家村は「去年もここで1点差で勝ってるんですよ」と笑った。1年前のやはりクリスマス(12月25日)、家村は京産大の4年生CTBとして大学選手権準々決勝をここで戦い、慶大に34-33の1点差で勝っていたのだ。節目の勝利にはたいがい、そんなサイドストーリーが見つかる。逆に言えば、こんなサイドストーリーのある勝利からは、きっと次の物語が始まる。
試合後の会見。クワッガ・スミス主将は「チャンスを作ってもトライを取り切れず、苦しい展開だったけど、選手のファイト、戦い続ける態度は素晴らしかった。お互いを信じてプレーしたことで、最後にゲインしてトライを取れたのは今のチームの象徴だ」と、19フェイズを重ねて勝ちきったチームを称えつつ「今日出たミスをこれから修正したい」と付け加えるのを忘れなかった。
藤井雄一郎監督もまた、安堵の表情を浮かべながらも「最後まで微妙な点差だったし……最悪のシナリオも練習していたので、最後は何とかトライを取り切れて良かった」と、待望の初勝利にも喜びは控えめだった。きっとそれは、開幕戦で「負けたけど、悲観していない」と口にしたことの裏返しなのだろう。
3戦を終えて2勝1敗、勝点5、9位。しかし、あまり思い出したくないことだが、昨年の初勝利は第6節だった。去年よりも、目覚めは早い。
1年で最も日暮れの早いクリスマスイブの大阪で、レヴズの新しい物語が始まった。あすからは、1日ごとに日が長くなり続ける。
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。