熊谷の地で雄たけびが響く!!無敵艦隊撃破、雪辱を晴らす大勝!!~大友信彦観戦記 4/15 リーグワン2022-23 Div.1 R15 vs.埼玉パナソニックワイルドナイツ戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
赤いブルーレヴズが熊谷の地で雄叫びをあげた。
リーグワン2022-2023の第15節。ここまで4勝8敗2分と苦しんできたブルーレヴズが、開幕から14戦全勝を続けてきた不敗の王者ワイルドナイツを、それも敵地熊谷で、44-25という大差で破ったのだ。
昨年は日本平IAIスタジアムでラストプレーで逆転のトライ&ゴールを奪われ、今年1月にはヤマハスタジアムでやはりラストプレーで逆転負け。ともに点差は僅か「1」だった。
ワイルドナイツと接戦を演じていること。それはブルーレヴズが、なかなか勝利を掴めない間も多くのチームやファンから高い評価を得ている理由でもあった。スーパースターは不在でも、泥臭く、痛いプレーを厭わず身体を張り、我慢を続けて、どんな強敵にもギリギリの勝負に持ち込む。
だけど、そこが目的地ではない。ブルーレヴズの目的地は、レヴニスタのみんなとともに、勝利を喜び合うことなのだ――その約束を遂行するために、チームは練習を重ね、ファンはホームであれビジターであれスタジアムに駆けつける。試合後の喜びを分かち合うために。
第15節のワールドナイツ戦。ブルーレヴズの先発リストに頼もしい名前が戻ってきた。チーム歳年長38歳のベテラン、元日本代表SH矢富勇毅、そしてトップリーグラスト2シーズンの連続トライ王に輝いた(2019-20年はコロナでリーグ中断され表彰なしだったが)WTBマロ・ツイタマだ。ツイタマに押し出される形で、前週デビューしたアラパティ・レイウアがCTB13へ(実はレイウアはツイタマの叔父だ!)。矢富が先発SHに入ることで、今季の正SHだったブリン・ホールをリザーブに回し、TBラインにツイタマ、タヒトゥア、レイウアという破壊力あるランナーを並べることが可能になった。共同主将のクワッガ・スミスと奥村翔、BKのキーマンのサム・グリーンとジョニー・ファアウリ、成長株の矢富洋則と山口楓斗らケガ人が続出し、前節レッドカードを受けた河田和大は1試合の出場停止と台所事情は苦しい。それでもブルーレヴズのラインアップは、何かを起こしてくれそうな予感を抱かせた。シーズンを通じてハードタックルの存在感を増し続ける新人のFLジョーンズリチャード剛、アーリーエントリーによるデビューから急成長を続けるSO家村健太とWTB槇瑛人、そしてチームを率い続けるHO日野剛志とFL大戸裕矢という2人のミスターレヴズの存在。彼らの頼もしさは、レヴニスタは皆知っている。
4月15日、16時31分、雨の熊谷で、ワイルドナイツとの戦いは幕をあけた。
試合は3分、ワイルドナイツが日本代表SO松田力也のPGで先制。ブルーレヴズの見せ場はそのあと、4分からだ。ハーフウェー付近のラインアウトからまずCTBタヒトゥア、次にNo8マルジーン・イラウア、そこから大外にツイタマと、パワフルランナーが豪快に突破して22mラインに侵入すると、そこから③伊藤平一郎、①植木悠治、⑬レイウア、②日野、⑤ダグラス……さまざまな背番号がボールを持ち、相手DFに楔を打ち込む。そのタクトを振ったのはベテランSH矢富だ。ラックに駆けつけ、回りを見て、ボールを持ってからパスを放つまでの微妙な間合いがすべて異なるから相手DFの出足は迷う。時にボールを持ちだしてタックラーを引き寄せる。だからすべてのブレイクダウンで赤いブルーレヴズは先手を取れる。レヴズは18フェイズ、2分半にわたって攻撃を継続した末にLO桑野詠真がゴールラインに飛び込むが、ここは埼玉DFが身体を入れてグラウンディングを防ぐ。互いにミスなく攻め、守ったレベルの高い攻防。名勝負の予感は確信に変わった。
そして試合は動いた。直後のゴールラインドロップアウトをWTB槇が捕ってカウンターアタック。イラウアと日野がラックを作り、タヒトゥアがラインブレイクしてオフロードパス。ここからレヴズは家村、ファリアが絶妙なパスをつなぎ、左WTBツイタマへ。ワイルドナイツのDF2人がダブルタックルに入った瞬間、さらに外に走り込んだFL大戸へオフロードパスが渡るのだ!大戸がそのままゴールライン左隅に滑り込む。リーグワン最少失点を誇るワイルドナイツの防御網を切り裂きレヴズが5-3と逆転する。
しかしワイルドナイツは試合巧者だ。16分にPGで逆転すると、21分には相手ゴール前のラインアウトから日本代表でも主将を務めるHO坂手淳史がトライ。11-5と逆転する。
だが直後のキックオフで、レヴズは不屈の魂を見せるのだ。家村が高々と蹴り上げたキックオフをLOダグラスが猛チェイスして、捕球した相手WTB竹山にタックルしてPKを獲得。ここでショットを選択すると、FBファリアがPGを蹴り込む。8-11。
ゲームを構成する多くの要素がかみ合い始めた。24分、自陣22m線で組まれた相手ボールスクラムを押し返してボールを奪い、さらにPKを獲得すると、家村のPK一発で相手陣10m線を突破。さらにラインアウトモールでPKを得てゴール前に攻め込み、再びPK。ここでスクラムを選択したレヴズは、タヒトゥア、ジョーンズの連続ラックから矢富が絶妙のタイミングで持ち出し、相手タックラーを引き寄せておいてCTBレイウアに完璧なラストパス。30分、レイウアが熊谷の右中間インゴールへ飛び込んだ。さらにコンバージョンをファリアが蹴り込む。奥村とグリーンが負傷、スワート、清原、ホールが欠場して回ってきたキッカー役を、インドにルーツを持つFBがキッチリと務めた。レヴズが15-11と再び逆転する。
試合は極上の攻防が続いた。35分、ワイルドナイツは劣勢のスクラムをテコ入れしようと両PRを早くも入れ替え、直後のスクラムからボールをつなぎ、売り出し中のCTB長田智希がトライして再々逆転。しかし40分、レヴズは相手陣正面でPKを得るとファリアがPGを蹴り込み18-18の同点に追いつくのだ。互いに極上のトライを取り合い、4度もリードを入れ替えた戦いは、40分を終えて同点。試合の行方はまったく分からない。だが確かなのは、降り続く雨の中でもレヴズが狙い通りのラグビーを続けていることだ。
そして後半、先手を取ったのはレヴズだった。家村の深いキックオフから得た敵陣10m線のラインアウトから矢富-伊藤のアタックでPKを獲得し、ゴール前ラインアウトに持ち込むと43分、ラインアウトモールを一気に押し切って日野がトライ。左中間のコンバージョンをファリアが決め25-18。
ワイルドナイツも負けてはいない。レヴズ陣に攻め込んでフェイズを重ね、粘り強く守るレヴズDFの隙間を切り裂いてCTB長田がトライ。左隅のコンバージョンを松田が決め、25-25と再び同点。
50分を過ぎて同点。ここで両チームのベンチが動いた。ナイツはFL布巻に代えて谷昌樹、そしてHO坂手に代えて昨季のリーグワンMVP堀江翔太が入る。絶対王者の勝利の方程式だ。対するレヴズはLO桑野に代えてアニセ、SH矢富に代えてブリン・ホール、CTBレイウアに代えて小林広人を投入。キックオフからスロットル全開で飛ばしてきたレヴズは、エンジンの回転を落とすことなく残り30分を突っ走るんだという決意は、直後に現れた。家村が蹴り込んだキックオフを捕球した相手WTB竹山に、交替で入ったばかりのCTB小林が猛タックルを浴びせるのだ!これで相手ゴール前スクラムを得たレヴズは、スクラムからフェイズを重ね、10次攻撃。HO日野が持ち込んだラックに駆けつけたツイタマが迷わず単独ピック&ゴーで左中間にトライを決める。ポジションは関係ない。トライのニオイをかぎつけたらどこにでも現れるナチュラルボーン・フィニッシャーが決めたトライ、ここでもファリアがコンバージョンを決め、32-25。試合が始まって55分で、王者ワイルドナイツの今季最多失点(サンゴリアス戦、ダイナボアーズ戦の29点)を、レヴズは早々と超えて魅せた。リーグワンディビジョン1で最少失点、鉄壁の防御力を誇るワイルドナイツを、レヴズのアタックが切り裂いている!
しかし、試合はそこから膠着した。ワイルドナイツは逆転請負人の堀江がターンオーバー、HOとは思えない臨機応変なキックで局面を一気に変える。58分には南アフリカ代表CTBデアレンデ、オーストラリア代表WTBコロインベテという強烈なランナーを同時に投入して攻撃力を加速させる。だが、ナイツに流れが傾きかけるたび、赤いブルーレヴズは楔を打ち込み、流れを引き留めるのだ。60分には中央付近のラインアウトで相手ボールが乱れたところ、捕球したHO日野が、相手HO堀江のお株を奪う判断のいいキックで相手ゴール前へ攻め込む。64分、自陣ゴール前に攻め込まれたピンチには伊藤のタックルからアニセ・サムエラがジャッカルを決めてピンチを脱出。そのたび、ルーキー司令塔の家村が距離の出るキックで一気に地域を取り返すのだ。 66分、ワイルドナイツは正面35mのPGを狙うがポストに当たり失敗。ファリアのキックで陣地を戻したレヴズは。ハーフウェーのスクラムからの相手アタックでCTB小林広人が猛タックルで相手ノックオンを勝ち取ると、そのスクラムからSHホールが相手ゴール前に絶妙のキック。ここで試合を決めるビッグプレーが飛び出した。相手WTBコロインベテが捕球しそこねたボールがタッチに出たところへ、唸りを上げて走り込んだのがレヴズのWTB槇だった。タッチに出たボールを拾った槇はすぐにクイックスロー。そこに走り込んだのが、3分前に交替でピッチに入ったばかりのFL庄司拓馬だ。槇のスローを掴むとそのまま右中間インゴールへ転がり込んだ。71分、37-25とレヴズがリード。
王者の尻に火がついた。常に流麗さを失わないワイルドナイツのアタックが心なしか強引になる。ブルーレヴズは試合開始から変わらぬテンションでタックルを反復する。73分、ハーフウェー付近でレヴズの連続タックルにワイルドナイツが落球。ここでFL大戸が相手陣深くへ好判断のキックを蹴り、ツイタマが猛チェイス。これで相手ゴール前ラインアウトを得ると、ラインアウトを大戸が捕り、モールにBKも参加して一気に押しこみ日野がトライ。試合を決定づけるトライに、大戸が、日野が、ダグラスが、次々と雄叫びを上げ、ハイタッチを繰り返す。ホールがコンバージョンを蹴り込み、スコアは44-25の19点差まで開いた。
そして80分、タイムアップを告げるホーンを確認して、家村がボールをタッチに蹴り出した。2018年を最後に47戦して負けを知らなかった無敵ワイルドナイツの連勝を、ブルーレヴズが止めたのだ!
歓喜を爆発させる選手たち。その中で、司令塔の家村と、猛タックルを続けたジョーンズリチャード剛は笑みを浮かべなかった。点差をつけての勝利だったこともあるだろう。だがそこには、この勝利はゴールではないという強い気持ちも垣間見えた。
最高の勝利をあげたレヴズ。しかし満足はできない。何より、チームはまだ進化を続けているのだ。次節、最終節は地元ヤマハスタジアムにヴェルブリッツを迎える。この1週間、今季の到達点を示す80分を戦い抜くために、レヴズ戦士たちはまた準備を続ける。
堀川隆延HC
「ワイルドナイツを相手に素晴らしいパフォーマンスだったと思います。過去2年、1点差で逆転負けしてきたけれど、ぼくらは常にセットプレーでは優位性を作ってきた。今回は天候も雨で、我々が有利な状況があったけれど、自分たちのラグビーを信じて戦い抜いた選手たちを誇りに思います。次は今季のラストゲーム、地元のヤマハスタジアムに帰って、ヴェルブリッツを相手にしっかり戦って、最終戦に勝利して終わりたい」
大戸裕矢主将
「スタジアムも素晴らしく、お祭りのように素晴らしい雰囲気で、プレーしている僕たちも楽しかった。試合内容は、勝つならこういう展開。雨の中のFWゲームで自分たちのスタイルを出せたと思う。
ワイルドナイツには過去2回、ラスト10分を切ってから逆転されて負けていたので、そこを意識して、最後80分までいいラグビーをしていこうとしました。今日も課題も出たので、また1週間準備して、チームとして強くなって、最後の試合に臨みたい」
<了>
LAST ROUND, HERE WE GO!!
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。