2022-2023シーズン新加入選手はどんな選手たちなのか!?
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /大友 信彦/ 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
2023年2月9日、静岡ブルーレヴズに入団した新加入選手の入団会見が行われた。
冒頭、マイクを持った堀川隆延HCは「今回、加入する新人たちは、各大学でキャプテンやバイスキャプテンなど、素晴らしいリーダーシップをもった選手が多いです」と期待を寄せた。
そして紹介された期待のルーキーたち。その一人目は
LO八木澤龍翔(やぎさわ・りゅうと)
筑波大で今季、副将を務めていた。堀川HCは八木澤について「去年、トライアウトで練習に来てもらったのですが、練習試合に出てくれて、そこでのプレーを見て、試合が終わってすぐ『来てください』と言いました」と明かした。
ーその理由は?
「去年までキャプテンだった大戸(裕矢)がトライアウトに来たときを思い出したんです。状況判断力が素晴らしい。試合中はいろんなことが起こるけれど、まわりで何が起こっているか、首を振って情報を集めながらプレーを選択できる。これは持って生まれたセンス。特にFWの選手では珍しいです」
八木澤は流経大柏では全国高校大会でチーム初の4強に進んだ代のLOだ。ちなみにその年の1年生には現在、日本代表のLOとして活躍するワーナー・ディアンズ(現ブレイブルーパス東京)がいたのだが花園での出番はナシ。ディアンズが発展途上だったこともあるが、それだけ八木澤ら上級生が充実していたことがうかがえる。
筑波大に進学後は2年からレギュラーを獲得し、全試合に出場。3年では対抗戦7試合すべて先発フルタイム出場を果たし、4年のシーズンは副将、ラインアウトリーダーを務め、チームを8季ぶりの4強進出・国立競技場へ導いた。
八木澤は静岡ブルーレヴズについて「日本人主体のFWでセットプレーを重視しているところに魅力を感じました」と言った。八木澤の身長は188cm。リーグワンのLOで戦うにはちょっと物足りない数字だが、その身長で戦っているモデルがまさに、187㎝の身長ながらリーグワン最強のラインアウトジャンパー(2022年のラインアウト最多獲得選手なのだ!)大戸だ。
「目標は大戸選手です。ワークレート、運動量、ラインアウトの正確性、どれも素晴らしいので、学んで、追いついて、追い越したい」
高校2年時には、関東高校スーパーリーグからの派遣で、ニュージーランド政府が運営する留学プログラム「Game On English」に参加。ラグビー王国でラグビー&英語を学ぶこのプログラムのOBにはブラックラムズHO武井主将、流経大主将を経てダイナボアーズ躍進の立役者となっているFL坂本侑翼、昨季の慶大主将でサンウルブズ練習生も経験したブレイブルーパス東京のHO原田衛と多士済々。隠れたリーダー養成プログラムからまた注目株が登場だ!
2人目は関西リーグ王者・京産大で共同主将を務めていた
SO 家村健太(いえむら・けんた)
こちらも高校は流経大柏。八木澤とも同期で、高校時代も副将を務めていた。そして、LOの八木澤が出場しなかった全国高校セブンズではゲームメーカー兼キッカーとしてリードし、チーム初の全国制覇の原動力となっていた。
大学は、生まれ育った関東を離れ、関西リーグの京産大へ。
「関西の人間はすごくしゃべるし、常に笑いを求められるので、関東の人間は関西に行くとなじめないと言われますが、自分は両親が関西の出身だったこともあって、わりと早くコミュニケーションを取れるようになりました」と笑う。
関東と関西の中間に位置し、どちらの出身者も多い静岡ブルーレヴズでは頼もしいバイリンガル能力!
堀川HCは「大学では12番で出ることが多かったけれど、ブルーレヴズでは10番のSOをやってもらいたいと思っています。ゲームをコントロールして、ボールをスペースに動かして、ランもキックもできる。彼の同級生には李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)がいるけれど、李のライバルになれる素質がある。レヴズで10番を取って活躍して、日本代表になってほしい」と期待を寄せた。
家村自身「僕の強みはゲームコントロールとキック。ブルーレヴズでは10番をやるつもりなので、ゲームをコントロールして、キックも使ってチームを前に出すプレーをしたい」ときっぱり。大田尾竜彦・現早大監督が引退して以後、ジュビロ~ブルーレヴズの10番は決め手を欠いていただけに期待がかかる!
3人目は東海大主将の
CTB伊藤峻祐(いとう・しゅんすけ)
桐蔭学園時代は2年でCTB、3年ではFLをこなした万能選手で、東海大ではCTB。どちらでも攻守の最前線で身体を張りながら果敢にボールを動かす頼もしい存在だった。
まずは堀川HCの紹介コメント。
「伊藤は東海大でキャプテンをやっていて、寡黙でいい男です。基本的なスキルが高くて、キックもパスも、何でもできる。左足キックが魅力だし、キャリー、タックルに加えてゲームをコントロールする力を身につけてほしい」
桐蔭学園時代は2年、3年と春の選抜で優勝。冬の花園では優勝できなかったが、実は伊藤は2年、3年とも花園では負傷で試合に出場できず。関係者は口にしなかったが、ファンやメディアは「シュンスケがいればなあ…」と悔しがったものだ(BKには同じ伊藤姓の大祐=現早大3年SOがいたのでファンは「シュンスケ」「イトシュン」などと呼んでいた…)。
伊藤はブルーレヴズを選んだ理由を「チームが昔から変わらない文化、しっかりしたカルチャーを持っていることに魅力を感じました。あと、自分の母親が静岡出身で、土地勘もあって環境にも慣れていることもあって、入団を決めました」と話した。
東海大では1年のリーグ戦からリザーブで出場し、大学選手権の筑波大戦で初先発。3年のシーズンには全試合にCTBで先発し、リーグ戦4連覇と大学選手権4強進出に貢献。4年のシーズンはすべての試合に先発、途中交代もなくフルタイム出場し、リーグ戦5連覇(大学選手権は初戦で八木澤のいた筑波大に敗れた…)
「大学では1年から試合に出していただいて、4年ではキャプテンをさせていただいて、人として成長できたとおもいます。特にこの1年、キャプテンとしてスタッフとの会話、選手との会話をかわして、コミュニケーションを取ってきたので、話す力、聞く力は成長できたと思います」
東海大の木村秀由監督は伊藤をこう評した。
「常に落ち着いていて、伝えるべきことを周囲に伝えられる。感情の起伏が少なくて、口数は多くないけれど。要所要所を押さえたしゃべり方ができる」
無口でも周囲と適切なコミュニケーションを取り、チームを進化させていく存在――ブルーレヴズにとって待望の能力を持つ人財と言えるかもしれない。
新戦力に大学で主将経験を持つルーキーはもうひとり。この日の会見はコンディション不良で欠席したが、
LO 齋藤良明慈縁(さいとう・らみんじえん)
東洋大の主将として、リーグ戦1部に新昇格したチームを大学選手権初出場へと導き、その大学選手権では早大に19-34で敗れたものの、前半は12-7とリード、残り8分までは5点差で粘る見事な戦いを見せた。なお名前の由来は「齋藤」が母方の姓、「らみん」はセネガル出身の父の亡兄の名で「じえん」が父方の姓。漢字をあてたのは「日本で生活するには漢字の名前があった方がいいと両親が判断したようです」とのこと。
ともあれ、堀川HCはこんな言葉で齋藤を紹介した。
「去年旋風を巻き起こしたチームのキャプテンで、とにかく人間性が素晴らしい。フィジカルも強くて、なかなかウチのチームにはいなかった、躍動感を持った選手です。このチームで大きく成長してほしい」
齋藤は中学時代は陸上競技部で跳躍競技(走り幅跳び)をしていたが、中3のとき2015年ワールドカップで日本が南アフリカを破った試合を見て感動。たまたま、中学の担任教師が昔ラグビーをしていた縁から目黒学院へ話がつながり、高校からラグビーを始めた。高校時代はケガが多かったが「たまたま出ていた試合を東洋大の福永監督が見てくれていて」東洋大に進学し、大学3年の入替戦に勝利してリーグ戦1部に昇格を果たす。そして快進撃――。
ここは、同じリーグ戦で切磋琢磨してきた、同期でブルーレヴズ入りした伊藤峻祐に「齋藤評」を聞いてみよう。
「すごくひたむきなプレースタイルで、常にラック周辺でプレッシャーをかけられた印象が強いです」
実は伊藤は、主将として臨んだ4年のリーグ戦初戦で、齋藤が率いる東洋大と対戦、24-27で苦杯を喫したのだ。
「彼を中心にディフェンスラインでプレッシャーをかけられました(苦笑)。ブルーレヴズで合流してから、いろいろと話すようになったら、キャラが濃い(笑)。声は渋いけど、みんなを笑わせるようなことを言うムードメーカーでもあるし、ダンスも上手くてしゃべりも上手い。そのギャップにみんな笑っちゃうんです」
記者も同意する。それは「声が渋い」という指摘だ。低く太く、落ち着いたトーンの声は、ちょっとラグビー界では似た声の持ち主は思いつかない。声優さんになっても大人気を博しただろうと想像させるほどだ。レヴニスタのみなさんも、どうぞ機会を見つけて齋藤選手の肉声を聞いてください!
(少しだけですが、挨拶の映像を見つけました!)
そして、残るもうひとりの新人は(全然悪い意味ではなく)主将や副将というポジションではない立場でチームをリードする、つまり生粋のトライゲッター、
WTB槇瑛人(まき・えいと)
その能力は、チームへの合流直後に早くも発揮されていた。堀川HCはこんな言葉で紹介した。
「先週、浦安D-Rocksとの練習試合に出場したのですが、いきなりトライを取りました。1対1で外に勝負できる選手はなかなかいない。そういう強みを発揮して欲しい。現代ラグビーではキッキングゲームをどう戦うかが重要だし、ハイボールキャッチやキックのコントロールなどの力を身につけていってほしい」
槇自身は、その「デビュー戦」をこう振り返った。
「どんな気持ちで臨めば良いか、最初は正直分からないところもあったけど、自分の強みを出すためにボールを呼んだり、大きい声を出したりして、強い気持ちを持ってプレーするよう心がけました。社会人になって、相手選手に外国人とかフィジカルの強い選手が多くなって、一発のタックルで弾かれたりするけど、相手にトライさせないようにディフェンスも考えたり」
槇は5歳のとき横浜市の田園ラグビースクールでラグビーを始めた。両親はともに実業団の三菱自動車水島で活躍していた陸上競技選手という生粋のスプリンター。国学院久我山高2年でU17日本代表に選ばれ、花園の全国高校大会では8強進出。主将を務めた3年時は東京都予選決勝で早実に敗れたが、高校日本代表に選ばれウェールズに遠征。
早大では2年から右WTBのレギュラーポジションを掴み、2年時は9試合で6トライ、3年時は8試合で8トライ、そして4年時は11試合で9トライ。レギュラーを獲得してからの3シーズンはすべてチーム最多トライをスコアした……つまり、天性のフィニッシャーなのだ。
そんな槇が目標にしているのはブルーレヴズの先輩WTBマロ・ツイタマだという。
「毎試合トライを取ってるし、タックルされても倒れない。あの強靱な足腰を僕も身につけたい」
堀川HCは新人たちへの期待について、こうコメントした。
「みんな、このチームに共感性をもって来てくれた、高いポテンシャルを持った選手たちです。ブルーレヴズの将来が明るくなる、戦力を迎えられました。我々のラグビースタイルは個の戦力を最大化して、その選手の特徴を活かしていきたいと考えています。そして、今回の新人にはチームのキャプテンやリーダーをやってきた選手がたくさんいる。リーダーシップを持った選手たちがこのチームに及ぼす影響力は、チームによいものをもたらしてくれると思います」
高校・大学時代の活躍度だけでいえば、もっと有名な選手もいるだろう。しかし、ブルーレヴズの門を叩いた5人は、熱心なラグビーファンが「よく見てるな」と唸るような、いぶし銀の、チームの強さを支えるタイプの選手が並んだ――そんな印象を受ける。
おそらくは、ブルーレヴズをさらなる高みへと引き上げるキーマン、あるいはキーグループになるだろう。今季の大卒新人は、新たに導入されたアーリーエントリー制度により、卒業を待たずにリーグワン公式戦の出場資格を得ているが……。
「みんな、早く試合に出たいと思っているでしょう。おととしは奥村、去年はリチャードが4月にデビューしたし、この選手たちも、このチームで競争に勝ってメンバーに入れば、試合に出るチャンスはあると思います」
ニューフェイスたちのデビューが待ち遠しい。そしてそれ以上に、彼らがこれからのブルーレヴズに及ぼすいい影響、大きく広がる未来が楽しみだ。
レヴニスタのみなさん、その未来をこれからじっくり楽しみましょう!
そして本日、槇が2/19(日)のリーグワンディビジョン1 コベルコ神戸スティーラーズ戦で「IMPACT MEMBER(リザーブ)」に入った!!果たして出場はあるのか、大注目で日曜日を迎えよう。<了>
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。