声を枯らしたレヴニスタと共に迎えた勝利!~大友信彦観戦記 3/16 リーグワン2023-24 D1 R10 リコーブラックラムズ東京戦 ~
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
ブルーレヴズがトンネルを抜けた。
3月16日、春の陽気に包まれた秩父宮ラグビー場で迎えたブラックラムズ東京戦。レヴズは5つのトライをあげ、36-29で勝利。今季4勝目をあげた。
ブラックラムズはここまで2勝7敗。10位と順位は低迷中だが、上位チームとも接戦を演じている。個々のポテンシャルは高い。難敵だ。
この試合に向けた先発変更は4人。SHにブリン・ホールが今季初先発、SOには前節先発を外れた家村健太が、CTB12には同じくヴィリアミ・タヒトゥアが戻り、WTB14にはコンディションの戻った奥村翔が5試合ぶりに復帰。以上4人の変更はすべてBKで、FWの先発8人は前節と同じ顔ぶれ。2戦前の埼玉ワイルドナイツ戦で脳震盪チェックの入ったFL庄司拓馬もリザーブに戻った。さらに、環太平洋大から加入したPRショーン・ヴェーテーがアーリーエントリーで初めてメンバー入り。全国的には無名ながら、190㎝132㎏の雄大な体躯を誇る大器がついにヴェールを脱ぐこととなった。
レヴズは赤のセカンドジャージーで登場。試合はレヴズのキックオフで始まった。家村の蹴ったキックはタッチラインぎりぎりへ。相手WTBが捕球した瞬間に詰めたCTBピウタウが22m線付近でタッチに押し出す。いきなり相手陣深くでラインアウトのチャンス。このアタックではノックオンがあり、ラムズのカウンターアタックを浴びるが、WTB奥村が懸命に戻って相手を止め、ピンチをしのぐ。だが次のラインアウトからラムズがレヴズ陣内でアタックを継続し、PKを獲得すると6分、ラインアウトからトライ。レヴズは最高のキックオフからチャンスを得ながら先制されてしまった。
だが試合は始まったばかりだ。この日のレヴズはひとつふたつのミスでは動じないタフさと攻め続けるアタックマインドを持っていた。相手キックがタッチに出てもチャンスと見ればクイックスローインですぐにアタック開始。タッチに出なければ、自陣からでも隙あらばカウンターアタックを仕掛け、FB山口楓斗、WTBマロ・ツイタマがピッチを駆け上がる。
実を結んだのは15分だ。ラインアウトのボールを一度は奪われるが、相手キックを捕ったWTB奥村翔-FB山口楓斗がカウンターアタック。ラックから12タヒトゥア-13ピウタウとパスをつなぎ、オフロードパスを受けたツイタマが相手FBマッガーン(トップリーグ時代のヤマハOBだ)のタックルを飛び越えて左隅へダイビング。TMOがかけられたが、右足はタッチラインをぎりぎりでかわし、左腕一本でタッチインゴールぎりぎりにグラウンディングしていることを確認。トライは認められた。リーグワンD1のトライ王争いトップを走る今季11号トライ。SO家村健太が左隅の難しいコンバージョンを鮮やかに蹴り込み、レヴズが7-7の同点に追いつく。
このトライでレヴズは勢いに乗った。次の相手キックオフが直接インゴールに入り、センタースクラムで再開されると、右オープンのファーストレシーバーに左WTBツイタマを走り込ませるムーブで家村-ピウタウー山口と軽快にパスが渡り、WTB14奥村が右隅にフィニッシュ。こちらも家村がコンバージョンを決め、14-7。さらに24分にはハーフウェー付近左のラインアウトからの2次攻撃でSHブリン・ホールがラックサイドをブレイク。すぐサポートについたSO家村からLOダグラスにパスが繋がれ電光石火の3連続トライだ。レヴズが21-7とリードを広げる。
完勝ペース。だがリーグワンに簡単な試合はありえない。27分、カウンターアタックから相手陣に攻め込んだピウタウのオフロードパスが転々としたところに素早く働きかけたブラックラムズがさらにカウンターアタックをしかけ、レヴズゴール前に迫る。32分にトライ、42分にはDGを決められ、前半は21-17。リードは僅か4点で折り返した。
後半、先に点を取ろう――そのミッションをレヴズは忠実に実行した。44分、自陣ラインアウトからモールを押してから左へアタック。ツイタマが大きくゲインして相手陣に入るとイラウア、日野剛志、大戸裕矢、桑野詠真らが次々と縦にえぐり、10次攻撃でSHブリン・ホールからパスを受けたLOダグラスがゴールポスト右にトライ。家村がコンバージョンを蹴り込み28-17とリードを広げる。
ここから試合はやや膠着する。レヴズは相手キックオフを落球し、前にいた味方がボールに触れてしまいノックオンオフサイドの反則。自陣ゴール前のピンチを迎えるが、FWがラインアウトとスクラムで踏ん張りピンチをしのぐ。51分には相手がPGを失敗。直後には再びゴール前に攻め込まれるが、相手の12フェイズにわたる連続攻撃を統率されたディフェンスでしのぎきると、56分には相手のカウンターアタックをハーフウェー付近でツイタマ、家村がタックルで止め、さらにジョーンズリチャード剛がタッチ際でボールを持った相手選手に後方から思い切り走り込んで猛タックルを見舞うのだ!
レヴズの背番号7の周りには違う時間が流れているのか。カウンターアタックに対してツイタマ、家村はスペースを埋めながらタックル。ラムズの選手もまた、その圧力を受けながらボールを動かしていた。それはアタックとディフェンスが視野とスペース感覚を競い合う駆け引きの時間。ところが『リチャ』はそこへ、死角からトップスピードで走り込んで爆弾タックルを見舞うのだ。それまで時を刻んでいた時計をたたき割るような破調の一撃に、相手はたまらずノックオン。
まさにチームを勇気づける一撃。レヴズはこの流れを生かした。ハーフウェー付近のスクラムからツイタマ、ピウタウ、さらにオフロードパスを受けた山口が前進し、すばやく出たボールをグリーン-奥村とつないでラムズ陣深くへ侵入。さらに伊藤、大戸、ジョーンズが縦突破を図るとラムズはたまらずノットロールアウェイの反則。レヴズはここでショットを選択し、正面10mのPGをグリーンが蹴り込む。60分で31-17。試合時間20分を残しリードは14点差に広がった。
だが、点差が開いたことが、逆にラムズに火をつけたのかもしれない。ラムズは途中出場でFB兼SOに入っていたアイザック・ルーカス(リーグワン屈指のアタッカー、こちらもリスペクトすべき破調の男だ)にボールを集めてゲームをスピードアップ。アタックのリズムの変化にレヴズは後手を踏んでしまった。62分、64分、ラムズに連続トライを献上し、31-29の2点差で残り15分。まさにハラハラ、しびれる時間。ここからが本当の勝負だ。
そして迎えた68分、レヴズは自陣から思い切ってアタックをしかける。WTB奥村が右サイドを大きくゲイン。さらにSOの位置に入ったグリーンから左のツイタマへのキックパスなどで相手ゴールに迫る。ラムズも必死のディフェンスでしのぎ、レヴズの反則を誘ってはエリアを戻す。一進一退の攻防。だがハーフウェーのラインアウトでラムズがボールを獲得し、モールを組もうとしたところへレヴズはプレッシャーをかけてノックオンを誘う。目に見えない小さなハードワークが誘った相手の小さなミス。これが試合を決めるプレーにつながった。
72分、ハーフウェーで組んだスクラムをレヴズFWはじわりとプッシュ。アドバンテージという保険を得て右へ展開し、再び奥村がビッグゲイン。タッチライン際に追い込まれながら奥村がインフィールドに残したボールをグリーンが巧みに拾い、ピウタウと庄司が正確にオフロードパスをつなぎ、トンガタマがゴール前でダウンボール。ダグラスがオーバーして確保したボールを交替で入っていた矢富勇毅がさばくと、グリーンが相手DFの人数を冷静に見極めて左サイドへ飛ばしパス。スペースに走り込んだツイタマが、ブルーの応援ウェアに身を包んだレヴニスタたちが陣取る左隅にトライを決めるのだ! グリーンのコンバージョンは外れたが、74分で29-36の7点差。
そして試合のラストミニッツ。レヴズはフレッシュレッグズを投入する。この日もタックルに身体を張り続けたFLジョーンズリチャード剛に代えて杉原立樹、ゲームメークにタックルに身体を張った(試合途中からCTBだった)家村健太に代えて負傷から戻ってきたキーガン・ファリア、そして前節負傷退場しながらも74分までスクラムを支え続けた伊藤平一郎に代えて、190㎝132㎏という雄大な体躯を誇る新加入のPRショーン・ヴェーテー。
フレッシュレッグズは自分たちの役目を理解していた。古巣ブラックラムズ戦に闘志を燃やすファリアは76分、ラムズのルーカスにタックルしたピウタウに素早く反応し、見事なジャッカルでノットリリースザボールのPKを獲得。そこから攻め返すと、ヴェーテーが巨体を利して相手DFの中を激しくキャリー。78分には相手ゴール前のラインアウトから杉原がボールを持ちだしてゴールラインへ……ここは直前にオフサイドがありトライは認められなかったが、最後まで相手ゴールを目指すアタックマインドはチームを最後まで包み込み、チームを前へ出し続けた。フルタイムを告げるホーンが響き、矢富がボールを蹴り出す。36-29の勝利。秩父宮のビジター戦で応援に声を枯らした静岡から駆けつけたレヴニスタや、なかなか生観戦の機会のない首都圏在住のレヴニスタたちとともに、今季4勝目を喜び合った。幸せな瞬間。
試合後の会見で、藤井監督は表情を崩さずに振り返った。
「ケガ人が出て、思うようなメンバーが組めない中で、今日は何としても勝つことが大事だった。途中、自分たちのミスでプレッシャーを受けたりもしたけれど、何とか勝ちきれて良かった。これを機にまた上っていきたい」
ゲームキャプテンを家村に任せたことと、SHブリン・ホールの起用については「庄司が2つ前の試合で脳震盪と判定されて、今日は後半からの出場だったし、今日はアタックにフォーカスして、シェイプをしっかり作りたかったこともあって、リーダーグループに入っている家村をキャプテンにしました。
SHについては、ブラックラムズはタイトなディフェンスをしてくるので、長いパスを投げられるブリンからのワンパスで相手DFを切りたかった。良かったと思う」と明かした。
10節を終えて4勝6敗、勝点20。相模原が勝点ゼロで敗れたことでレヴズは8位に順位を上げた。4位スティーラーズ、5位イーグルスが敗れたことで、プレーオフ圏との勝点差は「9」。小さくはないが、諦める必要はない。
キャプテンのNO8クワッガ・スミスら負傷者が相次いでいるのは誤算だが、誤算も含めて戦うのがリーグワンの戦場だ。当初は代役としての抜擢であっても、そこからポジションを奪い、サクセスストーリーを作っていく選手はどこのチームにも、いつの時代にもいる。この試合でも、アーリーエントリーでリーグワンデビューを飾ったPRヴェーテーをはじめ、初めてキャプテンを担った家村、今季初先発のブリン・ホール、8試合ぶりにメンバー入りしたキーガン・ファリア、5試合ぶりに先発した昨季主将の奥村翔ら、何人もの選手が自身のキャリアに新たな1ページを刻んだ。ブラックラムズとの戦いも、最後に勝負を決めたのは彼らを含むオプションの多さだった。チームが力を高めていることは確かだ。
次節の相手は7位のトヨタヴェルブリッツ。勝点差は「4」。言うまでもなく、負けるわけにはいかない一戦だが、それと同じくらいに重いのは、リーグワンになって過去3戦(コロナによる不戦敗を除く)の東海ダービーは3点差、5点差、10点差とすべて接戦で敗れている事実だ。何よりも大切なのは目の前の試合であり、駆けつけてくれたレヴニスタのみなさんに勝利を届け、一緒に喜ぶこと。一戦必勝で戦っていこう。レヴズの未来は、その先に初めて開けるのだから。
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。