藤井雄一郎 監督~トータル70点。満足は全くしていないが悲観もない【PLAY BACK Interview③】
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
静岡ブルーレヴズの指揮官として藤井雄一郎監督の着任会見が行われたのは昨年の10月21日。フランスで開催されたラグビーワールドカップ2023で日本代表のチームディレクター業務を終え、帰国してわずか10日後のことだった。
その後、2ヵ月足らずでリーグワンは開幕。そこから6ヵ月にわたってNTTリーグワン2023-24の熱戦が繰り広げられた。
今季は開幕から2連敗でスタートしたが、第3節のスピアーズ戦で初勝利をあげ、第6節終了時は5位。そこからいったん9位まで後退したが、第10節から3連勝し、第12節終了時は6位に上昇。だが第13節のスピアーズ戦、第14節のサンゴリアス戦に連続で引き分け、最後はスティーラーズとブレイブルーパスに連敗し、最終順位はリーグワン設立から3季連続の8位に終わった。
シーズンを戦い終えた藤井監督に今季を総括していただいた。
――監督就任1年目のシーズンお疲れ様でした。率直に言って、自己採点は何点つけられますか?
「1試合ごとに出来がいろいろでしたね。100点つけられる試合もあったしダメな試合もあった…トータルで言うと70点くらいかな。3位から8位まではどう転んでもおかしくない内容だった。満足は全然していないけど、そこまで悲観する必要もない。チームとして、次のステップへ行くために必要な勉強だったと思う。トップ4を目指しながら、同時に若い選手を試合に出して経験を積ませることで、強度の高い中でどれだけできるかが大体分かった。来季、勝つための勉強はできたかなと思います」
――シーズンの序盤は2連敗のち2連勝でした。
「そのあと、5戦目のサンゴリアス戦が残念でしたね。サンゴリアスに残り10分まで8点差をつけて勝っていたけど、最後は若さが出て逆転負けしてしまった。第2節の神戸戦も、同点から72分にPG(ペナルティゴール)でリードしたけど、次のキックオフから逆転トライを取られた。詰めが甘かった。このあたりはメンバー交代の綾もありましたね。それまでスクラムで優位に立っていても、メンバー交代でそのアドバンテージがなくなってしまうケースがあった。そこから、選手交代のパターンをいろいろ変えて、後半に点を取れるチームになっていったり、シーズンを通して、リーグワンの中での力量がどのくらいなのか分かってきた。ケガ人も出たけれど、代わりに入った選手も活躍してくれたし、選手の能力、ポテンシャル、成長力などいろいろ分かりました」
――クロスボーダーマッチでリーグ戦が中断した2月の別府合宿はめちゃめちゃハードだったと多くの選手が証言していました。
「アーリーエントリーで入った選手たちと一緒にトレーニングすることが狙いでした。そこから、後半戦に出て活躍した選手もいる。ハードな合宿をしたのが良かったのかどうかは一概には言えないけれど、あそこでしっかり練習しなければ後半戦に勝っていないのは間違いない。今後は、どうフレッシュさを保ちながらシーズンの中で練習していくかが課題になりますね」
――ハードな合宿で伸びたのはどの部分でしょうか?
「2月は、別府合宿でコンタクトプレーを中心に積み上げたものが自信のひとつになりました。何もしないで勝利を掴めるようなチームじゃないので。PR河田がケガをして戦列離脱したのは残念だったけれど、そこには山下憲太が出てきたし、トータルで言えばプラスだったと思う」
――今季は自陣からもアグレッシブにアタックする場面が増えました。
「ウチの場合はリスクを背負わないと勝てないですから。よそさんのようにキックを蹴って陣地を進めても、ラインアウトは高さが足りない。ラインアウトを減らそうとすれば、蹴らずにボールを運ぶことを考えないと。言い換えると、相手が嫌がることを80分間やり続けることが必要でした。
それが一番うまくいったのはトヨタ戦(第11節)ですね。トヨタは後半の得点力が少ないというデータから、先に圧倒すれば勝てると分析し、『1ラウンドKO』というテーマを掲げて『最初からトップスピードで行け!』と。ウチは荒削りな、どこかが強ければどこかが弱いという選手が多いけど、弱みが表に出ないうちに替えることで、強みだけを出すことを考えて、うまくいきました」
――今季は若い選手がたくさんブレイクしましたが、最も伸びた選手をあげていただくと誰でしょう?
「ひとりあげるなら岡﨑航大ですね。SOからSHにポジションが変わって、不安もあったと思うけど、良いSHになってくれた」
――岡﨑選手をSHにコンバートした経緯を聞かせていただけますか。
「岡﨑はコンタクトは強いけど、身体は大きくない。今のチームのバランスだと、SOやCTBじゃ試合にはなかなか出られんやろな、と思って『試合に出たかったらSHをやってみないか?やってみて無理やったらSOに戻ればエエから』と言ったんです。パスは上手いし、性格もSH向きだと思った。ちょうどSHにケガ人が重なっていたこともあって、試合に出るチャンスはあるぞと。本人は悩んだと思うけど、実際にやってみたら上手くいきましたね」
――選手のコンバートはサニックス監督時代も良くやっていましたね。
「BKからFWに移らせた選手もいましたね。当時のサニックスも今のブルーレヴズも、よそからトップ選手を好きなように連れてこられるチームじゃないんで、いる選手で戦わなきゃいけない。それに、ビッグネームが来てしまうとチームカルチャーが崩れてしまう面もある。もちろん何人かは必要なポジションに補強することはあるけれど、僕はできるだけ生え抜きから育てたいと思っています」
――そういう観点で、来季ブレイクを期待したい若手選手の名前をあげていただけますか?
「そうですね、ひとりはシーズン途中から出た奥村翔。彼は物怖じしない。プレッシャーがかかる試合でも安定して良いプレーができるんです。スピードもあるし、線が細く見えるけれど身体は強い。
もうひとりはアーリーエントリーで入った岡﨑弟(颯馬)。大学(早大)でも良いプレーをしていたけれど、日本人選手でリーグワンの13番ができるポテンシャルがある貴重な選手だと思う。特に13番のディフェンスは難しいけれど、そこをやれるセンスがある。任せたいと思わせる良い選手です。
そしてもうひとり、SHの加藤。こいつはきっと化ける(笑)。NZでずっと大きな選手を相手にやってたから、身体は細く見えるけどタックルが強いし、プレッシャーがかかる場面でも動じない。NZの大会で優勝して、高校生の世界大会でも優勝したと聞いています。楽しみです」
――楽しみです。今季の貢献度で言うと、MVPを挙げるとしたら誰でしょう。
「まずチャールズ・ピウタウですね。最初はFBで、2戦目からは13番に定着してくれて、全ての試合で安定したパフォーマンスを発揮してくれた。さすがオールブラックス、80分間ずっとパフォーマンスが落ちないところはスゴいと思いました。
FWではLOマリー・ダグラス。練習態度がマジメで、大人なんです。練習している姿を見るだけで、この人はいい人やなと分かるし、あのハードワークは周りの選手に良い影響を与える。この2人の貢献度は高かったですね。よく頑張った。
日本人選手ではHO日野ですね。スクラムの要として頑張ってくれたし、ラインアウトのスローイングも上手。今季は彼がケガをしなくて助かりました」
――新人はいかがでしょう。シーズン終盤はヴェティ・トゥポウとショーン・ヴェーテーの活躍が目立ちましたが。
「第13節のスピアーズ戦の印象が強いですよね。あのくらいはやれると思ってました。ただ、あれは初見だから。そのうちああはいかなくなる。だからインパクトをもっと磨かないとアカンですね。練習ではいいけれど、その良いプレーを試合では出せないというんじゃダメ」
――新シーズンの大まかなスケジュール感を教えていただけますか。
「チームとしては7月中旬にスタートしたいと思っています。最初は若手中心でスタートして、ベテランと外国人選手は9月に合流するイメージです」
――プレシーズンの間、重点的に取り組みたいことはありますか。
「ボールを取り返すことに注力したいと思っています。やはりディフェンスを長く続けるのは難しい。早い段階でボールを取り返すことがカギになります。練習したことの成果を見る意味でも試合はやります。練習だけでは見えない部分もあるし、実戦のプレッシャーの中で、特に新人がどれだけできるかを見てみたい」
――来季の目標はどこに置いていますか。
「プレーオフには十分に行けるかな、と思っています。なので、目標はそこで勝つこと。リーグ戦では埼玉ワイルドナイツが全勝したけれど、あのチームにも勝てないわけではないと思う。やりようによっては勝てるはず。とはいえ、勝つための近道があるわけじゃないので、勝てるだけのチームカルチャーを作っていかなければならない」
――現在のブルーレヴズのチームカルチャーをどう見ていますか。
「昔からの良い文化を持っていると思っています。選手同士の仲がいいし、試合に出られない選手も分析や練習相手としてすごく良く協力する。ハードワークの文化が根付いていて、頑張った分だけ成果が得られるという価値観がチームに根付いている。これは良いことです。
あとは精度をもっと上げること。セットピース、パス、キック、そしてゲーム理解度、ディフェンス……すべての面で精度を上げる、クオリティを上げることが必要です」
――ブルーレヴズの心臓、スクラムについてはいかがでしょう。シーズンの終盤は苦しむ場面もありました。
「やはりスクラムはレヴズのアドバンテージとして持っていたいですね。相手FWを集める効果もあるし、『レヴズはスクラムが強い』というイメージを相手やレフェリーに持たせることは大切なこと。同時に、ルール変更でFK(フリーキック)からスクラムを選択できなくなる可能性があるので、FKからのアタックオプションを増やしておく必要もあると思っています」
――この春はブルーレヴズから日本代表スコッドに多くの選手が選ばれました。
「できればテストマッチクラスの試合にひとつでもふたつでも出て欲しいですね。その経験は本人にとってもチームにとってもきっとプラスになる。テストマッチでは派手なプレーはいらない。特にイングランド相手ならなおさら、ハイボールを精度高く捕る、タックルは必ず仕留める、クリーンアウトには正確に入る。そういう基本プレーが重要になる。成長して帰ってきてほしいです」
――藤井さん自身はオフをどう過ごす予定ですか?
「ちょっとは休むけれど、勉強しないとアカンと思ってます。今考えているのはラグビーリーグ(13人制ラグビー)の視察です。昨年の日本代表合宿、レヴズのプレシーズン合宿に来てもらったジョン・ドネヒューの指導を見にオーストラリアへ行こうと思っています」
――リーグ戦は終わりましたが、選手にとっても監督にとっても大事なオフ期間になりそうですね。収穫が発揮されることを楽しみにしています。ありがとうございました。
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。