悔しさから学び、成長し、強くなる。リーグは始まったばかり。~大友信彦観戦記 12/17 リーグワン2022-23 Div.1 R01 vs.トヨタヴェルブリッツ戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
12月17日、静岡ブルーレヴズはリーグワン2年目の開幕戦に臨んだ。相手はトヨタヴェルブリッツ。会場は愛知県の豊田スタジアム。同じ東海地区に本拠地を置き「東海ダービー」と呼ばれるライバル対決だが、それだけではない。昨季も両チームは開幕節に激突するはずだったのだが、ブルーレヴズにコロナ感染者が出たことで試合は中止に。そして第14節にエコパで行われたリーグワン初対決は、終始優勢に試合を進めながら残り5分で逆転負けを喫した。ブルーレヴズにとっては、二重の意味で悔しさを晴らさなければいけない相手だ。言い換えれば、開幕戦で挑むには格好の相手だ。
この試合にブルーレヴズはフレッシュな布陣で臨んだ。
左PR1番には今春加入したばかりのルーキー泓城蓮(ふち・じょうれん)を抜擢。FL6番にはこちらもジュビロ~レヴズを通じて初の公式戦となる3年目の杉原立樹。さらにリザーブにもPR茂原隆由(もばら・たかよし)、HO/FLリッチモンド・トンガタマという2人のルーキーが並んだ。ラインアップからは、シーズンを通じて成長していこうというチームの意思が伝わってきた。その一方で、HO日野剛志、前主将の大戸裕矢という日本代表の欧州遠征から帰国した大黒柱2人、さらにプレシーズンマッチ3試合をケガで欠場したSHブリン・ホールがスタメンに、リザーブには37歳のプレイングコーチ矢富勇毅も名を連ねた。
12月17日14時30分。雨の降る豊田スタジアムで、リーグワン2年目の開幕戦は始まった。
先手を取ったのはブルーレヴズだった。
キックオフからの蹴り合いが続いていた開始0分55秒だ。トヨタSOのキックに思い切りプレッシャーに走ったWTBマロ・ツイタマが見事にチャージ成功。ゴールライン手前で弾んだボールへ、ツイタマは身体ごと飛び込みざまにしっかり抱え込んで、そのまま濡れた芝の上を滑り込んでポスト左に先制トライを決めるのだ。トップリーグラストイヤーの2021年、そしてリーグ不成立で非公式だった2020年も含めれば2年連続でトライ王に輝いたトライゲッターが決めた電光石火の先制劇。
実績のある選手が働いたら、抜擢された若手だって奮起する。7分、自陣に攻め込まれたピンチで、デビュー戦のFL杉原がトヨタのHO彦坂圭克に、身体ごと吹き飛ばしそうなビッグタックルを決めてノックオンを勝ち取る。
レヴズに勢いが出始める。SHブリン・ホールのリズミカルなパスさばきで、FWもBKも前に出る。セットプレーからのアタックが看板だったジュビロ時代のヤマハスタイルから、フェイズを重ねながらチャンスを広げる進化したレヴズスタイルへーー杉原が再三、相手DFをえぐり、共同主将のクワッガ・スミスが狭いスペースを前に出る。そして12分、フェイズを重ねたアタックで、ゴール正面のラックからホールー小林―ファアウリとリズミカルなパスが渡り、左隅でパスを受けたツイタマが連続フィニッシュ。奥村主将のコンバージョンは外れるが、ブルーレヴズが12-0とリードを広げた。
しかし、リーグワンのゲームにワンサイドはありえない。序盤は反則の目立ったヴェルブリッツも徐々に冷静さを取り戻す。身長200㎝の南アフリカ代表デュトイを軸にラインアウト、スクラムのセットプレーでブルーレヴズに圧力をかけ、ブルーレヴズ陣に入ると16分、20分とPGを返し、31分にはブルーレヴズの自陣からのキックを捕って攻め込み、そのままトライ。ヴェルブリッツが11-12の1点差に追い上げる。
こうなると大型選手、スター選手の揃うヴェルブリッツは勢いに乗ってくる。だが38分、そんな流れを止めるビッグプレーが飛び出した。ブリン・ホールの蹴ったハイパントをヴェルブリッツはカウンターアタック。そのままFL吉田杏選手がトライ体勢に入ったときだ。後方から追いすがったブルーレヴズWTB伊東力が相手のボールを持った腕を背後からはたき、グラウンディング寸前でノックオンさせるのだ! 32歳のベテランがみせたギリギリのディフェンス。前半はブルーレヴズが12―11の1点リードで終えた。
後半、ブルーレヴズはスクラムのPR1番泓に代えて河田和大を投入してスクラムの修正を試みる。だが、先にリズムを掴んだのはヴェルブリッツだった。5分、スクラムでブルーレヴズがコラプシングの反則を取られ、ヴェルブリッツがPGを決めて逆転。さらに次のキックオフからヴェルブリッツは意表を突いて自陣からアタック。虚を突かれたブルーレヴズのディフェンスはそのままビッグゲインを許し、ノーホイッスルトライを献上してしまう。勢いに乗ると、タレントの並ぶヴェルブリッツは強い。15分には再びPG。17分にもブルーレヴズ陣深くに攻め込むと、FWがフェイズを重ねてトライ。31―12とリードを広げる。
厳しい展開になった試合。ブルーレヴズの反撃を託されたのは後半途中からピッチに投入されたフレッシュレッグズだった。15分に今季加入のLOアニセ・サムエラが、19分にSH矢富勇毅とCTBクリントン・スワートがピッチへ入る。中盤で拮抗した攻防が続く。ブルーレヴズは何度も自陣のピンチを耐えて脱出する。だが、敵陣に入ってもペナルティを取られるなど決め手を欠き、なかなか点差を詰められない。時計がじりじりと進む。
残り10分を切る。ようやくスコアが動いたのは後半34分だ。右ゴール前ラインアウトをFL7庄司拓馬が捕ってモールを作ると、HO日野が持ち出してLO大戸がトライ。
FB奥村がコンバージョンを決め19-31の12点差にすると、ブルーレヴズはさらに攻勢に出る。SH矢富のリズミカルなパスさばきからFWが最短距離を前進。39分、耐えきれなくなったヴェルブリッツが反則の繰り返しでイエローカードを受ける。直後にブルーレヴズは共同主将のNo8クワッガ・スミスがトライ。奥村のコンバージョンも決まって26-31。ワンチャンスで逆転可能の5点差に迫った。
ラストプレーを告げるホーンが響く中、ヴェルブリッツがキックオフ。ブルーレヴズは自陣22mラインからアタックをスタート。ここから80mを切り返せば同点トライそして逆転のコンバージョンが待っているーーだが、そんな甘美な夢は間もなく断たれた。右のスペースが空いていると見たSOグリーンが右サイドへキックパス。しかし80分を戦い抜いたグリーンの足に力は残っていなかったのか、キックは精度を欠いた。ボールはそのままタッチラインを割った。そしてノーサイドの笛。ブルーレヴズは19点差をつけられた劣勢から猛攻に転じたものの、最後は5点及ばず。開幕勝利はならなかった。
「良いスタートは切れたけれど、そのあと相手のプレッシャーを受けてしまった。我々は中盤のラインアウト、スクラムのセットプレーでもっとプレッシャーをかけたかったけれど、それができなかったのが敗因です」
堀川ヘッドコーチはそう振り返った。
「それでも、セットプレーからアタックできた後半の後半、最後の時間帯はスコアできるだけの力はあった。最後に勝点1を捕ったことをプラスに捉えたい」
共同主将クワッガ・スミスもまた、ポジティブに振り返った。
「良いゲーム、学びの多いゲームだった。ヴェルブリッツはチャンスを得点につなげたけれど、私たちも得点のチャンスは作れていた。今日感じたのは、私たちには力はあるということ。最後の遂行力が足りなかったのは課題だけれど、それもすべて学び。この戦いからポジティブに学んで、次の試合に繋げていきたい」
最後の最後、キックパスの選択はやや淡泊にも見えた。相手にはイエローカードが出ていて、レヴズは数的優位を得ていた。継続して攻めていけば、トライチャンスを作れる可能性はきっとあった。だが、自陣ゴールを背にしてボールを持ったグリーンにはそれ以上のプレッシャーがかかっていたのかもしれない。だとすれば、それも学びだ。ライフ・ゴーズ・オン。初戦に勝っても負けてもリーグ戦は続く。
次節は昨季王者、埼玉パナソニックワイルドナイツを本拠地ヤマハスタジアムに迎える。相手の強さは間違いないが、昨季はIAIスタジアムで、終了直前までリードを奪う戦いを演じた。勝つチャンスはきっとある。
つけくわえれば、ヴェルブリッツとの再戦はリーグ戦最終節の4月23日、次はホームで戦う。そのときはもしかしたら、互いに4強入り、プレーオフ進出をかけて戦う……なんてシチュエーションもあるかもしれない。
初戦の負けは、シーズンの負けを意味しない。悔しさから学び、成長し、強くなっていこう。リーグワン2年目のブルーレヴズの戦いは、始まったばかりだ。
【ハイライト動画】
【追記】
試合終了後の豊田スタジアムで、「MIRAI MATCH」と銘打たれた、ブルーレヴズとヴェルブリッツの、この日のノンメンバーによる練習試合が行われた。リーグワンでは初の試み。12000人超のファンの多くはスタジアムをあとにしていたが、両チームの熱心なサポーターがスタンドに残り、次代のヒーローたちの戦いに熱い視線を送った。試合は35分ハーフで行われ、7-10でヴェルブリッツの勝利に終わったが、選手たちの奮闘はファンに、ファンの思いは選手たちに、きっと届いたに違いない。
ミライマッチに出場したブルーレヴズのメンバーは以下の通り。
スコア:
後半20分 江口晃平のTRY! 清原祥のゴール成功
NEXT MATCH---12/25(日) Div.1 第2節
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。