五郎丸歩「ラグビーって気持ちいいな」新たな歴史を刻む二試合を3月2日(土)に同日開催!
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
メインのゲームに負けないくらい魅力的だ。
3月2日(土)、ヤマハスタジアムで行われるリーグワン第8節、埼玉ワイルドナイツ戦に先立ち行われる
「クラブ創立40周年記念マッチ ヤマハ発動機ジュビロOBvsワイルドナイツOB」
のことだ。
ヤマハ発動機ジュビロOBには先発メンバーに日本代表で活躍したPR髙木重保さん、LO久保晃一さん、SH村田亙さん、SO大田尾竜彦さん、CTB大西将太郎さん、WTB冨岡耕児さん、そしてブルーレヴズCROでもあるFB五郎丸歩さんが出陣。リザーブには現在サッカーのジュビロ磐田社長を務めるHO浜浦幸光さんも名を連ねた。
一方のワイルドナイツOBにはトップリーグ時代に3度のトライ王、史上2人目の通算100トライを達成したWTB北川智規さんはじめ、日本代表キャップ保持者がWTB三宅敬さん、FB笹倉康誉さん、CTB林泰基さん、PR川俣直樹さん、LO谷田部洸太郞さん、FL西原忠佑さん。
合計キャップ数はヤマハOBが168。ワイルドナイツOBは49と数字では下回るが、三洋電機時代、パナソニック時代を通じて活躍した選手がズラリ並んだ。現役を続ける選手や他チームでスタッフを務めるOBはさすがに参加を見送ったが、それにしてもオールスターと形容したくなるメンバーだ。
今回のOB戦実現のために尽力した五郎丸CROに、この企画に込めた思いを聞いた。
「リーグワン設立に合わせて、ヤマハ発動機から静岡ブルーレヴズが分社化した3シーズン目、この3年間、様々な方にコミットしていただいてきて、今年はヤマハ発動機ラグビー部が誕生40周年という節目を迎えるに当たり、昔から応援してくださってきた方々、ヤマハ時代のファン、レヴズになってからのファンだけでなく、パナソニックのファン、全国のファンにも喜んでもらいたいと企画を考え、年末から動き始めました」
パナソニック側の窓口になってくれたのは元日本代表WTBの三宅敬さん。五郎丸さんが企画を打診すると「楽しそうだなぁ、やるよ! すぐメンバーを集めるよ」と即答が帰ってきた。
「ただ、向こうのメンバーが先に出てきたのですが、予想以上に若かったんです(笑)」
たとえばFBで先発予定の笹倉康誉さんは昨季まで、LO谷田部洸太郞さんは一昨季まで現役だった。
「そこで僕も、若手OBを中心に声をかけていったんですが、そのうちに『オレも出たい』と参加表明が増えてきて、もう全員を受け入れました。結果として、年齢層の幅広いチームになりました。『この人が出るんなら』とヤマハ発動機の社内でも盛り上がって、部署あげて応援に行こうという話もあちこちから聞いています」
――今回、40周年の記念試合の相手としてワイルドナイツを選んだ理由は。
「近年は僅差で敗れる試合が続いたり、昨季はビジターの試合で勝ったりして、レヴズのファンはものすごく楽しみにしているカードなんですね。あとは集客面で、昨季のデータを見ても、開幕戦と最終戦は集客できたけれど、3月はあまりよくなかった。今年はJリーグの開幕ともかぶるのでますます集客は難しいだろう。でも、だからこそチャレンジできる土壌があった。実際にジュビロ磐田社長の浜浦さんからは『ジャージーを着て、1分でもいいからグラウンドに立ちたい』と連絡をいただきましたし、同じスタジアムを使っている兄弟団体の良さも活かせた。これまでラグビーには興味のなかったジュビロ磐田のファンの方からも『浜浦社長がピッチに立つなら』とチケットをお買い上げいただいたりしています」
――この企画は新たなファン開拓、あるいは引き戻すことにも繋がっているようですね。
「今回のチケット販売の特徴は、ファンクラブを上回るくらいに一般のファンの方のお買い上げが増えている、静岡だけでなく全国のファンの心に刺さっているんだなということです。
こちらとしても、この企画に反応してくれる方は昔からラグビーを見ている40代50代60代の方かなと思って、ビジュアルもあえて1980年代風に画質を落としてモノクロで作りました。2月がクロスボーダー開催の時期にあたったことで、我々の試合がなかった分、プロモーションにまるまる使えたのも助かりました」
――SNSにはヤマハOBチームが早くも集まって練習している動画がアップされています。OB戦にこれだけ本気で準備するチームは過去にあまりなかった気がします。
「これまで2回(取材は3回目の練習日の前)、2週連続で金曜の夜に練習をしたのですが、そこで感じたのは、勝つ負けるという以上に、良い空気が流れていたなということです。最年長の平子正俊さん(WTB)は62歳ですが、我々が到着するよりも前からグラウンドを走っていて、タッチフットが始まってからも30代の若手OBと同じようなスピードではしっていらっしゃいました。60歳を過ぎてもピッチに立つ、しかもラグビーというコンタクトプレーのあるスポーツですからね。いろいろな人たちにエネルギーを与えてくれると思います」
――五郎丸さんもインタビューで『キックは全部決めます』と100%宣言しました。並々ならぬやる気が伝わってきましたが、現役時代はなかったことですね。
「現役を離れたから言えるんです、責任ないから(笑)。でも、引退してから3年ぶりにキックを蹴って、衰えを感じています。キックって、多くの人が想像する以上に身体に負荷がかかるんです。金曜に練習すると、土日は腰痛に苦しんで、がんばってケアしている状態です」
――ワールドカップに何度も出場したビッグネームの方々はまだ練習には参加していないのですか。
「試合2日前の29日に最後の練習をするのですが、その日には多くの方が集まってくれる予定で、東京など遠方からの方も何人かは早く来られて練習に参加すると聞いています。
大物の方々には僕から直接連絡させていただいて、快く承諾していただきました。村田さんは56歳ですからね、すごいです。大田尾さんには『大西将太郎さんに“しっかり動いて準備しておいて”と言っといて』と伝言を預かりました。大田尾さん、東京でトレーニングしているみたいです」
――相手のワイルドナイツOBの顔ぶれを見ての感想は。
「全体的に若いですよね。平均で39歳くらいですかね。我々としては数で勝つしかないので、リザーブをたくさん揃えて対抗したい。でも、『1分しか出られないよ』と言っている方も多いので、どうなるかですが(笑)。その分、トップチームの試合ではできないような演出も含めてお客さんに楽しんでいただけるよういろいろ調整しているところです。ワイルドナイツOBの皆さんも、沖縄だったり秋田だったり、遠くから駆けつけてくださる方もたくさんいらっしゃるということで、本当にありがたいです」
――五郎丸さんがOB戦に出場するのは初めてですよね。
「はい。自分がOB戦でプレーするイメージは全く持っていませんでした(笑)。練習もしないままグラウンドに立って、失敗したらイヤだな、という感情がありましたし。でも、そう思うのも小ちゃいな、大切なのは成功か失敗かよりも、ラグビーを通じた人との繋がりだろう、先人たちがどういう思いでラグビーに打ち込んでいたかを、一緒にプレーすることで感じ取れたりするのが本当に楽しいですし、見る方にもそれを感じていただけたら嬉しいです。将来的には日本代表のOB戦もどこかで実現できたらいいですね」
――チケットの売れ行きはいかがですか?
「3月は学校行事が詰まっていたりして難しい時季で、集客目標は7000人くらいと設定していたのですが、OB戦の企画を発表してから売れ行きが伸びて、ここまで8000から9000に届きそうな勢いです。県外の方からもたくさんご購入いただいています。
中でも評判がいいのはアフターマッチファンクションです。試合で激しく戦った相手と楽しくビールを飲んで交流するのはもともとラグビーの良い文化でした。コロナ禍になって以降は薄れてきてしまって、今ではテストマッチでもあまりやらなくなってしまったけれど、ラグビーの良い文化として次の世代に伝えていきたい。現役選手はリカバリーや移動もあってなかなかできないけれど、OBには次の試合はないから平気ですし、ぜひファンの方にも参加していただいて、昔からのラグビーの良さを味わってほしいと思って企画しました。もう250人を超える方々からお申し込みを戴いています」
――OB戦からファンクションまでのスケジュールはどうなっていますか?
「やはりメインは現役の試合ですから、選手もファンの皆さんもそこにフォーカスできるようにOB戦は早く終わらせよう、そのためにキックオフも11時40分と早い時間に設定させていただきました。試合に向けた選手の入場の際は、両方のOBが花道を作って現役選手を送り出して、みんなで試合も応援して、そのあと掛川のホテルへ移動してファンクションを始めます。出場するOBはもちろん、ファンの方にとっても1日中楽しめるイベントになると思います」
――ファンの方々には世代を超えて喜んでいただけて、集客も図れる。素晴らしい企画だと思います。
「何より、ラグビーの良さ、ラグビーって気持ちいいなとファンの皆さんに感じていただける1日になると思います。集まってくれるヤマハ発動機OBのみなさん、ワイルドナイツOBの皆さんに本当に感謝しますし、僕自身もとても楽しみにしています」
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。