進化の証明!過去最高の5位浮上!~大友信彦観戦記 1/27 リーグワン2023-24 D1 R6 花園近鉄ライナーズ戦 ~
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
1月27日。ブルーレヴズは本拠地ヤマハスタジアムに花園ライナーズを迎えた。終了直前までリードを奪いながらラストプレーで逆転負けを喫したサンゴリアス戦から2週間。ブルーレヴズに、再びホームのヤマハスタジアムでの試合がやってきた。これもスケジュールの巡り合わせ。レヴズにとっては、2週前の悔しい逆転負けを払拭する、レヴニスタからの信頼を取り戻すチャンスだ。
リーグワンはここから交流戦。シーズン一度しか対戦しない相手との戦いになる。相手の花園はここまで1勝4敗で12チーム中11位だが、結果こそ出ていなくても、前半に限れば埼玉ワイルドナイツを相手でも0-8、前節のトヨタヴェルブリッツ戦は14―28で折り返した。2人あわせてオーストラリア代表186キャップというSHゲニア、SOクーパーのハーフ団を擁し、今季はかつてトップリーグ以前の東芝府中や2003年ワールドカップの日本代表を率いた名将・向井昭吾監督を招き、着実にチーム力を高めている。油断はできない。
しかもブルーレヴズには辛いニュースが届いていた。ライナーズ戦の前日26日、前節のサンゴリアス戦で負傷退場したクワッガ・スミス主将の長期欠場が発表されたのだ。症名は長内転筋断裂で、全治5ヵ月。今季中の復帰は難しい。常に100%以上の力を出し続けてチームを鼓舞する闘将の痛すぎる離脱。しかし、藤井雄一郎監督はその事実をネガティブには受け止めていなかった。
「クワッガが出られないということは、他の外国人選手を使えると言うことですから」
その言葉通り、藤井監督はFBに今季初先発となるサム・グリーンを抜擢。前節はベンチからも外れていたSHブリン・ホールとCTBシルビアン・マフーザをリザーブに置いた。前節までFBで出ていた絶好調の山口楓斗は右WTBへ移り、前節14番だった奥村はリザーブへ。副将の庄司拓馬がクワッガから背番号7とともにキャプテンの重責を引き継ぎ、ベンチにはジョーンズリチャード剛が入った。さらに背番号1の左PRには茂原隆由が今季初先発。クワッガ離脱というバッドニュースは、チームの活性化というポジティブファクターを引き出していた。前日には、すでに治療のために帰国しているクワッガから「一日でも早く帰ってこられるように南アフリカでしっかり治療するからみんなガンバって」と激励のメッセージも届いた。
そして迎えたライナーズ戦。レヴニスタが作る花道を、この試合でトップリーグ~リーグワン通算50キャップの節目を迎えたLO桑野詠真が先頭で入場して試合は始まった。
試合開始の狼煙をあげたのはライナーズのレヴズOBだった。開始3分、キックの蹴り合いからライナーズのWTBが自陣からカウンターアタックで抜け、サポートでボールを持ったのは昨季までブルーレヴズに在籍していたCTB小林広人だ。戦い慣れたヤマハスタジアムでのプレーに「本当にこのスタジアムは最高。芝生も最高」と目を輝かせた小林は、ゴール前5mまで迫るが、レヴズはSH岡﨑航大が全力でDFに戻り、背後からのタックルで元チームメイトに落球させてピンチを救う。しかしライナーズはそのままレヴズ陣で攻撃を続け、6分に先制トライを奪う。
先制を許し、レヴズは目を覚ます。キックオフ後の蹴り合いから相手カウンターアタックにプレッシャーをかけ、ツイタマのジャッカルでPKを獲得すると、家村がタッチキック。ゴール前ラインアウトをダグラスが捕球し、モールを押しておいて左へ展開。タヒトゥアー家村―グリーンと軽快にパスを繋ぎ、ツイタマがそのまま左中間インゴールに走り込みトライ。家村のコンバージョンも決まり、15分、レヴズが7-5と逆転する。
ブルーレヴズの攻勢は続いた。15分、相手のラインアウトミスで得た自陣10m線のスクラムからWTB山口楓斗、NO8イラウアらがゲインを重ね、6次攻撃でゲーム主将のFL庄司がタックルを外して大きくゲインするとオフロードパス。内側をサポートしたCTBチャールズ・ピウタウが芸術的なスラロームランで相手DFをかわして右中間に飛び込んだ。NZとアイルランド、オールブラックスとトンガ代表でキャリアを重ねたスキルを見せつけたトライ。ブルーレヴズが12-5とリードを広げる。
アタックが冴えればディフェンスも乗ってくる。18分には自陣ゴール前のノックオンで相手ボールスクラムのピンチを迎えるが、相手の左オープン展開にFBグリーン、WTB山口がプレッシャーをかけてゴール寸前でノックオンを誘う。さらに23分には自陣でライナーズのフェイズアタックを10フェイズまで粘り強く止め続け、最後はクーパーに大戸のタックル&庄司のジャッカルでPKを獲得。個々のコンタクトではライナーズも強かったが、フェイズが重なったときに素早く防御ラインを作る勤勉さ、反則せずに我慢するディシプリンではレヴズが上回っていた。
レヴズはここから陣地を相手陣に進め、32分、スクラムで得たPKから右ゴール前のラインアウトを桑野詠真が捕り、相手反則でアドバンテージを得ると素早く左展開。5フェイズを重ねたところでグリーンが開いてDFのギャップを突き抜けて左中間に飛び込んだ。
この試合、ディフェンスの粘り強さとともに目立ったのは、トライを取りきろうというレヴズの意欲的な姿勢だ。スクラムやラインアウトモールでアドバンテージを得たときも、キックパスなどのギャンブルプレーに走るのではなくボールを繋いでトライを狙う。すべてが成功するわけではなくともチャレンジを重ねることで学びは蓄積され、やがてそれは自信となってチームの宝になる。
しかしライナーズも粘る。38分、SOクーパーの好キックやリーグワン最年長39歳のレジェンドLO松岡勇のキャリーでレヴズゴールに迫り、ラインアウトからトライを返し、12-19と追い上げて折り返す。ヤマハスタジアムは接戦の緊張感が支配していた。
そして後半。再開された試合でレヴズは早々に主導権を握る。相手キックオフ後の混戦からCTBピウタウが豪快なアタックでDFを切り裂き相手ゴールに肉薄。ここはオフロードパスが通らずチャンスを逃すが、直後に相手キックを捕ったグリーンがみごとな50:22キックを見せて再び相手ゴール前へ。そして46分、フラストレーションをため込んだ相手SHゲニアがレヴズHO日野の顔面をはたきイエローカード(のちファールプレーレビューによりレッドカードにアップグレード)。数的優位を得たレヴズはスクラムからNO8イラウアがサイドアタックしてそのままトライ。
そしてレヴズは、ここから怒濤のトライラッシュを見せる。
51分。ハーフウェーのスクラムでPKを得ると、SO家村はタッチキックを蹴る素振りを見せておいてクイックスタート。SH岡﨑―CTBタヒトゥアーピウタウの逆手パスーそしてFBグリーンからラストパスを受けたWTB山口が相手DFを1対1で外に抜き去り右隅にトライ!
「準備していたプレーです。ゲームの流れを見ていろいろ考えていて、あの場面は行けるかな、と思って使いました。僕の判断です」(家村)
55分には相手アタックにプレッシャーをかけてパスミスを誘い、大戸がゲインしてから、交替で入ったばかりのPR河田和大も絡んで左へ展開。FBに回っていた山口が好判断で転がしたキックを交替でWTBに入ったばかりの奥村が拾ってすぐにパスし、WTBツイタマがトライ。チャンスとみるや、右左のサイドに関係なく自ら動いてトライを取りに行く意欲的な姿勢は、ベンチから投入されたインパクト勢にも徹底されていた。
62分のトライもそうだった。相手ボールのスクラムで途中出場のブリン・ホールが相手SHの球出しにプレッシャーをかけ、ファンブルを誘うとジョーンズリチャード剛がこぼれ球に鋭い出足で働きかけ、見事なフロントセービングでボールを確保。ここからアタックをかけると、いったんは後逸したボールにもジョーンズが戻ってボールを再確保し、最後はダグラスからパスを受けたツイタマがゴール前にキックを落とし、出足良く拾ったピウタウがトライを決める。そして仕上げは78分、家村が相手ゴール前までボールを持ち込むと、こぼれ球をまたもジョーンズリチャード剛がフロントセービングで確保してボールを継続。PKを得るとSHブリン・ホールがクイックで仕掛け、最後は奥村がトライを決めた。グリーンがコンバージョンも決め、ファイナルスコアは50-12。
途中出場の大きな背番号がことごとく活躍し、貪欲なまでに得点を重ねたレヴズ。これには伏線があった。前節、悔しい逆転負けを喫した試合のあと、サンゴリアスの田中監督は「レヴズは先発の選手でなるべく長く戦いたいチーム。ウチは後半のインパクトの選手が後半、良い流れを作ってくれた」と指摘した。この言葉が届いていたかどうかは定かではないが、その試合でクワッガが負傷し、戦列を離れたことはリザーブ勢の自覚と奮起を促したはず。実際、クワッガに代わって主将を担った庄司拓馬、その庄司との交替でピッチに入ったジョーンズリチャード剛は、クワッガの持ち味であるジャッカルにセービングにボールキャリーに獅子奮迅。藤井監督も「2人とも『きわ』で良い仕事をしてくれた」と称賛した。
ブルーレヴズは第4節の三重ヒート戦の62点に次ぐ大量得点。実はリーグワンが始まって過去2シーズン、ブルーレヴズは一度も50得点を記録していなかった。課題だった得点力の低さは、前節終了時点で、勝点でスティーラーズ、スピアーズと並びながら得失点差で下回り、3チームで最低の8位に留まった原因でもあった。そんな歴史を変えてみせる――この日のレヴズ戦士の、飽くことを知らないアタックマインドからは、そんな決意が伝わってきた。
第6節終了。ブルーレヴズはBPを加えた勝利で勝点を16に伸ばし、勝点4にとどまったスピアーズとスティーラーズ、さらに前節5位だったヴェルブリッツも抜いてリーグワン3年目で最高順位となる5位に浮上。藤井監督が開幕前に目標として掲げた「4強」も視界に捉えた。得失点差+70は、全勝の2チーム(ワイルドナイツとブレイブルーパス)に次ぐ3位。トライ数31もワイルドナイツとスティーラーズに次ぐ3位。数字はブルーレヴズの変身を証明している。
クワッガの不在を成長への原動力に――その歩みはこの日、もう始まっていた。
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。