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キャンプでの成長を確かめる。~大友信彦観戦記 11/19 vs.横浜キヤノンイーグルス ~


<観戦記対象試合>
プレシーズンマッチ 横浜キヤノンイーグルス戦2022年11月19日(土)
草薙総合運動場球技場12:00キックオフ

Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)

11月19日(土)、季節が逆戻りしたような暖かい日差しが降り注ぐ静岡県運動公園草薙球技場。静岡ブルーレヴズは、県中部で初開催となるプレシーズンマッチ、横浜キヤノンイーグルス(以降イーグルス)戦に臨んだ。 この試合に向けた1週間、ブルーレヴズは県東部の裾野市でクラブ史上初めての【駿東キャンプ2022】を実施した。県西部の拠点・磐田市を中心に活動してきたヤマハ発動機ジュビロ時代から、静岡県全域をホストエリアとする広域チームに生まれ変わったブルーレヴズにとって、レヴニスタの輪を県全域へ広げていく貴重な機会だ。「芝もキレイで、すごく環境を整えて迎えていただきました。練習公開日には、たくさんの方々が見学にきてくれて、嬉しかった」(奥村翔主将)

雲が多めな地域だが、隙間から差し込む日差しがなんとも神秘的。
平日にも関わらず、計5回のトレーニング公開で毎回約5~6名ほどのファンが足を運んでくれた。東部地域の方が多く、みんな口々に「近くでトップのラグビーが見られて嬉しい」と話していたそうだ。

このキヤノン戦、は入場無料(オンライン登録が必要)で行われた。好天に恵まれたこともあり、草薙球技場には1900人の観衆が集結した。レヴズの練習や試合をここで目にして興味を持った方がラグビーファンになり、レヴニスタになってもらうことも、この裾野合宿、草薙での無料試合を設定したミッションのひとつだ。対戦相手のイーグルスともども、魅力的な試合を披露したい。

プレシーズンマッチ初開催となった静岡県運動公園草薙球技場

そして、リーグワン2年目の開幕を1ヵ月後に控えた両チームが、この試合をシーズン前の重要な試合に位置づけていることはメンバー編成からも見て取れた。ブルーレヴズは先発にトップリーグ時代に2度のトライ王を獲得(2020年は公式表彰はなし)したWTBマロ・ツイタマ、新キャプテンのFB奥村翔はじめ夏の日本代表合宿に練習生で参加したPR河田和大、FL庄司拓馬、新加入のLOアニセ・サムエラ、CTBジョニー・ファアウリら楽しみな名前が並んだ。一方のイーグルスも先発No8にアマナキ・レレイ・マフィ、リザーブSOに田村優という日本代表で活躍したビッグネーム、先発FBに昨季のリーグワンベストキッカーを受賞したFBエスピー・マレー、ベンチに東京五輪セブンズ日本代表のWTB松井千士……熱心なラグビーファンでなくても知っている名前が並んだ。面白い試合になることは、試合に向けてメンバーがチームのHPやSNSで発信された時点で予想できた。

11月19日、正午。試合はブルーレヴズのキックオフで始まった。
先手を取ったのはイーグルスだった。2015年と2019年のワールドカップ日本代表で活躍したマフィの突進を起点に2分、14分とトライを重ねる。
レヴズが反撃に出たのは前半17分だ。自陣でボールを持ったWTBツイタマが、自分で蹴ったキックを自ら捕って前進、相手FBのタックルを受けると、横に走り込んだ青いヘッドキャップのPR河田和大へオフロードパス。河田はPRとは思えない軽快なパスさばきでSOサム・グリーンへ、さらに大外で待つFL杉原立樹にパスが通る。杉原は相手カバーディフェンスを縫うようにBK並のステップを切ってインゴールへダイブ。チーム最初のトライをあげる。FB奥村主将がコンバージョンキックを蹴り込み7-12。


PR河田からのパスを受け取るSOサム・グリーン。FL杉原につながる流れるような連携プレー

20分、横浜に1トライを返されるが、次のキックオフにWTBキーガン・ファリアがプレッシャーをかけ、相手ノックオン。点を取られたら取り返せ。相手陣で得たスクラムのチャンスに、草薙のスタンドからは手拍子が沸き上がる。そのリズムに背中を押されて、ブルーの8人が相手スクラムを押し込む。レフリーのアドバンテージの手があがる。No8マルジーン・イラウアが左サイドにボールを持ち出す。タックルを受けたところへSH田上稔が素早く走り寄ってパスを出すと、スピードに乗って走り込んだFL庄司拓馬がボールを受け、トップスピードのままインゴールに突き刺さった。2本目のトライだ。奥村主将のゴールも決まり14―17。

SH田上稔
FL庄司拓馬

試合はここから膠着した。序盤のジャブの応酬を経て、連携が取れてくる。しかし,プレシーズンマッチのもうひとつの面白さ、メンバーチェンジという要素が試合に加わってくるのだ。横浜はここで元日本代表SO田村優を投入。ゲームの流れがスムーズになった横浜が2連続トライで引き離しにかかる。だがそんな流れを食い止める武器がブルーレヴズにはある。ヤマハ発動機ジュビロ時代から磨き上げてきたスクラムだ。前半終了直前、相手陣に攻め込んで得たスクラムを再び押し込み、ペナルティのアドバンテージを得たところでボールを出すと、インサイドCTBに起用された新加入ジョニー・ファアウリが左へ走りながら意表を突く右足アウトサイドキック。これに最短距離で追走したアウトサイドCTB小林広人がインゴール左中間に押さえた。奥村主将のコンバージョンも成功。21-31でハーフタイム。

インサイドCTBジョニー・ファアウリ
CTB小林広人

プレシーズンマッチはチームの戦術プランをチェックする場であると同時に、選手のアピールの場でもある。互いに合意すれば交代枠も再登場も自由。メンバーも次々と入れ替える。それゆえ、ディフェンスよりもアタックが目立つ展開になりやすい。この日はその法則通り、アグレッシブなトライの取り合いになった。
再開された後半も、そんなビッグアタックで始まった。横浜のキックオフを捕ったWTBツイタマがキックを蹴り返すと猛ダッシュ。戻った相手WTBと競り合って左隅に押さえた。ノーホイッスルトライ。コーナーからの難しいコンバージョンを奥村主将が決める。奥村主将はこの試合、蹴った5度のコンバージョンをすべて成功。対する横浜も、途中出場した田村が蹴ったコンバージョンは5本すべて成功。大味になりがちなプレシーズンマッチを引き締めるキッカーの競演も見応えがあった。

FB奥村のコンバージョンキック。いつみても美しいフォーム。

後半開始早々28-31と追い上げ、このまま逆転へ、と思った矢先、残念な事態が発生する。8分、No8イラウアがノーバインドタックルでイエローカードを出され、ブルーレヴズは10分間、数的不利の戦いを強いられてしまうのだ。ブルーレヴズはCTB小林広人の連続タックルなどでこのピンチに立ち向かうが、スクラムでプレッシャーを受け、モールのコントロールを失うなど苦しみ、横浜は10分、19分と2連続トライをあげる。28-45とスコアが開く。

だがそこからブルーレヴズに流れを引き戻したのは、今年静岡にやってきた新鋭たちだった。26分、相手陣ゴール前、相手SOのキックを交代で入ったばかりのルーキーPR泓城蓮(ふち・じょうれん)がチャージ。そのボールを掴んだのが、こちらもルーキー、HOでピッチに入ったばかりのリッチモンド・トンガタマだ。トンガタマはそのままゴールポスト真下に飛び込んだ。帝京大から加入した2人による電光石火のトライで、ブルーレヴズは反撃の狼煙をあげた。

PR泓城蓮
HOデビューのリッチモンド・トンガタマ

直後の29分、今度は自陣からのアタックで左サイドでボールを受けたのが、交代でFBに入ったばかりのルーキー山口楓斗(ふうと)だ。猛加速で相手DFを振り切りインゴールへ走り込んだ。SO清原祥がどちらもコンバージョンを決めて42-45。

FB山口楓斗
SO清原祥。ブルーレヴズは素晴らしいキッカーが豊富。

トンガタマは帝京大時代はFLやNo8で活躍。今春ブルーレヴズ入りしたあとも主にFW第3列をプレーしていたが、負傷者の関係でHOに挑戦。この日は初の実戦だったが「フッカーは面白い」と笑った。
「スクラムはまだ慣れないけど、スクラムからのアタックではミスマッチになることが多いから、思い切り行ける。楽しいです」
スクラムからボールが出て、アタックでフェイズを重ねると、HOがボールを持つときは目の前のDFもFW第1列勢になることが多い。フランカー時代は目の前のDFもFW第3列、相手チーム最強のタックラーが並んでいることが多いが、相手がFW第1列となれば、トンガタマの走力、突破力がより生きるのだ。

HO練習を始めてまだ数ヶ月という、恐ろしいスピードでスキルを磨いているトンガタマ

そして、パワーのトンガタマとは対照的に、スピードをアピールしたのが山口楓斗だ。167cm67kgと身体は大きくないが「自分の持ち味はスピード。大きな相手に低く入るタックルも自信がある」という積極性を披露。ポジションは奥村主将と同じFBだが「WTBもできるし、チームにケガ人が多く出たときはSHにもチャレンジしました。今も個人練習ではSHもやっています」と出場機会への意欲は高い。リーグワンの頂点を見据え、まずはプレーオフに進出できる4位以上への進出を目指すブルーレヴズにとって、ルーキーたちの躍動は頼もしく、楽しみな材料だ。

試合を重ねるごとにたくさんの成長が見られる山口

試合はその後、横浜がもう1トライを加え、42―50で80分の戦いを終えたが、この日は両チームの合意により20分間のエキストラゲームが実施された。シーズンインに向け、より多くの選手に実戦でプレーさせたいという両首脳の意向が一致したのだが、多くの選手を見られることはファンにとっても嬉しい。この時間にファンの歓声を浴びたのが32歳のWTB伊東力だ。右隅でボールを受けると、自ら蹴ったキックを追って右隅にトライ。昨季は出場機会が少なかったが、2014年度のヤマハ発動機ジュビロ日本選手権優勝を知るベテランならではの技ありトライ。躍動するルーキーたちに負けないいぶし銀の輝きだった。

キックでボールを前に送った直後に一気に加速
イーグルスの選手を置き去りにしてトライ。スタンドが一気に湧き上がるトライだった

エキストラタイムを加えた100分間の最終スコアは47-55。両チーム合わせて16トライを取り合う乱打戦だった。
「殴り合いみたいな試合になってしまいました」
奥村主将は苦笑をうかべながらも、前向きに捉えていた。
「トライを取りきる力が十分あることは出せたと思う」
その言葉通り、ブルーレヴズがあげたトライはどれもボールを素早く動かし、たくさんの選手がグラウンドを広く使って走り回ってボールをつなぐ、スリリングで魅力的な、にわかのファンにも玄人ファンにも喜んでもらえるトライだった。
「FWのゲーム理解が深くなったのが大きいと思う。ゲームの動きがよく見えるから、BKが起点になってもFWがボールを活かせる。今日は良いトライが取れてよかった。見ていても面白いラグビーができたと思います。あとは大きな相手にも前に出られるようにディフェンスを整備したい」

共同キャプテンとなり取材対応の回数が一気に増える奥村。

堀川隆延ヘッドコーチの受け止め方も同じだった。
「勝つ試合をしないといけない。つまらない反則で数的不利になった10分間と、試合の入りの10分間をうまく戦えなかったのが、次のゲームへの課題。ただ、今は自分たちの課題を出している時期。選手のフィジカル面、スキル面は成長しているし、次の試合で今日の課題を修正できればいい。収穫は、少ないチャンスにトライを取り切れたこと。取り組んできたことの成果は出ているので、この精度を高めていきたい」

報道陣の囲み取材の様子 (C)SHIZUOKA BlueRevs

その修正力を見せるチャンスは目の前に迫っている。26日、エコパで行われるコベルコ神戸スティーラーズ戦は、リーグワン開幕に向けたプレシーズンマッチ最大のターゲットだ。草薙での教訓をエコパへ。横浜に学んだことを神戸に。リーグワン開幕まで1ヵ月を切ったが、リーグワンはそこから5月まで半年近く続く長丁場。ブルーレヴズにはシーズンを通じて成長するための学習能力、修正力をみせてほしい。<了>

リーグワン開幕前の最後のホストゲームでのプレシーズンマッチ。本番さながらのエコパスタジアムでの熱い試合、ぜひお越しください!

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大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。