KWAGGA SMITH~アタックマインド改革~【PLAY BACK Interview①】
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
2023-24シーズンが終わった。
今シーズンキャプテンとしてチームを率いたクワッガ・スミスに最終戦終了直後の5月9日にインタビューをした。
ケガもありプレーできない時間が長かったクワッガ・スミスは、今シーズンの静岡ブルーレヴズをどのように感じていたのだろうか。
――今シーズンはワールドカップでは南アフリカ代表で優勝して、ブルーレヴズに戻ると藤井新監督のもとでシーズンがすぐ始まりました。クワッガにとって、今季はどんなシーズンでしたか?
「ワールドカップが終わって、すぐチームに合流したけれど、藤井さんの指導にはスムーズになじむことができた。選手たちはプレシーズンの間、ハードワークをしてきたと聞いていたし、若い選手たちがたくさん試合を経験できたことはプラス材料だと思っていた。シーズン中も上位チームを何度も追いつめたりしたし、チームは新しいコーチのもとで間違いなく成長した。次のシーズンに向けて期待を持てるシーズンになったと思う」
――特に成長を感じた試合、印象に残っている試合はありますか。
「第13節のスピアーズ戦は印象に残っている。去年のチャンピオンに対して後半に反撃して、最後に追いつくことができた。もうひとつは次の第14節、サンゴリアス戦。これも31-31の同点で終わった。結果は引き分けだったけれど、プレーオフの常連のような強いチームに、ほとんど勝てるところまで行けたことはチームの進歩を示していたと思う」
――チームが成長したのは具体的にはどのような部分でしょう。
「新しいコーチのもとで新しいストラクチャーに取り組んだシーズンだったけれど、遂行力が上がったと思う。自分たちのプレー、ストラクチャーに自信を持って戦えたと思う。特にアタックの部分だね」
――クワッガ自身はシーズンの早い段階で大きなケガをしてしまいました。
「チームに合流して、5試合目でケガをしてしまった。残念なことだった。ただ、私がいなくなってからも他の選手がそこをカバーしてくれたことはチームの成長につながったと思う。ケガ自体はラグビーの一環だから仕方ないことだと思っています」
――手術、リハビリのために南アフリカへ帰国している間はどのように過ごしていたのですか。
「帰国して1週目にすぐ手術をして、そこからはずっとリカバリー。時間はあったので、リーグワンのゲームを見て、自軍や相手を分析して、気づいたことをコーチや選手にフィードバックしていました」
――今季のレヴズについてですが、多くの選手から『ハードトレーニングを積んできた』という言葉を聞きました。
「日本ではどこのチームもハードトレーニングをしていると思うけど(笑)。実際、今季のレヴズはかなり強度の高いトレーニングを積んだ。どれだけのトレーニングをすればどんな試合ができるかを理解できたと思う。ここまで練習すればここまでいいゲームができるんだ、とね」
――南アフリカもハードトレーニングのカルチャーが根付いている国として知られていますが、そこで育ったクワッガにとってもレヴズのメニューはハードでしたか?
「確かに南アもタフな文化があるけれど、スプリングボクス(南アフリカ代表)の練習は短い時間に集中してやるスタイルだね。量と質のバランスを大事にしていると思う」
――今季のレヴズは自陣からもリスクを覚悟で果敢にアタックしていく場面が目立ちました。ファンの盛り上がりも感じましたね。
「レヴニスタで埋まったスタジアムの雰囲気は本当に特別なものがある。最終戦の満員のスタンドは本当に嬉しかった。ファンの存在が私たちにエナジーを与えてくれるし、私たちも恩返しをしたい、見て楽しいラグビーを披露したいと考えて、アタックマインドを大事にしています。
その意味でも、どこからでもアタックするスタイルは大事だと思うし、自分たちももっと慣れていかないといけない。実際、シーズンが深まるとともに遂行力が高くなっていったと思う。ただ、ここから大事になってくるのはバランス。ここではアタックするべきなのか、しないのか、そこの判断基準はアップデートし続けていく必要があると思う」
――クワッガにとってブルーレヴズとはどんなチームですか。
「2018年に初めて日本に来て、このチームに参加したときから、ここは僕にとってセカンドホーム、第2の故郷。このチームで勝ちたいという気持ちをずっと強く持っています。優勝したいから勝てそうなチームへ移ろうというような考えは私には一切ありません。チームの仲間もみんな最高なメンバーが揃っているし、このチームで勝ちたい。仲間と一緒に過ごす時間をエンジョイしたい」
――そうまで言うブルーレヴズの魅力はどんなところだと感じていますか。
「一番はみんなハードワーカーだというところだね。大学時代からスーパースターだったような選手はいないけれど、チームの勝利のためにはハードワークをし続けよう、ハードワークすることで成長しよう、そして学んで成功しようという姿勢の選手が揃っている。そういう仲間たちと一緒に過ごすことは幸せなことです。休みの日も一緒にゴルフへ行ったり、全員が良い仲間です」
――今季就任した藤井監督にはどんな印象を持ちましたか。
「とてもスペシャルなコーチだと思う。新しく来たコーチがチームをいっぺんに変えるのは難しいことだけれど、藤井サンは変えるべきところを的確に変えて、あとは楽しく練習する雰囲気を作ってくれた。オープンマインドで選手の話も聞いてくれる。彼が提示してくれるプラン、システムは私も楽しみにプレーできたよ」
――今季のレヴズはスタッツを見てもゲインメーター、ボールキャリー数などでリーグトップレベルの数字を残しました。
「素晴らしいよね。今季はアタックのストラクチャーを大きく変えて、自分たちでアタックしてチャンスを作るスタイルにチャレンジした。その結果、マロ(ツイタマ)がリーグのトライ王を獲得したことがすべてを表しているよね。これから先は、もっとバランスを考えていく必要がある。アタックするところ、キックを使うところ、ディフェンスをどのエリアでするか、といったことをね」
――レヴズというチームにとって今季はどういう年だったのでしょう。
「今年はビルディングイヤー(チーム構築の1年)。積み重ねていく年だったと思います。新しい選手がたくさん経験を積んだ。多くの試合で勝てるところまでいけた。あと一歩で勝てなかった試合もあったけれど、それは勝ち切るには何が必要なのかを学べたということでもある。やはり80分間、途切れることなくいいパフォーマンスを続けなければいけないんだね」
――今季、特に成長を感じた選手がいたら名前をあげていただけますか。
「一人あげると(岡﨑)航大だね。10番からコンバートされてきて、9番でいいパフォーマンスを出した。特別な才能を持った選手だと思う。10番の経験が生きているのか、周りのことが良く見えているし、ゲームの理解度も高い。特に印象的なのはデビュー2戦目のサンゴリアス戦(第5節)のトライをあげた場面。9番にはゲームプランを実行するだけじゃなく、直観を信じてプレーすることが必要な場面がある。ラックから出たボールを止めることなく前に運んでトライまで持って行ったのは素晴らしいプレーだった」
――SHといえば、クワッガは世界最高のSHのひとり、ファフ・デクラーク(横浜イーグルス)とも南アフリカ代表で長く一緒にプレーしていますが?
「そう。航大はファフと似てると思う。ファフもクイックな球出しが得意でランもできて、スペースを作って周りの選手にパスすることも上手い。航大も今季の経験をいかして来季はもっと良いプレーをしてくれると思う」
――レヴズのSHではレジェンドの矢富勇毅選手が今季で引退しました。
「ヤトミはワールドクラスのプレイヤーだと思う。あの年齢(39歳)までトップレベルでプレーできるというのは本当にすごいことだ。偉大な選手というだけでなく、オフザフィールドの振る舞いも素晴らしい。謙虚で、誰にでも慕われる。ジュビロ~レヴズで151キャップを積み重ねた彼のキャリアの一部に加わることができたことを、私も誇りに思っています」
――これからは矢富選手に代わって大戸選手、日野選手が最年長選手になります。
「彼ら2人も本当に素晴らしい選手で、チームで多くのリスペクトを集めています。ゲームタイムも長く、チームに貢献し続けているし、人柄も素晴らしい。私にとっては大事な友人です。彼らが今後、どうリーダーシップを発揮してくれるかが楽しみです」
――彼らはレヴズの武器、セットプレーの看板選手ですね。
「セットプレーは本当にブルーレヴズの武器になっていると思う。特にスクラムは、長谷川慎コーチ・田村義和コーチの指導で、リーグワンでベストの強さになっている。スクラムを制圧すれば試合を有利に進められる。ボクスもそこは大切にしているし、フランカーに求められる役割も似ていると思います」
――今季は桑野詠真とマリー・ダグラスの両LOの貢献ぶりも印象的でした。
「2人ともいい試合をたくさんしたね。マリーは今までになくたくさんの試合で長くプレーしたし、エーシンは日本代表のスコッドにも選ばれるチャンスを掴んだ。2人ともハードワーカーだし、ラインアウトの能力が高い。特にエーシンには日本代表で良い経験を積んでチームに持ち帰って欲しい」
――クワッガが欠場している間を支えたバックローの選手たちについてはどうご覧になっていましたか?
「ジーン(マルジーン・イラウア)がよく成長してくれた。たくさんボールキャリーしてゲインしてくれたし、フィットネスも成長した。リチャード(ジョーンズ剛)は印象的なタックルをたくさん決めてくれた。ディフェンスでは本当に信頼できる選手に成長している。ショージ(庄司拓馬)は素晴らしいリーダーシップを発揮してくれた。特にチームをリードする声のかけ方に成長を感じています」
――クワッガ不在の期間を支えたという意味では、新加入のチャールズ・ピウタウもインターナショナルレベルの存在感、リーダーシップを発揮してくれましたね。
「最初に合流した頃は、自分のスキルをチームにどうフィットさせたらいいかを探っていたようだ。日本のラグビーは速いから、慣れるまで時間がかかる。でも慣れてからは、そこに自分の経験を生かして周りの選手をうまく使うようになったね」
――もうひとり、多くの人が今季の活躍を称える選手がFB山口楓斗選手です。クワッガにはどのように映りましたか?
「とても印象的な活躍だった。昨季から彼の才能、スピード、パッションにはインターナショナルでも活躍できる可能性を感じていたけれど、今季はそれがまたグレードアップしたね。小柄だけど身体を張ってディフェンスもできる。(南アフリカ代表の)チェスリン・コルビに似ていると思う。一緒にプレーして幸せな選手だね。いずれインターナショナルの舞台で活躍してくれると期待しているよ」
――シーズンの終盤にはアーリーエントリーの選手も続々とデビューして活躍しました。
「スピアーズ戦、サンゴリアス戦では若い選手たちが大勢活躍したね。ヴェティ・トゥポウやショーン・ヴェーテーといった活きの良い選手たちが出てくることは、チームのカルチャーにとっても大事なことだと思う」
――ブルーレヴズのチームカルチャーにはダイバーシティー(多様性)があると感じます。
「我々には多くの異なるバックグラウンドを持つ選手がいる。我々にとってそれは楽しみだし、学びも多い。文化の違いを共有して、練習を重ねて、その成果を実戦の場で一緒にハードワークして表現しようという思いを共有しているんだ」
――最後に、これから来季のスタートまでの予定を聞かせて下さい。
「まず南アフリカに戻って1-2週間、短いオフを過ごすつもりです。そのあとはスプリングボクスのキャンプが始まるので、インターナショナルのシーズンに向けて準備することになる。キャンプには自信を持った状態で行きたいので、良い準備をしたいね。ザ・ラグビーチャンピオンシップが終わったら、11月には年末のヨーロッパツアーがあって、そのあと日本に戻ってくることになる。いいパフォーマンスを出して、良い状態で日本に戻ってきたいと思っています。
レヴニスタのみなさん、楽しみに待っていて下さい。これからもサポートをよろしくお願いします!」
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。