大黒柱・大戸裕矢の今シーズン【インタビュー】
Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
今回のインタビューは、昨シーズンまで3シーズンに渡りキャプテンを務め、今シーズンも14試合に出場してチームの大きな柱となった
大戸裕矢選手
にインタビューを行い、シーズンを振り返ってもらった。
――まずはシーズン、お疲れ様でした。今季はシーズン半ばにケガで欠場もありましたが、1シーズンを戦った感想をうかがえますか。
「リーグ全体がレベルアップしているなとすごく感じました。どのチームも穴がなくて、どことどこが戦っても、どっちが勝つか分からない。やっている僕ら自身、タフで長いシーズンだったと感じたし、結局、ケガ人が少なかったチームは安定して勝っていったなと思います。
その中で、僕たちのチームはケガ人が何人か出てしまった。特にクワッガ・スミスやイシ・ナイサラニのような、壁を壊してくれる選手がいなくなったときは、彼らの貢献度の大きさを改めて痛感しました。チームとしては、クワッガがいなくなっても良い試合をできたのは良かったことですが」
――終盤5試合は大戸さんがゲームキャプテンを務めて3勝をあげました。クワッガがいない時間はチームにどんな成長をもたらしたのでしょうか。
「自覚ですね。クワッガとカケル(奥村翔)という共同キャプテン2人がいない試合が続く中で、ファイブハーツのグループリーダーの選手たちが、それぞれキャプテンをやっているくらいの自覚と責任を持ってやってくれた。僕はゲームキャプテンといっても、実際の役目はゲームで締めたくらいで、チームの戦略・戦術のところはファイブハーツのメンバーがやってくれました」
――特にリーダーシップを発揮していた選手は誰かあげていただけますか?
「ブリン・ホールはクワッガとカケルがいてもいなくてもリーダーシップを出してくれましたね。一貫性を持ってリーダーをやってくれました。あと、マロ(ツイタマ)はディフェンス(DF)担当で、相手を分析して、『こんなプレーをしてくるぞ』とか、『今の練習ではここが良くなかったからこう修正しよう』とか提案して、チームのDFを作ってくれました」
――マロ選手はアタッカーというイメージが強かったですが、DFリーダーとしてチームに貢献してくれたのですね。ブリン選手のリーダーシップとはどんなものだったのですか?
「試合のレビューが良かったですね。前の試合で苦戦した原因から目を背けないで、みんなの前で厳しく指摘してくれた。それもネガティブな言い方ではないんです。みんなが奮い立つような言葉のチョイス、発言のタイミングには僕自身も勉強になりました。よく覚えているのは、第3節のブレイブルーパス戦で負けた後、フィジカルのところ、DFのところでやられたことを厳しく指摘してくれたことです。『オフロードパスをしてくる相手には2人目がもっとボールを止めに行け!』と、シンプルな言葉で必要なことを厳しく指摘してくれたのは、チームにとってプラスでした」
――そのブレイブルーパス戦では相手に2mLOが2枚いる中でみごとなラインアウトワークを見せました。大戸さんを中心としたラインアウトチームはブルーレヴズの強みでした。今だから明かせることを聞かせていただけますか?
「そうですね……僕らが考えたのは、相手が苦手な動きはどんなところか、ということですね。そこはかなり気にしてやりました。たとえば、前のラインアウトDFで前へ動くムーブに対しては反応が早かったな、と思ったら、ひとつ後ろに行くサインチョイスをするとか」
――いつも、試合にはサインはどのくらい用意して臨むのですか?
「僕たちはリーグワンでもラインアウトの多い方だと思います。1試合につき15から20くらいあったと思います。スクラムでPKを取れることが多かったので、PKからマイボールのラインアウトにすることが多かった。並ぶ人数は4人、5人、6人、それぞれで何パターンか用意するので、試合にはだいたい20くらいのサインを用意して臨んでいました。全部が全部新しいものというわけではないですが」
――サインチョイスの秘訣は。
「チョイスよりも、みんなが細かいところ、ディテールをやりきることですね。どのサインを選んだかということよりも、誰か1人でもタイミングがずれてしまうと、準備した通りにリフターがジャンパーを上げられなかったり、デコイ(おとり)が機能しなかったり。うまくいくときもいかないときも、原因はサインチョイスよりも遂行の部分にありますね」
――ラインアウトの準備は、実際にはどのように行うものなのですか?
「土曜日に試合があるときは、月曜日がDAY1ということで、今週の試合ではどういうラインアウトを使っていくかをみんなで決める。そこが一番大事です。コーチの大久保直弥さんと、ラインアウトリーダーの桑野詠真、マリー・ダグラス、アニセサムエラを中心に話し合って、方向性を固めていくんです。
試合では僕がサインを出して、跳んで捕っているシチュエーションが多かったけど、詠真、マリー、サムエラが方向性を作ってくれることが大前提。そこから、練習でスロワーとタイミングをあわせていくのが僕らの役目です」
――リーグのスタッツでは昨季は大戸さんがラインアウト獲得数73でリーグ1位、今季は81で3位でしたが、上位にいるのは身長206㎝のホッキングス(東京サンゴリアス)、203㎝のシカリング(コベルコ神戸スティーラーズ)という大型の外国人選手です。そこに187㎝の大戸さんが食い込んでいるのは本当にすごいです。
「僕から見たら、感覚的にはテストマッチもリーグワンの試合も同じ感じです。横にいるのは高さでもキャリアでもスゴいインターナショナルの選手ばかり。そんな選手が並んでいるところで『はい!』と普通に跳んでも捕れるわけない(笑)。そこはラインアウトリーダーたちがめちゃくちゃ頑張ってくれて、助けてくれています。なのに数字では僕の名前だけが出てるのはちょっとイヤなんです。みんなの分析と組み立て、準備のおかげで、僕は最後に上げてもらって捕っているだけなので」
――ラインアウトを見ていると、同期入社、同年齢でもあるスロワーの日野さんとの呼吸も素晴らしいです。阿吽の呼吸ができていますよね。
「それは僕もすごく感じます。タイミングも球筋も分かっているし、ミスがあったときも、次はどんなサインを使って欲しいとかいう気持ちは言葉に出さなくても伝わってきますね」
――ただ、チームの成績自体は満足できるものではありませんでした。
「振り返ると、それなりに戦えていたとは思うけれど、チャージされてトライされたり、相手のミスを活かせなくて逆に相手のチャンスになってトライされたり、アンラッキーに思えるような失点が多かった。でも強いチームはそういうところで必ずトライを取っている。ワイルドナイツなんて典型ですよね。相手のミスを得点に結びつけるパーセンテージを出したらすごい数字になると思う。ブルーレヴズはその2点、3点で負けているのが現実です。神戸戦で僕がチャージしたときとか、最後のトヨタ戦でキーガン(ファリア)がチャージしたときとか、チャンスになるはずのところで逆にトライを取られている。アンストラクチャーが起きた瞬間に僕たちは弱い。ここは改善しなければならないところです。ただ、それは言い換えると伸びしろでもあると思います」
――アンストラクチャーの判断といえば、ワイルドナイツ戦の最後のトライに繋がった大戸さんのキックは見事な判断でありみごとなスキルでした。大戸さんバックス経験もありましたっけ?
「あのキックは自分でもびっくりするくらいうまく飛びました(笑)。キックなんて、チーム練習の前に遊びで蹴るくらいしかやっていませんから。BK経験はありません。ずっとLOです(笑)」
――改めて、ワイルドナイツ戦の勝利の意味とは。大戸さんには地元(埼玉・正智深谷出身)パワーがあったかなとも思いますが。
「それはありました。生まれ育った地元の試合でしたから(笑)。
試合としてはFWがずっと優勢で戦えたのが大きかった。モールで2トライを捕れたし、スクラムも終始優勢に組めた。勝つならああいう展開だろうと感じていたし、それを実行できたのは自信になりました」
――たらればですが、最後に競り負けたり追いつかれた試合に勝てていれば、プレーオフを争える位置にいたはずです。
「プレーオフに進出したチームと比べて、そこまでの差はないなという思いはあります。でも、そこで勝ちきれなかったのが僕たちの現実。自分たちの型から外れたときに僕らはやっぱり弱い。実際、フェイズが切れずに続いて、インプレーが長くなったときにチームに『大丈夫かな?』という空気があった。そこで自信を持ってプレーできるチームでないと勝てないと思います。でも、ワイルドナイツに勝った試合ではアンストラクチャーの状況からも優位に立ったり得点したりという経験を積めた。これを自分たちの力にしていかないといけない」
――これからのブルーレヴズを考えると、今季のタフな試合を若手がたくさん経験できたのは大きいですね。
「アーリーエントリーで活躍した家村と槇については素直に『すげーな』と思います。まだそんなにみんなと一緒に練習できていないのに、あれだけ周りとマッチしたプレーが出来る。試合だけでなく練習のグラウンドでも戦術についてしっかり話し合って自分の考えを発言できている。スゴいなと思いました。家村なんて、アーリーエントリーでも『レヴズを背負っていくぞ』という強い意志を感じます」
――FWではジョーンズリチャード剛選手もルーキーとは思えない活躍でした。
「リチャードには、ケガだけしないようにしてくれよ、と思っています。本当に、すごい頼りになる選手ですから。彼は新人ながらファイブハーツチームのブレイクダウンリーダーのひとりとしてチームに貢献してくれました。リチャードは身体は大きくないけれど、相手の強いキャリアが来ても全部自分の間合いでタックルに入れるんです。相手の間合いで当たられたら相手が強いけど、リチャードはその前にタックルに入る。そのスキルがスゴく高いです。
まだデビューしていないFWの2人、齋藤良明慈縁と八木澤龍翔も楽しみです。八木澤はラインアウトDFでの反応力がいいし、らみん(齋藤)は入団してからの3ヵ月くらいでものすごく身体つきが変わって、ケツや足回りがめちゃくちゃ太くなった、それをグラウンドで体現してくれるのが楽しみです」
――今年はワールドカップイヤーです。大戸さんには日本代表での活躍を期待するレヴニスタもたくさんいます。ご自身の抱負をうかがえますか。
「日本代表に関しては、呼んでもらえるかどうかもまったく分からないので、何も言えません。ただ自分としては、追加招集であれどんな形であれ、呼ばれることがあればできるだけのことをやりたいと思っています。シーズン中にケガしたところをリハビリしながら、いつでも行けるように準備します」
――活躍を期待しています。ありがとうございました。<了>
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。