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9,443人のレヴニスタと共に戦ったクリスマス。~大友信彦観戦記 12/25 リーグワン2022-23 Div.1 R02 vs.埼玉パナソニックワイルドナイツ戦 ~

Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ / 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)

<観戦記対象試合>
NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 Div.12第節 埼玉パナソニックワイルドナイツ戦
2022年12月25日(日) ヤマハスタジアム 14:30キックオフ

12月25日、静岡ブルーレヴズはリーグワン2年目の2戦目、そして待ちに待ったホーム開幕戦の日を迎えた。
本拠地ヤマハスタジアムに迎えたのは埼玉パナソニックワイルドナイツ。昨季のリーグワン初代チャンピオンであり、トップリーグ最後のシーズンとなった2021年のチャンピオンでもある。2018年12月のトップリーグ順位決定戦、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス(現浦安D-Rocks)戦で敗れたのを最後に、国内最高峰のトップリーグ~リーグワンを通じて負け知らずの絶対王者。だが、その連勝街道を止めるところへ最も近づいたチームが昨季の静岡ブルーレヴズだった。9ヵ月前の3月27日、日本平IAIスタジアムでの戦いは、終了直前までブルーレヴズがリードしながら残り1分を切ってからの逆転負けだった。そしてワイルドナイツはその後も勝利を続けたまま、この日を迎えた。無敵艦隊を止めるチャンスは再びブルーレヴズに巡ってきたのだ。

ブルーレヴズはこの試合に、開幕節のトヨタヴェルブリッツ戦から先発3人を変更。左PRの泓に代えて河田和大、右WTB14の伊東に代えてキーガン・ファリア、そして左WTB11番には矢富洋則を入れ、マロ・ツイタマを初の右CTB13番にコンバートした。2019年にヤマハ発動機ジュビロに加わったツイタマだが、CTBで先発するのは4年目で初めて。南アフリカ代表のデアレンデ、日本代表のライリーが並ぶワイルドナイツ強烈CTB陣の対抗馬に、ブルーレヴズでもフィジカル最強ランナーのひとりをぶつけるという、堀川HCが編み出したスペシャルプランだった。

14時30分。静岡を拠点に世界に挑んできたヤマハ発動機のMotoGPマシンが勇壮なエンジン音を響かせる中、ブルーレヴズの選手たちが入場した。迎えるのは、ヤマハ発動機ジュビロ時代からおなじみの応援アイテムである大漁旗を掲げた職場の皆さんだ。花道をくぐり抜ける選手たちの闘志はさらに燃え上がる。

各選手の職場の上司・同僚の皆様による伝統の大漁旗。各旗には選手の名前が大きく書かれ、選手を後押しする熱い想いが込められデザインされている。
ロードレース世界選手権のMotoGPで優勝したYZR-M1によるエンジン音で選手を迎え入れる。ヤマハ発動機ならではの応援演出にスタジアムは最高に熱い雰囲気に包まれた。

試合はブルーレヴズのキックオフで始まった。
ワイルドナイツといえば逆転が代名詞だ。前半は無理に攻めずにキックで陣地を取り、相手に攻めさせながらディフェンスに注力し、相手の反則があれば無理せずPGで3点を狙ってくる。迂闊に攻めれば罠にはまり、点数でリードしても、気がつけばこちらの足が削られている。かといってこちらも省エネを目論めば、各国代表の猛者たちが容赦なく攻め立ててくる。全く厄介な相手だ。
試合は序盤、互いにチャンスを探りあうキック合戦で始まった。相手の背後にキックを蹴っては味方選手がチェイスして相手にプレッシャーをかける。相手のプレッシャーを避けながら主将のFB奥村翔が、司令塔のサム・グリーンがキックを蹴り返す。単調に見えがちなキックの蹴り合いも、キックのコントロール、相手が捕りにくくなるような蹴り方、チェイスする選手のコース取り……相手が少しでも隙をみせれば一気に食らいつく――そんな緊迫した時間が続く。

ゲームが動いたのは9分だ。ブルーレヴズがアタックで落球したボールを拾ったワイルドナイツがキックで攻め込む。戻ったツイタマがクリアに蹴り出したタッチキックをワイルドナイツはクイックスローでピッチに戻す。オーストラリア代表51キャップを誇るワールドクラスのWTBマリカ・コロインベテが静岡陣を突き進む――ここで立ちはだかったのが、レヴズの英雄、No8クワッガ・スミス主将だ。自陣ゴールを背負ったところでコロインベテにタックルを浴びせるとそのままボールを奪取。ターンオーバーすると瞬時に体を反転させてカウンターアタック。攻勢に出ていたワイルドナイツの選手たちと入れ替わって敵陣へ、一気に相手ゴール前まで約80mを単身ゲインするのだ!ヤマスタが揺れる!

しっかりと立った状態(手を地面についていない)で見事なジャッカル!
すぐに方向転換し、
猛ダッシュ!
ラグビーボールを、リレーのバトンのように片手で持ったままのランニングは圧巻。
約80mの独走にスタジアムは歓喜に包まれた。

このアタックはバッキングアップした相手のタックルに捕まった際に惜しくもノックオン。しかしクワッガの激走はレヴズ戦士の闘志に火をつけた。相手ボールのスクラムを猛然と押して相手コラプシングを勝ち取ると、レヴズはゴール前のラインアウトに持ち込む。

昨季、リーグワン最多のラインアウト獲得数を誇ったLO大戸裕矢が鮮やかに捕球すると、着地と同時にクワッガにハンドパス。相手の芯をずらしたモールを押し込むと、サイドに持ち出したFL庄司拓馬が体をスピンさせながらポスト右に持ち込んだ。

日野が魂を込めてボールを入れ込む。
ラインアウトかららのモールで一気に前進!
隙を逃さず大きく前に出て、トライを決めた庄司拓馬
よくやった!!と何度も頭をポンポンされる庄司

奥村のコンバージョンも決まり7-0。ブルーレヴズが先行した!


お手本のようなきれいなゴールを成功させた奥村翔。

ワイルドナイツは直後の15分にPGチャンスを得るが、強風にあおられたのか日本代表の名手・松田力也がキックを失敗。その直前にはツイタマが猛タックルで埼玉のライリーにノックオンさせる場面もあった。24分にはブルーレヴズ陣22m線のラインアウトでワイルドナイツボールを大戸がスチール。しかし、ワイルドナイツはレヴズにプレッシャーをかけ続ける。26分にはワイルドナイツWTB竹山晃暉がトライ。31分には松田がPGを決め8-7と逆転する。

ブルーレヴズはハーフタイム直前、ディフェンスでPKを奪い、相手ゴール前のラインアウトに持ち込むが、痛恨のノットストレート。結局、1点ビハインドで前半を終えた。

だが、リードできずに折り返すのは悪いこととは限らない。チームが締まる。ハーフタイムを経て再開した試合、ブルーレヴズの戦いは厳しさを増していた。51分、WTB矢富洋則の突破で相手ゴール前に攻め込むと、ワイルドナイツはたまらずペナルティー。ワイルドナイツはゴール前ラインアウトに持ち込むと、そのままモールをインゴールまで押し込みHO日野剛志が左中間に押さえた。再逆転のトライ。9443人が詰めかけたヤマスタのスタンドが揺れる。奥村のコンバージョンも決まり14-8とリードを広げる。

魂こもる意地のTRY
難しい角度のコンバージョンもしっかり決めきる
スタンドには「奥村翔」の大漁旗が大きくなびく

試合はまだ30分残っている。このまま勝負が決まることはありえない。まして相手は逆転が看板のワイルドナイツだ。昨季のリーグワンMVPに輝いた堀江翔太もピッチに入った。6点リードは何も保証しない。

だからこそ、ブルーレヴズは厳しい戦いを続けた。ワイルドナイツのアタックに執拗にプレッシャーをかける。いくつかの場面はディフェンスしたブルーレヴズ側のノックオンになったが、ワイルドナイツのアタックは継続せず、リズムを掴めない。否、掴ませない。61分、ワイルドナイツの南ア代表CTBデアレンデに南アフリカ代表のチームメイト、クワッガ・スミスが襲いかかりノックオンを誘う。直後にはパスを捕った相手SO松田力也にもクワッガが突き刺さりボールを奪い取る。休むことを知らず相手にプレッシャーをかけ、ボールを奪い続ける闘将クワッガの働きはチーム全体に浸透していく。キックに戻った松田力也にWTBキーガン・ファリアとFL庄司拓馬が襲いかかる。この場面はハイタックルと判定されたが、ブルーレヴズの集中は切れなかった。ボールが不規則にこぼれ、ワイルドナイツの最大の強さであるアンストラクチャーの局面になってもブルーレヴズは忠実かつ迅速に反応。67分には相手がラインアウトを捕球したところに大戸が腕をはたいてノックオンさせる円熟の技でしてピンチの芽を摘んだ。

時計が進む。ブルーレヴズが6点をリードしたまま試合は残り10分を切った。そしてブルーレヴズは勝利へ大きなチャンスを得る。74分、自陣ゴール前のラインアウトで相手にプレッシャーをかけてスローイングミスを誘い、ボールを奪取。WTB矢富が自陣から蹴ったキックは相手陣22m線を越えてタッチに転がり出た。50:22(フィフティ・トゥエンティトゥ)ルールが適用され、敵陣深くでブルーレヴズボールのラインアウトになった。

ブルーレヴズは日野-大戸の名コンビでラインアウトを捕るとそのままモールで前進。アドバンテージが出たところでSOグリーンはキックをチョイスするが、精度を欠き、捕球したファリアはそのままタッチに出てしまう。
そして仕切り直しのPK。レヴズはここでショットではなくゴール前ラインアウトを選択する。PKの位置が左隅、難しい位置だったのは確かだ。ラインアウトには自信があった。だがここで必殺を誇ったラインアウトに痛恨の乱れが出てしまう。さらにボールを失った焦りからか、相手ボールのブレイクダウンで、タックルしたツイタマがそのまま下がらずにボールに手を出してしまう。ペナルティーのみならずイエローカードが出てしまうのだ。

PGの3点を加えれば勝利に大きく近づくところから一転、数的劣勢で迎えたラスト3分。こうなると「逆転のワイルドナイツ」は強い。ゴール前から大きく陣地を戻したラインアウトから10フェイズにわたって攻撃を継続。ブルーレヴズは勤勉にタックルを反復するが、1人足りない現実は重かった。ゴール前まで攻め込まれたブルーレヴズが反則を犯すと、ワイルドナイツはコロインベテがクイックスタート。ブルーレヴズのDFが立ち上がるよりも早く攻撃を継続し、堀江翔太が突き進んだラックを素早く出し、サイドを突いたSH小山大輝がゴールラインに飛び込んだ。14-13。そして山沢拓也のコンバージョンが決まり、14-15。80分目でワイルドナイツがついにリードを奪った。試合再開のキックオフのあと、タイムアップのホーンが5秒早くなってしまうというアクシデントはあったが、勝負に影響はなかった。15-14。ワイルドナイツが1点差の勝利。


最後のコンバージョンキック。全力でプレッシャーをかけにいくもゴール成功。

ブルーレヴズから見れば、昨季と同じ1点差の敗戦。だが、内容は昨季の日本平の戦い以上に濃い、勝利に近い戦いだった――だからこそ、悔しい。

インパクトメンバー(リザーブメンバー)たちも勝利のためにすべてを出し切った。それでもあと2点、勝利に届かなかった。
今シーズン受注販売した選手名タオルを掲げ、選手たちにねぎらいの拍手を送るレヴニスタ。
スタンドからも本当に大きなパワーを送ってもらった。

「自分たちのスタイルを信じ切って戦った選手たちを誇りに思います」試合後の会見で、堀川隆延HCは選手を称えた。「ゲームの中では、ショットするかしないかとか、ラインアウトが取れる取れないとかの綾はあったけど、自分たちのやるべきことを考えて選手たちが下した決断を支持します。勝てなかった理由はいくつかあるけれど、まだ2節が終わったばかり。目指している日本一が取れなくなったわけじゃない。このあと1週空きますが、これからすべての試合に勝利できるように準備をします」

力強く、言葉を発する堀川ヘッドコーチ

クワッガ・スミス主将も率直に振り返った。
「ワイルドナイツは素晴らしいチーム。タフな試合になるのは分かっていた。試合の中では何度もチャンスを作ったけれど、いくつか誤った選択をして、チャンスを失った場面もあった。でも、素晴らしいラグビーを見せたこのチームを誇りに思います。私たちにとって自信を得る内容だった。ここからは、今取り組んでいることを研ぎ澄ませていきたい」

目線の先はすでに次の戦いに向いていた。

ブルーレヴズの2022-2023シーズンは開幕2連敗スタートとなった。2節終了時点の順位は昨季の最終順位を下回る10位。しかし、絶対王者を追いつめた戦いぶりに、指揮官もキャプテンも悲観してはいなかった。

もちろん、プロスポーツクラブである以上、チームの価値を証明するのは勝利だ。この日はヤマハスタジアムに集まった、9000人を超えるファンに、勝利というクリスマスプレゼントを届けることはできなかった。まして、絶対王者ワイルドナイツに4年ぶりの敗戦を味あわせる、リーグワンで初めてワイルドナイツを破るチャンスを目前で逃してしまった。まさしく大魚を逃した。

昨シーズンの最終戦、このnoteで何回か紹介したファンで埋まった客席写真を大きく更新する埋まり具合。9443人のファンの方々の後押しは間違いなく選手の背中を大きく押してくれた。
大漁旗に刻まれた想いも背負ってこれからも一緒に戦う。

勝利以外が無価値なわけではない。だが、勝利の喜びをともに味わうことで、ファンとチームはさらに強い絆で結ばれ、地域に活気を呼び込む。笑顔をもたらす。レヴズの選手たちはその重みを理解している。

次こそは、レヴニスタのみなさんに勝利を、笑顔を、届けよう。
そして、一緒に、喜ぼう。<了>


大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。


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