プレシーズン期の集大成。リーグワン開幕はもう目の前。~大友信彦観戦記 12/4 vs.花園近鉄ライナーズ戦 ~
Text by 大友 信彦(静岡ブルーレヴズ オフィシャルライター)
Photo by 谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)
12月4日、静岡ブルーレヴズは花園近鉄ライナーズとプレシーズンマッチを行なった。
会場は東大阪市の花園ラグビー場。ブルーレヴズのほとんどの選手にとっては高校時代に目指した憧れの場所であり、今季リーグワンに昇格してきた花園近鉄ライナーズとは今季の第7節、来る2月5日に公式戦を行う会場でもある。
そして、これは開幕前最後のプレシーズンマッチとなった。リーグワン開幕までは2週間。11月末に日本代表の欧州遠征から帰国したばかりのHO日野剛志、LO大戸裕矢もメンバーに復帰。プレシーズンマッチ過去2戦は横浜キヤノンイーグルス戦が80分+20分、コベルコ神戸スティーラーズ戦は40分×3本という変則ルールで行ってきたが、今回の花園ライナーズ戦は公式戦と同じ40分×2本。選手もスタッフも、身体も気持ちも、公式戦のリズムに適合させていく――そんな思いが伝わってくる。
試合は、帰ってきたジャパン・コンビの活躍で始まった。
開始直後の2分と7分には左ゴール前のラインアウトから、11分には右ゴール前のラインアウトから、ともにラインアウトモールを押し切って日野剛志がトライを決める。HO日野の正確なスローイングとLO大戸裕矢の安定感あるキャッチング。着地から素早く塊を作り、左右に揺さぶりながらドライブし、相手の弱いところを見つけてモールを前に進めるFWの結束力。それを最後尾でコントロールしながら、トライラインが見えれば確実にグラウンディングする日野のトライセンス。すべてが合致してのロケットスタート。ブルーレヴズは最初の10分強で17-0と大きくリードを奪った。
「やっぱり2人が入るとチームに芯が通る。彼らのリーダーシップ、存在感がチームを前進させる力になる」と堀川HCは帰ってきた2人の活躍を称え、奥村主将も「FWがセットプレーで前に出てくれたおかげで、BKはボールをワイドに動かせました」と感謝を口にした。
もちろん、ロケットスタートはFWだけで成し遂げたものではない。
正確なキックパスを繰り出したSOサム・グリーン、落下点へ走り込む速さでボールを再確保したWTB伊東力、好タックルでボール奪取に奮闘したCTB小林広人。地域(陣地)を取るキックが冴えたFB奥村翔主将……FWを前に出したBKの働きも効果的だった。
「去年の反省点としてあがっていたのは、いかにして相手の22mラインに入るか。今日の試合では、相手ゴールから40m~60mという中盤でのアタックをどうするかというところでキックを使いながら相手にプレッシャーをかけることができた。良かったのはセットプレーでクイックボールを出せたこと。それが相手の反則を誘って、PKで相手ゴール前に入るという場面が何度もあった」(堀川HC)
好循環はその後も続いた。
15分にはSOグリーンのキックパスからFL杉原立樹が相手ゴール前へ、タックルに倒されながらボールをねじ込むがダブルモーションの判定。16分には相手ラインアウトを奪ってアタックするが攻めきれず、逆襲を浴びるが、ブルーレヴズは連携の取れたディフェンスで粘り強く守った。
18分過ぎには2分近く続いた長い攻防でも勤勉に走り、身体を張ってピンチをチャンスに作り替えた。25分、ブルーレヴズは再びゴール前に攻め込み、左ゴール前のラインアウトからのモールで日野が4本目のトライ。奥村のコンバージョンも決まり24-0までリードを広げた。
花園ライナーズも実力で昇格してきたチームだ。ましてホームでの戦いでは意地がある。28分、セブンズ日本代表のセル・ホゼのゲインから、オーストラリア育ちでレバノン代表歴を持つWTBジョシュア・ノーラが自身のキックを追ってトライ。ライナーズが7点を返した。
だがブルーレヴズはゲームの支配権を渡さなかった。自陣ゴール前まで攻め込まれてもカバーディフェンスに戻り、相手アタックにプレスをかけ続ける。そして35分、相手BKが危険なプレー(ヘッドコンタクト)でイエローカードを受ける。PKを得たブルーレヴズはまた右ゴール前のラインアウトへ。すでに4Tをあげているモールを警戒するライナーズDFに対して、ブルーレヴズはラインアウト確保するやHO日野が素早くサイドに持ち出し、CTBジョニー・ファアウリがクラッシュ。すぐにSH田上稔が順目にパスを出し、CTB小林広人がインゴールに押さえた。
このトライにはチームの進歩が現れていた。相手にカードが出たときはディフェンスの連携が混乱していることが多いが、それを活かせないケースは、日本代表も含めあらゆるカテゴリーで見られる。ブルーレヴズも例外ではない。昨季は相手に複数のカードが出て2人の数的優位を得ながらコンテストキックを蹴って相手にボールを渡してしまい、絶対的優位の10分間にリードを広げられないケースがあった。アクシデンタルな状況でも、有利な条件が生じたときは臨機応変、かつ理詰めのアタック遂行力が求められる――そんな学びを自分たちの財産として共有し、活用していけば、チームは進歩できる。
続く39分もそうだ。相手キックオフを捕り、CTBファアウリがラックを作ったところからのアタック。右サイドでパスを受けたCTB小林は、数的不利でタックルをためらう相手BKの隙間に大胆に走り込んでキック。方向転換した相手を一気の加速で抜き去ったFB奥村が余裕を持って拾ってトライを決めた。トライを取りきれる形を作り、チェイスするスピードランナーを確認した上での、理詰めのキック選択だった。
38-6とリードを広げて折り返したブルーレヴズは、後半早々の4分にもラインアウトから理詰めのBKアタック。ファアウリと小林の両CTB、FB奥村が前に出ながら軽快にパスをつなぎ、大外でパスを受けたWTB伊東はカバーディフェンスの裏をかくようにステップを切って3人をかわす鮮やかなトライ。ハーフタイムをはさみ、数的優位の10分間に、ブルーレヴズは3トライをたたみかけてみせた。
花園ライナーズも7分、PKからトライを返し、スコアは14-45となる。その直後の10分だ。ブルーレヴズ堀川HCは頼もしい男をピッチに送り込む。前半から冷静にゲームを作っていたSH田上稔に代え、37歳のプレイングコーチ矢富勇毅を投入するのだ。
矢富は前週の神戸戦で、負傷から7ヵ月ぶりで実戦復帰したが、そのときは40分×3本の3本目というエキストラタイムでの出場だった。2戦目のこの日は後半10分という、実戦でもありそうな時間での投入。そして矢富は自分のミッションを着実に遂行する。つまりテンポアップ。物理的な速さとは少し違う。動きを変える速さ。相手の虚を突く速さ。つまり時間の支配だ。その効果はすぐに現れた。13分、相手陣で得たPKからゴール前ラインアウトに持ち込むと、今度は序盤と同様、モールを押し切って日野が5本目のトライをあげるのだ。数的優位がなくなったから当然の選択とは言え、ラインアウトから外側展開というオプションを一度見せているからモールがより生きる。この日のレヴズはオプションの使い分けが効果的だった。スコアは52-14。
試合はここから再びブルーレヴズの時間に入った。
16分、自陣22m線の付近のディフェンスで、相手の不用意なパスでこぼれたボールを拾い、WTBマロ・ツイタマが右サイドを豪快に約70m独走してトライ。さらに22分には後半CTB小林広人との交代でピッチに入ったルーキー山口楓斗がステップを切って次々に相手ディフェンスを突破し、ツイタマにつないでトライ。本来はFBの山口だが、WTBに入るとまた違う突破力、決定力、そしてFBで磨いたアシスト力も発揮する。64-14までリードは広がった。
そしてラスト10分、ブルーレヴズに試練の時間が訪れた。後半30分、WTBツイタマのタックルが相手を高く持ち上げたとしてイエローカード。数的劣勢となったブルーレヴズは31分、ライナーズにトライを献上してしまう。しかしそこから残り9分、ブルーレヴズは耐え、逆襲に転じる。
ラスト5分は負傷者の関係でスクラムがノンコンテストになり、ブルーレヴズにとっては優位性を作る武器をひとつ失った形だったが、ピッチに入ったばかりのFWマルジーン・イラウアが、ペナルティーを連発した前2戦の汚名を返上するパワフルキャリー、ハンドオフを披露。37分には相手ゴール前のスクラム(ノンコンテスト)からLOマリー・ダグラスが相手タックル2人を突き抜けてトライ。昨季は最終戦1試合のみ出場だったビッグマンが、プレシーズンマッチ最終戦のラストミニッツで突破力と存在感をアピールした。
ファイナルスコアは71-21。トライ数は11-3。
無論、プレシーズンマッチは勝敗がすべてではない。花園もチームの心臓たるSHゲニア、日本代表のCTBフィフィタ、昨季のD2トライ王をわけあったWTB片岡涼亮、LOサナイア・ワクァも欠場していた。第7節で対戦するライナーズの力は、間違いなく、こんなものではない。その事実を承知した上で、この日のブルーレヴズの試合運びは会心の出来だった。
チームが集合したのは炎暑の7月だった。9月11日の釜石シーウェイブス戦で始まったプレシーズンマッチは8試合を重ねた。試合をするたびに学びがあり、その課題と向き合い、チーム力を高めてきた。そして迎えた最終戦。この日のブルーレヴズの戦いぶりは、これから始まるシーズンも成長を続けるはずだと確信させる内容だった。
次はリーグワンの開幕戦。本当の戦いが始まる。ここからは、今まで以上にタフな状況が待っているだろう。だがきっと、ブルーレヴズは、そこでも成長を続けるはずだ。
16試合を戦い抜いた5月、ブルーレヴズはどんな逞しいチームになっているだろう? <了>
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。