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山口楓斗 小さな身体に秘められた脅威のパワー。ディフェンス突破と個人トライで1位を取る!【インタビュー】

Text by 大友信彦(静岡ブルーレヴズオフィシャルライター)
Photo by 静岡ブルーレヴズ /谷本 結利(静岡ブルーレヴズ オフィシャルフォトグラファー)

クロスボーダーラグビーの開催でシーズンの真ん中にぽっかり穴があいた今シーズン。クロスボーダーラグビーに出場しないチームのファンにとってはちょっとさみしい時間でもあったが……レヴニスタには密かな楽しみがあったはずだ。それはリーグワンの公式HPを覗くこと。「個人ランキング」の「その他」の項目を覗くと、「ボールキャリー」部門では2位にヴィリアミ・タヒトゥアとマルジーン・イラウアが並び、8位タイにはチャールズ・ピウタウ。「ゲインメーター」部門では2位にマロ・ツイタマ……攻撃面での貢献度を示す各種スタッツで、ブルーレヴズ勢が軒並み上位に食い込んでいる。

中でも光るのは「ディフェンス突破」部門だ。トップに立っているのはブルーレヴズの若きWTB/FB

山口楓斗

相手ディフェンダーをステップやハンドオフでかわして抜いた人数はここまで「38」。昨年のワールドカップに出場したトヨタヴェルブリッツのシオサイア・フィフィタの「33」に5差をつけてリーグ最多を記録している。山口はさらに、相手ディフェンスを突破した回数を示す「ラインブレイク」部門でもトップと1差の3位タイ。世界と日本のトップ選手がひしめくリーグワンにあって、抜群の突破力をみせているのが山口なのだ。山口は今季の自分のパフォーマンスについて、どのように捉えているのか。

リーグ戦中断期間にオンラインインタビューを実施

「昨季に比べて自分の動きも安定して、ケガもなく、トライも取れている。動けていると思います」

今シーズンは6試合出場、3試合連続TRYをあげている

抜く力もさることながら、身体は大きくないのにハイボールに強い。そんなところから、ファンやメディアの間では「和製コルビ」とも呼ばれ始めている。コルビ選手は現在サンゴリアスで活躍する、世界最高の選手とも呼ばれる南アフリカ代表FB/WTBだ。
「シンプルに嬉しいです。コルビ選手は高校生の頃からスーパーラグビーや南アフリカ代表の試合で見ていた選手なので、比べられるのは嬉しいですね。
昔はそんなにハイボールに強くなかったんです。得意になったのは大学時代からですね。ハイボールが戦術として主流になってきて、そこに強くないとバックスリーは務まらない。試合に使ってもらえませんから、徹底して練習しました。そうして大学時代にだんだん得意になって、静岡に来てからは毎日練習するようになって、自信がつきました」

チェスリン・コルビは写真中央左、クワッガ・スミスと同じ南アフリカ代表でRWC2023に出場

山口は福岡出身。先輩には福岡堅樹さん、後輩には廣瀬雄也選手(明大主将)などもいる名門スクール・玄海ジュニアラグビースクールでラグビーを始め、東海大福岡、同志社大を経て静岡へやってきた。

「大学時代のヘッドコーチがヤマハOBの佐藤貴志さんで、何度か練習試合をしていたんです。もともとは、地元の福岡にもどってサニックスに行きたいと思っていたんですが、ちょうどその頃、サニックスが3部に落ちたりして、どうしようかと思っていたころに、日野剛志さんが同志社に教えに来てくださって『トライアウトを受けないか』と誘っていただいたのが始まりです」

山口は、子どもの頃はそこまでラグビーに本気だったわけじゃないんです」という。
「ラグビーを始めたのは小学4年の終わりくらいですが、その頃はサッカーが好きで、学校が終わったらずっとサッカーして遊んでました。でもクラブチームに入っていたわけじゃなくて、打ち込んでいたというほどではなかった。その頃は剣道をしていました。姉がやっていて、その流れで僕も始めたんです。で、小学4年の頃に、剣道の友達がラグビーを始めて、僕も誘われて行ってみたら楽しくて、すぐ好きになりました。走るのが好きだったので。
でも、ラグビー選手になりたいとか考えてはいませんでした。中学時代は福岡選抜にも入れなくて、高校に行くときも東福岡という選択肢もなかった(笑)。ちょうどその頃、家の近くに東海大福岡ができて、僕は4期生なんですが、ラグビー部も始まっていたし、ちょうどいいかなと思ったくらいで」

ラグビーに本気で取り組み始めたのは東海大福岡高に進んでからだった。全国の強豪でもあるヒガシ~東福岡に挑む3年間だった。
「ヒガシに行けなかった悔しさがあったので『ヒガシを倒したい』という思いで高校時代は真剣にラグビーに打ち込みました。2年のときは花園の福岡県予選で決勝まで行きました。東海大福岡としては初めての決勝でした。でも3年のときは準々決勝で筑紫に負けて、ヒガシとは対戦できなかった」

想定外に早く打たれた高校ラグビーのピリオド。だがそれは、次のステージへはむしろプラスに働いたのかもしれない。同志社大に進学した山口には、強敵に圧倒される感覚はなかったという。
「試合ではだいたい相手を抜いていましたから、自分のプレーにいいイメージを持ったまま大学に進学しました。最初はレベルが上がったことに少しギャップを感じたけれど、夏くらいから思い切って勝負できるようになりました」

そして大学2年の夏、山口はU20日本代表に選ばれ、ブラジルで開かれたワールドラグビーU20トロフィーに出場。プール戦でブラジル、ウルグアイ、ケニアを破り、決勝ではポルトガルとの接戦に35-34で競り勝ち優勝。翌年のジュニアワールドチャンピオンシップ昇格を決めた。
「あの大会はめちゃめちゃいい経験になりました。それまで外国のチームと対戦することがなかったので、フィジカルの強い相手とどう戦うか、フィジカルに頼らないラグビーを学びました。」

このときのU20日本代表には、昨季のリーグワン新人賞を受賞したワイルドナイツの長田智希、ベストフィフティーンに選ばれたスピアーズの木田晴斗、早大で1年から活躍していた河瀬諒介(現サンゴリアス)ら同じポジションにライバルがひしめいていた。
「ライバル意識はありました。負けたくないな、という思いは強かったし、同時に羨ましいなあという気持ちも強かったです(笑)」

山口が在学していた時代の同志社大学は、大学選手権での最高成績は4年時の8強。3年時はコロナにより選手権を辞退した。表舞台で輝く機会のなかった4年間を経て、いよいよシニアの舞台へ。
「最初はサニックスへ行きたかったんです。玄海ジュニアから高校までずっと一緒だったSHの藤井達哉(現ブルーレヴズ藤井雄一郎監督の息子)が高校から直接サニックスに入ってプレーしていて『一緒にやろうぜ』と誘われていて。でもリーグワンに再編されるときにサニックスが3部になるとか存続が怪しいとかいう話があって、どうしようかな…と思って」

ちょうどそのころ、同志社にコーチに来ていた日野剛志さんに誘われ、静岡へやってくることになった。リーグワンが始まり、静岡ブルーレヴズとなって最初のシーズンを戦っている最中の2022年4月、山口は静岡に入団した。
「入ってすぐ『めちゃくちゃいいチームだな』と思いました。小学校にラグビーを教えに行く機会が多いのですが、地域が一体になって応援してくれるファミリー感を感じます。特にヤマハスタジアムでやる試合は応援を近くに感じられて楽しいですね。芝も最高です! 風が強いことだけは難しいですが……キックの伸び、曲がり具合も一定じゃないし……でも自分たちはいつもヤマスタで試合をしている分慣れているし、大久保グラウンドも風が強い。世界を目指すなら、風の強さになれておくことは自分の強みになると思って練習しています」


ものすごく近い距離で声援を受け、最高の芝にTRYするのはとても気持ちいい
ヤマハスタジアムの風は脅威。キッカーサポートに入ることも。

今季は藤井雄一郎監督が就任。ブルーレヴズのラグビーもより攻撃的に変化してきたと多くの人が指摘している。
「息子の藤井達哉がラグビースクール時代からの同級生だったので、小学生の頃から一緒にご飯を食べたりしてました。ラグビーの面では、レヴズの強みだったセットプレーのアドバンテージは残した上で、アタックのシェイプが代わりました。外側への展開が増えたし、FWの選手も1人1人がパスなどのスキルを使ってボールを外へ動かすようになった。長谷川愼さんが来られたのも大きいです。セットプレーだけでなくブレイクダウンのところでBKの選手にも倒れ方、ボールのプレゼンテーション、オーバーの入り方などのディテールを細かく指導してくださって、相手はイヤだと思います」

「友達のお父さん」ではなく「偉大な監督」だという印象は小さいことから変わらない

ディフェンス突破1位とラインブレイク3位のランクインについて、本人はどう思っているのだろう。
「それぞれの定義をあまりよく分かっていないんですが(笑)、僕にとってはスピードでスペースを抜くことも、1対1でDFを抜くこともあまり違いはありません。しいて言えば、マッチアップした相手がFWのときは早めにステップを切ってスピードで抜く、相手がBKの足の速い選手のときは接近して1対1で抜くのが好きです。細かいステップを切って、相手の反応を見て抜くようにしています」

相手を見てどのスピードで、どういうステップで抜いていくのかを瞬時に見極める
抜き去ってしまえば自慢の快足でトライまで走るのみ!

今季はここまでFBで4試合、WTBで2試合に出場している。本人はどちらが好きなのだろう?
「僕的にはFBのほうが好きというか、グラウンドの中でボールをもらえるので、2対2とか1対1とか余っていない状況から勝負して、パスも使って抜いていくのが好きなんです。大学ではずっとFBをやっていたので慣れていることもあります。でもWTBの楽しさも最近思い出してきました。試合に出られればどちらでも良いです(笑)」
 
ラインブレイクさらにトライを量産する山口のプレーは、新たに日本代表に就いたエディー・ジョーンズHCの掲げる「超速ラグビー」を体現しているようにも見える。次のワールドカップに向け、本人は日本代表をどう考えているのか。
「やはり、目標とするのはそこだと思っています。ただ、すぐに日本代表に入れるかと言ったら、僕自身まだそのレベルでプレーできることを証明できていない。リーグワンで活躍して、もっともっと成長して、代表に呼ばれるようになりたい。身体が小さくても日本のトップでやれるんだということを、特に小さい子どもたちにも見せたいと思うし、そのためにも今のディフェンス突破と個人トライで1位を取って、チームの勝利に貢献していきたいです」

小さなスピードスターが日本代表に呼ばれるのを心待ちにしている!

大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。
 

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